表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/15

ある晴れた日のこと


「アイシャ! アイシャはどこだ!?」


 ある晴れた日のこと。

 私が庭で花の世話をしていると、怒り狂った声が響いた。


「お父様、アイシャはこちらです」

「貴様ァ!? 実の妹に毒を盛るとは何事だァ!?」


 まったく身に覚えが無い。

 突然の言葉に困惑しながらも、私はどうにか返事をする。


「何かの間違いでは?」

「見ろ! 先日アルルの部屋で見つかったものだ!」


 お父様は私に拳を突き出した。

 そこには萎れた白い花がひとつあった。


「これは、コガレーナですね」


 胸が痛むくらい状態が悪いけれど、見れば分かる程度に原形を留めている。


「これを妊婦に近付けるなど人殺しも同然だ!」

「妊婦? どういうことですか?」

「アルルは妊娠していたのだ!」

「……はい?」


 私はポカンと口を開けてしまった。

 しかし、直ぐにひとつの予感が頭を過る。


 アルルは、私の婚約者──ミカエル様と頻繁に話をしていた。距離が近いとは思っていたが、まさかそんな……


「お父様、ミカエル様とはもう話されたのですか?」

「何を話せと言うのだ!?」

「……彼との子ではないと?」

「馬鹿者! ミカエルは貴様の婚約者であろうが!」


 どういうこと?

 

「それでは、アルルは、どなたと?」

「学友と聞いている。密かに愛し合っていたが、身分の違い故に話せなかったそうだ」


 ど、どういうこと?


「貴様は知っていたそうだな!」

「いえ、これっぽちも」

「嘘を吐くなぁああああ!!!」

「お、お父様、落ち着いてくださいませ……」


 お酒でも飲んでおられるのでしょうか。

 お母様が亡くなられてから少し変わったとは思いましたが、このように叫ぶことは無かったのに。


「アルルが泣きながら教えてくれたぞ! 貴様が学園に居た頃、散々いじめられていたとな!」

「そのような事実はございません」

「やかましい! アルルの学友が証人となった! 一人ではない複数人だ! ハルベール家の恥さらしめが!」


 訳が分からない。

 困惑する私は、ふとお父様の背後に人影を見つけた。


 目が合った。

 アルルだ。とても楽しそうな目をしていた。


 ……ああ、そうか、そういうことか。


「お父様、全てアルルの噓であります」

「ふざけるな! 証人が居ると言ったであろう!」


 ……これは、ダメだ。

 何を言っても聞いてくれそうにない。


「出て行け! 今すぐにだ!」

「……はい、分かりました」


 私は頷き、そのまま家の外へ向かった。


 我ながら諦めるのが早いとは思う。

 しかし仮に無実を証明しても、この家にはいられない。


 お父様はアルルの噓を信じた。

 そして私に出て行けと言った。


 当主の決定は絶対である。

 だから大人しく立ち去る判断をした。


 行く当てなど無い。

 しかし抵抗を続けたら、最悪処刑されるかもしれない。


 ……少し、気持ちを整理したいですね。


 妹がここまで私を嫌っていたこと。

 お父様が私の話に全く耳を傾けなかったこと。


 どちらも胸が痛い。

 思えば良好な関係ではなかった。

 それでも私は家族の愛を信じていた。


 本当は先のことを考えるべきだ。

 頭では理解しているけれど、直ぐには割り切れない。


「お父様、お姉様はどこへ行くのですか?」


 歩く途中、アルルの声が聞こえた。


「そんな!? なぜ処刑してくださらないのですか!?」


 その言葉を聞き、思わず足を止める。


「私は子を殺されたのですよ!?」

「落ち着け。お前の気持ちは分かる。しかし身内殺しなど、表沙汰になればハルベール家にとって末代までの恥だ」


 私は振り返った。

 お父様の背と、こちらに顔を向けるアルルが見えた。


 彼女は私を見て、ベッと舌を出した。

 それから白々しい泣きの演技を始めた。


「酷いですお父様! 我が子の無念は、どう晴らせば!」


 ……ああ、そういえば、昔からああいう子だったな。


 欲の強い子だった。

 何事も自分が一番でなければ許せないような子だった。


 しかし彼女は努力をしない。

 あらゆるものが与えられて当然だと思っている。


 だから彼女は私よりも劣っていた。

 勉学も、運動も、周囲からの評判も。


 むしろ嫌がらせを受けていたのは私の方だ。

 花壇を荒らされたり、服を汚されたり、果てには婚約者に色目を使われたり。


 ……私は、花さえあれば満足なのに。


 心の中で呟き、ゆっくりと歩を進める。

 こうして私は森の中を彷徨うことになった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

▼この作者の別作品▼

新着更新順

 人気順 



▼代表作▼

c5kgxawi1tl3ry8lv4va0vs4c8b_2n4_v9_1ae_1lsfl.png.580.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ