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お姉さま

 アルルは鬱憤をためていた。

 邪魔な姉を追い出して、その婚約者を手に入れた。父は自分に甘くて、なんでも思い通りになる。


 そのはずだった。


 しかし彼女の想定した通りにはならなかった。

 最も想定外だったのは、これまで姉が引き受けていた貴族としての務めである。


「ふざけないで! これはお父様の仕事でしょう!?」


 簡単に言えば、領地の管理。

 王へ報告する書類作成などの事務作業。


「なんなのよっ、この数!」


 おかしい。ありえない。

 こんなはずじゃなかった。


「絶対、私の仕事じゃない」


 筆を握る手を震わせながら作業を続ける。

 

「全部、あいつのせいだ」


 人形のような姉。

 しかしどうしてか「一部」の人達は姉ばかり褒める。

 稀に「お前も姉のように」などと口にする者まで居る。


 アルルはいつも憤慨していた。


 ふざけるな。私が上だ。

 能力も美貌も私の方が優れている。


 あいつが褒められるのは、都合が良いからだ。

 あいつは頼まれたことを断らない。この仕事だって、きっと、お父様に押し付けられたことだ。


「……絶対、私がやることじゃない」


 お父様はバカだ。

 だから姉を追い出すことができた。


 しかし、バカだからこそ、これは自分の仕事ではないと言って自由になることができない。


 私がやらなければ、貴族としての役目を果たせない。

 それは今の地位を失うことに他ならない。せっかく手に入れた権力も、男も、すべて失うことになる。


「……ムカつく。ムカつくムカつく」


 姉のことを思い出したら腹が立った。

 だけど、どうせもう死んでいる。死体さえ見つかれば犬の餌にしてケラケラ笑ってやるのに、それすらできない。


「最後まで役に立たない人形女が!」


 机を叩いた。

 その衝撃で、ひらりと一枚の紙が床に落ちる。


「……花屋?」


 どうしてか、その内容が目に留まった。


「……少し、調べてみましょうか」


 アルルは姉の生存を知った。


「ああ、お姉さま、生きていたのですね」


 報告を受けた後、彼女は恍惚とした表情で言う。


「ごめんなさい。私が間違っていました」


 無論、それは謝罪の言葉などではない。


「このストレスを吐き出す先は、やはりお姉さまが適任です」


 昔から、そうだった。

 姉が何も言わないのを良いことに、アルルはいつも嫌がらせをすることでストレスを発散していた。


 だから今回も、そうする。

 これで真の幸せが手に入る。思った通りになる。


 そしてアルルは、再び姉の前に顔を出すことにした。

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