46話 夜空
何故そんな事が気になるんだろう。
寂しくなってしまったんだろうか。
きっとそうだな。
夏希の件は、しぶしぶ理解はしてくれているんだろうが、納得はしがたいのだろう。
「全然違うよ。例えると、う~ん、おせち料理と、激辛の水無カレーみたいな」
凛花は歩きながらこちらを見たまま。
表情を変えない。
「わかりづらかったかな」
「至らぬ身で申し訳ありません」
柔らかく凛花が微笑んで、謝られた。
わからないなら、わからないで否定してくれれば良いのに。
今のは僕が悪い。
「凛花は凛花、夏希は夏希だよ」
凛花はその返答を聞いて何も喋らない。
何かを考えこんで喋らなくなるのはたまにあるので、気にしないようにしている。
ふー。
寒空を見ると星が満点だ。
「星がよく見えますね」
凛花も僕が顔を向ける仕草をみて、同じ行動をして星を見上げていたようだ。
「最近寒いしね」
「寒いと星がよく見えるんですか?」
「寒い季節は湿度が低いから、空気中の水蒸気が少ないんだよ。水蒸気は光を散乱させるから、湿度が低いと星の光がクリアに届くから綺麗にみえるんだよ」
たまたま知っていたどこで得たかも覚えていない知識を披露する。
普段凛花の方が何をやっても僕を上回ていて、誇らしい反面情けなくもなっていたので、こういう時は威厳を取り戻せた気がして少し良い気分なのは秘密だ。
僕は年上だし兄だしね。
「冬の方が夜空が綺麗だと言うのは、詩的な意味だけではなく、根拠があるんですね」
「うん。だから寒いのも悪い事だけじゃないよ」
暑すぎる夏と違って、お洒落な服も着られるという利点を言おうとしたが、僕は全くお洒落ではないので言うのをやめておいた。
「確かに。こうして、兄さんが私の手を取ってくださいます」
凛花が嬉しそうに笑いながら、少しだけ手を握る強さを強めて、身体を少しだけ僕に寄せる。
兄としては甘えてこられると可愛いと思ってしまう。
「甘えん坊だね」
「僭越です」
♦︎
買い物が終わった帰り道。
更に寒さと夜は深まり、人通りは殆どなくなってしまった。
寒かったのだろう、店を出てすぐ凛花は僕の手を取った。
「兄さん」
凛花は空を見上げていた。
「月と星はどちらが綺麗だと思いますか」
「ん」
今日は質問が多い日だな。
凛花が幼い頃はこんな感じだったっけ。
昔みたいに手をつないで歩いているので、子供帰りしているのかな。
「種類が違うよね。星は単体じゃなくて群生で見るけど、月は単体だし。凛花はどっちが好き?」
「・・・どちらが好きかはその時々によりますから、直ぐに回答は出すのは難しいです。ただ月の方が私は親しみを感じます」
親しみ?
「月には個性もあるしね」
「それもそうですね。ただ星空は遥か遠くの宇宙からの光で、広大で途方もない、人知の及ばない不確定要素を多く含んでいるように感じてしまいます。もちろん月にも、その要素がない訳ではないのでしょうが。また、月は自ら光を発している訳ではなく、太陽の光を反射して輝いているように見せています。夜を照らす月の輝きは、太陽があるから成立しているのです。そこに共感いたします」
「共感って、凛花の太陽がいるってこと?」
「はい、兄さんがいるから、私が成立しているのです。兄さんが居なければ私が輝く事はありませんし、誰からも認知はされないでしょう」
また愛の告白のような事を言われた。
・・・・
ただこれは正念場な気がする。
この考えが結果的に、彼女を不幸にしている。
だから、この彼女の根本的な部分を吐露している今、彼女の本質的な部分を変化させてあられるチャンスだと思った。
「僕を過大評価しすぎだよ。凛花は一人で十分輝ける」
僕が言うと、凛花が足を止めた。
無表情だが、何か考えているようで、しばらく僕の顔を見つめて何も喋らない。
時間としては数十秒か、いや数秒程度だったかもしれないが、とても長い時間に感じた。
「兄さん、大切に思っていますか?あの方を」