44話 復元力
復元力という言葉がある。
物体が外力によって変形した際に、その変形を元に戻そうとする、バネやゴムを引っ張ったり押したりすると、元の長さに戻ろうとする力。
僕が夏希と過ごしている時間、彼女の強さに触れて、自分も強くなれた気がした。
それが錯覚だったんではないかと思う時はあった。
よく感じたのはクラスで陰口を言われたり、茜や慶太君たちに陰口や悪口を言われた時。
集団の中で疎外される状況が続くと、自分が正しい、間違っていないという確信すら揺らぐ。
自己肯定感を失い、自己否定しそうになる時もある。
それが僕の最近の学校生活そのものだった。
だから部活に参加して、次の日クラスに行くと、また弱くて、自己否定をする自分に戻るような気がする事が多かったけど、それも最近なくなっていった。
部活で、夏希とかかわって、彼女から貰った力をクラスでも引き継げているような気がしたんだ。
そう考えると、錯覚は夏希と会って強くなれたと勘違いしていた方なのかもしれないけど、そうだとしてもそれが嬉しかった。
ただ、今、凛花とこうして会う事で、朝クラスに入った時のような、自己否定を繰り返す自分に復元したような気がした。
「凛花」
「心配しました。お身体は大丈夫ですか?」
頭、今日の事を知っているんだ。
学校が連絡したんだろう。
僕の体調の確認を放課後家に連絡をいれて、その連絡を凛花が受け取ったんだ。
うちには時代錯誤になりつつあるのかもしれないが、固定電話があるし。
「兄さん」
気が付いたら僕の目の前にいて手を引く。
夏希がつかんでない方の手を。
「お疲れさまでした。直接言っていただければタクシーで迎えに参りました。そのくらいの蓄えはあります」
凛花の手は夏希に比べて少しひんやり冷たくて、指が細くて長い。
握りなれた手。
凛花とつないだ手は小指が骨折している方の手で、握られているので少しだけ痛む。
「歩けるし、大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「今日も部活へ?今日くらい休んでくださっても良かったのに」
「今日は部活じゃなくて、病院に言ってたんだ。ね、夏希」
部活は僕が行きたくて行っているのだが。
そんな事を考えながら、夏希に話を振る。
凛花は普段僕が誰かといると、挨拶するのに、今日はしなかった。
社交的な凛花にしては珍しい行動だ。
たぶんそれだけ心配をかけてしまったのだろう。
「うん。彼女として当然」
夏希がわざとらしく僕の腕にしがみつく。
・・・・夏希め。わざと彼女って言葉を使ったな。
凛花を見ると、作り笑いもなしで、表情の乏しい凛花の表情の見分けにも自信がある、僕でも表情が読めないくらいの真顔。
凛花は何かを考えているようだ。
考えるのをやめて僕を見てふわりと微笑する。
「私も本日はクラスの学友と一緒にご飯を食べて、下校も共に致しました」
「おお、そっか友達とうまくやれてるんだね」
「はい。有意義な時間を過ごすことが出来ました。ありがとうございます」
何だ、ちゃんと学校生活を送れてるんだ。
なら今日の事は失敗だったな。
結局、僕がケガして凛花の意識を僕に向けさせてしまった。
折角凛花が兄離れできているのに。
「こいつは虐められてるけどね」
夏希が茶々を入れる。
一々そういう事を言わなくて良いのに。
「兄さん」
「ん?」
「今攻撃されていますか?」
こ、攻撃?
「別にそんなんじゃないよ。冗談を言ってるだけ。夏希はこういう子なんだよ」
「こういう子ってどういう意味?今日病院ついて行ってやったのは誰だと思ってんの?」
夏希が僕の言葉に突っ込みを入れる。
「兄さん、家に帰りましょう。そちらの方が休めますよ」
凛花がつないだ手を優しく引っ張る。
「私に挨拶一つもなし?無視すんの?」
夏希が凛花に突っかかる。
凛花が初めて、夏希の方を見る。
「凛花、今日夏希が病院まで送ってくれたんですかだから挨拶してあげてよ」
「どうしてですか?」
「え?」
「どうしてそこまでしなきゃいけないんですか?」




