41話 体育祭
「じゃあ体育祭何出るか決まってない人いるか〜」
「「「「いないでーす」」」」
今日のクラス会は体育祭について。
体育祭はサッカーやソフトボール、バスケ、卓球など各競技に各々クラスごとに出場し、1クラスが1チームとして全学年の全クラスでポイント制で争う。
つまり割と大規模なイベントだったりする。
「茜ちゃんバレー頑張ろうねー」
「ねー」
向こうでバレーに出る女子たちが話し合っている。
そういえば、クラスでの僕への風当たりは明らかに弱くなった。
唐突に悪口を言われたり、聞こえてきたりしなくなったのだ。
かと言って、じゃあ親し気に話しかけられているのかと言われると、そういう訳ではないけど。
でも以前よりだいぶ過ごしやすくなった。
やっぱり不良漫画とかでいう「かます」みたいな事って大切なのかもしれない。
きっと以前の僕は舐められている部分もあったのだろうな。
それもこれも空見のおかげな気がする。
空見にあってからハッキリ主張する事も大切だと知れたし。
そういえば空見は何に出るんだろう。
何かスポーツしているイメージがわかない。
・・・・
まぁ良いや。
話を戻すと、サッカー部はサッカーの競技を選択できないという縛りがあるが、
現在入っていなければ問題ない。
僕は去年までサッカー部だったので、去年サッカーを選択できなかったけど、今年からは問題ないので、無難にサッカーを選択する事にする。
シンプルにサッカーが好きなのでこれは楽しみだ。
「よっしゃー俺のユナイテッド仕込みの守備を見せてやる」
いつもは1人で過ごしているが、今日はサッカーを体育祭で選択した人で昼休み時間に練習することになり僕も参加する事になった。
まぁ、近くの席でサッカーを選択した3人の内の1人である山上が気を使って僕を誘ったような形で気まずいかもしれないけど。
♧
グラウンドで4人で練習する。
とりあえず僕たちは4人での練習だったのでボールを使ってパス回をした。
「ほ」
「おおっと」
やっぱ実際にボールを蹴るのって楽しいなぁ。
もう少し人数いたらミニゲームみたいな事もできるのに。
それは欲張りすぎか。
でも今日一個良い事があってよかったな。
「練習してんの?」
「え」
声をかけてきたのは慶太君。
「そうだよ、そっちも練習?」
山上が答える。
「混ざれよ、4対4でゲームしようぜ」
「慶太まじ?w」
雄哉君が慶太君に言う。
チラッと僕を見られた気がする。
僕なんかと練習するのかよ、という事なのだろうか。
いや被害妄想がすぎるかな、悪い方に考えるのはやめよう。
とりあえずグラウンドの隅にある小さいゴールを使ってゲームをする事になった。フットサル自体は好きだから良いけど、グラウンドに来た時時から、慶太君からの強い視線を感じる。
まぁ良い、今はプレーに集中しよう。
♦
試合は拮抗していた。
僕と同じチームの3人は普段サッカー観戦をするようで、僕らの方が理解度が高い。
点数は2-2
もうすぐ休み時間も終わるので、ここで点を決めた方が恐らく勝つだろう。
その分ちゃんと試合をしたら楽勝なんじゃないかと思ったが、慶太君達は中学まで各々スポーツ部に入っていたようで運動神経抜群だった。
何より走る力の差があり、相手の一歩目を遅らせるようなプレーをしても、運動神経で無理やり追いつかれたり、そもそもパスを出そうとしても、味方が相手のマークを振り切れず、味方の裏にも足元にもパスの出しどころがない。
相手の方が足が速い分、ピッチも物凄く狭く感じる。
やむ終えず自分で深い位置からドリブルでボールを運ぶシチュエーションが多かった。僕のマークについているのは慶太君で、攻撃時は必然的に1対1の勝負になる。
少し対峙しただけで慶太君の運動神経が僕より上だとわかった。
ちょっとしたフェイントじゃ動きを僅かに遅らせるだけで、すぐに追いつかれので、交わす事はできても、縦に抜くのはかなり難しそうだ。
パスの選択肢があれば、僅かに遅らせる事でも十分だが、味方がハードマークにあっているので、それも出来ない。
この状況では僕がゴール前までボールを運び、相手のマークが僕に集中したタイミングで、フリーの味方にだすか、僕自身で最後まで決め切るかしか、点を取る選択肢は恐らくない。
「・・・・ふ!ふ!」
「・・・・」
ケイタ君がかなり集中しているのがわかる。
小刻みにタイミングをとっている。
今のままでは隙が無さすぎるので、左右に少し大げさに揺さぶる。
そうすると慶太君が横の動きに対応しようと、バスケ選手のように足を平行にオープンスタンスをとった。
チャンスだ。
慶太君の股にボールを通した。
股を抜ける自信があったので蹴った瞬間に前に走り出す。
抜いた!
山上達はサイドに張っており、相手もそのマークについている関係上、慶太君を抜いた後はキーパーとの一対一だ。
ここからが難問。
フットサルの小さいゴールではキーパーとの一対一は気を抜けない。
思いきりコースに蹴っても良いが、練習でキーパー相手に怪我させてもしょうがない。
なるべく自分が後出しできるように、先に動くのを我慢してキーパーに限界まで近づく。
キーパーが先に動いたので、逆にドリブルしようとした瞬間、僕のおでこは地面に激突した。
♢
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「は!」
あたりは真っ白な空間で、僕は横たわっていた。
見知らぬ、天井、ではなく見知った天井。
この絶妙に硬い寝心地のベッド。
すぐにわかる。
ここは保健室だ。
「う」
おでこが痛い。
・・・・・・
そうか僕は昼休みにサッカーをして・・・・後ろから足を絡ませられて転んだんだ。
慶太君の後ろからのスライディングだろうか。
決定機だったし、試合だったらイエローは確実、一発レッドだってありえるよ。
わざとかな。
まぁあり得る。
でも正当なプレーといえば正当なプレーだ。
キーパーと一対一の決定機でレッド覚悟のタックルをするというのはよくある。
問題はそれを体育祭の練習でやるかって話だけど。
頭が痛い。今何時だ。
まだ外は明るいので、夜ではないだろうが。
もしかして次の日だったりして。それはないか。
「先輩は凄いサボり方するな。身体張っている。実は私も熱が出ると聞いて醤油をがぶ飲みしようとした事あるが、一口でギブアップしたんだ。はっはっは」
突然、戦時中の徴兵逃れみたいな事を話してくる声の主の方を見ると、ジャージ姿で椅子に座っている、病弱な白色の肌に、黒く長い髪の、チャックを上までしめた学校ジャージに胸が突き出た女の子。由希奈がいた。
「ああ、いたの」
まぁ、いるか。
ここは彼女のクラスみたいなものだし。
「凄い勢いで転んでいたな。こう、グルングルンという感じで」
見てたんだ
そっか、この保健室から僕たちが練習していたグラウンドが見えるもんな。
「そんなに凄かったんだ。あんま覚えてない」
「先生がおんぶして担いでここまで来たんだ。最初は救急車みたいな話もでていたな。私も心配して心音を確かめていたら、先生に『今ふざけるな』と怒られてしまったんだ。失敬だと思わないか。本気で心配している事から出た行動なのに」
救急車か。学校で気絶したらそうなるよな。
死にでもしたらニュースだろうし。
こういうのなんて言うんだっけ。
安全配慮義務違反かなんかだったっけ。
「いやはや、それにしても新旧対決は引き分けという事だな!私としては見ごたえがあった」
スマホを片手に大きな胸を揺らしながら笑っている。
新旧って何のことだ。
あ、そっか慶太君は書道部だったのか。
「部活入れ違いだったもんね。僕と慶太君」
「違う違う」
ん?じゃあなんだ。
「夏希ちゃんの元カレ今カレ対決」
え。
「夏希って彼氏いたことあるの!?」
思わずガバっと飛び起きる。
急に動くとより一層頭が痛いが、今はそれどころではない。
僕にはそんな事一言も・・・・・いや言う訳ないか。
夏希が自分の事を話すようになったのは最近だし。
「ああ。まぁすぐに別れたみたいだが。付き合い始めたのも1か月前くらいだったはずだ」
一か月前?
一か月前に付き合って今別れてるって、え?じゃあいつ別れたんだ?
「別れたのは先輩が部活に入った数日後だったかな」
「え」
じゃ、じゃあ僕と初めて会った時は慶太君と付き合ってたってこと?
「まぁそういう事だな!ああ、そういえば、出来ればで良いのだが、夏希ちゃんと慶太先輩の事を、先輩に話したのは内密にしてほしい。言っても良いが、先輩が言うと私は一人友達を失ってしまうかもしれない。夏希ちゃんが自分から話していない、という事はきっとそういう事だからな!ただ私にとって一人というか唯一の友達なんだ!あと、実はついでで行ってしまうが新旧対決は旧を応援してしまったというのが本音だ。理由はわかるだろう。私は先輩に愛を常々伝えているからな。つまり私は先輩が夏希ちゃんと早く別れてほしいと思っているわけだ。酷い女だと思うだろうか。思ってもらっても構わないが、それは生物学的に言えば当然の事だとは思わないか?好意を持っている遺伝子を残したいと思うオスが、他のメスとつがいになっていたら、そのメスは嫉妬するだろう。嫉妬とは自分が遺伝子を残すためのプログラムと考えるなら、私のこの気持ちは生き物であるがゆえの仕方がない感情なんだ。そういう意味で、子持ちのシングルマザーの彼氏が、シングルマザーの子供を虐め殺すのは生物学的に言うと自然な行動らしい。いやこれは脱線か。ただ覚えていてほしい。私は常に先輩の事を考えているし、こうやって倒れた時もそばにいる。元カレもいない。最後のは余計だったかな」




