38話 家族会議
「これで喋りやすくなりましたね」
浴槽の床には僕の吐瀉物としゃぶつが散らばっているが、苦しくてその場にうずくまる。
「はーはー・・・っう!」
呼吸が整ってくると、今度は腹部から激痛。
先ほどまでは、ショックで痛みを感じる事すら出来なかったのか。
「兄さん?」
うずくまっている体制から声のする方を見上げると、凛花が微笑んでいた。
片手にはまだしっかり工具が握られている。
「困りました。黙っていてはわかりませんよ。苦しいですか?喋り辛いでしょうか。どうして差し上げればよろしいですか」
「う・・・あ・・・」
声がでない。
凛花は『怒っている』とかそういう単純な次元の状態ではないのはわかる。
凛花がしゃがんで、うずくまっている僕に目線を合わせる。
しゃがんだ体制で、バスタオルを巻いている彼女の胸元の谷間が見えた。
普段露出の多い服を全く着ないので、見てはいけないものを見てしまったような気持ちになるが、今はそれどころではない。
「ご安心ください。私は兄さんを守ります。兄さんと、私たちの現実を。そのために全てを尽くしていますから。愛する兄さんのために」
「何で、こんなことを」
呼吸もが落ち着き、激痛に耐えながら、凛花に尋ねる。
「軽率でした」
凛花がいつもの温かみのある表情になる。
「隠そうとしないでください」
隠す?
たまに発生する、凛花との会話が噛み合っていない状態がまさに今起こった。
「はーはー、な、何も隠していないよ」
今度はちゃんと話さないといけない。
凛花には凛花の人生を歩んでほしいから。
僕と言う存在を凛花を重りにしたくはないのだ。
そういう関係でいたくない。
お互いがお互いを助け合うようなそんな関係が理想だろ?
「・・・・・・」
微笑みを崩さないまま凛花が黙る。
「凛花?」
スッと、僕のお腹に凛花が手をやる。
「おいたわしい、さぞ痛むでしょう」
言った瞬間、凛花が今度は工具を地面に叩きつけた。
凄い音がしたが、固い物と固い物があったった高い音ではない。
床と工具の間には僕の小指があったから。
「ぐ、ああああああああああああああああああああああああああああああああ」
痛さでお腹が痛くなり、体温が下がったような気持ちになるが、汗が出て呼吸ができなくなる。
床は自身の吐瀉物で汚れているが、お構いなしに悶絶する。
「あああ・・・・ああああ」
指はおかしな形に凹んでいる。
「私たちは共に幸せに生きようと決めた関係で、一心同体、一蓮托生です。愛しています兄さん。私たちは、お互いの幸せのために全てを捧げる義務があり、お互いがお互いの愛情に応え続ける義務と責任を負っているのです。以前にも話したように、その義務と責任を、私は私なりに怠った事はありませんし、兄さんもいつも最善をつくしてくださいます。恥ずかしながら、そんな兄さんを愛しています。ずっと、ずっとずっとお慕い申しております。その上で質問させていただきます。何故、他の女性と外出される必要があるのでしょう。なぜ、他の女性と交際されるのでしょうか。私の無い知恵を使っても答えがでません。私は兄さんが思うほど出来が良くないようです。改善できるよう出来うる限りの努力をいたします。至らない妹で申し訳ありません。罰が必要であれば、後ほど甘んじて受け入れます。兄さんに相応しい人間になれるよう、日々研鑽を積んでいきます。その前に、近道しようとする愚か者なのは百も承知でお伺いいたします。他の誰かと兄さんが、交際される意味を教えてください。それがどう、私たちの幸せに繋がりますか?義務と責任を果たすための手段として、どう活用されるおつもりでしょうか。それともお困りごとですか?無理強いされましたか?無理矢理何か要求されましたか?安心してください。お困りであれば、微力ながらお力添えします。まずは正直に話してください。私が全て対処いたします」
浴室という密室での話し合いは、まだまだ終わりそうにはなかった。




