表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/54

0.3話 1年生

まだ歩きなれない通学路を歩く。

先週は念のためグーグルマップを用意して歩いていたが、

今はそんな物を用意しなくても、迷う事はひとまずはない。


私、空見夏希そらみなつきも高校生になって2週間。


入学して間も無く、話せる友人も多くはないので教室に行くのは緊張する・・・・訳でもない。


別に友達はいても、いなくても良いし、私の邪魔さえしてこなければ他人に対して興味を持たない。


友人は人並みには、いると言う自覚はあるが、

それでも私は一人で過ごすのは苦にならない所か、一人の方が良いとすら思う。


一人で飲食店や映画だっていくし、遊園地的な所にも入った事がある。


勿論、気の合う友達と、一緒にその時間を過ごせれば、

それはそれで楽しいかもしれないが、気を遣う事も多いので一緒に行きたいと思える人とは、余り出会った事がない。


出会った事がないというより、その時には遊びたくても、ある時から遊びたくなくなる。

ようは私のコンディションや気分次第。


他人が嫌いという訳ではなく、私は自己満足が私個人で完結できる人間なんだと思う。


一応、昔は他人に気を遣う子供だった。

私の父はグループ会社の子会社の社長をやっている。


でも母と父は籍は入れておらず、私の苗字も父の物ではない。

私は不倫相手の子だから。


父と母は一緒に住んでいないし、母はいわゆるシングルマザーで、

父親の援助がなければ生活ができない。


なので私も、常に父に気を遣って生活していた。


逆に言うと父も、自分が経営している小さい会社を、

大手の会社に買収してもらって、大手グループの子会社の社長になれた訳で、

いつ自分の会社がどうなるかがわからない、という事で世間体に敏感だったんだと思う。


そんな両親を見て育った私にとって、誰かに気を遣う事は自然な事だった。


幸い、父親や父方の祖父に私は気に入られているようで、金銭的な援助は大学まで約束して貰っているので、十分過ぎるほどの仕送りを貰って生活しているが。


ま、今となっては、人に気を遣うって行為は、思ったほどリターンが少ないとわかり完全にやめたけど。


自分の成長を第一に考えて継続していく。

そっちを優先した方が、同じだけの努力量の人間には好かれて、努力をしてない人からは尊敬を得られるから、案外うまく行くのだと知った。。


ふと、前に制服を着た高校生らしい男女がペアで歩いているのが見える。


カップルか。

男子はうちの学校の制服だが、女子側は他校の制服を着ている。


・・・・恋人ねぇ。

私もそんな物を作る時がくるのかな。


中学までは誰と誰が付き合ってるとかは私の周りではあまり聞かなかったが、

高校生にもなると、そういう物が増えていくのだろう。


ただ私のとっては、全く想像がつかないし現実味もない。


他人に気を遣う事をやめた私には

きっと不釣り合いな物だろう。


他人をわかり合ってお互い尊重し合うなんて、

私には絶対できないし、しようとも思わないから。


そんな事を考えながらもう一度カップルの方を見る。



というか男子の方に見覚えがある気がする。

もしかしてクラスメイトの男子?


・・・・


ああ、思い出した。

部活にいる同い年のユキちゃんが言ってた人だ。


スマホで隠し撮りしたであろう画像をよく見せられるので見覚えがあったのだ。

ユキちゃんは彼にとても執着していて、何かにつけてその話をしたがる。


・・・あの男の何が良いんだろう。


彼に対する嫌味があるというより、彼が他の男と比べてどれほど魅力的なのかを遠目から探ってみるが、特に他の男子と変わりない、


パっと見は根性なさそうな顔で、横の女子にヘラヘラしてる雰囲気に、私は余り好印象は持てないと思った。


ていうか、彼女いるじゃない。


彼女持ちを好きになるとは、ユキちゃんもイバラの道を歩んでるわね。


「では、兄さんここで」


「うん。最近暑いから身体気をつけてね」


「お気遣いありがとうございます。兄さんも気をつけて行ってらして下さい」


前のカップルが立ち止まったので、前に進んでいる私との距離が近づき会話が聞こえる。

兄さん?では兄妹なのね。なるほど。


女の方がやけに美人で、全然兄妹っぽく見えなかったので誤解してしまった。

まさか恋人同士が白昼堂々と兄妹プレイをしてる訳じゃなし、本当に兄妹なんだろう。


でもここまで似てない兄妹もいるのね。

それと兄妹っぽく見えなかった理由の一つとして、妹の方から嫌な感じがしたから。


ユキちゃんがあの男の事を喋って、熱中しだした時に感じるネチっこい雰囲気と同じ物を感じる。


あれは異性に向ける愛情から来るネチっこさだとばかり思っていたが、妹が兄に向けるなら違うのだろうか。


・・・・


よくわかんないけどキモい。

やはり私には向いてないんだろう。


何より母親のように、愛情という動機で動いた結果によって、損得で男に媚びるような惨めな人生を送りたく無い。


生物の共通点が遺伝子のコピーを残し続ける事で、そのためのプログラムの一部が恋愛だとするなら、

そんな感情は私には不要で、シンプルにこの人と結婚したい、子育てしたいと損得勘定で考えた方がきっと良い人生が送れるはずだ。


前の男があまりにも長く立ち止まるのですれ違う。

その瞬間男も前に歩き出し、お互いがぶつかりそうになった。


「あ、すいません」


話しかけられるとは予想外ね。


近くで見ると益々普通の男子生徒という感じ。何かオーラが出ているとかそういう物は微塵も感じない。


「あ、あの」


顔をチェックしていたせいで、

私の反応が遅れた事に不安を感じたのか困っているようだった。


情けない表情にイラついて、歳上らしいけどケツを引っ叩きたくなったが我慢する。


「大丈夫。じゃ」










「おう」


「あん?」


「お前全然挨拶こないじゃん」


お昼休み。

先生に呼び出された職員室の帰り。

教室に戻る途中に一個上の顔見知りに呼び止められた。


「おのれかい」


「冷てーなー」


戯けたように笑う。

こいつは慶太けいた


私の母の友達の息子で、全く覚えていないが幼稚園に入る前から付き合いがあったらしい。


連絡がしつこいし、最近特にそうなのでラインが来ても最早既読すらつけていない。

そうするとこれは気まずい、という状況に当たるのかな。


どうでも良いけど。


「聞いたよ部活で揉めて、みんな辞めちゃって、書道部存続の危機って。もう有名人じゃん俺が入ってやろうか?」


「真面目にやらない奴がいても邪魔だから追い出しただけ。それはお前も同様」


「お前らしいなー」


ウザい。


こいつに絡まれると長いのでなるべく学校で会いたくなかったが、遂に会ってしまった。


あん?てかこいつ1個上だから2年よね。

ほんで知りたくもないけど何組かもラインで送ってくるから覚えている。


そうだ、思い出した。

ユキちゃんから聞いていた、あの男と同じクラスだった。


実を言うと私は珍しく他人に興味を持っていた。

ユキちゃんが執着しているあの男に。


ユキちゃんは仲良くなればなるほど、かなり変わっている子であると判明した。


面白い子ではあるが、おかしな所で社会性がなく、

とても自己中心的な所も持ち合わせているが、頭が良く面白い子だった。


今まで会った事がないタイプなので興味が湧いて仲良くなり、今では書道部の数少ない生き残り。


普段クラスで一緒にいる子達よりも仲が良いかもしれない。


厳密にはユキちゃんと私は同じクラスだが、ユキちゃんは身体が悪いとかで保健室登校しておりクラスで会う事はない。


私は部活で起こした事件のせいで、クラスでは多少警戒されているため、私の友達というだけで誰もユキちゃんを表立って馬鹿にする人はいなかった。


これだけいうとまるでヤンキー漫画のキャラみたいね。


「てかアンタ1組だっけ」


「そだよー覚えてくれてんの地味に嬉しいw」


「アンタのクラスにいるやろ、なんて言ったっけ名前」


「え?誰?何?友達いんの?」


「んー・・・思い出した、本田って奴」


「ほ、本田?」


一瞬にしてコイツの表情が曇る。

仲良くないのか。


「何?お前あんな奴と仲良いの?」


「話した事もない」


「なら良い。絶対絡むなよあんな奴」


少し真剣な表情で言われる。

問題児なのだろうか。


・・・・ありえるわね。

だって、あのユキちゃんが好きな男だし。


「てか男子に興味持ってんなよー。特にアイツとかマジでキメェってwあと俺のDMも返せ」


「命令するな」


そう言って踵を返して別れる。


アイツはウザいが人当たりが良く、逆に言うと他人の悪口は滅多に言わない。

そのアイツが他人をあそこまで悪く言うという事はやはり問題児か。


私やユキちゃんと一緒で。


話した事は一瞬しか無いはずだが、益々他人に興味が湧いてきている自分に少し驚いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ