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19話 一触即発

状況はすこぶる悪い。


前に茜や慶太くん達と下校途中に出会った時とは違った意味での窮地。

まさかこんな流れになるなんて。


後で何か理由をつけて凛花に納得してもらおうと、先延ばしにしたつもりなのに、どうしてこんな事に。


目線の低い空見は、僕を下から睨みつけたまま。


「黙ってりゃやり過ごせると思ってんの?何とか言えや虐められっ子」


睨む瞳は鋭く、声もドスが効いている。


まさに今日僕がテストを見ようとした時と同じくらいの圧を感じた。


昔、先生にキツく怒られた時、胃がキュっとして寒気がするような感覚になったが、今まさにその時の気持ち。


「違うんだよ、それは誤解で、説明すると・・・」


後に続く言葉が出て来ない。


と、とにかく誤魔化さないと。

でも凛花が横にいるわけで、えっと。


「兄さん」


「え?」


「私がご説明いたします。元々は私が余計な事を言ってしまったので原因ですから」


凛花が説明って。


「兄さんが見学にお伺いさせていただいた際にはご親切にしていただきありがとうございました。ですが家族で話し合った結果、入部しないと決断されたと聞いています。学業や家庭の事もあります、突然のご報告になってしまい申し訳ありません」


うわ、確かに凛花にはそう言ったけど。

空見の視線は凛花をチラッと見た後に、すぐ僕に戻る。


「アンタには聞いてない」


バッサリと凛花の発言を切り捨てた。

一方外行きの笑顔のまま表情を崩さない。


「お気持ちを害されてしまいましたか?兄さんと私は二人で共同生活をしておりますから、学業の関係や、家庭の事情で部活動に勤しむ時間が無いのも事実です。誠に残念ですが、ご納得していただくしかありません」


凛花も全く引かない。

頑固な時は凄い頑固だから。


「あ?耳が遠いん?アンタには聞いてないって言ってるのが聞こえない?」


「ご心配してくださってありがとうございます。ですが耳が遠い自覚はございませんし、兄さんから言おうと、私から言おうと事実は変わりません」


「黙って聞いてりゃ生意気な小娘ね」


そこで初めて空見が凛花の方をしっかり見る。

小娘って。お前らは同い年だし、何なら凛花の方が歳上に見える。


なんてツッコミができる訳もない。


「こいつの家族?そんなん私が知るか。こいつはお前の所有物じゃないし、こいつがどうするかを私は聞いてるだけ」


「私の発言のどの部分を切り取って、所有物という表現を選択されたのかはわかりませんが、家族が話し合った事を兄さんに変わって私がお伝えしているまでです。ご納得いただくしかありませんし、部活への入部は強制ではないはずですよね。それを強制するのであれば、私たちを害しているのと変わりません。であれば、」


「ちょっ、ちょっとストップ」


二人の視線が僕に集中する。

と、とにかくこの状況はやばい。


「空見!あ、明日ゆっくり話そう」


「アンタに明日があると思ってるの?」


何やら不穏な事を言われるが、気にしてはいられない。

ただ今はこの場を収めないと。


「凛花!暗くなる前にスーパー行こ」


「よろしいのですか?部活の方は、まだご納得されていないようですよ?」


「良いから行くぞ」


強引に凛花の腕を引っ張る。


「じゃあね、空見また明日!!」


返事を待たずに、半分小走りでその場を逃げるように立ち去る。


普段怪我をしないよう凛花と歩く時はあえて少しゆっくり歩くが、

今はそんな事を気にする余裕はない。


どうしてこんな事に。

嘘をつくのがダメだったのか。


そもそも僕がサッカー部をやめたのだって・・・


「兄さん」


手を引かれている凛花が話しかけて来た。

強く引いてしまったから、腕が痛いんだろうか。


「部活の方に『誤解』と仰っておりましたが、何とご説明するつもりだったのか、帰宅してからで構いません。詳細をお願いします」


「・・・・」


ボタンを掛け違った状態で物事を進めるとその代償を後で必ず払う事になる。


しかも掛け違ったボタンをすぐ直すのと違い、そのまま進めると、掛け違えたボタンの位置までの全てのボタンを直す労力が加わり、遂には労力をかけるだけでは解決できなくなる可能性もある。


やはり僕のような、頭の回転の悪い人間が嘘をつくのは良く無い。


改めてそう思った。


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