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14話 尋問

「ごめん」




バレていたのか。

冷や汗がおでこに滲む。


これ以上嘘を嘘で塗り固めてもしょうがない。

僕が悪いんだ。最初から正直に言っていれば、こんな事にはならなかったんだ。


「何に対しての謝罪をされているんでしょう」


凛花が無表情でゆっくり訪ねてくる。

表情は本当に無そのもの。


何を考えているのかは、僕でもわからない。

少し怖いけど・・・ちゃんと言わないと。


「実は今日部活に行ってたんだ」


「そうですか」


無表情のまま淡々と返答される。

怒っているのか呆れられてるのかはわからないが、片手はまだ握られたままだ。


「嘘ついちゃったごめんね」


凛花は僕が嘘をつくのを嫌う。


一度帰りが遅くなり、凛花への連絡が滞った時、本当は遊んでいたのだが、適当に学校の講習があったと嘘をついたら学校に連絡をされて講習がなかった事がバレた事がある。


その後やんわりと1時間説教された。


言葉使いは丁寧で怒鳴ったりは無かったが、

圧がすごかったのは今でも覚えている。


「いいえ、謝罪するには及びません」


「え?」


謝罪しなくて良いって・・・・

もしかして色々察して許してくれるんだろうか。


昨日僕が部活に入りたいと話していたのを考え直してくれたのかもしれない。


最近僕が学校でうまく行っていないのを家でも出していたのかな。

だとしたら申し訳ない。

でも、凛花も納得してくれるなら・・・


「それで、何故嘘をついたんですか?」


「何故ってそりゃ昨日・・・・」


見学に行って部活に入りたくなったんだ。

わかるでしょ。


「昨日?見学に行ってしまったために上級生に無理矢理参加するよう言われたんですか?」


「む、無理矢理?」


「はい。兄さんはお優しいですから」


「違うよ」


「では何故?」


「だから昨日、見学に行ってさ」


「ああ、わかりました。無理を言ったのは顧問の先生でしょうか」


「ちょ、ちょっと待ってよ」


そういえばあの部活に顧問の姿は見えないけど、本当にいないのかな。

空見は追い出したって言ってたけど。


って、今はそんな事どうでも良くて。


「外的な理由じゃなくて、ただ」


「ただ?何です?他にどんな事があったのでしょう。きっと何か重大な事があったんですよね?兄さんが私に嘘までついたんですから。わかりますよ。無理せず話してください。兄さんのお力になれるよう尽力致します。私はいつでも兄さんのお側で支える所存ですから。ただ私は卑しいのです。もし、無いとは承知しているのですが、もし私に何の理由もなく嘘をついたのであれば私は兄さんに罰を与えなければいけません。そんな事はしたく無いですし、する必要もない理由があるのはわかっているのですが。私の卑しさをお叱りになるのであれば、甘んじて叱られる所存です。なので、その前にまず、仰ってください。何故今日も部活に行かれたんでしょうか?」




凛花の僕の握る手が強くなる。


ここでいう「強くなる」というのはキュがギュッとなるような感じではない。


ギュウウという感じ。

前にふざけて力を込めて遠藤に握られた時よりも力はずっと強く感じて痛い。


「い、痛いよ凛花」


「・・・・・」


僕が言うと握る力は少し弱まった。

ただ握る力は以前強いままで、振り解けそうに無い。


「今日部活に行ったのは」


「はい」


「行ったのは・・・・」


・・・・・


ちゃんと言わなきゃ。


嘘をつくのは僕も辛い。

でも・・・

事実を言ったら何か、


「兄さん?」


凛花が無表情のまま俯いている僕の顔を覗き込む。

瞳は漆黒で飲み込まれそうな表情をしている。


凛花が身体を傾けた事により、僕の手を握っていないもう一方の手に握られている物が見える。

あれは何だ?何故持っている?


「・・・・・・・じ、実はさ」


「はい」


言うんだ。


「実は・・・・」


自分を安心させる防衛本能なのか僕は意味もなく凛花の部屋を見渡す、

ただそれは結果的に防衛にはならなかった。


ある物を見て驚愕してしまう。


「実は・・・・・・・・・・・・・言う通り顧問の先生に気に入られちゃって、しばらく通うよう言われてるんだ」


僕は何を言っているんだ。


「断ってるけど取り敢えず一週間って言われてて、一週間やってからやめる予定だよ」


「・・・・」


凛花は無表情のまま覗き込んでくる。

まるで瞳の奥まで覗かれ心を読まれているような気分になる。


「そうでしたか」


その言葉と共に手の握る力が弱まる。


「では仕方ないですね。言い辛ければ私からも学校に言うのでいつでも頼ってください」


「はは、じゃあ本当にきつい時は頼んじゃおうかな」


「そうですね。頼ってくだされば今からでも」


とても冗談には聞こえない。


「そ、それよりも、もうこんな時間だから僕もそろそろ眠たくなってきちゃったよ」


「確かに夜も遅いですね。お疲れですか?」


「僕ってより、凛花も疲れたでしょ、休みなよ」


「兄さんがそう言うのであれば、そう致します。久々に兄さんが部屋に遊びにきてくれて嬉しかったです。またいらしてください」


「大袈裟だね」


手が解かれる。

何とかこの場は収める事はできてひとまず安堵する。


嘘を嘘で塗り固めてしまい、後々この辻褄合わせで苦労する事になるかもしれないという宿題は残ってしまったが。


僕はこの選択肢を取る事しかできなかったんだ。


凛花の右手。


僕の手を握っていない方の手には何故か彫刻刀が握られていた。


最初は何故持っていたのか、たまたまなのかと思った。

でも凛花のを見渡した時に見てしまった、書道セットが入っていたであろう、小さなカバンが穴と傷だらけでズタズタになっていたのを。


瞬間、僕はこの妹に恐怖してしまった。


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