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13話 家族団らん

「最近帰りが遅いですね」


時間はちょうど20時。


夕食とお風呂を済ませてくつろいでいる所に、

凛花が洗濯物を畳みながら話かけてきた。


凛花は僕が帰ってくると基本居間にいる。

通ってる高校のレベル的に、勉強も忙しいだろうに僕が帰る前に終わらせるか、居間で行うことが多い。


以前模試の結果を見せてもらったことがあるが、僕が取ったことのない偏差値を取っていて、

記載された全ての大学がA判定だった。


対して僕は昔から自分の部屋に篭るのが好きだった。


でも、部屋にいると決まって凛花がコーヒーや夜食を持ってこようとしたり、

落ち着かなさそうにするので最近は僕も居間にいるようにしている。


「うん。いつもの友達とサッカーの配信みるのにハマっちゃってね」


本当は部活。


正直に言えば、また揉めるかもしれないし、取り敢えず誤魔化しておく事にする。

嘘をつくのに少し心が痛むな。


・・・・ずっと嘘はつき続けられないし、どうしようか。


「そうですか。お付き合いは大切にしてください」


「寂しかったかな、連絡は欠かさないようにしていたんだけど」


「兄さんには兄さんの付き合いがある事を理解していますから、我慢しています」


僅かに微笑みながら凛花が言う。

うう、罪悪感。


というか凛花の「学校は楽しく無い」っていうのはどこまで本当なんだろう。

この家に住んでから友達との用事で凛花が帰りが遅くなった事は一度もない。


折角の高校生活にそれはどうなんだ。

やはり僕に遠慮しているのかも。


「学校帰りお出かけとかしないの?」


「お出かけですか?何か買い出しした方が良い物がありましたか?」


微妙に噛み合わない。

いや僕も聞き方が悪かったかな。


「たまには友達と遊んだりしたいでしょ、もし良かったらこの家に友達とか呼んでも良いんだよ」


一見無表情にも見えるほど表情の機微が少ない凛花が、

最後の洗濯物を畳み、何とも言えない表情でこちらを見る。


「心配してくださっていたのですか。ありがとうございます。ですが不要な心配です、学校生活に滞りありません」


「・・・・滞りない、か」


「はい。この家に呼んだり、帰りに遊んだりしなくても問題が無いよう、学校でも人間関係には気を配っていますから」


「・・・・」


まるで学校生活を業務のように言う。


「自分のしたい事をするために、最大限の努力を欠かしてはいませんから」


洗濯物を畳む仕事を終わらせた凛花がスッと僕の横に座りながら言う。

気を遣っているのか、甘えているのかわからないが、同時に責められているような気もした。


「兄さん来てください」


凛花が僕の手を取る。

甘えん坊だが自分から僕に触れてくる事は少ない凛花にとっては珍しい行動だ。


「ん?凛花の部屋?良いけど」


「では」


そのまま手を引かれるので僕もついて行く。


凛花が僕の部屋に来る事はあっても、基本居間にいる凛花の部屋を僕が尋ねる事は余りない。

入るのは久々だな。


いつも整理整頓されており、無駄な物が置いていないイメージがある。

前入った時には、机に僕と凛花が中央に移った昔の写真が飾られていて少し気まずかったっけ。


本人曰く家でいつも机に置いている物だとのこと。


「入ってください兄さん、掃除は毎日していますからお見苦しくはないはずです」


「はは、凛花に限ってそんな心配はしてないよ」



部屋に入ると凛花の匂いと共に、ツンと墨汁の匂いがした。

・・・・墨汁?



「ん?」



部屋を見ると新聞紙がひかれていて、そこに半紙と、墨汁の入った墨入れや筆が用意されていた。


「これは?」


「兄さんは最近書道がお好きなようなので、私も一筆書いてみました」



草書と呼ばれる物だろうか、

縦書きで2行の文字が書かれていた。


「凄い上手だね」


「ありがとうございます。私もこう見えて、いくつか賞を取った事があるんですよ」


確かに上手だ。

空見のと同じで、何と書いてあるのかはわからないけど。



「へぇ〜やっぱり凛花は凄いなぁ」


「はい」


そう言って凛花が僕の方を向く。

そのまま何も言わずにジッと綺麗な顔で見つめられる。


凛花の表情検定士という資格がもしこの世に存在するなら一級を取れる自信がある僕ですら、

読み取れない表情だった。


ただ何故か、

詰将棋で劣勢になっているような、そんな気持ちになった。


「今日の制服に昨日なかった墨汁のシミがついていました」


「え」


嘘でしょ、全然気がつかなかった。


「昨日は書道部に行って、今日はいつものお友達と書道されていたんですか?」


ニコリと凛花が微笑む。

いつもより表情豊かに。


「そんなにお好きになられたんですね。では、私を頼ってください。私が兄さんに手解きいたしますから」


片手は握られたまま。


「あ、ありがとう」


優しい力のはずだ。

だけどこの手を振り解ける気がしないのは一体何故なのだろう。

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