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11話 部活動

「昨日より上手くなってない?」


昨日よりスムーズなような


昨日は過去の記憶を呼び起こして、右も左もわからない中で書いていたが、今日は感覚でスルスルかける気がする。


「羨ましい」


空見が口元をニヤッとしてつぶやく。


「お馬鹿さんは、そんな小さな変化ですぐ良い気になれて。だから人間は努力する事をやめるのね。アオミドロがミドリムシになったくらいの変化しかしてないのに」


空見がクックックと小さい体をわずかに揺らして笑っている。

・・・どういう意味かはわからないが、とにかく凄い馬鹿にされていることはわかる。


大体アオミドロとミドリムシってどっちがどれだけ優れてるんだ。


「どういう事なのそれ」


「顕微鏡で見ないとわからない成長って事」


意地が悪そうに言う。

心底楽しそうだった。


「初心者にしては良い線言ってると思うけどなぁ」


「初心者はまず反復練習で型を覚えるの。そのあとようやく自己表現した字がかける。初めてオムライス作るやつがアレンジしようとして上手くいく訳ない」


空見が少し真面目な顔になる。

型か・・・奥が深い。


「それにもっと丁寧にやりなさい。丁寧じゃない奴は見ててムカツク」


言いながら空見が自分の筆を置く。

今日の彼女の髪は、墨汁で汚れないようにしているのかポニーテールにしていて、見えるうなじは、若干汗ばんでいた。


この部屋少し暑いし、準備も毎日1人でしているから当然だろう。

今度はもっと早く来て僕も手伝お。


「ほら、筆持て」


「え?」


「さっさとしろノロマ泣き虫」


「う、うん」


彼女が僕の後ろに回り込む。

後ろから叱咤激励を受けながら100本ノックかのように、半紙100枚書けとか言われるのだろうか。


空見なら言いそうだ。


「私がアンタの筆もって書くから、感覚をつかめ」


「え」


後ろから、僕が持っている筆の上部を空見が持つ。

そのまま空見が筆を動かして書き出した。


「ほら、こうして・・・ここは・・・こう」


なるほど。

僕も筆を持ったまま感覚をつかめという事なのか。


「・・・」


「・・・」


何かドキドキする。

極端に女性に免疫がない訳じゃないと思うんだけど、後ろからの空見の気配と、女の子特有の凛花とはまた違う甘い匂いや、耳元でしゃべられて妙にくすぐったい。


「・・・・・よいしょ、ほらできた。アンタのとは月とすっぽん。顕微鏡で見なくてもわかるでしょ」


「う、うん」


照れてしまって少し目をそらしながら返事をする。


「何真っ赤になっとんねん。坊主」


「!?」


か、顔が赤くなってたのか僕。

恥ずかしい。


取り敢えずこの話題はここで終わらせるために次の話題に!


「なるほどーさすがだねぇ。確かに全然違う、参考にして次は・・・・」


「そういうの期待してるならほかの部活行け。私も不愉快だから」


出会った当初のような敵意剥き出しな感じではないが、空見が真剣で厳しい表情になる。


「ごめんなさい」


「ふん。ハナタレ坊主には刺激が強かったか。ま、一人でやってみな」


「う、うん」


ハナタレ坊主って。年上なんだけど。


でも、なんやかんや見捨てはしないようだ。

そう、見捨てるなら昨日僕は見捨てられてるはずだ。


よし!


筆を持つ。

正直緊張して余り集中できなかったが、しっかり教えてくれているんだ。

せっかく置いてくれてるんだから、頑張るぞ。


僕のそんな決意はあっさりと打ち砕かれた。

廊下から笑い声が聞こえる。


この笑い声は・・・



「今年はフェス開催するらしい!俺チケット確保するからみんなで行こ!」


「いつメンで行こうよ!ね!茜」


「え〜どうしよ~」


この笑い声は耳にこびりついて離れない、いつもクラスで聞いている慶太君や山田さんのグループの笑い声だった。


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