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リセット&エネミー

作者: T-time

 日本は腐りきってしまった。


 毎年のように起こる災害。

 疫病が蔓延しても、自分達の体裁しか考えない政治。

 そんな状況が長く続いた。


 日本ではクーデターが起きないと言われていた。国民性もあるのだろうが、まだまだ恵まれた環境にあったからだ。

 だけどそれにも限界は来る。

 上の連中は自分達が恵まれているから、国民がどれだけ疲弊しているかという本質を理解していなかった。



 そして2029年それは起こった。



 初めは座り込みや、プラカードを持っての行進といった小さな抵抗だったが、段々とその火は大きくなった。


「週末抵抗」


 そう揶揄されるように、毎日ではないが定期的に人が集まり押し掛ける。

 まだこの辺りでは、乗っかってるだけの人間も多数居たかもしれない。

 もちろん政府も対策は取ったが、一向に収まる気配はなかった。


 そのうち双方の激しい争いに、クーデター側に死人が出た。

 石橋という学生が警官の威嚇射撃をまともに受け即死。

 徹底抗戦を決意するに至った。


 そこからはクーデター側も組織化されていくことになる。


 新たなる組織「日本解放戦線」が設立されたのはそのすぐ後だった____。




「よう、磯村」


 同士の谷口が、まるで喫茶店で待ち合わせをしているかのように、気軽に声をかけてくる。

 しかし、回りは緊張で今にも吐き戻しそうな青白い顔がいっぱいだ。


「なんだよ、谷口のところと合同かよ」


 悪態をつくようにしながらも、地面に置いた尻をずらして、座る場所を開ける。


「歓迎されてないなら帰るぞ?」


 ムッとした様子はない、単なるじゃれあいだ。

 座りながら、すすめてくれた紙巻きたばこを遠慮し、懐から電子タバコを取り出して電源を入れる。


「おいおい、明日死ぬかもしれないのに体の心配か?」


 谷口はすぐに人をからかう癖がある。

 地方での実績あってこそ、この地位で居られるのだ。


「で、作戦は?」


 水蒸気の煙を吐き出しながら問う。


「なぁに単純だ、政府の保養施設でいま政治家が5、6人遊んでる。みんなで突っ込んでさらってくりゃぁいい」


 たばこの煙を輪っかにして飛ばしながら、緊張感無く答える谷口。


「だが、警備も居るだろ、作戦がなければ俺たちにも被害が出る」



 被害。

 クーデター側は容赦をしない。

 さすがの政府も彼らに対して発砲の許可を出したのだ。

 まぁ、狙われているのが自分達となると、平気で法律もねじ曲げるのが政治家のやり方だ。


「出れば出たで、政府に対する不満を煽ればいい。そうすれば新しい同士も増えるだろうよ」


 彼の吐き出した言葉と、煙は近くの兵士の顔をしかめさせた。

 こうやって彼は地方の政府を完膚なきまでに叩きのめしてきたのだろう。


 磯村はそれには答えず、もう一息水蒸気を吐く。


「なぁ磯村、俺がこの作戦に参加する意味わかってるんだろ?」


 谷口はいままでの減らず口を閉じ、真面目な顔で磯村に迫った。

 その言葉の意味を、磯村は当然理解できる。


「今度失敗すれば、俺は……」

「そうだよ、俺がお目付け役だ!」



 俺がこの隊の隊長になってからというもの、全く成果を出せていない。

 それは単に作戦が悪いということや、任務が難しいということが原因ではない。


 政府とは別の名も無き組織が、毎回横槍を入れてくるのだ。

 しかもピンポイントに、作戦の横腹に大きな穴を開けて去って行く。



「上は、お前の隊に裏切り者が居るんじゃないかと疑ってるぜ」


 谷口はこう見えても義理堅い男だ。

 磯村が監視対象になっているということも、疑いの件も、通常なら秘密にするべき内容だ。


「俺も一時期はそれを疑ってた」

「違ったのか?」


 真上を向き、深く吸い込んだ水蒸気を、蒸気機関車のように目一杯吐き出しながら言った。


「俺以外、メンバーは死んで入れ替わってる」


 それを聞いた回りの同士は、ヒィッと小さな声をあげて、後退りするように距離を置いた。


「じゃぁ前が犯人か? 死神磯村よぉ」


「だったら、自分の首を絞めずに、お前の首を絞めてるだろうさ」


「ははっ、ちげぇねえな」


 たばこの火を無造作に地面で消しながら谷口は立ち上がる。

 


「とにかく俺はバックアップだ、活躍期待してるぞ」


 後ろ手に挨拶しながら、後方部隊へと去って行った。



「死神、か」


 その言い得て妙なあだ名は、今回もしっかり発揮された。





「で? 何か申し開きはあるのか?」


 軍隊と見間違えるほどの迷彩服を着込んだ男たちが数人磯村を断罪していた。


 完璧な大敗を喫して、ぐうの音も出なかった。


____磯村は、班を十人ずつ三班に分け、表玄関、裏口、そして奇をてらって2階からの侵入を試みた。


 予想通り表玄関と裏口にはボディガードがおり、戦闘が予想されたが、その混乱に乗じて二階のベランダに梯子をかけるとは思っていなかったはずだ。


 しかし、それは甘かった。

 何故か二階のベランダから入った瞬間、手榴弾の奇襲をうけ、10人もろとも全滅したのだ。


 こんなこと、事前に計画を知っていなくては用意できるはずがない。

 作戦が潰され動揺する地上部隊。


「行け、俺たちも続く!」

 谷口の号令に一気に銃撃戦が始まる。


 しかし、彼らが潜んでいた茂みには地雷が仕掛けてあったのだ。


 何人かの兵士が即死し、他の何人かは足を失い、残りも大小怪我を負ってしまう。


 戦場では、死より怪我が重い。


 谷口は舌打ちをしながら、兵の半分を彼らの救護に向かわせ、人員が割かれてしまった。


 徐々に押し込まれる戦況に対し、用心の護衛をしていたであろう私設傭兵が参加したことで、谷口も撤退命令を出さざるお得なかった。



 結果、死神磯村の班は30人中半数が死亡。

 残りも戦闘不能になってしまったのだった。



「____何か申し開きがあるのかと聞いているのだ!」


「いえ、特に」


 何度も何度も作戦の裏をかかれ。

 すべての任務に失敗した。

 もう、運が悪いなんて話では説明がつかないほどに。


 上層部も、期待の谷口を投入した上での失敗に内心焦っているようで、本部の人間を総動員して新しい拠点を落としに行っていた。



 その時。

 施設内に警報が鳴り響く。


「何事だ!」


 自分ではなにも考えず、人を貶めてここに居る上司たちがあわてふためいている。


 遠くで銃撃の音がして、数分でこの場所にも敵が雪崩れ込んできた。


 上司は手持ちの武器で応戦していたが、いかんせん練度が違ったようで、あっさり穴だらけになって転がった。



 磯村はというと、諦めていた。

 椅子に後ろ手に縛られ、到底動ける状態ではなかったし。


 ただ、こいつらが政府の者ではなく、俺をいつも邪魔してくるレジスタンスだということだけは何となくわかった。


 すでに銃声も聞こえなくなった施設。

 一人の男が磯村に近づいて、アゴを掴むと顔を上げさせた。

 男はサイドを刈り上げた精悍な顔つきだったがまだ若く、ガムをクチャクチャ噛みながら磯村の顔をマジマジと見る。


「うえ、マジかよ……」


 そして、眉間にシワを寄せ、信じられないといった顔をした。


「俺んところのお偉いさんがよ、磯村って男を見付けたら、少し話をしてやれって言ってたんだがよ。お前、磯村だよな……ってか間違いないな」


 どうやら、磯村の顔は相手方には知られていたらしい。当の磯村はそれには答えず、虚ろな目でその男を見つめていた。


「じゃぁサクッと話すとだな。

 お前が信じて戦っている日本解放戦線な? あれダミー組織なんだわ。本当は武器を横流ししている奴らが先導してぼろ儲けしてるだけの組織なんだわ」


 いきなりサクッと話された内容は信じがたかった。

 磯村は本気で日本のためになると思って、3年間も戦ってきたのだ。命を懸けて、そしてたくさんの命を失い続けて。


「じゃぁ、日本の解放は……」


「あるわけねぇだろ。むしろ戦い終わっちまったら商売にならんだろ?」


 磯村は頭が混乱していた。


「真実だとしても、何故俺だけにその話をする!」


 磯村は穴だらけで転がる上司の死体を横目で見る。そんな話をするなら、班長クラスの中堅よりも、人を動かしている上層部だろう。


「それは俺にもわかんね。ただ、うちのお偉いさんがそうしろって言ってたんだよな」


 よくわからないのは磯村も同じだったが。

 彼の上司が自分に興味を持っているのであれば。もしかしたら助かるかもしれないと磯村は小さな希望を見た。


 しかし、それは裏切られることになる。


「よし、俺は伝えたぞ」


 そういうと、男はガムをペッと地面に吐き捨てると、銃を構えて磯村に向けた。


「まて、意味がわからないぞ、殺すならわざわざ俺だけに真実を伝える必要がないだろ! それに、その話が本当だったら、俺だってこの組織に騙されてたんだ、復讐をしたい! 仲間にいれてくれないか?」



 命乞いだ。

 さっきまでどうでもよかったが。

 今は明確に生きる気力がわいている。

 信じていた組織に騙されていた怒り。

 たくさんの死を償わせたい恨み。


 それらが、生きることを切望させたのだ。


「だめだ」


 だが、男からは非情な一言が返ってきた。


「何でだよ!」

「あの人がそう言うからだ」


「目一杯悔しがらせてから殺せってか!?」

「そうだ」


 そういうと躊躇いもなく、彼は引き金を引き。

 磯村の人生は終わった。




 かのように思えた。


 磯村が目を開けると、そこは見知らぬ場所。

 頭を抱えながら歩いていると、どこかで喧騒の声が上がる。


「こいつら! 石橋を殺しやがった!」

「学生が殺されたぞ!」

「許すか、この悪党が!」


 政府の施設の前に人だかりができている。

 どこか既視感のようなものを感じる磯村。


「石橋という学生……日本解放戦線の引き金になった事件じゃないか」



 磯村は3年前の事件のさなかにいた。

 死んだ筈が、過去に戻ってしまったのだ。


 自分の手を見ると、3年前にはある筈の無い、銃の引き金ダコがある。


 唐突に、自分が何故、連戦連敗だったのかの意味を理解することができた。

 震える手を見ながら、磯村は呟く。


「そうか、そうなのか……そうだったのか!」



 彼はその後、日本解放戦線という組織を潰すためにリーダーとなる。


 本当の平和を取り戻すために。


毛色の違う作品をいくつも投稿しておりますので、良ければそちらもご覧ください。

もちろん、賛否両論、★お待ちしてます!

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