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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第三部 クロガネ、鉄を打つ
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第94話 『その頃、ウエジと魔王は』

ウエジは、グウシンからジャングルの中を西へ向かっている。

毎日、湿度の高い森の中。

近寄ってくる雑魚は、機械人形ナイトメアが駆除してくれる。

だが、足元の泥、飛び回る小虫、這い寄るウーズや蛭は、流石に人間離れしたスキルを有するウエジをも辟易させた。


長い都会暮らし。虫は嫌いだ。


今日も一日の移動を終え、開けた土地で野宿する。

ナイトメアが起こした焚き火を囲む。


焼けた肉を引きちぎる。

地面はぬかるんでいるし、木に座ると尻が痛いので、オートマタを四つん這いにさせて、その上に座っている。

女性型のオートマタは、表面は柔らかいので、こういうところは便利だ。


グウシンから西に逃れた森の中、ウエジマモルは、無表情のまま、肉を頬張っていた。


勇者からスキルを奪ったものの。

良いことばかりではない。


ウエジは思う通りにいかない日々に、イライラを募らせていた。


クロガネから奪ったスキルは、正直、期待はずれだった。

思っていたのと違う。


控えめに言って、操鉄術というスキルは、クソスキルだった。

ちょっとした鉄を操れるだけ。

全く成長しない。

色々試したが、使い勝手もの悪く、成長もせず、故に全く面白くない。


鉄を柔らかくしてそれでどうなる? レベルが上がれば鉄を操作できるのだろうが、レベルの上げ方が不明な上、面倒臭すぎる。


正直、スキルは全く大したことはなかったが、この機械人形は使える。色々、役に立った。


オートマタの件で一点。気にくわないことがある。

道中、楽をしようとオートマタに強盗をさせてみた。しかし、思うようにはいかなかった。


殺すよう命じたにも関わらず、実行しなかった。

ウエジの権限を超えるプロテクトがかかっているようだ。


クロガネから人形の制御を奪った。にも関わらず、思う通りにならないことが、ウエジは許せなかった。


最終的にウエジは、君臨したい。

支配し、蹂躙し、君臨する。


これがウエジの望みだった。


スキルを奪いに奪いまくって、強くなり、魔王軍を撃退する。

人々に英雄として愛され、勇者として持て囃されるのだ。


その時は、違う顔、違う名前だろうが、そんなことは瑣末な問題だ。


俺が、君臨すれば、それで良い。


ウエジは暗がりの中、肉をかじりながら、そんなことを考えていた。


オートマタの剣よりももっと気に食わないことがあった。

収納カバンについてだ。


ものを出そうとしても、出せない。


スライムに邪魔されるのだ。


オリハルコンを売ろうと、収納カバンに手を入れたら、噛み付かれた。

痛いと思い手を引っ込めた。


最初は、何が起きたか分からなかった。カバンに手を入れたら激痛。


何に噛まれた!?

 

スライムにだ。


ウエジは様々なスキルを持っている。

たかがメタルスライムごときに、遅れを取るとは思っていなかった。


だが、そんなウエジの予想に反して、結局、どんなスキルを使おうと、スライムには効果がなかった。


重力も効かず、解析も効かず、頼みの操鉄術も効かない。


あの時、従順に付いてきたと思ったが、どうやらスキルのレベル不足、まだ支配が足らないようだ。


操鉄術を鍛えてこいつを操れば、その時ようやく、全てが俺のものになる。

ウエジはそう考えていた。


にしても、思う通りにいかない。

むしゃくしゃする。

座ったまま、右足で、オートマタの足を踏みつける。


クソが。


反応がないから面白くもない。クソがクソが。せめて泣き叫べば、面白みもあるだろうに。


次の街では、オートマタは隠しておいて、俺一人で殺ろうか。カバンに入れてまた取り出せなくなっても困る。

森にでも潜ませておこう。


ウエジのスキルは強力だが、一つ、制限があった。

元の所有者が死ぬと、スキルが失われるという制約が。


そのため、面倒臭いが、スキルを奪った相手を生かしておく必要がある。

スキルを奪った相手を生かしたまま閉じ込めるのに、氷棺と肉ダルマというスキルが役に立っている。


クロガネからくすねた無限収納は、ウエジにはうってつけのアイテムだった。


なぜなら、拉致したスキル保有者を発見することなく隠しておけるからだ。手足を奪い、氷で仮死状態にして、永遠に閉じ込めておけば。

永遠にスキルを使えるのだ。


それだけでもカバンの価値は高い。


忌々しいスライムのおかげで、中身は取り出せないにせよ、それだけでもカバンは有益だった。

ものを入れる分にはスライムは邪魔してこない。

低知能のくせに、忌々しい粘膜動物だ。


それにしても、このクソスライムをどうするか。

操鉄術をスキルアップしても操れない場合は、どうしてやろうか。


何をしても死なない。

厄介なスライムだった。


ウエジは火をみながら、そんなことを考えていた。

肉をかじる。暗い森の中。


全てが上手くいくわけではないことは知っているが、思っていたよりも、異世界は華々しさに欠ける。


異世界は、俺のものだとウエジは夢想していた。

遠くない未来に、誰もがウエジにひれ伏すと思っていた。


あながち、夢物語でもないと、ウエジは自己評価していた。


もうすぐ。俺の時代が来る。今でも、そうウエジは確信している。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


真っ赤な血がたっぷり溜まった風呂桶に、ムカデのような黒い虫が何匹も繋がっている。

赤い液は、魔族の血液と馴染む生理食塩水のようなもので、回復を早める効果がある。

水が赤いのは、人間の血を使った栄養分だから。


魔族の血は紫なのだが、それは魔素が濃い影響である。

そのため、顔が青白く、唇や目などが黒ずむ。


二つの風呂桶に、それぞれ一つの黒ずんだ紫色の顔。

1つの桶にはマグナが、隣の桶にはボーゲンが、顔だけを外に出して浮かんでいた。


「マグナがここまでやられるとは。女神の勇者は化け物だぼ」

知恵が足らないような喋り方で、液体に沈む部下を見下ろす第二の魔王。ブーゲ=ンビリア。


ここは、第二の魔王城の地下にある回復室。

ボーゲンは短期間で2回目の利用である。


普段の魔族なら笑い飛ばせるところだが、マグナまで負けたということで、誰も軽口が聞けない。


ブーゲが部下に関心を寄せることは少ない。

誰がどうなろうと、戦局には影響は薄いと考えている。

だが、マグナは別格。

単独戦力でマグナを倒せるものなど、魔王以外には存在しないと思っていた。


「何があったど。マグナが負けるとか、ありえないど」

ぶよぶよした体で、わがままを言うようにブーゲが身悶えする。


魔王の横には、頭に包帯を巻いたバーナビウス。巨漢二人が入ると、部屋は狭い。

「巨大な騎士が突然現れて、ボーゲンとマグナを斬った。想像を絶する手練れだ」


「そんなやつ聞いたことないど。誰ど。女神の勇者の仲間ど?」


「あんたが捕まえた女神に聞いたらどうだ?」

バーナビウスの口ぶりは横柄だが、魔王は気にすることもなく、

「ぐぶぶ。聞けたらそうするど。聞けないから困ってるど」


「閉じ込めてるんだろ? 拷問でも尋問でもしろよ」


「お前がやってみるど。来い」


ブーゲが部屋を出て、歩き出した。ブーゲが通った後には、ヘドロのような汚物がこびりついて、洗うのが大変だろうと思った。


もう慣れたが、匂いがひどい。

そんなわけで、誰もあまり近寄りたがらない。


バーナビウスも辟易していた。


ブーゲに促されて玉座の部屋まで戻ってきた。

「こっちど」


宝物庫? 

牢屋じゃないのか? 


バーナビウスは怪訝に思った。


宝物庫は玉座の間の横にある部屋。バーナビウスも入ったことはない。

重そうな金属の扉を開くと、そこには金銀財宝が積み上げられていた。

が、その真ん中に、ヘドロの塊があった。


「こ、れは?」バーナビウスが問うと、ブーゲはそのヘドロのような顔で困ったように言った。


「神の絶対領域だど。ほんと厄介ど」


反吐が出そうな光景だった。ヘドロが蠢いている。この下に女神がいるのだろうか。


「ほれ」

ブーゲが手を振ると、ヘドロの塊が地面に落ちた。


そこには、手を前にかざして、目と口を開いた女神。

の形をした黒い石像があった。


「なんだこれは、石像じゃねえか」


「いや。これが女神だど。

神は皆、絶対領域を持つんだど。

だから、オデのヘドロで、領域を侵食してるど。

表面が黒いのは、オデの侵食が効いてる証拠ど。

だども、まだまだ時間がかかるど。面倒だど」


力頼りのバーナビウスにしてみれば、馬鹿そうに見えて魔術に精通しているブーゲは理解不能だった。

しかも神を凌駕する水準の魔術の術式など、バーナビウスの脳筋では、その基本理論すら想像もできない。


そもそも、ブーゲは謎の多い男であった。

強いて言えば魔族かどうかも疑わしい。

腐った海藻のような外見、腐臭を漂わせる気迫、ぶよぶよに太った水死体のようなシルエット。

そして、魔導の真髄に精通した実力。


世界で類を見ない、汚濁魔法の使い手。


それが、第二の魔王ブーゲであった。


主従の関係に無礼も秩序もない。

命令され、反抗すれば殺されるだけの関係。

第二の魔王が支配する死の大陸でそれが唯一の法則だった。


「てか、女神はもう一人いたんじゃねえのか。これ、青い方だろ、赤い方は?」

バーナビウスが聞くと、ブーゲは忌々しそうな声で、

「呪いで力を奪い、閉じ込めているど。そちらには用はないど」

「んじゃ、こっちには用があるってか。神託は奪ったんだろう」


神託というのは、女神固有のスキルではなく、特殊な通信装置を用いて行われている。一見、ただの石板だが、それに文字を書けば、地上の石板に転写されれる。そしてそれを読むことができるのは、地上の神託のスキルを持つものだけだ。


ここのところ、物資のチェック回数を増やせとか、閑村に精鋭部隊を派遣しろなど、地味にコストのかかる神託を出している。

疑われていないうちに、致命的な命令を出して、人類に打撃を与える予定だ。


「ぶぶぶ。もうじきど。もうじき、おらが世界を手に入れるど。女神の精神を支配できれば、勝ったも同然だど」


助けなんか来ないど。


第二の魔王が女神の石像の耳元で囁く。


聞こえているのか、聞こえないのか。


女神は目を見開いた表情のまま、1点を見つめ続けるのだった。


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