第93話 『大陸横断鉄道』
「でけええ」
日本で散々、駅は見たが、ここまでデカい駅舎は見たことがない。なんだこれは。
「トレンの名建築、グレートトレンステーションですね。建築家のアルサルバドルが建てた稀代の名建築です」
なんと言うか。パルテノン神殿をさらに巨大にしてレンガの屋根をつけて、巨大なドームにしたような。なんと言えば良いかわからないレベルで荘厳だった。
「アルサルバドルの建築は、テーマが人の矮小さです。我々が増長しないよう、わざとスケールの大きなものを緻密な計算で建て、何よりその特徴が、これだけの構造物を支える魔法建築技術です」
さすが田中。説明がすっきりしている。
「さあ、見とれている場合ではないですよ、行きましょう」
田中はそう言いつつ、鼻息が荒かった。誰より興奮しているのは田中だろう。
結局、昨日はチケットが取れず、ホテルに一泊。
朝一番の列車に乗ることになった。
田中がチケットを買いに行ったので、俺は朝に駅舎を見て大変驚いた。
ちなみに、グリフィンでの移動だが、一応試してみた。
巨漢スケルトが加わり、さすがに4人は乗れないだろうと思ったが、何事も試してみる必要はある。
寝る前、夜半にグリフィンを呼び出して乗り込んだ。
背中が窮屈な上に、案の定飛び上がれなかった。重量オーバーでした。
ってわけで、予定通り鉄道の旅。
「うほ。D98型魔導列車! 24連魔導シリンダー。魔力コンバーターと蓄魔法電池のフォルムが、芸術とまで言われる。素晴らしい」
すっごい早口で田中が言った。そして取り出した使い捨てカメラで撮影をしている。
カメラ・・・こんなものも取り寄せられるのか。
「で、これに乗るのか?」
目の前に、黒く光る機関車のような列車があった。
機関車と大きく違うのは、先端は新幹線に近い流線型。そこからいく筋もパイプが出ている。そして、赤いラインが縦横に走っている。なんと言うか、確かに、カッコイイ。
「時速450キロでるんですよ。この列車。やばくないですか」
新幹線より早い? まじかよ。
「チケット買ってきたわよ。さあ、乗りましょう」
黒い外観だが、中は赤い絨毯が轢かれて、高級ホテルのような雰囲気だった。
「大陸を7日かけて横断します。最高時速はあまり出さないので、平均200キロくらいでの走行と聞きます。
途中、大きな街では数時間の滞在を繰り返し、終点のシルバリアへ向かいます。ちなみに、トレンは終点ではなく、東側3番目の駅です。東側の終点は、シーワルドの首都ワニエンですね」
まあ、余談だが、聞いていて楽しい情報だ。田中くん、物知り。
「で、目的の魔法学園都市パンマギオンまでは、およそ2日半の旅です。パンマギオンは大陸横断鉄道のほぼ中間地点です。列車の中で特にトラブルはないとは思いますが・・・クロガネさんの奇運がありますからね。何も無いことを祈りましょう」
ニャア。猫が鳴いた。
「結局、その猫、連れて行くんですか?」
田中が聞いた。
「いや、勝手についてくるんだよ」
「ねこっていうのも何ですから、名前つけたらどうですか?」
「名前つけたら、愛着沸くじゃん」
というと、田中がそうですねえと同意した。
「でも、まあ、名前ないと不便でしょ」
「じゃあ、赤い髪の黒猫だから。クロア。でもそれだとクロちゃんとかぶるか。ならアクロ。よし、こいつの名前はアクロで決定」
猫はあくびをして、にゃああと言った。
「動物連れても良いのか、この列車」
「あ、その辺は地球とは大違いですよ。ペットと獣人とテイムモンスターの境界線が曖昧なので。自己責任ですね。なんか有ったら」
その時、
「おらあ、さっさと歩けええ。ボサボサすんなあ。荷物忘れんなよ! 殺すぞお」
と、粗野な声が聞こえた。
見れば窓の外、ホームで鞭を持ったサーカスの団長のような男が、3人くらいのボロ切れをきた男たちに怒鳴りつけている。
「なんだあれは」
俺が聞くと田中が「奴隷商ですね」と険しい顔で言った。
「奴隷商? そんなものが存在するのか?」
「ええ、この大陸でもまだ少数の国は奴隷を認めています。しかも奴隷の多くはスキルレス。安くで取引されあのように扱いも乱暴です」
「ってことは、このトレンでも?」
「トレンは商業都市ですから、ああしたものや、麻薬なども扱われるのです。大きな街の宿命ですね」
「おらあ、お前ら、サボるな!」
巨大な荷物を運ばされている。
魔法があれば、荷物など軽々運べるのではないか。
ましてや無限収納と言わずとも収納風呂敷があれば、そもそも重たい荷物を運ぶ必要がない。
「人をなんだと思ってやがる! 俺がちょっと」
「ま、待ってください。目的を忘れないでクロガネさん! この世界では普通のことです。トラブルは避けましょう」
田中が必死で俺を止めようとする。短い付き合いだが、俺の考えていることがわかるんだね。
大きく深呼吸する。あの奴隷たちには悪いが、耐えてもらおう。いつの日か、奴隷を解放できように、力をつけよう。
そう誓う。
この世界の住人であるレイアは、俺の憤慨を不思議そうな顔で見ている。
スケルトは、なんとも言えない顔をしていた。
穏やかな表情を作っているが、少し殺気が漏れている。
憎しみと殺意を隠そうとするような顔だと感じた。
一旦忘れよう。目を瞑る。
「さあ、乗りましょうか」
列車に乗り込む。俺たちが席に着きしばらくすると、列車は動き出した。




