第92話 『ぽっくんお悩み相談所』
年寄りの話は長い。
いや、マジで長い。
聞いた俺も悪いが・・・。
話の中で、大事なところは、記憶の最奥へ挑んだ、という事実だ。他は正直どうでも良い。特に嫁が13人のくだりは。
「じいさん、記憶の最奥へ行ったのか。俺もそこへ行くつもりだ」
「ほう、あそこは生半可な力量では生きては戻れん地獄じゃ。わしの長い経験でも最初にして最悪のダンジョンじゃったわい。どうじゃ、わしも話したんじゃから、お前さんの話も聞かせてはくれんかのう」
柔和な笑顔で諭すように言う。天性の人たらしなんだろうか。
左右の護衛も、心酔しているように見える。魅了の力かそれとも魅了を超えた人徳だろうか。
「警戒するのは尤もじゃし、生き抜くためには必要なスキルじゃ。だからこう言おう。
ゴンゲンとは長い付き合いじゃから、お前さんの話は聞いた。女神の勇者、クロガネよ」
左右の護衛が驚いた顔をしている。さすが、年の功。人を見る目はあるのか。
異世界人で逃亡中、訳ありとなれば、自ずと身分は知れるか。冒険者ギルドの関係者ともなれば、まあ、ありえないことではない。
俺は目を細めた。
「じいさん、人が悪いな。最初から知ってたんだろう。猫でおびき寄せたか」
「何度も言うておろうに、猫は知らん。
ギルドの長にはそれぞれ通達が入っておる。オリハルコン売買の資金提供もした。
しかし、神聖教と敵対するわけにはいかん故、極秘事項として、お主のサポートをするよう、各地には連絡されておる。だが良いことばかりではない。もうすでに各国の政府はお主の存在に気づいておる。
幸い積極的に動いているのは、ガードナーと神聖教国のみ。
他は、それどころではないと手付かずじゃ」
「どこまで事情を聞いている?」
「魔族に襲われマインに逃げ込んだ、と聞いた。リューシーに守られ、最近発ったというとこまでじゃな」
そこまで知っているなら、話は早い。
「その後、神聖教の巫女と出会い、諮問官に捕まりかけた。それでここに逃げてきた。そんな訳だ。じいさん、通報したりしたら許さんからな。裏切るなよ」
「で、記憶の最奥へは? 神託か?」
「そこらへんは、企業秘密だ。記憶の最奥へ挑戦するには必要なものとかはあるのか、いろいろ教えて欲しい」
俺が食い気味に言うと、じいさんはホッホと笑って、
「なんなら手伝ってやらんでもないが・・・どうじゃ、わしの道場へ来んか」
と誘ってきた。
「ありがたい話だが、その前にどうしてもやることがある」
じいさんは頷き、
「ウエジの件じゃな。昨日、被害があったらしいぞ」
「何!?」
俺は思わず立ち上がった。
「落ち着け。グウシンと言うガードナーの西の海沿いの街で、オートマタが強盗に入ったと言うことじゃ。犯人はクロガネを名乗り、現在も逃走中。幸い、死者は出ておらん」
「くそ、あのやろう」
今すぐ向かって懲らしめてやる。
立ち去ろうとする俺にじいさんは言った。
「行っても無駄じゃ、逃げた後。それに今向かっても返り討ちにあうじゃろう。お前さんのスキルを奪った相手じゃろう。勝てる見込みはあるのか? わしのさっきの話を聞いてどう思った。足りないならば足せば良い。人は己のみで生きるにあらず。そうじゃ、仲間を集めよ」
「・・・そう言うの苦手」
つい口に出してしまった。
まかりなりにも社長として社員を養っていた。
社長として一番良くないのは、なんでも自分でやること。
良く言われたよ。
だが、社長が背中を見せないのも問題がある。
見せすぎてもダメ。
うちの社員は殆どが親父の時代からの社員だ。
俺が雇ったのは1人だけ。
それも人が抜けて仕方なくだ。
正直に言おう、俺は人を集めるのが苦手だ。
「なら、こいつを連れてゆけ。スケルト。仇討ちに加勢せい。これは命令である。よいな」
右手の大男が「ハッ」と短く言った。やっぱ女を自分の手元に残してるじゃねえか。確信犯だろう。
「なんじゃの、その目は。ホッホ」
「いや、突然、連れて行けとか、お前も、ハッとか言って良いのかよ。長旅になるぜ」
「お屋形様のお言葉は絶対。某に是非はない」
「スケルトはスキル無効のスキルを持つ稀有な人材。自身の特性を理解し、儂の訓練にも長年耐えた実力者じゃ。対人の経験も豊富。お前さんの力に必ずや、なってくれるじゃろう」
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大男を連れてホテルへ戻ると、レイアが怒った顔で出迎えてくれた。
「あれだけ外に出るなと言われて、どこに言ってたのよ!」
そう言った後、俺の後ろの大男に目をやり、「その人誰?」と言った。
ニャア。
足元で黒猫が鳴いた。
「ねこ!? この時間で一体何があったのよ!」
猫まで付いてきた。
鰹節を見せて、いやあ、カクカクシカジカで。云々カンヌン。これまでの経緯を説明すると、レイアは呆れたような顔をした。
「クロガネさん、もってますねえ」
と、話を聞いていた田中が言った。
田中。地味なので居ることに気づかなかった。ごめんね。
「なんか、なんと言うか、プライドの高そうなネコね」
黒猫を見てレイアが言った。ネコがツンとして首を後ろに向けた。話が理解できているとしか思えない。
「まあ、ネコは、勝手についてきただけだが、この人はスケルト。強いらしい。護衛と思って仲良くしてくれ」
「スケルト=キサーサだ。職業はヘビーナイト。ポオ様に命ぜられ、こいつを助けることになった。しばらくの間、助力をつかまつる」
どうも時代劇くさい。
2メートルの巨体。黒い畳が歩いているようなシルエット。鬼瓦のようないかつい顔。黒い兜。黒い鎧。
場所をとって仕方がない巨体。部屋が途端に狭くなるほどの圧迫感。
「ポオってのは、ぽっくんのことか」俺が確認する。
「お屋形様は名を知られすぎている。故に、ポオ=マヌージと言うこちらのお名前をお持ちだ。以後、ポオ様と呼べ」
顔が怖い。
「ほんと心酔してるな。あのじいさんのどこにそんな魅力があるんだか」
「お屋形様に無礼な口を聞くと、ただではおかんぞ。無駄話はさておき、今後はどうするのだ?」
「なんか情報あったか? タナくん」
「ええ、流石に教会に行って聞くわけにも行かないので、商店を通じて情報屋を探して、色々聞いてきましたよ。まず、諮問官の一行ですが、トレンの方に向かって移動しているようです。到着を待ちウイユベールを奪還しても良いですが、順序的には、占い、ウイユ、ヤマモト、記憶の最奥というのが正規ルートですね。
諮問官を出し抜くには、なんらかの対策を考える必要があります。占い婆さんにそれも聞いてはどうですかね」
どうも占い頼りってのが、気に食わない。
異世界占いは絶対に当たるらしいから、確かに正解かもしれないが、なんというか胡散臭い。
「今すぐグリフィンで向かおう」
俺が言うと、田中はスケルトを見て、
「この人も行くんですよね・・・多分、重量オーバーですよ」と言った。
スケルトを見る。二メートル近い背丈。フルプレートの鎧。
下手すれば体重が大人3人分くらいありそうだ・・・。
「なら、今夜にでも列車に乗り、魔法都市を目指そう。こちらのオヤカタさんが言うには、昨日ヤマモト、いやウエジの被害が出たらしい。グウシンという街だそうだ。放っておけば、俺の名を騙って、さらに被害を広げるだろう」
「ええ、急ぎましょう」
「そうですね。急ぎましょう」
「その前に、レイアの方は、新情報は? 何か聞けたか?」
「ええ、その話は確認してきたわ。ギルドの施設を借りてゴンゲンさんと通信できたのよ。
まず、ガードナーの侵略だけど、一旦は収まったようよ。
海の反対側に抜ける海底トンネルがあったんだって。そこまでなんとか押し返したけど、トンネルを掘る方法なら、どこから現れても不思議じゃないわ。
今は、そのトンネルを逆手にとって、海底トンネルに海水を送る作戦が進行中なんだって。
まあ、それをしたところで、相手はゾンビとレイスの群れだろうし、相手に打撃を与えられるかは、微妙なところね。
あとはクロガネくんが聞いた通り。
ウエジらしい人物がグウシンの街で強盗を行ったということ。ナイトメアちゃんも可愛そうね。悪事に使われて。もし捕まったら、最悪、廃棄処分もあり得るわね。残念だけど」
いや、俺がそんなことはさせない。今回の原因を追求し、2度と悪用されないように対処する。それが俺の責任の取り方だ。
「ウエジの行方については、どうだ? 追加情報は?」
「そうね、さらに西に逃げたらしいわ。ハウンドウルフ隊が行方を追ってるって。帝国に逃げるかもって、ゴンゲンさんが言ってた」
「帝国はまずいですね。そりゃ。それまでに止めないと」
田中が言う。
「帝国がなぜまずい? 何がある?」
俺だけ事情が分かっていない。帝国は戦争をしたいような話があった気がするが。
「帝国に逃げられると、追うこともできないですし、あそこは実力主義なので、もしかしたら地位を確保して、こちらと敵対する虞もあります。なんにせよ、厄介になります」
「一刻も早く止める必要があるな。もっと言えば、ナイトメアを隠して潜行されれば、発見も困難になる」
あいつは顔も名前もステータスすら変えられる。
「急がねば」
と、慌ててホテルを飛び出したものの。
その後、田中が急いでチケットを買いに行ったが、売り切れでした。
仕方なくホテルに泊まり、朝一の列車に乗ることになった。
気は焦るが、仕方ない。そう気持ちを切り替えて、ぐっすり寝た。




