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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第三部 クロガネ、鉄を打つ
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第90話 『黒猫に誘われ』

晴天。

ホテルの窓から通りを見下ろす。

外では、楽しそうなバザール。

色とりどりの布、フルーツ山盛りの籠、食材が並ぶ屋台。珍しそうな珍品奇品が並ぶ雑貨屋。


「あああ、暇だわ。俺も出かけたい」

つい独り言を呟いてしまう。


と、その時、窓べりに黒い影!


「うお」

思わず、情けない声を上げてしまった。

が、よくみると。


窓の鉄柵の上に、バランスを保ち、優雅なポーズで俺を見る。


黒い猫だった。


背中を逆立てて、こちらを威嚇する猫。

頭の上に赤い毛がある。

珍しい彩のネコ。


さらに、よく見れば赤い目をしていた。


――黒い毛の赤い目を大切にするのじゃああああ――


心の中で声がした。


次の瞬間、猫が飛びかかってきた。俺の胸へ爪を立てる!

攻撃された、と思ったら、猫はさっと飛びのき、口に何かを咥えてこちらを見ていた。


あれは。

1千万の鰹節・・・。


おい、風呂敷収納にしまっていたはずなのに、どうやって盗んだ!?


猫がくるりと身を翻し、窓から逃げる。

向かいの窓から、鰹節を咥えて、挑発的な目で俺を見た。


「てめえ、この泥棒猫!」


あいつは絶対に俺をバカにしている。赤い目がそう言っていた。


こちとら、身体強化はレベル4だ、馬鹿野郎。


窓から飛び出し、向かいのビルの窓に飛ぶ。


あ、ここ7階だった。


窓の鉄格子に手をかける。猫は、ビル外壁の段を器用に渡り、隣の建物の屋根に乗った。

逃げていく。


待てこら。


普通、待てと言われて待つバカはいないが。その猫は、時折、こちらを振り向いて、まるでどこかへ俺を誘っているような仕草も見せる。気のせいだとは思うが。


屋根を飛んで逃げる猫。それを追う俺。


戸締りしてないけど、関係ないぜ。もう知らん。まずはこのバカ猫を懲らしめる。


非常階段を下り、路地裏に逃げる猫。ゴミの山を軽々乗り越え、塀を越え、柵を越えて、身軽に逃げていく。

何十もの屋根を超え、塀を乗り越えていく。黒い尻尾を揺らしながら、誘うような仕草。


くそ、すばしっこい猫め。


広場に逃げる猫。人混みをスルスルと抜けて逃げていく。


ようし、もうすぐだ。追いついた!


と、思った瞬間、さっと人影に隠れて、止まった。


そして、その人物に寄り添い、体を擦りつけた。

フードを被った老人だ。


「貴様、何の狼藉。お屋形様を狙う刺客か」


フルプレートのアーマーを着た大男が、老人を庇うように剣を構えた。


人混みが、何事かとこちらを取り巻く。


老人の左から、赤いルビーをはめた杖を持った美人の女が、老人を庇うように大男に並んだ。


「これは! お二人とも、おやめなさい。この猫を追ってきたのでしょう」


いつの間にやら、猫を抱いて老人がにこやかに言った。


「この猫が咥えているのは・・・なんと! そういうことですか。少しお話ししましょう。

旅の方。

よろしいですね、スケルト、カクーン」


大男と美人は「ハッ」と言って構えを解いた。


「助かったぜ、じいさん。その猫が俺の大事なものを盗んで困ってたんだ。捕まえてくれてありがとうな」


「まあ、こんなところで立ち話も何ですので、そこのレストランででも、お話ししませんか」

と、高そうな店を指差した。


「その前に、その猫を返してもらおう。・・・いや、猫はどうでも良い、俺のカツオブシだけ返せ」


「ホッホ。慌てなくても、この猫も連れて行きましょうぞ」


じいさんは、笑顔で歩き始めた。仕方なく雰囲気に飲まれ、俺もついていく。


「なあ、あんた有名人なのか。お屋形様って」


「ホッホっほ」


騒動が収まって人々も散っていった。じいさんに並んで店に入る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


店員が頭を下げて、慣れたような風で部屋に通された。個室である。店員も手に布をかけて清潔な印象。

やっぱり高そうな店だ。


部屋に入ると、席を促された。

全員座る。


注文も特になく、店員に目配せして部屋には4人だけとなった。

円形のテーブルの反対側に猫を撫でるじいさん。右に大男。左に美女。


左右から警戒が伝わる。

正面のじいさんは終始笑顔で、微笑んでいる。


「改めて礼を言う。猫を捕まえてくれてありがとう。てか、あんたの猫ってことはないよな」

「ホッホ。猫が結んだ縁か。アリスはウサギじゃったかな。一つ聞きたいんじゃが。 ドラゴンフォールの最終巻は出たのか?」

「アリスって、不思議の国か? ドラゴンフォール? 俺は読んだことはないが、あの漫画の? ? って、じいさん、あんたまさか」

地球の、日本の話を知っているこいつ。白髪で、わからなかったが・・・。


「ホッホ。どうやら同郷の後輩くんらしいのお。初めまして。わしゃ沼尻保雄。

昔からあだ名はぽっくん。

小学校の時にポオってあだ名を付けられてな。

それからぽっ君じゃ」


ぽっくん・・・。どこかで聞いた。覚えているぞ。


異世界勇者・・・有名なところで・・・

色ボケ勇者ぽっくん!


「あんた、有名な、色ボケ勇者・・・外れ勇者か」


左右の男女が立ち上がり、武器に手を掛ける。

「貴様! ゆるさん!!!」


じじいが制する。

「ホッホ。座りなさい。昔の呼び名ですよ。今は、こうして隠居の身。

時折戦術指南などしとりますわい」


え? ナニコレ、事態が理解できないんだけども。

俺は呆然と座ったまま。一体、何が起こっているのか。


「鰹節じゃろ、これ。それをお主は鰹節と言った。これをどこで?」


「え? トキミっていう婆さんに売りつけられて・・・それで、ああ。まさかこの事を見越して?」


「なるほどのお。トキミさんにはワシも随分助けられた。なるほどなるほど。だが、これだけでは事情は何とも分からんなあ」


ニャア。猫が鳴いた。


「なんか言うとるぞ。この猫はお主のか? ちなみにワシの猫ではないぞ」


猫は、こいつに会わせるために逃げたのか? それとも、ただの偶然か?


「見た所、お主は最近、異世界こちらに来たばかりのようじゃなあ。この儂に何があったか話してみんか?」


色ボケ勇者といえば、残念な勇者と聞いたが。

頼れるのか?


「あんたのことを知らないし、信用もできない」


失礼にならないように、端的に言った。


左右の二人がまた立ち上がり、

「貴様、お屋形様にその口の聞き方は!」

と激昂したが、またじいさんがいさめた。


「お主ら。次、勇んだら、表に放り出すぞ。静かにせえ。その若者の言う通りじゃ。不躾じゃったのお。せめてお主の名前くらいは聞かせてくれんか」


偽名にするか。本名にするか。


「テツオだ。クロガネテツオ」


じいさんの目が光った。

「ふむ。事情は理解した」


そのタイミングで、ガチャンと扉が開いて、料理が運ばれてきた。

給仕が、ワゴンにお盆を乗せている。お盆を、じじいが受け取る。そして、俺に見せてきた。


「日本人ならこれじゃろう」


じいさんが嬉しそうに言う。店員が運んできたのは。


俺の前にもお盆が置かれる。その上には・・・見覚えのあるものが並ぶ。


生卵。ご飯。そしてお椀。切られた野菜。これは・・・。


TKGと味噌汁と漬物。

重要なことなのでもう一度言う。


卵がけご飯と豆腐の味噌汁ときゅうりのぬか漬け。


異世界とは思えぬ再現度・・・。卵がご飯の上にかかっている。黄身がかなり赤い。醤油が添えられている。

豆腐はやや黄色い。きゅうりはきゅうりではないが、瓜には違いない。


「ホッホ。気に入ってくれたかのお」


気がつけば、俺は皿を平らげていた。無我夢中で、むさぼりついていた。


「お屋形様のあのゲテモノをこんなに食べるなんて・・・。やはり異世界人は・・・」

左の美人が呆れたように見つめている。


左右の女と大男は、パンとシチューだった。向かいのじいさんは俺と同じ卵がけ定食。


「うまい。醤油も完全に醤油だ。やはり海の塩にダシが効いているのか。下手すればこっちの方が美味い。この卵は何の卵だ? 鶏がいるのか?」


「その卵は、ヌーヌー鳥の卵じゃ。こっちの奴らもほとんど生卵は食わんからな。醤油も豆を探して醸造した。ちなみにこの店のオーナーは儂じゃ」


「オーナー。あんた金持ちなんだな。俺のことより、あんたの話を聞かせてくれよ。色ボケって、一体、何したんだ?」


「ホッホ。昔の話よ。ところで、お主、何年生まれじゃ?」

「俺? 1983年だ」

「儂は、1971年じゃ。互いに亥じゃな。猪突猛進」


ちょっと待て。目の前のじいさんは、80くらいに見える。


「おい、10しか違わないって、どう言う・・・。あんたまさか・・・すごい老け顔なのか!?」


じいさんがずっこける。


「んなわけなかろう。それよりお前さんが1983年生まれっていうのはなんじゃ、若すぎないか? 何年から飛んできた?」


「2019」


「なんと。儂は、1991年。こっちに飛んできたのは、今から70年前じゃ。今年で88歳になる」


時間がずれているのか。その事に、意味はあるのだろうか。


「ただ、俺は若返らせてもらった。飛んだ時は39歳だ」


「確かに39には見えんのお」

じいさんがヒゲをさすりながら感慨深く言った。


「地球とエ・ルガイアの時間軸がどうもずれておるようじゃな。江戸時代から呼ばれた人もおった。だが、どうも1980年から2050年の間が多いという研究結果がある。理由はテレビの普及。これは儂の研究ではないぞ、山田博士の研究論文を読んだのじゃ」


そういえば、ドクター山田とか、田中が異世界に来た時に読んだパンフレットにそんな名前が書いてあったと言っていたな。


「その山田って博士はまだ生きてるのか?」


「いや、残念ながら10年ほど前に亡くなられれた。多くの成果を残された偉大な人じゃったよ。生涯を異世界と地球の関連研究に費やして、魔術やスキルなどの多くの考察を残した。興味があれば、研究所を訪ねてみるが良かろう」


そう言って研究所の場所を教えてくれた。魔法学園都市にあるらしい。


「それよりじいさん、あんたの話だ」

「あ、そうじゃったな。儂の話を聞きたいと言っておったのお。若さとは後悔。異世界からやってきた儂は、浮かれておったのよ」


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