第86話 『神眼の力』
スキルが奪われたと知り、絶望の表情を浮かべたウイユベールだったが、その後、気を取直し、スキルを一度鑑定すると言ってくれた。
マインのギルド長、リューシー=リンから言われた言葉。異様な成長に関して神眼で確認してもらえ、というアドバイス。
今、それが実現しようとしていた。
「ちょっと見ますね」と言い、目を見開くウイユベール。
ベールをおでこまで上げ、水色だった目が、白く光る。
おお、なんか凄い。
「これは。いくつスキルを持って・・・いや、一番は、これですね。
えーっとメモ、メモ」
斜めにかけたカバンから、メモ帳を取り出し、書き始める。
しばらくして、その紙を渡してきた。
名前鑑定 Lv3
身体強化 Lv4
MP UP Lv8
超回復 Lv1
隠密 Lv2
気配察知 Lv2
盾術 Lv1
錬成 Lv 12
融合 Lv2
夜目 Lv1
遠目 Lv1
剣術 Lv1(NEW)
テイム Lv1(NEW)
―――――
睡眠耐性 Lv 6(装備+3)
麻痺耐性 Lv 4(装備+3)
誘惑耐性 Lv 4(装備+3)
即死耐性 Lv 12(装備+3)
変身耐性 Lv 3(装備+3)
(中略 耐性がずらりと並ぶ)
・
・
・
スキル封印耐性 Lv 6(装備+3)
オリジナル 操鉄術 (---封印中)
異世界翻訳 Lv—
不滅の魂 Lv—
先付 Lv—
経験値10倍 Lv—
バトルセンス Lv—
奇運 Lv—
トータルエクリプス Lv—
賢者タイム Lv—
女神オリビエの加護 Lv—
手渡されたメモには、見たことも無いスキルが山盛りだった。
えーっと、どこから突っ込めば良いのか。
「これは、なんぞ?」
俺が聞くと、ウイユベールは、何度も頷き、
「勇者様の真なるスキルです。レベル表示があるのが、一般スキル。レベル表示がないものは、魂に紐づく、根元スキルと言われるものです。ほとんどの人は根元スキルを持ちません。さらに勇者様がお持ちの根元スキルは、私も初めて見るものばかりです。特にこの、不滅の魂というスキルが、重要では無いかと」
と、興奮気味にまくし立てる。
「待て待て。俺にはこんなにスキルはないぞ!?」
と否定する。知識の書には何も書いてなかった。
「神眼のみが見えるスキルがございます。魂に深く結びついた根源スキルと呼ばれるものは、他のいかなる鑑定でも見えません」
知識の書は意図的にスキルを見せなかったのか、神眼ほどの鑑定力を持たなかったのか。
「そうか、それなら、聞きたい。それぞれのスキルの詳細はその神眼で見えるのか。どんなスキルか、教えて欲しい」
「はい、見えます。確認していきますね」
ウイユベールが右目を手で抑え、目を凝らすようにする。
「まず、何が知りたいですか?」
「操鉄術が封印中とあるが、奪われたんじゃないのか?」
神眼の少女は首を振る。
「オリジナルスキルは奪うことはできません。おそらくスキルを奪うのではなく、コピーと封印を同時に行うスキルではないでしょうか」
そういうことか。となれば、取り返すことができる可能性が高い。希望が出てきた。
他には・・・。
「じゃあ、上から異世界翻訳」
「異世界の言葉を全て翻訳するスキル。文字も言葉も自動で翻訳する。違和感はない。ほぼ唯一の弊害として、読める言葉と読めない言葉の境界もなくなるため、判別がつかなくなる」
このおかげで言葉が全てわかるんだな。ナミートの街で、レストランに行った時も、問題なく全て読めた。店名も本来の名前がわからず翻訳された。固有名詞は固有名詞として訳されるが、もしかしたら、人の名前も翻訳されているのもあるかもしれない。
「次は、問題の・・・不滅の魂」
「不滅の魂。魂を変質させる攻撃や状態変化を全て防ぐスキル。たとえ記憶が改ざんされようとも、心の奥底で疑念を感じ、違和感を覚える。即死や堕天などの攻撃に絶対的なレジストを持つ。なるほど。」
ウイユベールが一人納得した。
「何が、なるほどだ。何がどうした?」
「ええ、これが記憶の深奥に関連いたします。記憶の深奥は、神々の書庫とも呼ばれ、膨大な知識量と精神干渉により、一定以上進むためには対策が必要です。特に魂を歪めるような防衛機能があるとされています。それをこのスキルなら防げるかもしれません」
レイアが驚いたように言う。
「ちょっと待ってください。クロガネさんは、状態異常の耐性が著しく低く、特訓してもまだまだ不安が残るのです。状態異常の最高位、即死系、魂縛系の攻撃に耐えられるとは思いません」
ウイユベールは首を振り、
「そう申されても魂に関する状態異常はほぼ無効になるはずです。睡眠や麻痺への抵抗がなくとも、それは事実です。鑑定の結果、クロガネさんの魂は不滅です」
当然のようにウイユベールが言う。
「その話は後にしよう。他は?」
「先付? ですね。これは、経験値を戦闘中に得られるスキルですね。経験値10倍は得られる経験値が10倍になります。バトルセンスは、戦闘系のスキルを習得しやすくなるスキルですね」
先付け。麻雀用語かな。
マインのギルド長、リューシー=リンが言った異常な成長の正体はこのスキルか・・・。
戦闘の途中で、剣術が上昇したと、彼女は言った。
マッドドラゴンや、エレキクラーケンから経験値を得ることができたのは、このスキルのおかげ・・・。
さらに、経験値10倍で、早く経験が溜まるようになっていた。
このおかげで、地獄のようなサバイバルを生き延びたのか。
改めてスキルを与えてくれた女神に感謝を覚える。てか、あの残念女神が根元スキルも与えてくれたのかどうかは、不明ではある。
ウイユが説明を続ける。
「続いて、奇運は、強大な敵や宝物を発見しやすくなるスキルですね、こちら損得は選べないようなので一概に良いスキルとは言えませんが」
奇運。思い当たる節がめちゃくちゃある。
熊にドラゴンにヘカトンケイルに魚にクラーケンに海神に・・・。
クロちゃんにピノコにオートマタに。
なんと言うか、イベント目白押しだったのはこのスキルのせいではないのか。
「あとは、トータルエクリプスですね。これは・・・死にかけるとスキルのレベルが倍になるようです・・・皆既日食という意味だそうです・・・なんというかさすが女神の勇者様というか・・・根源スキルの数が尋常ではありません」
と、汗を流しながら言った。
「えっと、次の・・・賢者タイム・・・」
ウイユベールはポッと顔を赤くして、
「ムラムラしなくなるそうです」
と小さい声で言った。
・・・どうりでムラムラしないと思った!
レイアとかティアナみたいな美女とずっと一緒にいたが、全く何の欲求も出ないってのも不自然なことだ。
若い体をもらったのに全く性欲がなかったことは、まあ、確かに不思議といえば不思議だった。
言われてみると当てはまる。
「そして、最後に女神様のご加護。
これは特に効果はないですね。『見守ってますよ』と書いてあります」
女神ぃいいいい !!!
残念すぎるだろ、女神。
そこまで静かに聞いていた田中の肩が震えている。
田中が目を血走らせて、鼻息荒く、俺の肩を掴んだ。
何だ? やんのか?
「チートですやん。これ、まじチートですやん。無双ですやん」
と、意味不明のことを言ってきた。
これだからゲーム脳は・・・。
「どうですか。心当たりがあるようなお顔ですね」ウイユが首を傾げて聞いてくる。
まあな。奇運やら、成長10倍やら。
女神は確かにスキルをくれていたようだ。
それとも転生する元から持っていたのだろうか。
「・・・それにしても突然すぎるな。ちょっとレイアと二人にしてくれ。ちょっと状況を整理したい」
「出会えたのも女神様の思し召しです。私たちもこの宿におりますので、お呼びください。では、今日は退出いたします。くれぐれも私たちを置いて出たりしないでくださいね」
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「どう思う?」
二人きりになった部屋でレイアに問いかける。
「・・・偶然とは言え、事情が知れたのは僥倖だと思います。ただ突然すぎて・・・」
俺も同じ感想だ。突然すぎる話ではあるが、総合的に判断するに、ウイユベールの話は信憑性は高い。
声をかけたのもこちらからだし。それすらも罠という可能性はあるが、疑い出せばきりがない。
ふと思い出す。
トキミの婆さんの占い。確か、こんなことを言った。
全てを失うが、新たなる出会いがあるだろう、と。
このことか。
もし、俺がモーゼルと抜け出し、水都へ向かっていたら・・・。ここで、田中とウイユ、二人には出会えなかった。
全てを失ってでも、言い方は悪いが、モーゼルという戦力を欠いてでも。
この二人に会うことが、運命的な正解なのだとしたら・・・。
俺の思考を遮り、レイアが言う。
「彼女の話を信じても良いのではないでしょうか。あの手紙にはなんと書いてあったのですか」
「ん? 読んだんじゃないのか?」
「逆にあれが読めるんですか?」
「?」
あの丸文字?
日本語とか? これが異世界翻訳の弊害だろうか。本来の文字がどんな形なのか、それが判別できない。
「神聖文字ですよね、あれ。読めるのは、神聖教の高位司祭と学者だけと聞きますよ」
あ、そうなんだ、そうだっけ。
となると、女神からの手紙というのはより信ぴょう性を増す。
「あの娘が言っていた記憶の最奥ってのは有名な場所なのか?」
「最難関ダンジョンの一つですね。古代文明の遺構だと言われています」
「攻略者は?」
「ゼロです」
なぜ、そんなところに俺が行く必要がある? ヤマモトタツヤのせいで、かなり疑心暗鬼になっている俺。
「その遺跡の前に、タツヤを見つけ出して奪われたものを取り戻した方が良いな。その話をしてみるか」
突然すぎて驚いたが、事態は急転直下を迎えた。
状況は知れたし、新しい目標ができた。
だが、世の中そんなに良いことばかりじゃあない。
おじさんには分かるんだよ。
「包囲されてるな。大量だ」
俺の気配察知が告げていた。




