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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第三部 クロガネ、鉄を打つ
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第77話 鉱山都市マイン

波乱の第三部 スタートでございまする。

連綿と続く岩肌の山々。その山の坂に沿って茶色の壁の建物が並び、煙突からは黒い煙が空へと立ち上る。山間をうねるように這う鉱山都市マインの道は、行き交う人々で活気に満ちていた。

匂いは、焦げた匂いと、鉄の燃える油。

空は晴天だが、黒煙で煙っている。


マインの門を潜ると、髭モジャのドワーフ達が、忙しそうに行き交っていた。

ドワーフは誰も同じように見える。服と髪型が違うので、かろうじて見分けられる。


街には獣人も多く、犬のような顔の精悍な戦士や、象の獣人や、ハリネズミの獣人など、大きさも姿も様々な人種が入り混じっていた。

鉱山と鍛治の街であるマインには、優良な武器を求めて旅してくる冒険者も多い。上質の武器を求めて、さらには付与魔術師、錬金術師も集まり、一大工業都市として発展していた。


マインは、鍛治ギルドが統治しており、王制でも議会制でも、民主主義でもない。

鍛治ギルドが鍛治しやすいように政治を取り仕切り、それに不満のない人間が集まる。

山地であるここは天然の要塞のような立地。

街の周囲に石造りの塀があるくらいで、防衛としては何も行っていない。

いざとなれば武器を求めて集まってくる冒険者に依頼することで戦力は確保できる。周辺国家とも親密。

魔族もおいそれと狙えるような、隙はない。


付け加えれば、自衛のための軍は持たないが、実のところこの街の武器屋、鍛冶屋は皆、屈強だ。

武器を知り尽くし、四六時中、敵を屠ることを考える武器士は、その職業特性上、いつの間にか歴戦の司令官のような視点を手に入れる。

良い鍛治士とは、そういう側面も持つ。

如何にして殺すかを四六時中考え、効率よく敵を殺す戦法を編み出し、仲間を守る防衛陣形を夢想する。

それが軍人と同じような思考を育むのだ。

多くの武器職人達は、素材がないとなれば、自分でモンスターを狩り採取する。

槌は重く、武器を棚に並べるだけで重労働。

ドワーフは力が強く、土魔法に秀でる。そんな連中が大挙して住むこの街を狙うものは少ない。


街のすぐ裏は、千年近く続く鉱山で、古くは金やアダマンタイトが取れた。最近では、採掘量は減ったが、いまだに鉄やミスリル銀が豊富に採取される。

マインは元々、この鉱山の名前であった。


ミスリルマイン。

それがこの街の由来だ。マインは、もちろん坑道の意味だが、異世界人が名前を付けたのだろう。そのままの名前が街の名前となった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ゴンゲンを先頭に、街の大通りを隊列は進む。

襲撃跡の見て取れるボロボロの荷馬車に、好奇心を隠さず通行人が見てくる。


フライドチンキの商隊。その成れの果てが、マインの街の中を進む。

クロガネを乗せた馬車もその隊列の後方にいた。

マインの街は、山の中を切り開いた街であるが故に、大通りも緩やかな登りでカーブをしながら鉱山入り口まで続いている。


長い歴史の中で、轍に沿って石畳が凹んでいる。荷馬車が軋みながら左右に大きく揺れる。

隊列はゆっくりと坂を登っていく。


その目標の建物は、鉱山入り口にほど近い場所にあり、他とは違い、木で出来た古い建物だ。

一本一本の木材は巨大で、しかも黒く硬い。

一般的な一軒家を5倍くらいにでかくしたような外観をしていた。


一体どこから、これほど頑丈で重そうな木材を運んだのだろうか。


マインの周囲の木は、燃料としてあらかた刈りつくされている。マインの周りの山は、今ではすっかりハゲ山だ。

そんな中、これほど大きな木造の建物を作るのは、実は非常に厄介なのだが、それには理由があった。


答えは簡単だ。

周囲の木が生えているときに建てられたから。


築500年を超えると言われるギルド本部の建物、鍛治ギルド、錬金ギルド、魔術ギルド、商業ギルド、そして冒険者ギルドが、ここに同居していた。


マインの街は坂が多く、広い場所が少ない。荷馬車をギルド近くの広場に止めて、今後の作戦会議を行うこととなった。


ゴンゲンが一人で事情説明に向かう。

残されたメンツはしばらく広場で待つこととなった。


しばらくして、ゴンゲンが話を通してくれたので、ギルドの会議室を借りることができた。


ゴンゲンとフライドチンキ、フライドチンキの執事、ガードナーからの冒険者をまとめていたスミー、そしてフライドチンキ商隊の冒険者の生き残り、隼の魁の3人、レイア、クロガネ、そしてアップライズのリーダー・ライゼッカと、もう一人、フーマンという魔導師。総勢11名が会議室に集まった。

残りはギルドの別の部屋で待機する。


会議室には、もう1名、見知らぬ人物が居た。背の高い女だった。女はなんというか、独特のデザインの皮のドレスのようなものを着ていた。パリコレに出てもおかしくないような、ジグザグの意匠を施した、不思議なデザインの黒革の、露出の多い服だった。

円卓にそれぞれ腰掛けた。


クロガネは、心ここにあらずと言う感じで、遠くを見ている。参加する意味などあるのかと言わんばかりの表情だった。


「長旅、ご苦労じゃった。まずは一安心、と言うところじゃの。これより、フライドチンキ隊の今後の行動について意見を聞きたい。

まずは、紹介しよう。マインの冒険者ギルド長、リューシー=リンじゃ」


背の高い女は、この街のギルド長だった。


女は立ち上がり、挨拶した。

「事情は概ねゴンゲンより聞いた。お悔やみを申し上げる」

短く述べて、また座った。


「リンには、今後の援助を頼まねばならぬゆえ、同席してもらった。話じゃが、まずは、フライ=ド=チンキ卿から、ご自身の意見を伺おうと思う」


フライドチンキは、一番奥に腰掛けている。頭は包帯でぐるぐる巻きになっていた。包帯の隙間から覗く片目は、頑固に見えて、怯えているようにも見えた。


「みなさん、今回のことは、私はとても受け入れがたく・・・整理が付いておりません。正直なところ、命があっただけでも、儲けもの。まさか、モーゼルちゃんがいるのに、ここまで被害が大きくなるなんて・・・もう、想定外だわ・・私からは以上。

今は休みたい。しばらくこの街で、休養して、計画を立て直したいわ」


フライドチンキが、以前のような覇気はなく、へたるように椅子に座るのを見て、ゴンゲンがうなづいた。


「それが良かろうな。この街ならば、安全じゃ。急いで進むも、戻るも、無理が出そうじゃな。次に、スミー、お主はどうすべきと思うか」


スミーは、ガードナーから駆けつけた冒険者を取りまとめる暫定リーダーで、A級の冒険者である。王よりの勅命で、事態の回復を申しつかった。


30過ぎのヒゲが似合う男で、背は高いがバランスの取れた筋肉をしている。

「ガードナーへの襲撃は一段落したようですが、まだ残党もいる様子。できる限り早く、急いでガードナーへ戻りたい。残してきた仲間が心配です。

チンキ卿の商隊は、できればここで逗留してもらい、せめてガードナーの安全が回復するまでは、旅は控えられてはどうかと具申します」


ふむ。とゴンゲンが頷く。


「生き残った護衛を代表して・・ライゼッカよ、お主の意見を聞こう」


ガーダーであるライゼッカは、右肩と左胸に大きな傷を負い、治癒魔法だけでは治りきらず、未だ包帯を赤く染めていた。


ライゼッカは、クロガネの方を一瞥すると、言いにくそうに言った。

「・・・今回の件は、一体、どう言うことなんですかね? 俺のメンバーは全員死んじまった。・・・ここで言うことじゃ無いかもしれませんが、噂で聞いたところ、そこの新入りが原因とか、なんとか。

皆、不安がっています。いや、もちろん、俺だって分かってますよ、悪いのは敵である魔族だ・・・。

だけど、言っちゃあなんですが、竜の前にヤギを置くみたいなもんで、そいつがいる限りは、魔族に執拗に狙われる、ってことになりゃあしないかって、そんな心配をしながら旅をするってのは、ね。一体、どうしたもんかと。

ちょっと今は、先に進むことは考えたくはねえです」


ライゼッカは、怒っていると言うより、怯えている風だった。仲間を全て失い、彼も気持ちの整理がつかないのだろう。だが誰かを責めることが、男らしくなく感じつつも、言わずにおられない。そんな心情が顔に出ていた。

ライゼッカにそいつ呼ばわりされたクロガネ本人は、ぼんやりと下を向いていた。申し訳ないと思うようでもなく、聞いているのかも定かではなかった。


ゴンゲンは二度ほど頷き、

「アップライズのメンバーについては、不運じゃった。しかし、皆も理解してくれよう。今回は、ガーネに責任はない。襲撃してきた魔族にその責はある」


ゴンゲンは言うが、フライドチンキの表情は晴れない。

「ローグ、意見はあるか」


ローグはゴンゲンを一瞥すると、やれやれといった表情で、言った。

「敢えて言うが、今回の作戦は、国の依頼ということで乗ったこちらにも非はあるが、国の立てた今回の作戦自体が失敗じゃないか。

責任問題として、補償がなされるべきと考える。

フライドチンキさんの資産保全と、冒険者への死亡見舞いを要求する。」


ゴンゲンは難しそうな顔をする。

「まず、制度の問題としては、死亡保険はギルドから支払われる。これは規定の問題じゃ。だが、今回の魔族の介入は、どちらかと言うと侵略行為。

これに対抗して死んだチンキ卿の家来の方々や、護衛の方々は、国から見舞金が支払われる。

モーゼルも然りじゃな。

じゃが、生還者に関しては、特に補填などは考えておらん。襲撃に遭い、生き延びた。雇用条件などは、それぞれ違うじゃろうが、そこは各々で話を詰めてほしい。フライドチンキ卿と、はやぶさの魁、それとレイアに関しては、今後について個別に相談する。で、あとは、ガーネ・・じゃが」


クロガネは、心ここにあらずと言う感じで、一点を見つめて話に反応している様子もなかった。

「ガーネ、意見はあるか」

「・・・・」


名前を呼ばれたクロガネは、ゆっくりとゴンゲンの方を向いた。話には反応できるようだった。

「・・・正直、かなりキテる。いや・・・俺も、子供ではないし、絶望ってのは今回が初めてでもない・・・が、俺は、一体、いま何をしているのか。わからないんだ。

しばらく、休みたい・・・。今は、それだけだ」


クロガネが絞るように言った言葉で、その場は散会となった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


マインの冒険者ギルド長、リューシー=リンの部屋に、ゴンゲンとレイアがいた。

今後の方針について、3人で議論をするために残った。

後のメンバーは、ギルドで予約した宿へ向かっている。誰もが疲れ切った表情をしていた。なんにせよ休む必要があった。


「わしは、この後、すぐに戻らねばならん。ガードナーの情勢は現在、どうなっておる?」

ゴンゲンが聞くとリンが答えた。

「ああ、無傷とはいかんようだが、全く問題はない」


リンは、男のような喋り方をする。訓練された軍人のようだった。


ギルドがあるような大きな街には、通信用の設備が整えられていた。念話を利用した魔導具なのだが、まだ個人で所有できる程、普及しておらず、持ち運べるほど、小型化もしていない。いわば、電報のようなもので専門設備が必要であった。


ちなみに、サジタリウス号で船長が使用していた石版、通信用のスレートは古代遺跡から出土したアーティファクトで、現在、ガードナーで使われているのは、3台。ガードナーに1台、ナミートのギルド本部に1台、船長が返した1台が王宮にある。小型機械での通信技術はまだ発展途上の技術であった。


大型の通信機は、テレオーブと呼ばれ、大きな水晶球に、遠くの風景と音を飛ばす魔導具である。これも、1台1億を超える費用で制作されており、おいそれと個人が持つようなものではない。なお、フライドチンキ隊にも一つ置かれているが、必要とする魔力が多いため、常時接続するようなものではなく、緊急事態の際に利用されていた。中継器がないと、遠くまで念話を送れないため、盗賊が待ち伏せていた渓谷のような山間地では使えないなど、制約も少なからずあった。


もちろん、このマインにもテレオーブが設置されている。

魔王軍から侵攻を受けている首都ガードナーの話で、通信が飛び交っていた。


リューシー=リンが優雅な仕草で、答えた。

「まだ進軍は続いているようだ。数は減ったが、まだ湧いて出ると言っていると聞く。ただ、死体そざいを提供しないように、遠距離と威力偵察に徹しているため、割と余裕はある。

あと、シーワルドも同時に襲われたとの情報が入ってきた。規模などの情報はまだ入ってきてないが、あちらの英雄さんドラゴが一人で片付けたらしい」


報告を聞いてゴンゲンはそうかと頷いた。

「シーワルドもか。いよいよ本格的に攻めてくるつもりかもしれんな。ガードナー近隣の村も被害は受けておらんか?」

リンは頷く。


「押さえ込めてはいる。被害状況は特に上がってきていないわね。それにしても、これが侵攻作戦か。それにしては、圧力が弱くないか?

そうなると、狙いは、示し合わしてのモーゼルへの襲撃?

今回の商隊襲撃のこともある。情報戦の戦略は見直した方が良いのではないか。思った以上に、相手は賢いかもしれぬ」

相手というのはもちろん魔王軍のこと。


「なんにせよ、事態は一段落とした。防衛に参加する。後のことは、リン、お主に任せたい。ケアをしてやってくれ」


「わかった。クロガネの面倒は見よう。女神の勇者か。・・・だが、スキルを奪われたのだろう?

 すでに抜け殻ではないのか?」


核心を突いてくる。

言外に、もはや無用者ではないのかと聞いているのだ。

護衛に労力を割く意味があるのか、と。


リンはゴンゲンと長い付き合いである。


見た目は20代に見えるが、リューシー=リンは、エルフ族である。


エルフの種族特性で、長いものでは、五百年以上の寿命があり、外敵に襲われでもしない限りは魔法に長けており病気も少なく死ぬことも少ない。

20歳程度の年齢で、青年になってからは、ゆっくりとした老化スピードになり、若いままゆっくりと年を重ねる。


30代くらいに見えるリューシー=リンも、こう見えて200歳を超える年齢で、凄腕のスカウトとして長年冒険者を続けてきた猛者である。


「スキルが全て奪われた訳でない。スキルがなくとも奴は女神の勇者じゃ」

ゴンゲンの言葉にも少なからず迷いは見えた。


ゴンゲンが話題を変えるように言う。

「奪った奴の方の手配は?」


「ああウエジだったな、この街に入り込んでる可能性もあるが・・・。偽装スキルを持ってると言ったな? ならば、なおさら、探せんし、まだ何の手がかりもない」


「となると、探せるのは・・・探索師、それも腕利きの。何にせよ、広域手配は済んでおろう。オートマタを出したら、それを手がかりに追い詰める方がよかろうな」


探索師という職業がある。異世界特有の職業で、それに特化したスキル構成を持ち、存在する限り、地上で探せないものは無いと言われるほどの腕利きもいる。もちろん、他のどの職業と同様に、腕前に応じて費用は高くなり、最上級の探索師は、国に囲われることが多い。モーゼルのような戦力とは違う側面、情報面から参謀として国を支えている。


ガードナーにも数人の探索師がいる。偽装を突破して、相手を探せる探索師は、超一流に属するが、ガードナーにもおよそ1名存在した。


「まあ、それでも私なら、遠くに逃げるだろうな。もし功名心が高ければ、帝国まで。

心臓ハートが強かったら、神聖教国に行く」


ゴンゲンもそう考えていた。指名手配が予想されるガードナー近隣には近寄らず、遠くの実力主義の国に行って庇護を求める。

もしくは、本物のクロガネが到着する前に神聖教国へ行けば、一発逆転、世界のヒーローになることも可能性がない訳では無い。

ただ、いつバレるか、バレた時どうなるか、など考えれば、よほど心臓に毛が生えたような図太い人間でないと、選ばない選択肢ではあるが。


そのほかにも、山に潜伏する、より遠くの街へ逃げる、魔族側へ寝返るなど、予想される選択肢はあるが、どの道、すぐに捕まるような行動は起こさないだろうと想定された。


ウエジという男は、大胆にもヤマモトタツヤという別人になりすまし、10日近い旅路をやり遂げた。


そこには、騙しきれるという自信と、市井しせいに紛れて自我を隠す精神力、そして他人になりきる演技力、話の辻褄を合わせることのできる機転と、言ったことの整合性を管理する記憶力と、嘘と真実をほどよくブレンドして相手を信じ込ませる詐欺師としての交渉力も兼ね備えている。


「厄介な相手じゃ。本人曰く、36個のスキルを持つ。

その信ぴょう性はさておき。

クロガネのスキルを手にした今、どれほどの脅威になるか、想像もつかん」


異世界人というのは、時に世界の構造を変えるほどの影響力を持つ。


ゴンゲンとモーゼルが師事した大極龍拳の始祖、フーも異世界人である。


そのほかにも、開国の始祖が異世界人である、魔王を退けた勇者が異世界人である、この技術は異世界人の発明。例をあげれば枚挙にいとまがない。


冒険者ギルドの総力をあげて、奴を止めなければならない。


ゴンゲンが今、憂慮しなければならないことは大きく4つ。


優先順位1は、ナミートの安全である。

その次は、ガードナーへの侵略

あとは、クロガネの護衛と、ウエジの確保。

この4つである。


ナミートは現在、魔族の攻撃対象にはなっていない。

ガードナーへの侵略が未だ続いている。クロガネのことは心配だが、一旦はガードナーの防衛に参加しなければならない。


リンに預ければ、安全面はしばらくは問題ないと言える。

もちろん、マグナの例にもある通り、何事にも絶対は無い。


1個人の強大な戦力で、戦況が覆るのがこの世界だ。


とはいえ、リンはゴンゲンにも引けを取らない実力者。

彼女で防げない事態は、他の誰も防げない。とまではいかないが、頼れる存在であることは確かだ。


「瞬殺のマグナリアは、核に傷を負ったと聞く。しばらくは再び攻めてくることはないじゃろう。

しかし、問題の根本。

転移による攻撃を妨害できねば、この戦、負ける。

対策を検討するよう、王にも進言する」


20人程度の小規模部隊を自由に転移できる技術が魔族にはある。

これまでは、少人数で村々を襲う程度であったが、今回のように戦力の高い魔将軍を送り込んで来られると、止めることは至難である。


事前の対策も取りづらく、事後の対策も取りづらい。


対策するためには、広域の魔力感知技術の開発、感知後転移を阻害する対魔法の研究、転移後の部隊を包囲するための高速の移送方法確立、魔将軍レベルの魔族に対抗するための戦力の確保、とかなりハードルが高い。

ちなみに都市部には、城塞の結界で転移を防ぐ設計がなされており、街中に敵兵がいきなり出現するような事態は起こらないように対策が施されている。


ゴンゲンがレイアに向かって

「レイアよ、お主も一旦、依頼を見直しても良い。モーゼル不在でお主だけで、クロガネを護衛するのは無理がある。判断はお主に任せる」


黙って聞いていたレイアが口を開いた。

「昨日は・・・自信がないと言いましがが、やっぱり気が変わりました・・・・。

私は、最後まで、少なくとも水都で事態がはっきりするまでは、ガーネさんに付き添います。

ここで諦めるにしても、せめて彼が立ち直るまでは・・・。

今の彼を放って置けません。私がいないと・・・」


ゴンゲンは頷き、リンに言った。

「リンよ、また連絡してくれ。わしはガードナーを守らねばならん。フライドチンキ卿一行は、しばらくはこの街で逗留する。クロガネを守ってくれ。レイア、お前も頼むぞ」


リンは頷き、

「ああ。任せよ。それよりもあのクロガネとやら、私のタイプなのだが、つまみ食いは?」

と真顔で聞いた。


ゴンゲンは思い出した。

リンは魔力フェチであった。ティアナのようなスキルはないが、魔力の多さに敏感で、魔力が強いイケメンにすぐ惚れる体質であった。

「・・・・好きにせい」

ゴンゲンは呆れたように言って、部屋を出た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


窓から景色を見てみる。

煙突の煙、懐かしい鉄の匂い。

ああ、俺は何をしているのだろうと思う。


ベッドの前の床、汚い床に風呂敷が広がっている。俺に残された品々。


干からびたピノコの亡骸、ずっと着ていた黒い鎧の残骸、レイアの魔法で防腐処理されたモーゼルの心臓、ババアから1千万円で買ったカツオブシ。


そのほかの何もかも・・・。

エリクサーの残り、オリハルコンの塊、炎の槍、モルゲン鋼の盾、何気に重要なものがいくつか、神の初級魔法と女神からの手紙。あと50億ゴルドの手形。


全て奪われた。


盗まれたものは甚大だ。スキルも奪われ、仲間も奪われた。


俺にとって何よりもショックなのは、モーゼルを見殺しにしたこと。そして、タツヤに腕を切られたあと、ゴンゲンの戦いをぼーっと見ていたことだ。


なぜ、俺は戦わなかったのだろうか。


死の大陸で逃げ延びた時は良かった。死ぬか生きるかシンプルだ。


船長に救われ、この大陸に来て、フライドチンキ商隊に参加して、色々不満があった。


やはり、人に頼ることなく、自力で進むべきだったのではないか。


俺のせいでモーゼルが死んだのではないか。


誰かに頼ることは、依存を生み、躊躇を生む。


躊躇は、弱さにつながり、俺は全てを失った。


後悔は嫌いだ。


悔やんでも何もならない。


奪われたものは仕方ないと思う。



ああ、モーゼルが死んだんだな。



改めてそう思う。


モーゼルは強かった。それと、苦労を感じさせる深さがあった。

俺はモーゼルが好きだった。分かりやすくて豪快で、頼り甲斐がある。


タツヤのことを心底からは憎む気になれなかった。

もちろん、次に出会えば、必ずお礼はする。


が、怒り狂い周りが見えなくなるほどの熱情がない。

どちらかというと静かにドロドロと煮えるマグマのような怒り。


探したくても探す方法が分からない。どうすれば良いのか分からないのが正直なところだった。


そう考えていると、少し、モヤモヤとするものがあったが、それでも何かしようと思うほどのやる気にならない。

なんというか、気持ちがごちゃごちゃして、動くことができずにいた。


窓の外を見る。


あちこちの工房で、鉄を作っているのだろう。

金槌の音が遠くから聞こえる。


少しゆっくり考えてみたいと思う。


俺はどう生きるべきか。


一度死んだ身。怖いものは無いと思っていたが、失うことはやはり怖いと改めて思い知らされた。


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