第8話 漂流10日目
そうした日が10日ほど続いた。小屋の周りで獣に遭遇し、道具を集めて、何とか生き延びる。そんな必死な日々だ。
異世界の森は危険に満ち溢れていて、それでいて美しかった。朝の霧、昼の水辺が陽光に輝き、見たこともない動植物が溢れていた。
初日の夜はそんな余裕はなかったが、改めて夜の森を見ると、蛍光色の花や虫が飛び交い、幻想的な光景が広がっていた。また魔法の力のせいなのか、うっすらと光る靄が時折、森をさまよっており、もしかするとゴースト系の魔物かもしれないが、遠くに見ている分には綺麗なイルミネーションだった。
ちなみに、10日を経て、裸は卒業した。森の葉っぱと蔦で腰巻きと靴を作った。足元に枝やら、石やらがあり、痛かったので、葉っぱを丸めて簡単な靴を作った。1日履いたらボロボロになるから、何度も作り直した。
鉄で鎧を作ろうかとも一瞬考えたが、手持ちの鉄は刀の分だけ。鉄が不足していた。
上半身はまだ裸だ。
裸のまま慎重に散策し、何種類かの敵を仕留めることができた。ある時は逃げて、ある時は隠れていたけれども、サバイバルの日々は辛かったが、ワクワクするような毎日で精神的には充実していて、あっという間に流れていった。
二メートルを超える巨大な蝶や、死体に群がる蟻の群れ、致死性の胞子をばらまくキノコに、巨大な象のような獣、一つ目の巨人、空を飛ぶ飛竜の群れ。様々な動物を見て、時に戦い、時に逃げた。
知識の書はとても有用だった。特に食用という記述は、本当に助かった。
狼を退けた後、思いついて、自分の名前を知識の本で調べてみた。
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黒金鉄男
異世界人 通称テツオ 食用可 危険度G 戦闘力E
流浪の異世界人。
女神に召喚された勇者(候補)。戦闘能力はまだ未熟だが、将来性は有望。
温厚なので危険度は低いが、怒るとキレるタイプ。鉄に詳しい職人肌。
保有スキル 身体強化lv1 鑑定lv1 操鉄術lv1(5/100)
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情報は端折られているが、客観的な評価だった。で、ふと気づいたら操鉄術が5ポイント増えている。
思い返すと、刀を作った作業で増えたに違いないと思い、それからは、身体強化を適度に鍛えることと、刀を溶かして、また刀にする作業を繰り返した。
MPが尽きた時のために、女神のボックスの中に大量のフナムシを入れた。いざとなれば、これにむしゃぶりつく。
しかし、しばらく修行してみて分かったのだが、身体強化はスキルポイントの表記がなく、いつレベルアップするのか不明。操鉄術は3時間くらい刀を溶かして戻してを繰り返しても1しかスキルが上がらない。どうも、初回の経験値に比べて同じことを繰り返してもポイントが上がりにくいのかもしれない。スキルポイント獲得の計算式が不明だった。
スキル成長は諦め、他の話題。
この10日間の間に解決したのが、火。
火をおこせるようになった。
方法は、熊。
レンジベアを探す、木の板を用意する。女神のコンテナを置き、熊に近づく。
板をバリアから外に出す。木が燃える。熊は、コンテナを抱えて安全圏からサクッとコロス。
枝についた火を消さないよう慎重に運んで、小屋の前に積んだ木に枯れ草をかけて焚き火にする。以上。
卑怯とか言うなよ。こっちも必死なんだよ。
レンジベアは、この辺りには多く生息しているようで、すでに3匹倒した。
小屋の前の焚き火の種火は切らさないようにする。
火の恩恵は偉大で、獣避けになるのと同時に、獣肉とかフナムシとかを焼いて食べられるようになりましたとさ。
夜とかは、あったまるし、ね。パチパチ燃える火を見ていると、飽きないし、ちょっと癒される。
お鍋とかないから、枝に刺して遠火でじっくり焼いて食べます。塩は海水から。海水に肉を浸して焼くと、ほんのり出汁の効いたお肉になります。ここの海水は美味い。海水の味は、塩分の強い味噌汁に近いかもしれない。
バリアについても色々検証してみた。どうも、敵意のある魔法攻撃のみを弾くようだが、単純な物理攻撃は弾かないようだった。石を遠くからコンテナに投げてみたらバリアに弾かれることはなかった。
レンジベアの熱線は、全て弾く。
またモンスターの体も通さないことから、何らかの魔力に反応しているのではないかと推測した。
敵といえば、後、カマトカゲ。武器があれば、割と余裕でした。
ただ、俺の刀より鎌の方が硬かったので、刀が折れた。
でも、すぐに直せるので、問題なし。
ちなみにカマトカゲの知識の書の説明はこんな感じ。
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ヴェロキロロデスシザー
ヴェロキロロデスシザー 通称カマトカゲ 食用可 危険度C
カマのような爪を持つ2足歩行のトカゲ。
通常3匹以上で行動する知能の高いトカゲ。集団で狩りのような行動をする。素早くかつ攻撃力が高い上、狡猾なため、非常に戦いずらい。ただ、爪の攻撃さえ無力化できれば個々の能力はそれほどでもないため、慣れると余裕。
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なんともな説明だが、説明の通り、慣れるとそれほどでも無かった。カマの攻撃は鋭いが、慣れるとパリィできる。
具体的には、鎌の攻撃を鋭角に受けるのではなく、刀に滑らせるよう受け流し、態勢を崩すようにすれば、陣形も崩れる。1匹倒せば、あとは同じ作業の繰り返し。ちょこっとかすり傷は出来たが、すぐに塞がる程度の傷だった。おそらく身体強化の影響は治癒力にも多少は反映されているのだろう。
トカゲのお肉は、焼くと鶏肉みたいで美味しい。あと、気づいたのだが、ここの食べ物は、大体、MPが回復するようだ。色々試した結果、フナムシの生が一番回復するが、すぐに傷んで臭くなるので、焼いて食べるようにした。多少は効力が落ちるが、それでも他の肉や果物よりも多く回復した。
果物といえば、森を散策していくつかの食用の果物を見つけた。例えば一つを紹介するとこんな感じ。
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プラムリンゴ
プラムリンゴ 通称リンゴ 食用可
樹木に生る果実。異世界のプラムとリンゴを足して2で割ったような味。命名したのは異世界人。
野生のプラムリンゴは珍しく、死の大陸以外では見かけない。ほとんどの木は人工で植えられたもの。糖分が高く、一部のリンゴには知性+の効果がある。
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とのことで、確かに食べると頭がスッキリする気がしたが、特段、頭が良くなっているのかは不明。いくつか木から捥いで、小屋に置いてある。
他の発見としては、謎のナイフ。
8日目に見つけた。気づかなかったのだが、小屋の裏側に落ちていた。真っ黒で、単一の金属を切り出したような変わったナイフだった。鑑定してみると『黒魔鉄のナイフ』と表示された。
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黒魔鉄のナイフ
黒魔鉄のナイフ 通称黒ナイフ 食用不可
おおよそ出自の分からない謎のナイフ。間違いなく謎。本当に謎。
誰か他の人に聞いてみるが良い。絶対に謎って言うから。
破壊不可能。変形不可能。
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明らかにバグったような評価だった。神の本とか言う割に、適当なことを書くんだなと思ったが、確か最初に一部の情報は限定される、とか書いてあったな・・・。これが限定された表現とか言うのだろう、分かり易すぎる。
表示を見てピンと来た。鉄ということは、操鉄術で変形できるのでは?
早速、錬成しようとしたら、全く変形する様子がない。魔力は通っているのだが、変形する気配がない。
では、精錬を施してみた。が、全く同じ反応。手応えはあるが、変化が起こらない。
スキルポイントが気になった。手応えはあるのなら、ポイントはどうなっているのか。再度、自分を調べてみた。
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黒金鉄男
異世界人 通称テツオ 食用可 危険度G 戦闘力E
流浪の異世界人。漂流8日目
女神に召喚された勇者(候補)。戦闘能力が向上中、操鉄術の向上に夢中。
怒るとキレるタイプ。鉄に詳しい職人肌。異世界サバイバル満喫中
保有スキル 身体強化lv1 鑑定lv1 操鉄術lv1(65/100)
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!? 65? 昨日までほぼ上がらなかったスキルが一気に50近く増えている。黒魔鉄のナイフとスキルが反応したのか? それとも抵抗が高い金属にスキルを使ったから経験値が増えた? 知識の書の説明文といい、明らかな作為を感じるが、スキルが上がることは良いことなのでそれ以上は追求しない。
ウンウン唸って黒魔鉄にスキルを念じたら、あっと言う間にLV2になった。
そして現在、10日目。情報はこんな感じ。
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黒金鉄男
異世界人 通称テツオ 食用可
流浪の異世界人。漂流10日目 危険度F 戦闘力D
女神に召喚された勇者(候補)。戦闘能力が向上中、操鉄術の向上に夢中。
怒るとキレるタイプ。鉄に詳しい職人肌。異世界サバイバル満喫中
保有スキル 身体強化lv1 鑑定lv1 操鉄術lv2(450/1000)
操鉄術 『精錬』『錬成』new『礫』
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そう、念願の新アーツをゲットしました。
礫。最初は読めないなあ、と思って次見たら、ふりがな振ってたよ。
鉄の礫を飛ばすアーツでした。
礫と念じると、小石くらいの鉄がどっかから湧き出て、時速80キロくらいで飛んでいく。なぜ80キロと分かるかというと、近くのバッティングセンターの一番遅い球くらいの速さで、それが80キロだからだ。
心象スキル、って書いてあったことを思い出し、射出速度が速くなるように念じてみたが、成果は無かった。
熟練度が足りないのか、速度が固定なのかは不明。木に向かって撃つも、カツンと乾いた音がする程度で、木の表面に傷をつけることもできない。致命的な攻撃ではないが、当たると痛そうな音はする。
遠距離攻撃方法(?)ができたのは純粋に嬉しい。
早速、戦闘に組み込んでみた。
相手は狼。
4匹ほどの群れを見つけたので、礫を組み合わせて戦ってみた。
狼はこちらと間合いを取るが、こちらへ飛びかかって来たところへ、至近距離から礫。目に当てると必ず怯む。
怯んだところへ、一閃。
あと、戦いながら気づいたが、礫の発生場所は、自分の手元に限らないと気づいた。ある程度の距離ならば、敵の背後からでも礫を飛ばせた。
敵にしてみれば、背後から突然、遅いとはいえ弾が飛んでくる。こちらに集中できなくなる。敵の隙を作るには、非常に有用なアーツだと感じた。
ちなみにレベル2になってから黒魔鉄のナイフを錬成してみても、得られる経験値は5に減ってました。とさ。残念。