第75話 召喚勇者のダンジョン攻略記
スキゾニアから帝国までの道は退屈極まりなく、馬車の乗りごごちは悪いし、女はいないし、宿は汚いし、会話も弾まなければ、景色も心に響かない。
榊原カイトの旅は、忌々しさとともに続いた。
アルメニアの西海岸の小さな漁港に、偽装した帝国の監視船が停泊しており、カイトはそれに乗り、帝国へ、北ルパンザへと航行した。
馬車での道中。時々、イライラがピークに達し、爆発させようと思ったが、足取りを追われるのも困る。
グッと堪える。
そのストレスが、海上で炸裂し、カイトは新しい技、収束レーザーのスキルを身につけた。
広範囲に爆発させるのではなく、手元にエネルギーを溜め込み、一方向に発射する。
威力が凄まじく、なおかつコントロール可能なこの技を、水上でカイトは何度も使った。
名付けてγ線収束砲。
超新星爆発の際に、放出されるという高出力のレーザー砲のようなものである。ちなみに実際のガンマバーストは、銀河を突き抜け、通り道にある全てを燃やし尽くしながらどこまでも飛んでいくという。
そこまでの威力は無いながら、カイトのレーザービームは、海底を赤く染め、海洋を熱で煮えたぎらせ、多くの生物を殺した。
帝国の兵士は、その様子を遠巻きに見ていたが、狂った勇者を止めるものはおらず、高笑いするカイトに近寄ろうとするものもいなかった。
20日ほどの旅を終え、カイトは帝国へとたどり着いた。
北ルパンザ帝国。
およそ70年前に、初代皇帝ガイザリウスが開いた新興国である。
カイザリウスも、明らかにはされていないが、異世界人、もしくはその子孫では無いかと噂される。
暴力を後ろ盾とした権力を用いて、不毛のルパンザを平らげ、実力主義の国家を築いたこの人物は、自らの出自を多く語らなかった。
恐怖と未来への希望。彼は常にそれを人々に伝え、国を発展させた。
帝国は世襲制を取らず、時の実力者が皇帝となる。
つまり、カイトも皇帝になれる可能性があった。
とはいえ、無秩序を避けるため、皇帝選出の時期は決まっている。
皇帝が宣言するか、もしくは皇帝が死んだ時。その2つの方法だった。
どちらも、厳密な選出法が決められており、単なる腕力のみで皇帝が選ばれることはない。5名以上の後見人と、評議員の過半数が認める実績、そして最後に国家を統べるに値する実力が求められる。
カイトは帝国の町並み、帝都カイザリウスの姿を見て感嘆した。
パイプから水蒸気が吹き出す高層ビル群。モノレール、気球、空飛ぶバイク。
地球よりも発展しているのではないかというほどの摩天楼。
アルメニアの田舎とは違う一大工業都市。
SLの2倍近くある蒸気機関車。戦闘を想定した機関銃が並ぶ黒い列車が通り過ぎる。
カイトを乗せた軍用車両は、そのまま司令部へと向かった。軍事国家の帝国は、王城はない。軍事司令部がそのまま皇帝の居住地となっていた。
黒い壁に赤いタペストリー。玉座の間も、無骨で威圧的。
鎧をまとった兵士が、ライフルを持ってずらりと並んでいる。
「長旅、ご苦労だったな、勇者よ」
第8代皇帝 エスメラルダが玉座からカイトを睥睨した。
カイトは驚いた。皇帝は女だった。
長身、黒髪、左目に眼帯。眼帯の中央にルビー。
軍服を着て、エナメルのブーツ。
そして圧倒的な威圧感。魔力の底が見えない。
「余が女で驚いておる顔だな。見飽きた顔だ。さて、早速、貴様には働いてもらおう」
女に指図されるということにカイトは、本質的な嫌悪感を覚えた。カイトの場合は、誰に指図されても苛立つのだが。本人には自覚はない。
「南の渓谷にダンジョンが発生した。手始めにこの攻略を命じる。貴様の処遇肩書きは、その働きを見て決める。話は以上だ。行け!」
エスメラルダの黒髪が揺れる。
有無を言わさぬ迫力。その美貌にカイトは思わず息を呑んだ。エスメラルダに見とれていることに気づき、また腹が立った。
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案内人の軍人が言う。
「あれです」
渓谷の崖の半ばにぽっかり開いた入り口。
あれが、件のダンジョン。
「調査によると24階層の中規模ダンジョンですが、出てくる魔物が強く、攻略が芳しくありません。勇者の力を持ってこれを攻略し、資源の確保をお願いいたします」
カイトは周囲を見渡した。人里離れた渓谷。グランドキャニオンを彷彿とさせる赤い岩場。
「聞くが」
カイトが面倒くさそうに口を開いた。
「中の敵を全て排除すれば良いのか」
「はい、可能であれば、危険を排除し、ダンジョンのか」
案内役がそこまで行った時。
グブン! という低く、大きな音がして、崖が弾んだ後、内側へ圧縮して、倒壊した。
土煙。
思わず顔を手で覆う案内人。
「これで終わりだ。ダンジョンは全て潰した」
地下核実験さながらに、カイトがダンジョンを丸ごと爆発させた。
流れ込んでくる膨大な魂。
「・・・そ、そんな、ダンジョン毎、爆破するなんて」
案内人が冷や汗をかいている。
前代未聞の事態だった。
案内人の頭の中では、事後処理のことがぐるぐる回っていた。ダンジョンは貴重な資源。湧き出る経験値、未知の宝物、魔力を帯びた鉱物、新種のモンスター。
それらを根こそぎ、根絶やしにした。
恐ろしい暴力と、その攻撃性を持つ勇者。
カイトはニヤリとした。ダンジョン攻略、ちょろい。チョロすぎる。
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再び玉座の前に立つカイト。
それを見下ろすエスメラルダ。
「この度の攻略、見事であった。次からは、二次利用もできるように工夫するように。
褒美にこれを授けよう」
兵士が、白いコンテナと、一振りの剣を持ってきた。
「つい先日、女神が勇者へと送ったとされるコンテナだ。クーデサンスに落ちたものを、我が国が譲り受けた。
使えるものも限られておるゆえ、そなたに下賜する」
貴様からそなたに呼び名は変わったが、相変わらず、無愛想な女だと思った。
兵士がお盆に乗せたコンテナを持ってくる。
カイトはそれを受け取り、床に置いて中を開いた。
小さなクーラーボックスくらいの大きさのコンテナだが、中からアイテムを取り出すと、刀身が一メートルほどある美麗な剣が出てきた。
「同封されていた手紙によると、その剣の名は、EXカリバーン。略してエクスカリバー。異界の聖剣だという。有効に使え」
原子力勇者・カイトは、右手に剣を掲げて天を指した。
カイトは、これまで経験したことのない類の高揚感を感じていた。
異世界はこうでなければ。




