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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第二部  鉄の勇者、大陸をゆく
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第74話 揺れる抜け殻

ウエジからの襲撃から、2時間程度が過ぎ。

夕方までは時間があると言うことで、夜通しの行軍にはなるが、出立することとなった。


荷馬車の応急修理と、散らばった荷物をまとめ、重い体を引きづるように商隊が動き出す。


クロガネは、ゴンゲンとレイアと同じ馬車に乗った。

馬で駆けつけた冒険者たちは、乗るものがすっかり減ってしまった馬車を取り囲むようにして、追随する。


進み出した馬車の上で、クロガネは呆然として揺られていた。

気力のない目を虚ろに、力なく項垂れた首を揺らしながら、呆然と語らず。


話しかけることも憚られるような、憔悴。


レイアも、疲れ切っていた。回復魔法を連発し、魔力はほぼ尽きた。


ゴンゲンは腕を組み、目をつぶっている。厳しい顔で、現状と今後を判断しているようであった。



隼の魁メンバーは、先頭にほど近い馬車で、クロガネ達とは別の馬車に乗って居た。護衛の配分の都合で、分けられた形だ。


3人とも険しい顔をしている。

ティアナが聞いた。

「ガーネ、大丈夫かしら」


「・・・」

ローグは沈黙した。


「なあローグよ、フライドチンキは、旅を続けるのか?」

エドガーの疑問に、ローグは首を振った。

「さあな。不謹慎と指を指される覚悟で言うが、人的被害は大きかったが、不幸中の幸い、依頼主が無事で荷物の損壊は少ない。なんにせよ安全なところまで運ばねばならない。進むにも戻るにも、荷物を守る護衛の手配は必要だ。

あとの問題は、俺たちがどうするか、だな」

3人は銘々に、自分に問いかけた。


俺たちがどうするか。


冒険者ランクをBにあげるためには、遠距離護衛任務が必須である。

必須ではあるが、それは今回だけのチャンスではない。

冒険者にとって最も必要なのは、リスク管理技術である。

自らの力量を知り、危険を計り、体調を管理して、目的を定め、安全かつ大胆に遂行する。


死と隣り合わせの職業だからこそ、命を大切にしないものは大成できない。

中にはモーゼルのような才能に恵まれた者もいるが、大多数の冒険者は、地道に経験を重ねていく。

それでも時には、命を賭けねばならない時がある。

大勢の敵に囲まれた時、探索で迷った時、巨大な魔物と出くわした時。

冒険者は命を賭けて、生存を求める。


今は、違う。


命を賭ける時ではない。3人は、誰もがそれは分かっていた。

「まさかモーゼルさんが死ぬとはな・・・」

ローグはしみじみと呟いた。声に出して言うと、現実味が出た。

「そうね。私たちも危なかったわね。死んだかと思ったわ」


ティアナは回想する。

ボーゲンの風魔法は、魔法学院を卒業したティアナですら見たことがないレベルの域に達していた。


派手な竜巻など、目に見える効果を求めがちな、学生達とは異なり、如何に効果的に敵を無力化するか、如何に効果的に命を奪うか、それだけを求めた魔術の極地とも言えた。


おそらく、あのままあと数分もしないうちに、全員が窒息死していた。

あの時、あの巨大なドクロの鎧騎士が現れなければ・・・。


魔力の見えるティアナは、まずボーゲンの魔力に驚愕し、その後に現れたドクロの鎧騎士に絶望した。


魔将軍ボーゲンの魔力は、クロガネを上回る50万。魔族の中にあっても、飛び抜けた魔力量だった。見えない真空刃を撃った時、10ほど魔力が減った。

たったの10である。ボーゲンは理論上、真空刃を5万発撃てることになる。

さらに、魔力の回復も行っているようで、その減った10も、すぐさま回復していた。


震えながらもなんとか立ち向かったティアナであったが、内心は、どうやって生き残るかを必死で考えることしかできず、無我夢中で対峙していたに過ぎない。


魔力が見えるティアナには、真空刃の軌跡が自然に把握できたが、周りが見えていないことに気づき、咄嗟に奥の手である魔力眼共有を使った。

このスキルは、消耗が早く、魔力を大量に消費する。戦闘が長引けば、ティアナは攻撃魔法を打つこともできず、足手まといになる可能性すらあった。


ドクロの騎士が現れた時、膨大な魔力量を伴う空間断裂は、ティアナには太陽を直視するほどの眩い光だったが、他のメンバーは突然現れた巨大な鎧の騎士が空からうっすら光りながら突然振って湧いたように見えたに違いない。


魔力眼共有は魔力の痕跡を見ることはできてもその大小を大まかにしか把握できないため、空に亀裂が走ったことに気づいた者はティアナとクロガネ以外に居なかった。


空間の断裂と共に飛び出してきた騎士それは、一刀のもとに絶望的な状況ボーゲンを斬り伏せた。


ただ、ティアナにはそれは救いの神というより、凶悪な鬼神に思えた。


見たこともない魔力量。


その魔力量、1億越え。


ティアナには、魔力が光の筋と一緒に数字として見える。

8桁の魔力量など見たこともないし、もしそれが実在するなら、もはや人の範疇ではない。


神の領域なのだ。


ティアナが呆然としている間に、ドクロの鎧騎士は、変な乗り物に乗り、去った。


クロガネが追いすがり、戦線を抜けた後、真っ二つになったボーゲンがぴくぴくと動いていた。


トドメを刺そうと、隼の魁メンバーは、素早く姿勢を整えたが、司令官の危機に飛び出してきた羊のツノを持つ魔族が2体、ボーゲン守るように立ちはだかった。


以前、スペッゾが語ったように、魔族の平均的な強さは、A。


Cランクの隼の魁3人、Bランクの戦闘力を持つ3人がギリギリ立ち向かえるような敵。


相手もボーゲンを庇いながらの立ち振る舞いのため、全力は出せない様子で、相手が一人であれば、なんとか太刀打ちできた。

ボーゲンのコアを狙いながら、敵に反撃をさせないようにした。


現れた2体のうち1体が隼のメンバーに集中し、1体が裂けたボーゲンの体を抱き上げ、遁走する。


守るものが去り、1体になった魔族は強かった。

ボーゲンを庇う必要がなくなり、動きに制限が無くなったからか、容赦ない攻撃を次々と仕掛けてくる。


ちなみにこの時、ティアナ達が対峙した魔族は、以前、クロガネがロックスボルト将軍率いる500体と戦った際の魔族の一体と同程度の強さである。


一般的な冒険者ならば、一体だけでも苦戦するほどの魔族の強さである。


絶望的な戦いは、ティアナが思ったほど長くは続かなかった。


長く思えた戦いの時間も、ほんの数分のことだった。


魔族語で、どこかで誰かが叫ぶと、眼前の魔族がさっと引き下がった。


ギリギリの戦いを強いられていた3人は、追撃するなど思いもよらないほど疲弊していた。

なんとか命が助かっただけでも御の字だった。


そのあとは、魔族の残党に警戒しながら、生き残りを手当てしつつ、時間が過ぎるのを待った。


魔族の脅威が去り、村へ入った時に、モーゼルの死を知らされた。

その後の、タツヤの突然の裏切りも、想定外の事態だった。


ティアナも、多くの商隊メンバーと同じく、疲れていた。

馬車に揺られるローグとエドガーの顔を見る。

二人とも考え込んでいた。

今回の事件は、皆、心に少なからず傷を受けた。


守れなかったことや、強大な敵への恐怖、多くの仲間の死。

そして裏切り。


「ガーネが心配だ」

エドガーがポツリと言った。


ローグが頷く。

「俺たちよりも、奴は旅を続けられるのか? 正直なところ、俺は、再編成次第では、旅を続けようと思う。

あと、この際だからはっきりしておくが、ガーネが参加したことで、襲撃に繋がったと俺は思っている。

奴とボーゲンとかいう魔将軍は、明らかに面識があった」


待ちわびたぞ、クロガネ! あの日の屈辱、ここで晴らす。お前ら全員の骸と共に!


確かにそう言った。あれは魔族語では無かった。

ガーネが偽名だとして、クロガネという名前、もちろん、ローグも知っていた。

女神の勇者、手配されている裏切り者の勇者の名前だ。

思い起こせば迂闊だった。確か、ナミートの街を出る時、出迎えの若者が叫んだ言葉も。

クロガネ。


「ガーネの本名はクロガネ。女神の勇者らしい・・・。奴が今回の襲撃の原因だ。奴は何らかの理由で魔族から追われている。俺たちは巻き込まれた。ガーネが同行する限り、この旅に安全は無い。奴がどうするかで、決めた方が良い」


ローグはリーダーとして、厳しいことも言わねばならない。

ガーネが危険因子であるなら、避けねばならない。

それは、情けや、好き嫌いではなく、生き残るために必要な選択である。


「女神の勇者・・・なるほど」

エドガーが得心したように呟いた。モーゼルの護衛、特別な警護体制、商隊への突然の参加、魔族の襲撃、タツヤの狙い、ゴンゲンの登場、全てが納得できた。


なるべく無視しようとしていた背景。冒険者として必要なこと以外に首を突っ込まない節度。

知りすぎて死ぬこともあれば、知らずに死ぬこともある。

今回は後者だったようだ。


貴族の籍を離れ、野に下り、清濁併せて呑んだ。

政治的な権謀術数を、近くで見てきた経験から、今回の件も、その手の類の工作くらいに思っていた。

南アルンザのバクラン王国からの使者、ガーネ。

全くのデタラメだったことは、驚くには値しない。


これまで数々の魔物、数々の敵と戦ってきた。が、魔族は初めて戦った。

しかも、魔将軍相手。皆には黙っているが、膝が震えた。

あんな化け物と戦うのは二度とごめんだ。


ガーネ、いやクロガネは疫病神かもしれない。

一度そう思うと、エドガーはクロガネに対して、以前のように素直な気持ちで付き合えるかどうか、不安に思えた。


夜通し。

険しい山道を登りながら、国境を超えた。国境といっても検問所もない、正確にはどこで国を跨いだのかわからない程度のぼやけた境界である。日が昇り、昼過ぎ。


それぞれを乗せた荷馬車は進み、やがて山の稜線に黒煙が見えた。


 荷馬車が進む。抜け殻のように揺れる、失意のクロガネを乗せたまま。


一行はマインへとたどり着いた。


この話をもちまして、第二部本編は完結となります。

明日は閑話的な、その頃話を2話連続投稿いたします。


混迷を増すエ=ルガイア。第三部もお楽しみに。

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