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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第二部  鉄の勇者、大陸をゆく
73/214

第71話 混乱のガードナー

ナミートの街、ギルド本部に程近い住宅街で、早朝、叫び声が響いた。

「助けて、助けてください!」

その声の主は女性で、明らかに動揺した声だった。

住宅街は、古い石造りの簡素な建物が並ぶ、長期滞在する冒険者向けの賃貸物件が多く、治安もそこまで良いとは言えない。

「・・・誰か、誰かたす・・・」

まだ夜が白む前の時間、道には誰の姿もない。

それでも、叫び続ける女性の声に、やがて、ドアが一つ開いた。朝からうるせえな。と目を擦りながら出てきた冒険者は、その女性の姿を見て絶句した。

その女性は道に這いつくばっていた。衣服も来ていない。這った際に怪我したのだろうか、全身血だらけで泥まみれ、埃まみれだった。

だが、一番特徴的だったのは、その女性には、四肢が無かった。手足が4本とも無く、肩の先、太ももが、丸くなっている。

「あ、あんた! 一体何があったんだ」

うつ伏せに叫ぶ、女性に近寄り抱きかかえて起こそうとした時、抱え上げた冒険者は、さらに絶句した。

女性の眼窩がない。まるで癒着したように目が窪んでいて、穴が塞がっている。

「ああ、聞こえない、誰か。助けて、ああ」

うわ言のように繰り返す女性を抱え上げ、男はすぐさま、ギルド本部へ向かった。



冒険者ギルドは、いくつもの役割を持つが、1つに自警団としての役割を持つ。

憲兵と連絡を取り合い、犯罪を防ぐこともギルドの役割となっている。

女を助けたのが冒険者だったこともあり、四肢のない女はギルドへ運ばれた。

医務室に女は運ばれ、夜勤の3名の職員が部屋に集まっていた。

早朝から呼び出されたゴンゲンはすこぶる不機嫌で、女性の悲惨な姿を見て、さらに不機嫌になった。

「なんだ、これは」

女性は、身体が衰弱しきっていた。理由は栄養失調。もう何日も飲まず食わずで過ごしていると言った。

「誰の仕業だ!?」

ゴンゲンが問うと、女は言った。

「ウエジ。ウエジという異世界人です・・・」

「うえじ? 誰か知っているか?」

集まった職員が首を横に振る。



女が這い出てきた家の捜査に、憲兵が4名駆けつけた。凶悪な犯人が潜んでいるかもしれない。

緊張しながら家に入る。ライトの魔法を手から照らしながら、憲兵がそろりと侵入する。

玄関を抜けると暗い室内。廊下を抜け、奥へと進む。

廊下には這いずった跡。女性のものだろう。這い跡を辿る。

部屋が開いていた。

一人がドアから首を伸ばして中を見る。動くものはない。気配はある。

剣を構えて、部屋に突入し、そこで皆絶句した。

氷漬けになった遺体、いや生きているのかどうかも分からない人間が、氷漬けにされていた。狭い部屋に6人の氷柱が、立てられたまま置かれている。

全員、手足が奪われていた。



ギルドの遺体安置所に、6体の氷の柱が運ばれた。

年齢、性別もバラバラ。男性が4人、女性が2人。

調べた結果、全員、まだ生きている。


ゴンゲンが、その氷柱の一つを見て、目を見開いた。

「こ、こいつは?」

ゴンゲンが見つめる先、そこには黒髪の男がいた。

「ヤ、ヤマモト、・・・・タツヤ?」

クロガネ達と同行させた異世界人、タツヤ=ヤマモトが、氷漬けになっている。

これは一体どういう事だ。

鑑定は入念に行った。それを掻い潜った? では、今、クロガネに同行しているいるタツヤ=ヤマモトは一体、誰だ?

さっきの女が言ったウエジ? ウエジと言う奴がなりすましている?

ゴンゲンは、嫌な予感がした。

ゴンゲンの予感が当たるように、その時、駆け込んできた職員が告げた。

「モーゼルさんが、死んだとの連絡が・・・それと」

それと?

「ガードナーに第一魔王軍の攻撃です。未明に侵攻が始まったと・・・」

ゴンゲンは目を見開いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ガードナーの街、殲滅砲塔レイアースの死角方向、海とは反対側に、その巨体が現れたのは、丁度、モーゼルが死んだ夜の遅く、ナミートの街で女性が発見される少し前だった。


最初、空が暗くなった。

夜の星が雲にでも隠れただけかと思われた。

空の闇は、すぐに消え、星明かりが戻った。


ガードナー近隣。

魔法砲塔の衛兵が、黒い巨体が近づくのに気づいたのは、まずはその足音だった。

ズーンという音と、メキメキという木を砕く音が、遠くから聞こえてきた。何の音かは不明だった。


それに最初に気づいたのは、ガードナーに最も近い駐屯所の野営で見張りをする衛兵で、最初は空耳かと思うほどの小さな音だった。


しかし、一定の間隔で音が続き、少しづつ大きくなってくる。

魔法砲塔砦の屋上。森の方を見ながら、星と月の光に照らされた木々の影の中に、何か、巨大な人型の動きを見た。


そして、次の瞬間、目を見開いた。


大きくなる音、まるでガードナーの城壁の高さほどある巨大な人影が、3体、こちらに近づいてくる。

ギャーギャーと、夜の森から飛び立つ鳥達。メキメキという倒木の音。


見張りの衛兵は大声で叫んだ。

「敵襲! 総員、緊急体勢! ガードナーへ至急連絡を! 繰り返す、総員緊急体勢! 敵襲! 敵襲ゥ!!!」


どんどん大きくなる足音。ズーーーン、ズーーーーン。


衛兵は届かないと思いつつ、銃を構えて撃った。魔法銃の先端が赤く輝き、炎の魔法が直線的に打ち出される。ほぼ直線に進みながら、弾丸ま森の手前で着弾した。木々が燃える。

巨大な足が、その炎を踏み潰し、どんどん近づいてくる。


それは、巨大な影が、躊躇なく行進してくる。


「敵襲! 敵襲!」

衛兵は叫びながら、銃を撃った。


寝ぼけ眼で、見張り塔へ登ってきた仲間が、巨大な影を見て、一気に目を覚ます。

駐屯地には、今3名の衛兵が居て、あと一人は通信係。この2人で対抗するには、敵は巨大すぎる。


「撤退だ、撤退!」

すぐさま、判断する。


見張り塔を降り、ガードナーの方へ走って逃げる。


通信係も、追いついてきて、3人で街道へと並走する。


走りながら3人は、駐屯所の砦が踏み潰される音を聞いた。


振り返ることもできずに、必死で走り、岩のくぼみを見つけ、そこへ飛び込んだ。


窪みの上に巨大な黒い足が覆いかぶさり、3人の上に、パラパラと砂が落ちてくる。


まるで自分たちが虫けらになったような気がして、3人は、生きた心地がしなかった。

だが、災難はそれで終わりではなかった。


ゆっくりくぼみから立ち上がると、遠くから違う足音が聞こえる。暗闇の中・・・、目をこらすと、見渡す限りびっしりと、人影が見えた。


それは亡者の軍勢。


3人の衛兵は、またもや逃げ出す羽目になった。巨人の後を追うように、ガードナーへ向かって。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


王の元へ、その知らせが伝えられたのは、夜明け前のことだった。

時刻は丁度、ゴンゲンがギルドに呼ばれた頃と近い。


敵の急襲に備えて、指揮系統は整理したはずだが、それでも突然の襲撃に、現場は混乱していた。


寝間着のまま、作戦室へとやってきた王を見て、先に集まっていた参謀は、簡潔に事情を説明し始めた。


「王、状況をまとめております。3体のシャドーギガンテスが北東より接近中です。巨人の体長は30メートルほど。レイアースの死角から侵入してきました。巨人の後に大量のシャドーゾンビを確認。ガードナー防衛は準備が整っていますが、周辺の村や街道への影響は甚大です」

王は、顎に手をやり考えた。モーゼル不在を聞き、侵攻を始めたか。しかしどこから? 兵を大量に転送する方法でも開発したというのか?

「モーゼルを呼び寄せることは可能か?」

「いえ、通信が途絶えております。フライドチンキへの個人連絡もつかないようです」

「ゴンゲンは?」

「は、ナミートのギルドへはすでに連絡を入れております。ただ、返事はまだありません」

「防衛状況は?」

「魔導砲門52台にて迎撃中。12台の砲門が破壊されました。1体は沈黙するも、2体は依然、前進を続けております。

 続けて、魔砲兵2千、魔導兵3千が城門にて待機。ライドンギルド長と冒険者の部隊500が遊軍として配備されております。いずれも接敵は行われておりません」


現状、街の防衛施設で対応できてはいる。

しかし、このタイミングは何だ?


通信兵が慌てて声を挟んでくる。

「フライドチンキ隊の消息が判明いたしました。昨夜、ロインの村にて魔族の襲撃にあい、モーゼル殿他、72名が死亡。ロインの村も住人は全滅。現在、ロインの村にて救援を要請中とのことです」


「何!?」


モーゼルが死んだ・・・


まさか。


シール=ド=ガードナー王は、1分ほど呆然とした。


賢明で、判断の早い王が1分。作戦室は沈黙し、永遠に沈黙が続くような気がするほどだった。


長い沈黙の後、声を振り絞るように王が言った。


「悔やむのは後だ。・・・おそらく、こちらは陽動。冒険者の団体を30名ほど、ロインの村へ向かわせてくれ。

街道への通知を徹底、各駐屯地に非常警報。シャドーゾンビを広げないよう、戦線を維持。

魔法兵、砲兵で巨人を無力化。

伝令のリトを各地へ飛ばせ」


リトというのはハトのような鳥で、通信用に使われる使役獣である。

「斥候部隊を3師団ほど結成し、敵軍の発生地を特定させろ。敵は死体を取り込み増殖する。可能な限り被害を出さずに遠距離から殲滅せよ」

王の指示が作戦室に木霊する。


まもなく、夜明け。


モーゼルの死の真実を確かめねばと思いつつ、王は凄まじい喪失感に苛まれていた。


モーゼルの家族へ知らせねば、今後の国防をどのように組み立てるか、友として最後を看取れなかったこと。

思うところは様々だったが、どれも気の重いことばかり。


王は静かに目をつむり、今は眼前の敵へと意識を集中するのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 全部繋がりがあるのか分からんが メアリ情報分析官がすべてお膳立てしてたんだろうな。
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