第70話 やまもとたつやと云う男
〜〜回想〜〜
■ナミートの街を出てすぐの話ーーーー
荷馬車に揺られながら、遠くを見ていると、タツヤが声をかけてきた。
「ガーネさん、これから仲良くしていきましょうね! 僕は地球に戻りたいんです。この旅で、方法が見つかればいいなあ」
と白い歯を見せて笑った。
「そうだなあ。戻るか。俺は、ちょっと無理だなあ」
「え、どうしてです? こんな世界に居ても、漫画も無いし、テレビもネットも無いんですよ。それにご家族が居るって言ってませんでしたか? 心配じゃ無いですか?」
うーん。腹の底が見えん。何が言いたいのだろうか? 俺が心配していないとでも思っているのだろうか?
稚拙という言葉が浮かぶ。同意を強要するような口調。
「・・・俺には、他にやるべきことがあるんだよ。それに、ここも結構気に入ってる」
へえ、と言うタツヤの顔は、少し不満げだった。
■2日目の朝。再び街道にてーーーー
「昨日の訓練、なかなかでしたね。モーゼルさん、強すぎますよね」
「ありゃ、化け物だな。勝てる気がしない」
「普通、僕らみたいな、異世、いや渡ってきた人って普通、チートっていうのかな。もっと活躍すると思うんですよね、定番としては、僕ら弱すぎないですか」
不満顔で言う。
おい、タツヤくんよ。異世界人の話はご法度だ。声を下げれば良いってもんじゃない。
レイアとティアナは、ガールズトーク。エドガーは銃の整備、ローグは目をつぶっている。幸い聞かれてはいないようだが。
「まあ、この世界の奴らは化け物みたいなのが多いな。ゴンゲンのジジイもやばいし、魔族も危険だ。なんとか生きてるが、強い奴が多すぎる」
「ですよねえ。僕はもっと、無双したいんですけどねえ、こう、技とか名前つけて、それで、ハーレムとかむふふ」
「お前、帰るんじゃ無いのか」
そう突っ込むと、はははとごまかした。
■ガードナーを出た後、またまた街道にてーーーー
馬車の上。
「ガーネさんのこれまでの物語を、聞かせてくださいよー」
「・・・ゴンゲンから聞いたんだろう?」
「同郷の人としか聞いて無いですよ。なんかすごいスキルを持ってるとか、お金持ちだとか、ちらほら聞こえてきますけど、本当のところはどうなんですか?」
正直、自分のことをペラペラ話すのは好きでは無い。
それに、これは極秘任務。馬車の上で、身の上を語るほど、お調子者では無い。
こいつは。
「俺の話は禁止だ。山本くん」
あえて苗字で呼ぶと、口を尖らせて黙った。
■ガードナーを出た翌日、またまた街道にてーーーー
休憩中。
「小耳に挟んだんですけど、ガーネさんが持ってるって言うオートマタ、見せてくださいよお」
てか、誰だよ、こいつにその話を伝えたの。
「何の話だ?」
俺はとぼけた。
最近、どうも話が噛み合わない。最初は同郷の者ということで、嬉しかったが、話せば話すほど、会話が合わない。方向性の違い、って奴だろうか。
「逆に聞きたいんだが、なぜ、俺の話を聞きたがる? お前の話を聞かせてくれよ。どうやって生きてきた? お前を助けたという女性冒険者の話は? なぜゴンゲンはお前を選んだ?」
タツヤは、またハハハと笑った。
「いやあ、僕の話なんて、大したことないですよー。それに、前に飲んだ時、話したでしょ? 死にかけたって。辛い思い出なんですよ」
「仮に、俺がオートマタを持っていたとする。で、なぜ、お前に見せなければならない?」
と、直球で聞くと、え? と困惑した顔をした。
「え、同郷だし、助けあわないんですか?」と当然のように言う。
どうも立ち位置が違うらしい。
■ガードナーを出て3日目、馬車の上にてーーーー
タツヤが、レイアと楽しそうに喋っている。
「僕らの世界では、飛行機ってのが飛んでるんですよ。鉄の塊なんですけどね。大きな扇風機を回してね、空を飛ぶんです」
「えー、飛空船と似てるけど、違うの?」
そういえば、この世界にも空飛ぶ乗り物があるとか言ってたな。見たことないけど。
「あとね、テレビって言う遠くのものを見る機械もあるんですよ。すごくないですか」
えーうそ〜、とか、やだーとか。
軽い話だ。
退屈な街道。
って言うか、あいつ、異世界人って公表してたか? なんと言うか、あいつは一体、何なんだ?
■ガードナーを出て4日目、馬車の上にてーーーー
そういえば、タツヤは半年ほど冒険者をしていたと言っていた。
俺も、冒険者活動を少しはしたかったな。なんだろう、モンスターを討伐したり、お使いをこなしたり、レベル上げ、ランクアップ。それはそれで楽しそうだ。
「なあ、タツヤくん。冒険者生活をしてたんだろう。どんなだった?」
「えーっと。どんなと言いますと?」
「いや、ランクとか、好きなクエストとか」
「・・・そうですねえ。クエストねえ。いや、正直、あんまり印象がなくって。ランクも、いつの間にか上がってた、って感じですね。ハハハ」
何とも要領を得ない回答。
誤魔化すような、触れられたくないような。そんな印象を受けた。
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パチパチと言う炎の爆ぜる音。死体と一緒に積み上げた木の枝が、割れる音だろうか。
煙が思ったより多く出て、風向きによって、顔にかかる。人が燃える匂いは独特だった。
少し咳き込む。
タツヤが炎をじっと見たまま、黙っている。
しばらくして、タツヤが口を開いた。
「鉄を自由に変形させてましたね、それがガーネさんの、いやクロガネさんのスキルですね」
「・・・」
「それにあれが、オートマタですか。戦っているところを間近で見ましたけど、すごい戦闘力ですね。正直、羨ましいです」
心がざわざわする。
こいつは、燃える死体を見ながら何を言ってるんだ。
「モーゼルさんは残念でしたね。それでも生き残っただけでも儲けもんだ。もっと生きていることを喜ばなくっちゃ」
そういって、また軽い笑いをした。
次にタツヤが何かを喋れば、俺は奴を殴ったかもしれない。
だが、奴は何も言わずに、遠ざかっていった。
俺は、ただ、燃えていくモーゼルの死体をじっと見ていた。




