第69話 ドクロ☆ライダー再び
音が戻る。ドドドと言う排気音。
何だ? 何が起きている?
ドクロライダーは、いや、ドクロ☆ライダーは、ウィリーし、村へ爆走する。
商隊を襲っている雑魚魔族をその巨大な剣で、まるで金魚すくいでもするかのような気軽さで、ついでとばかりに突き刺しながら駆ける。
森の木々をなぎ倒しながら、駆け抜ける。
俺も慌てて、追う。
隊列の中程でバーナビウスが見えたが、こいつはナイトメアに任せよう。
「ナイトメア、あのデカイのを止めろ。殺しても良い」
俺の声にナイトメアが向かう。
タツヤとレイアはナイトメアを知っている。
ナイトメアがバーナビウスに蹴りを入れた。
俺はそれを見届けて、改めてモーゼルの元へ急ぐ。
モーゼルを助け、体勢を立て直す。
俺はそのことしか頭になかった。
ドクロ☆ライダーが味方してくれている。
勝てるかもしれないと思った。
ドクロ☆ライダーはウィリーしたまま、爆音と爆煙をあげ、村へ突っ込んだ。
巨大な剣を振りかぶり、振り下ろす。
モーゼルにつかみかかられていた、魔族の男は、ドクロ☆ライダーに気づき、対処しようと身構える。
モーゼルを突き放し、刀を向けた。
黒い髪の男がドクロ☆ライダーの一撃を曲がった刀で受け止めた。
「貴様何者だ!」
巨大な剣を受けて地面に足跡を食い込ませて男がずり下がる。あの剣を受け止めるなど、常人ではあり得ない。こいつがあのモーゼルを苦戦させた相手か。
遠くからこっそり鑑定!
ヤ人族。
名前が出ない。奇しくも、モーゼルと同じ種族の男が居た。
モーゼルが語った兄の名。確か、マグナ。こいつがそうか。
黒髪の男の目が光ったと思った次の瞬間、ドクロ☆ライダーの頭が爆発して首がなくなった!
俺は目を見開いた。
あまりの衝撃に、風景がスローモーションのように遅くなる。
ぐらりと崩れるドクロ☆ライダーの巨体。
しかし。
崩れると思われた、巨大なドクロ☆ライダーの胸が開いて、3メートルくらいの大きさの、宇宙戦隊ヒーローのような鉄甲冑が飛び出し、そのままマグナの腕を切った。
が、浅い。断ち切るまではいかない。
搭乗型巨大ロボ!? 本体飛び出した!?
え、本体? 何? 本体が出たの?
銀色に輝く甲冑。細く、すらっとしたフォルム。顔面は強そうな、ガラスのような目と、牙のような装飾。
光るサーベルに左手にはショットガン。
かっこよすぎる。
走りながら近づく。モーゼルまであと少し。
どちらも強すぎて近寄れない。俺は、慌てて立ち止まる。
地面に伏せるモーゼルを助けたいが、踏み込む隙がない。くそっ。できることといえば。せめて。
鑑定!
ドクロ☆ライダーMKⅡ
ど、ドクロ ライダー ま、マーク ツゥー?
二人の剣戟が始まった。
全く見えない。集中力を高め、ゾーンに突入しても、見えない。
速い。早すぎる。火花が散るが、手すら消えている。
なんだこれ、ヘカトンケイルぶりの登場かと思えば、力押しではなく、技巧を見せつける。
「ぐ、強い。これほどのものが、人間に与するのか」
マグナが叫んだ直後、袈裟懸けにマグナの胸が切り裂かれた。
その時、モーゼルの叫び声がした。
モーゼルが立ち上がり、頭を半分失ったままの状態でマグナに掴みかかったのだ。
この時、俺は初めてモーゼルの状態に気づいた。モーゼルがすでに致命傷を負っていることに。
頭が弾け、血まみれになっている。
ドクロ☆ライダーに気を取られていたマグナは、隙を見せた。
「貴様、まだ生きているとは、しぶといぞ!」
曲がった刀で、モーゼルの足を切ろうとするマグナ。
次に首に刃を押し当て、ねじり切ろうとした。
流れる血、モーゼルが構わず再度、マグナの首に噛み付いた。
「うがああ! 死に損ないが!」
貴様、貴様、貴様。
うわ言のようにマグナが叫び、モーゼルが切り刻まれていく。
ドクロ☆ライダーは、その様子をじっと見ている。加勢する様子もない。モーゼルを助ける様子もない。
「モーゼル!」
俺は叫んだ。
このままではモーゼルは死ぬ!
俺は慌てて鞄の中からエリクサーを出した。どんな傷でも治るこの薬なら。
モーゼル、もう少し待て!
俺は、意を決して、バケモノ達の戦いの中に飛び込もうとした。
その瞬間だった。
ドクロ☆ライダーが、モーゼルを後ろから貫いた。
マグナの体ごと・・・。
目を見開くマグナ。
そしてモーゼルの体から、剣を振り抜き、そのまま、抜いた剣を再度マグナに突き立てた。
「うぐ、コアが」
バキンという音とともに血を吐くマグナ。
だが、それだけでは無かった。
ドクロ☆ライダーは、倒れそうになるモーゼルの傷口に手を突っ込み、心臓を抜き出した。
流れるような動作で、何の躊躇もなかった。
口から血を吐き、瞳の色を無くすモーゼル。
!!!!
俺の衝撃は、精神の限界を超えた。
味方じゃないのか、この野郎!
うわあああ。俺は吠えた。
鉄を突き刺し、殺してやる!
顔面にべちゃりと当たる。モーゼルの心臓が投げつけられた。
目を開くと、ドクロ☆ライダーは跡形もなく消えていた。
一瞬の戸惑い。
だが、やるべきことは。
モーゼルに駆け寄り、心臓を戻そうとする。
エリクサーの瓶を強引に開け、モーゼルに振掛ける。
モーゼルの手が、俺の手を掴み、制止した。
「無駄だ。俺は死ぬ」
ごふ、と血を吐いた。
俺は、叫ぶ。
「クッソおおお。死ぬな、モーゼル。奥さんは、息子は」
俺の問いかけに、モーゼルは中空を見て返した。
「思えば」
モーゼルはまた血を吐いた。
「俺は、人を育てたことが無かった。それだけが悔いだった。最後にお前に少しだが教えることができて良かったと思っている」
血を吐き出しながら喋るモーゼルを見ていられない。目から涙がボトボト溢れて止められない。
「死ぬな。大丈夫だ。死ぬな、死なせない」
俺は、エンシエントポーションの蓋をあけ、モーゼルの体にふりかけた。
しかし、傷が塞がる様子がない。どう言うことだ。
頭を吹き飛ばされ、心臓をくり抜かれ、喋れることが奇跡だ。
「息子を、息子を頼んだぞ。クロガ・・・・」
完全に瞳孔が開いた。
あのモーゼルが死んだ。
「ぐ、なんだこの有様は・・・。き、貴様は。 コアが壊された。くそ」
マグナがよろけながら、立ち上がってきた。
グフ、と血を吐き、膝をついた。
コアを砕かれまだ動くとは、こいつは。それに、疑問に思わなかったが、コア? こいつは、モーゼルと同じヤ人族のはず。なぜ、コアがある?
と、思った瞬間だった。
背後の地鳴りに気づかず、俺は吹き飛ばされた。
飛ばされながら、空中から見ると、俺を吹き飛ばしたのは、バーナビウスだった。
紫の血を流しながら、両脇にボーゲンの遺体を抱え、バーナビウスが俺を吹き飛ばしたのだ。
「マグナ、これ以上は無理だ。ボーゲンが、ボーゲンがやられた」
バーナビウスが弱気な声で叫ぶ。
吹き飛ばされながらも、続くマグナの声もはっきり聞こえた。
「・・・撤収だ・・・貴様、この屈辱は忘れんぞ。あのドクロの騎士にも伝えておけ!」
俺の視界が捉えた最後、紫の霧に沈む、魔族の姿だった。
俺は吹き飛ばされながら、奴らの声を聞いた。
這い蹲り、動かない体で、俺は誓う。
ああ、覚えておけ、モーゼルの仇はいつか必ず。
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危機は去り、完全に日が暮れる。
誰もが呆然としていた。
レイアだけが、忙しなく行き来をしている。
回復術師が全て死んだという。
ナイトメアが残骸を拾い、死体を運ぶ作業を続けている。
商隊は、旅を続けることが不可能なほど、損失を出していた。
うなだれる冒険者たち。
何よりモーゼルを失った心許なさが、商隊を包んでいた。
フライドチンキは生き延びたようで、全員を村の中まで導くと、意気消沈するメンツに声をかけた。
「これは、予想外ね・・・。残りの人数は?」
「35人です」
「うち護衛は?」
「7名」
大損害であった。
不幸中の幸いか、隼の魁、レイアとタツヤは無事だ。俺を含めると6名。あと一人以外は、護衛が全て死んだことになる。めちゃくちゃな損失だ。
満身創痍のフライドチンキが、か細い声で言う。 ところどころ聞き取りずらかった。
「ガードナーに連絡を入れたから、ここで待機しましょう。・・・外は危険よ。一旦計画を練り直します。各自建物に入り、自衛すること。護衛のみんなも疲れているところ悪いけれど、交代で見張りをお願いするわね」
夜になり、死体を村の中央に集め、火をつけて燃やした。死体を操る魔物や、霊が取り付きゾンビ化することもある。この世界では、死体を放置することは危険なのだ。
モーゼルの亡骸も積み上げられた死体の中で燃えている。モーゼルの形見として、頭髪の一部と、国宝のアンバーナックルと、ドクロライダーが投げてよこした心臓をカバンにしまう。
そして、あの日、あの酒場で、モーゼルが見せてくれたペンダント・・・。これは、必ず家族に返そう。俺は、ペンダントを首にかけた。
なぜ、ドクロライダーは、心臓を投げて寄越したのか。なぜ、モーゼルを殺したのか。
俺の頭はぐちゃぐちゃだった。
ドクロライダーは、ヘカトンケイルの敵対者ではないのか? なぜ、ここで現れた? なぜ俺を助ける? なぜモーゼルを殺した?
疑問が尽きない。
だが、そんなことを考えている心の余裕は無かった。
死ぬと聞かされていながら、俺は、モーゼルが死ぬことが想像できていなかった。理解できていなかった。半信半疑だった。
モーゼルの最後の顔が浮かぶ。俺はモーゼルを救えなかった。
くそ、俺は弱い。俺が強ければ、モーゼルを救えたはずなのに。
ボーゲンは強かった・・・
女神のコンテナなしの俺では、全く歯が立たなかった。多少強くなったと自惚れていた。
あのクラスの敵が、ゲリラ的に進軍してくること自体が、そもそも恐ろしすぎる。
異世界の転移術は、戦略を覆す。
国境とはいえ、敵の最大戦力にやすやすと侵入された事態は、どう考えれば良いのか。
モーゼルが死に。他にも70名近い死者が出た。
次にもう一度マグナが襲ってきたとき、誰が止められるというのか。
理不尽すぎる。
これがこの世界の現実なのか。
強者が蹂躙する世界なのか。
あまりに理不尽ではないか。
俺は怒っていた。
そして、全てを見失おうとしていた。
この怒りはどこにぶつければ良いのか。全く見当もつかない。
知識の書を開き、調べる。誰がモーゼルを殺したのかを。
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マグナ=ビッグズ
元ヤ人族 通称 瞬殺のマグナリア 危険度SSSS 食用(自重)
第二魔王軍の最高戦力。第一の魔将軍。ヤ人族固有の戦闘力と、魔技抜刀術を組み合わせ、その破壊力は何者も寄せ付けない。ヤ人族最後の生き残りの一人。
育ちの親をも恨み、人類を恨み、その果てに魔人となる。口下手で常に目を閉じるが、その瞳を見たものは誰一人生き残っていない。
スキル 不明 種族特性 内燃
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安定のSSSS。二人目だ。スキルは不明ときた。
次は、あいつだ。
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ドクロ☆ライダーMKⅡ
種族 謎 危険度 謎 食用 謎
謎の正義のドクロ☆ライダーの中の人。
剣が得意。強い。
他は内緒♡
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俺は知識の書を地面に叩きつけた。真面目に破いてやろうかと思った。中の人?
ふざけるな。
ギャグパートは通じない。モーゼルにとどめを刺したのは、こいつだ。
俺は頭を掻きむしった。
しばらく広場で燃える死体の山を見て呆然としていたら、横に人が座った。
タツヤだった。
「モーゼルさん、残念でしたね」
炎に照らされて、タツヤの顔が赤く照らされている。
「・・・・ああ」
と、俺は短く声を返した。
正直、誰とも話したくは無かった。
「僕でよかったら話を聞きますよ」
脳裏に第三の魔王の最後の言葉が浮かぶ。
――あの人には気をつけたほうが良いですよ――
俺は、誰を信じれば良いのだろうか。




