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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第二部  鉄の勇者、大陸をゆく
67/214

第65話 盗賊団の最後

ペロン峡谷は、夏を過ぎ、秋色の風が吹き始めていた。

標高1000メートル級の山が立ち並ぶこの地の、谷間を縫うような道。

これが、湾岸街道の最難所。ペロンの七曲りである。


ペロン峡谷を抜けた先には、ロインという小さな村があり、そこまでは宿らしい宿もない。夜更けとなれば、獣も多く出るため、8時間の工程を要するこの道は、日が昇っているうちに抜ける必要がある。


望遠鏡を片手に、男は街道を見張っていた。

ヤケクソの団の頭領、レル=ザッズだった。

間も無く、商隊がここを通る。

手はずは整っていた。

モーゼルは遠ざけた。どのみち、戻るまでは2日はかかる。

その間に、商隊はここを通る。通らざるを得ない。

商隊というのはそういうものだ。いくら強いとはいえ、護衛モーゼル一人の都合で動くものではない。


遠くに砂煙が見えた。商隊の列が見えた。

あと半刻もしないうちに、罠の下を通る。


順調であった。


レル=ザッズは、その長い前髪の奥にある恨みがましい瞳で、望遠鏡を覗き込んだまま、動かない。

手はずは整い、いよいよ、とばかり右手を挙げた。


横の手下が、鏡を反射させて合図を送る。


岩場が崩れて、石が落ちる。はずが、全く落ちない。

なんだ、何があった。誰がしくじった?


どさり、という音がして、レル=ザッズが振り返ると、鏡を持った手下が倒れていた。


強烈な殺気に、脇目もふらず、レル=ザッズは飛び降りた。

高さ30メートルはある崖の上から。


「逃すかよ。お前が頭か」

相手も化け物。モーゼルだった。


レルは目を見開く。ワカメのようなその髪の奥で、小さな瞳が見開かれた。

腹部に衝撃を受けて、落ちながら吹き飛ぶ。


血を吐きながら、崖に背を打ち付け、そのままバウンドして岩に激突した。

うう、と唸りながら、立ち上がるレル=ザッズ。


まさかここでモーゼルが出てくるとは。

なぜ、足止めができていない。


じゃりという砂を噛む音で見上げると、モーゼルが居た。

「お前の部下が全て吐いた。お前の部下たちも、粗方、俺たちが片付けた。お前は、終わりだ。俺の家族に手を出した時点でな」


くそ、くそ、くそ。

間抜けが。

しくじったのは、どこのどいつだ!

許さねええ。許さねえ。


実のところ、お互いに知らないが、レル=ザッズとモーゼル=ビッグズは、境遇が似ていた。


モーゼルには愛された記憶があり、レルにはなかった。

モーゼルには愛する人ができ、レルにはできなかった。


にじり寄るモーゼルから這いずり逃げるレル=ザッズ。

よだれを撒き散らしながら、レルが吠えた。


懐からナイフを取り出すと、痛む腹を抱えながら、モーゼルに構える。

「勝てるとでも」

モーゼルが言う。


「竜をも殺す、オニジギタリスの毒だ。傷の一つくらいつけることはできる」

数あるレルのスキルの一つは、ナイフ術。


Aランクの冒険者とやりあっても、遜色はない腕を持つ。

だが相手は、Sを超える超戦力。正面切って戦う気などない。


モーゼルにしてみれば、相手の動きなどハエが止まるほど遅い。

毒が塗られていようが、避けるまでもない。そもそもあの程度のナイフが刺さるはずなどない。


そう思って見ていると、レルが分身した。

2人が3人に、3人が4人に。統合し、分裂し、本体が分からない。

「大道芸か」

モーゼルが分身を叩くと、ボフンと音がして、墨のような煙が爆発した。


く。なんだこれは。

「モーゼル!」

クロガネが、近寄ってきたのはその時だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ほぼ全員に近い盗賊を、ワイヤーで縛り、モーゼルに加勢しようと向かうと、俺の見ている前でナイフを出した敵が分裂した。

モーゼルが、その1体を殴ると、そいつが爆発したのが見えた。


「モーゼル!」

俺が叫ぶと、モーゼルは煙の中で手をジタバタして、叫び返した。

「来るな、こいつは」


毒だ!

モーゼルが叫ぶと同時に、分身がこちらに襲いかかってきた。

身体強化を極限まで高め、ゾーンへ入る。


操鉄術を展開。


高速で槍を錬成し、分身へ突き刺す。


思えば、対人の殺し合いは、これが初めてだ。


覚悟は十分。

殺さなければ殺される。


槍が貫いた体が、爆発する。黒い煙。


俺は、慌てず巨大な扇風機を錬成し、煙を吹き飛ばす。


「な!?」

敵の大将が驚いて声をあげた。


お前か。

声の主に向けて槍を集中させる。


敵もさる者。ナイフでいなしながら、避けていく。

海藻のような髪の毛で、よく見えるものだと感心する。


次の瞬間、横から飛んできた盗賊の横腹にモーゼルの拳が突き刺さった。


「ぐえええ」と血を吐きながら、盗賊の大将が吹き飛ばされる。


狭い足場。


飛ばされた盗賊の頭領は、そのまま中空へ。

うわあああと断末魔をあげて、崖から落ちた。


ぐしゃり、岩にぶつかったと音がした。


モーゼルと顔を見合わせた。

「どうする?」


逃すと厄介だ。

崖下に降りて、死んだかどうかを確認する。


数十メートル下。崖を降ったが、死体はさらに下。


岩場から覗き込むと、崖下に男が頭をスイカのように破裂させて倒れていた。

間違いなく、死んでいる。


おっと。甘いことは止めよう。


名前を鑑定。レル=ザッズ。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

レル=ザッズ

通称 頭領 危険度S 戦闘力S

ガードナーのスラム出身の元難民。盗賊ヤケクソの団団長。ヨーラス大陸からの難民で、スラム街で育つ。幼少の頃から犯罪を繰り返し、今に至る。数十名の部下とともにヤケクソの団を結成。ペロン渓谷にて、モーゼルにより崖下に突き落とされ死亡。

スキル 秘匿

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間違いなく死んでいるようだ。スキルが気になる。


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スキル 秘匿

スキルを秘匿するスキル。神眼以外のあらゆる鑑定を妨げる。

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


スキルが分からない。が、死んだ以上は、警戒することもないだろう。

「どうだ? 俺は死んでいると見た」

モーゼルが聞く。

「鑑定したが、死んでいる。近くに寄るか? 遺体は回収するか?」

モーゼルが首を振る。

「ここで鳥にでも食わせれば良い」

と言った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ペロン渓谷には、カラスに似た鳥が多く住む。羽根はコウモリのようで、クチバシはハチドリのように尖っている。蛇行して飛行し、直線的に下降してその尖ったクチバシで、獲物を刺す。


死体を好んで食うことから、黒死鳥と呼ばれる不吉な鳥だ。

数匹の黒死鳥が、レル=ザッズの死体に群がっていた。

目玉をほじくり、はみ出た脳みそをついばむ。


ぎゃーと鳥が吠えた。死体の手が、鳥を掴んだのだ。

他の鳥が慌てて逃げる。


死んだはずのレル=ザッズ。その裂けた口が、鳥を飲み込んで、砕いた。

見る間に、修復される顔面頭蓋。

「痛いし、このスキルは嫌いだぜ」

ぼやくように死体だったものが言う。

ふうと大きく息をついた。


レル=ザッズの持つ複数のスキルの中で、最も強力なその名は「残機」。

殺した人の数だけ、復活できると言う壊れスキルであった。

ちなみに、レル=ザッズ本人もあと何機残っているか知らない。天井がなければ3桁。いや4桁は残機があるはずだ。

だが、ただ痛い。しかも服が汚れる。


首をコキコキと振りながら、レル=ザッズは立ち上がり、歩き出した。

盗賊団は壊滅したが、彼にはもうどうでも良かった。


生きるすべはいくらでも知っているし、乱世、何人殺そうとも、大したことはない。

レル=ザッズしか知らない隠し倉庫がある。そこには、数年は遊べるだけの財産が眠っている。まずは、そこで預金を下ろして、次の街へ行こう。


首をコキコキしながら、彼は消えた。


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