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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第二部  鉄の勇者、大陸をゆく
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第64話 モーゼル 結婚する

モーゼルは、この時、29歳になっていた。


ヨーラス大陸、クリスティンの街からは離れ、ガーランポの街。A級冒険者の身分を隠して適当な仕事をする。

相変わらず、ちょろい仕事をこなし、換金する。その日暮らし。金は酒代に消える。


モーゼル にとってCランク程度の魔物など、雑魚に等しかった。

巨大なイノシシを担いで、街へ帰る。


面倒な依頼は断る。

人を避け、いつも鬱陶しそうにしていた。


そんな時だった。いつものように酒をあおっていると。

「モーゼルさんですね。探してきました」

育ちの良さそうな男だと思った。

田舎育ちの野生児の自分とは、何かが違う。


「・・・」


「ヤ人族の生き残り。あなたにお願いがあるんです」

青年はそう言って笑った。


ヤ人族であることは、伏せていた。


誰も知らない街。力を抑えて活動する分には、バレなかった。


かつて、捕らえられ、牢獄に入れられたことを思い出した。

殺すべきか。

そんな考えも一瞬、頭に浮かんだ。


殺気が漏れただろうが、青年は構わずいう。

「僕の国を守ってもらえませんか」

屈託のない表情の青年。


僕の国という言葉が気になった。

「国、だと?」

モーゼルが青年を睨みつける。


ガードナーという国は、もちろん知っていた。

ヨーラスに渡る時、フォレンからガードナーを通り、シーワルドへ抜けた。


シールは、その国の王子だという。王子が、大陸を渡り、一人で旅をするなど、信じられなかった。

ホラ話だと思った。


「なぜ、俺を」

苦渋の顔で聞くモーゼル。

モーゼルは、拠り所がなかった。

孤独であった。


「僕は、もうすぐ暗殺されるかもしれません。でも、味方も少ない。どうせ殺されるなら、賭けに出ようと思ったんです。そんな時、ある人が教えてくれました。ヤ人族の生き残りが、ヨーラスのどこかに居ると。僕は、あなたに会いに来たんです」

こうして、モーゼルはシールと出会った。


この時、モーゼルのことをシールに教えたのは、他ならぬゴンゲン。同門のモーゼルが、必ずやシールの助けになると思ったとゴンゲンは後に語ったことがある。


シールはしつこかった。モーゼルが脅そうと、スカそうと、諦めない。

ある日、シールが襲われた。モーゼルはそれを助けた。

やがて、モーゼルが根負けし、ガードナーへ同行することを決めた。


モーゼルの仕事は、シールの側にいることだけ。ただ、それだけだった。帰路も襲い来る暗殺集団。

全てを返り討ちにし、二人はガードナーへ戻った。


その5年後。

シールの対抗勢力、いとこの悪事が明るみに出て、王位はシールが継ぐことになった。シール32歳のこと。モーゼルは34歳。

こうして、シール=ド=ガードナーが国王として即位した。シールは全幅の信頼をモーゼルに寄せた。身寄りがないモーゼルはその信頼が得がたいものであると感じていた。

シールはモーゼルを恐れることがない。力に屈することがない前向きな男だった。

二人はお互いを必要としていた。


シールが即位し、周りに近衛が置かれると、日常の警護は不要となった。モーゼルは、少し寂しく思いつつも、王宮を離れた。

王宮は窮屈で、モーゼルには合わなかった。シールの身の危険があったからこそ傍にいたが、王となった今、モーゼルは不要と自ら知っていた。


モーゼルは、ガードナーの冒険者となった。


そして、2人目の運命の出会いがあった。

それがジェニファーである。


「うーん、可愛い顔ですね」

やたらベタベタしてくる女がいた。


年齢は18歳だという。聞いてもいないのに、いろいろ話してきた。

冒険者になったばかりの新人。うっとおしい女だと思っていた。


「なぜ、つきまとう」

モーゼルがすげなく聞くと「えへへ」と笑ってごまかす。

「ねえ、パーティーを組んでくださいよー、ねえ」

としつこい。


ベテランのモーゼルは、新人の女になど合わせられない。足手まといだ。

そう思い、一つ、試すことにした。

「俺に一発でも当てることができれば、組んでやっても良い」

しつこさに負けた形で、モーゼルは言った。


広い荒野で向かい合う二人。

さあこいとモーゼルが言った瞬間、抱きつかれていた。

凄まじい速さだった。


「えへへ。パーティメンバーゲットー」


「ぐ、貴様。今のは油断だ。次は本気で行く」

男のプライドが。ヤ人族のプライドが。ベテラン冒険者のプライドが。


久々に内燃を使い、本気を出す。


しかし、次の瞬間、女は懐に潜り込んできた。ゼロ距離からの掌底。正確に顎を狙ってくる。


「陰陽水影拳、免許皆伝。ジェニファー・ランド・リー。参ります!」



少女は、天才であった。

モーゼルは、兄と師範以外で、それも女に、人生で初めて負けた。


ジェニファーが極めた陰陽水影拳は、モーゼルが修めた大極龍拳とは対をなす拳法である。

相性が悪い。

大極龍拳が力と剛を極めた拳法。

陰陽水影拳は速さと柔を極めた拳法。

相手が強ければ強いほど、強さをますのが陰陽水影拳だった。


モーゼルは、手首を極められ、投げられ、自身の力をそのまま利用され投げ飛ばされ、何度やっても叶わなかった。


こうしてモーゼルは、ジェニファーとコンビを組むことになった。


結婚を申し込んだのは、24歳になったジェニファーからだった。

ジェニファーの誕生日。モーゼルの子供が欲しい。ジェファーは顔を真っ赤にしてそう言った。


コンビとして6年。モーゼルは40歳になっていた。

ありとあらゆる死地で、背中を預けることができたのは、ジェニファーだけだった。

二人で居れば無敵だった。

時折、兄のことを思い出した。しかし、兄の消息は聞こえてこない。

ジェニファーと出会ってから、何度も葛藤はあった。兄を追わねば。という、強迫観念にも似た焦燥感が。


結婚を申し込まれた時、モーゼルは、兄のことは忘れることにした。

ガードナーに骨を埋める覚悟をした。


ヤ人族の特徴からか、子供が全く生まれなかった。強い種族ゆえ、数は作れないのかもしれない。

ジェニファーは、申し訳なさそうにしたが、モーゼルは気にするなと言った。


待望の子供が生まれたのは、結婚してから6年が過ぎた頃。ジェニファーは30歳になっていた。


幸せだっと、最後にモーゼルは言った。


ガードナーからペロン峡谷まで走りづめ。3時間。

モーゼルの長い話が終わった。


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