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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第二部  鉄の勇者、大陸をゆく
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第58話 動き出す

ガードナーからの出立はあっさりしたもので、以前の様に隊列を組み、順次、街を出た。

モーゼルの家族が見送りに来たとか、王が見送りに来たとかもなく。


街を出て、また街道を行く。


街道は、草原がなだらかに続く。田園地帯の所々に、魔物避けのレンガで囲った農地があり、鎧をまとった衛兵がちらほら見えた。

道のりは安全で、ゆったりとした旅が続く。


3日ほどが過ぎた。


モーゼルの告白は衝撃だったものの、道のりは平和。

モーゼルが言った自身の死ぬと言う予言は、本当のことなのか、不明のまま。


冗談を言う男ではないし、嘘をついて気を引こうなんて小物でもない。

事実として危険があるのだろう。


俺は考え続けた。

だが、答えは出ない。

ずっと気を張るわけにもいかず、いざ、危機になったらできるだけのことはしようと自分に言い聞かせた。


一人で景色を見ていると、ついモーゼルのことを考えてしまう。

それを忘れるためもあり、途中、隼のメンバーと色々な話をした。


出身や、これまでの人生について。魔族の脅威についてどう思うか。

連携についての意見交換、緊急時の対応についての取り決め、近隣の魔物についてのレクチャーなど。

色々な話をした。

ローグは慎重かつ大胆。身軽でリーダシップがある。

エドガーは皮肉屋だが礼儀正しく、正義感がある。

ティアナは、魅力的な女性だが、つかみどころがなく、特に話が合うこともなかった。


訓練は毎日行った。ガードナーを出た夜は、同行メンバーの中でガーダーを行なっているテッキンという男が指南役で加わってくれた。


テッキンは基本的な盾使いの動きを教えてくれた。

テッキンは、ハゲ頭の大男で、冒険者歴20年のベテランだった。


動きは最小限で、どこまで多数の敵を引きつけるか。それがガーダーの奥義だと教えてくれた。

テッキンは、ウォークライというスキルがあり、理性を持たない獣であれば、ほぼ全て、対人であっても前列の6割程度は引きつけられるという。

大声で挑発を繰り返しているとスキルが強化されるそうで、声のデカさが重要だという。


その翌日は、以前、フライドチンキに呼び出される前に出会ったライゼッカが盾の指南を手伝ってくれた。

ライゼッカは、小太りで、頼りなさげだったが、戦闘になると人が違った。


テッキンとは全く違う方法でガーダーを行なっていた。

彼のスキルは魔法障壁で、複数の見えない魔法バリアを展開するもの。

狙ったところに障壁を作り、敵からの被弾を防ぐという戦法だった。


テッキンの集約防御に対して、ライゼッカの拡散防御。ガーダーのスタイルにも色々あることを学んだ。


連日、隼の魁の訓練の後は、モーゼルとレイアの訓練が待っていて、モーゼルとの実戦形式の模擬戦の後、レイアからのデバフ責め。

その後、見張りに立ち、クタクタになって眠る。


寝床はいずれも宿場で、ガードナーに比べると、どこも見劣りする、汗の匂いがする毛布だけの簡素な藁のベッドで、メンバーが密集して眠った。


変わりばえしない護衛の日々。ちょっとした事件が起こったのは、4日目。


オークの大軍が、襲いかかってきた。


50匹ほどの巨体が、森を突き抜け、街道まで走ってきた。

実戦を待ち望んでいた俺は、盾を片手に身構えたが、後衛から炸裂する魔法と、弓による遠隔攻撃で、隊列に近づけたオークは1匹もいなかった。

モーゼルも遠くから腕組みして見ているだけ。


過剰戦力だった。


ゴンゲンが以前言ったように、退屈な旅だというのは過言ではなかったかもしれない。


5日目になり、街道から外れ、少し歩くとお昼前、レブロンの街が見えてきた。


レブロン。


フライドチンキ商隊の当初の予定には立ち寄る予定のなかった宿場。

第三の魔王が指定した街。


さて、この街のどこに第三の魔王がいるのだろうか。


俺は、遠くの町並みを見て、少しばかりの緊張を覚えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


クロガネ一行が、レブロンの街に着く頃、2つの動きがあった。

1つは、盗賊団の動き。

1つは、魔王軍の動きである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ガードナーの街のはずれに怪しげな人影があった。

フードを被った男が二人。物陰から、一人の少年を覗いていた。


少年の名前はリート=ビッグズ。


金髪のやんちゃそうな子供。モーゼルの息子である。

周りを見渡すが、母親の姿は見えない。調べたところによると、モーゼルの嫁のジェニファーも、かつては名うての冒険者で、一説によるとモーゼルよりも強かったという噂がある。


嫁と子供を拐おうと考えたが、調べてみたら、嫁さんには手を出さないほうが良いと判断した。

なので、この3日ほど張り付いて、ガキが一人になるのをじっと待った。

張り込みを初めて4日目。


嫁が家で家事をこなしている間、息子が一人で家の近くの空き地にボールを持って遊びにきていた。

これチャンスとばかり、物陰から様子を伺いながら、焦っていた。


子供とはいえ、化け物・モーゼルの血を引いている。戦力の低い盗賊たちでは、戦えば簡単に負けるだろう。

盗賊は、魔法具をいくつか用意していた。


盗賊の一人が、フードを取り、冒険者風の姿になると、一人で遊んでいるリート少年に近づいていった。

「やあ、坊や。ひとりかい?」


笑顔で近づく。


怪訝そうな顔で、男を見上げるリート少年。

「おじさん、誰?」

ボールを拾い上げ、身構える。


「僕はね、お父さんの友人なんだ。これを渡してくれって頼まれたんだよ」

男はそういって、黒い石のようなものを少年に手渡した。


その瞬間、眩しく光る石。

「え? なに、これ!?」

そう少年が叫んだ次の瞬間には、少年は地面に伏せて眠っていた。


少年に渡されたのは、魔石。罠魔石と呼ばれるアイテムだった。

少年の手から魔石が地面に落ちる。それを男は手袋をした手で拾う。この手袋がなければ男も眠ってしまう。


通りすがりの人々に気づかれる前に、男は少年を麻袋に詰め込んで、裏路地へと消えた。

魔石も少年の入った袋に放り込む。

空き地にはボールだけ取り残された。


夜になっても帰ってこない息子を心配して母親ジェニファーは空き地へ息子を探しにいった。

放置されたボールを見て、息子に何かあったことを悟り、彼女は憲兵へと息子を探すようにお願いした。


すぐさま、モーゼルへと連絡を取ろうとしたが、旅路のモーゼルへは連絡手段がない。少なくとも次の宿場へ着くまでは、連絡ができない。


ジェニファーは元冒険者で、こうした事態に慣れているとはいえ、愛する我が子を拐われたことは一度もないし、自分のこととなると、どうして良いのかわからなくなった。


心のどこかで、モーゼルの息子であるリートの生命力を信じ、その反面、幼い我が子の身に降り注ぐであろう危険に慄いた。


両手を胸の前で合わせ、神に祈る。その手はブルブルと震えていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


森の奥で亜空間の渦が開いた。


紫色の霧と、渦巻く黒い光。


渦は半径2メートルほどの楕円で、その中から最初に腕が出てきた。

あれよと言う間に一人が通り抜け、その後、ぞろぞろと十数名が続いた。


「毎度、気持ち悪くなるな。この移動は」

声をあげたのは、太った男。魔族バーナビウスだった。


バーナビウスの言葉を無視して、冷徹な声で言う。

「ここを通るのは間違い無いのか」

声の主はボーゲンだった。


「・・・・」

無言で周りを見渡す、黒髪の男。男の肌は他の魔族と違い肌色。人類の見た目をしていた。


男の名は、マグナリア。第二魔王軍の最大戦力。瞬殺のマグナリアである。


「ゲヘヘ、マグナリア様が来たからには、全員皆殺しだなあ。ゲヘヘ」

下っ端の魔族が、お世辞を言うかのように、呟いた。


ボーゲンも、マグナリアも、聞こえているが、無視。


「街道沿いに北上することは間違いない。まずは近隣を確認し、近くの集落を掌握し、待ち伏せする。人類に気づかれることなく、ひとまず潜伏行動を行う。明日の夜まで、俺とロクドで偵察を行う。そのほかの者はここで野営待機。近づくものがあれば、殺せ」

ボーゲンはそう言い、ロクドと呼ばれた男を連れて部隊を離れた。


残された魔族たちは訓練通りに、魔法を用いて近くの木々を切り倒し、見張り塔を作り、野営施設を整えていく。

太っちょバーナビウスはつまらなそうに下っ端のケツを蹴り、魔将軍第一位・瞬殺のマグナリアは我関せず遠くを見ていた。


やがてこの道を通り、女神の勇者がくる。


風の魔将軍・ボーゲンは、雪辱を待ちわびていた。


瞬殺のマグナリアは・・・ただ遠くを見ていた。

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