第57話 クロガネに関するガールズトーク
今日の宿となるホテルは、豪華だった。10階建の煌びやかなビル。電気の灯とは異なる魔法で照らされた幻想的な青白いあかりが灯っている。
黒と金色の装飾がエレガントなホテルへ入る。
フロントでホテルの従業員に声をかけ、部屋を確認していると、酔っ払ったレイアが通りかかった。
「おほお、クロガネちゃん! こっちラッシャイ。こっち。のも。のも」
緑の髪が乱れている。すでに結構飲んだ様子。
手を掴まれ、引っ張られる。
フロントの横に小洒落たバーがあった。そこにはティアナが居た。
「お、ガーネくん! こっちよ、一緒に飲もう!」
ティアナは、レイアよりはまだしっかりしている様に見えた。
「・・・一杯だけな」
俺は状況があまり飲み込めていなかったが、どうも2人で飲んでいたらしいことは分かった。バーテンダーに酒を一杯もらう。ウィスキーの様な蒸留酒だった。
「お前ら、酒臭いぞ」
シラフの俺は、思わず顔を顰めてしまう。
「ガールズトークしてるのよ! ちょっと付き合いなさいよお」
「二人は昔から仲良いのか?」
「そうね、たまに飲む、友達よ」
ちなみに、俺は今、もうクタクタ。一瞬でも早く寝たい。
「ちょっとお、せっかくだから座りなさいよ」
ソファーの席に座らされる。
「あんたは、一体、どうなのよ。どっちがタイプよ?」
「はあ?」
唐突な質問に、戸惑う。
レイアは、柔和な印象の女性。だが、今は酒のせいで大トラになっている。
ティアナは、ポニーテールが似合う冒険者で、魔法使い。気の強そうな印象だが、いざとなると気遣いのできる女性。
美女二人に囲まれて、何というか、「あ、これヤバそう」と気づく。
レイアが肩を組んできて、「ねえ、あんた童貞?」と聞いてくる。
はあ? 俺は子持ちだぞ。ドドドドーテーちゃうわ。
つうか、キャラ変わってない?
酒に飲まれるタイプだなこれ。
て言うか、レイアお前、俺が異世界人で、子供が居ることも知ってるだろうに。
「おい、レイア。飲み過ぎじゃないのか」
「いいのよー。今日は、いいのよー。ガードナーくらいしか、もう飲めないんだから〜」
レイアが手のひらをふる。
ちょっと変な恋バナに付き合わされる前に話を変えたい。
あ、そうだ、もしかしたらこいつら知っているかな。
「さっきな、トキミとか言う婆さんに出会ったんだが、なんか、本人は有名人とか言ってたけれど。お前ら知ってる?」
えええ!? と言って身を乗り出してくる二人。
「マジで? トキミさんに会えたの? っていうか、今、この街にいるの?」
急に慌て出す2人。
「何だよ? そのリアクション」
「トキミさんに占ってもらえるなんて、すごいことよ。普段は予約で3年待ちとか。占い場は、魔法学園都市にあるけど、たまに放浪して神出鬼没。占いは百発百中。絶対に当たるっていう人よ。まじ、探してこようかな」
「やめとけよ、どっか消えたよ」
「チェ、残念」
ティアナが口を尖らせて悔しそうな顔をした。
「これ、1千万で買った」
カツオブシを見せる。
「なにそれ? 汚い枝ね」
「カツオブシ」
「カツ ? オ ブシ? 聞いたことないわ」
この世界にカツオブシは無いのだろうか。
「まあ、でもトキミさんが言うのなら、1千万でも安いかもね。多分。おそらく」
ティアナが自信なさげに言う。
レイアがあくびをして、ソファーに横になる。
一刻も早く逃げたい。
「そうか、じゃあ、まあ、大事にしまっておく。じゃあ、俺はもう疲れたから、眠るわ。おやすみ」
強引にそう言って俺は立ち上がった。
「ええ! もう帰るのぉ」
とレイアが寝言の様に言うが、無視。酒を飲み干して空のグラスをテーブルに置く。
じゃあな。
再びフロントで、部屋を聞き鍵を受け取る。
悪い目をしてレイアが起き上がる。
「ちょっと、せっかく美女が誘ってるのに、朴念仁ね、あいつ」
悪い目をしてティアナが返事をする。
「ほんとよね」
ぐいっとグラスを開けるレイア。
「で、結局、だれが良いのよ?」
「ガーネくんが一番マシなんだけど、脈がなさそうなのよねー」
「ローグは?」
「ローグねえ。どうもメンバーは、兄弟みたいに感じちゃって。もう2年になるし」
「じゃあ、エドガーも?」
「そうねえ。あの人、貴族の出だから、ちょっと感覚、あわないのよね」
ティアナがひらひらと手を振る。
「ガーネくん、かっこいいと思うんだけどなあ」
「タイプ?」
「タイプ」
二人できゃーとか言う。
「でも、奴は、無理ね。女に興味ないんじゃないかしら」
「ちょっと背負いすぎな感じよね。ねえ、彼、正体はなんなの?」
「言えない。それは言えない」
酔っ払った赤い顔をプルプル振る。
「・・・。相当ね。じゃあ、聞かないわ。でもすごく興味があるわ」
ティアナが知らされているのは、ガーネが南の大陸の貴族の息子で、特使として水都を目指していると言う作り話。
薄々、他の事情もあるだろうことは気づいているが、冒険者たるもの、首を突っ込んで良いことと悪いことの分別はつく。
仮初めのメンバーとは言え、膨大な魔力を持つ年頃のミステリアスな異性。
黒髪で、柔和な笑顔。物知らずの様で、強い芯を感じさせる赤い瞳。
昨日の模擬戦では、モーゼルの攻撃を防ぎ、即席ながらもパーティの動きについてくる。
只者ではない雰囲気と、謎めいた経歴。
1千万のガラクタを即断で購入する金銭感覚も。
ティアナは気になって仕方ない。
「まあ、でも、あれは無理ね。女に興味ないわ、絶対」
「そうね」
レイアの言葉にティアナがうなづく。なんと言うか、心に決めた人がいるのもなんとなく感じられた。
「まだ会ったばかりだし。まだ1ヶ月近く一緒にいるんだし、モーションかけてみようかな。ダメもとで」
「マジで? じゃあ、陰ながら応援するわ。頑張ってね。ローグ、泣くんじゃない」
レイアがイタズラに笑った。ティアナが「なんで?」と言った。
知っているのか、知らないのか。
「明日から、また埃まみれかと思うと、気が滅入るわ。今日は、綺麗なベッドでしっかり寝ましょうか」




