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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第二部  鉄の勇者、大陸をゆく
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第56話 トキミのババア

5キロほどの道は、行きは一瞬、帰りは時間が掛かった。

俺がもう限界だった。走れないほどに。


街の外ということで、モーゼルが俺に付き添ってくれた。

特に会話はなかった。


モーゼルが死ぬということに実感が持てず、モーゼルの誇りを大切にはしたいが、死んでほしく無いと思った。


モーゼルはもともと口数が少ない。

不要なことは喋らない男。


モーゼルの死期については誰にも言うなと言われた。

モーゼルは、自分が死ぬことを誰にも言っていないと言った。


色々と問題がある。

モーゼルは仮にも、ガードナーの最高戦力と言われた男。


そんな男が死ぬことがわかっていて、誰にも言わないと言うのはどうなのだろうかと思う。


王には、奥さんには、息子には、ゴンゲンには。


誰にも言わず俺にだけ言う。あり得ない! 俺にだけ重荷を背負わせるつもりか。


無責任だ。そう責めようとする気持ちも少しあったが、少し冷静に考えて、考えを変えた。


モーゼルにはモーゼルの、戦いに明け暮れた男の、思うところがあったのだろう。

モーゼルがいなくても、国は、人々は生きていかねばならない。

誰が死のうと、生きようと、安全な国、安全な社会を作ることは、生きているものの責任なのだ。


俺にはそう納得するしかなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


30分ほどして街にようやくたどり着いた。

門番もモーゼルのことは勿論知っているから、顔パス。


「ここからはもう安全だろう。一人で帰るが良い。ここをまっすぐだ」

モーゼルは通りを指差した。


「ああ、モーゼル、ありがとう。あ、あとその。死なない方法は・・」


「言うな。誇りが穢れる」


モーゼルは有無を言わせぬ口調で俺の言葉を遮った。

ではな。と短く言い、また飛び上がった。


呆然としたが、気をとりなおしてホテルへ戻ろうと思った。

ホテルの名前は、確か、ロテルガードナーエンペリオン。


同じような建物が並ぶ通りを、とぼとぼ歩く。


夜中ということもあり、人影もまばらで、薄暗い街灯の道は寂しげだ。

5分くらい歩いたところで、ろうそくの灯りが目に入った。


老婆が道端で、椅子に座っている。


占い師のようだ。

通り過ぎようとすると、呼び止められた。


「そこの」


無視しようとしたが。

「クロガネとやら、座られい」

名前を呼ばれた。


フードを被ったシワシワのばあさん。小さい机に水晶玉。見るに胡散臭い。

「ばあさん、俺の名前を鑑定したか?」

俺は警戒しながら聞いた。


「わしが見るのは未来。鑑定なぞせんわ。お主のあまりの運命力が、周囲を巻き込んでおる。ここでワシに会うのも運命じゃ。全てが運命。運命は無二。願おうとも、他人にはなれぬ様に、運命も変えられぬ。変えられるのは未来だけじゃ」

聞いた風なことを言う。


シワシワの手を伸ばして、招く。

「ここに座れ。金にも困っておらんじゃろう」

なんと言うか、マイペースなババアだ。


こっちは、モーゼルとの戦いでクタクタ。さらにモーゼルの頼みごとを聞いて、内心もゴチャゴチャ。


“早く寝たい“の一言だ。


「大切な話じゃ。世界の命運がかかっておる」

!?

このババア、敵か? いや、なぜそこまで分かる? 異世界のスキルか?

鑑定する。

!! な、名前が出ない? 人類と出た。

こいつ、俺より強いのか?

気力を振り絞り、臨戦態勢を取る。このババア。


「座れい!!」

ババアが恫喝した。


はい。


「敵対するつもりなどないわ。たわけが」

はい。すいません。


俺は、なぜか言われるままに座ることにした。なんと言うか。危険とは違う。母親に怒られている様な、不思議な気持ちになった。


「わしの名は、トキミ。またどこかで会うじゃろうから、この名前を覚えとくんじゃぞ。で、お主の運勢を占おう」

運勢ねえ。占いでなんとかなるもんかね。


「お主、疑っておるじゃろう。わしは時を見ることができるんじゃ。お主には、今2つの道が見えておる。

 ヨイヨイ、何も言わんでも良い。まずは見えることから教えてやろう。お主は、急ぐ方が良いと思っておるな。ゆっくり進めと命じられておるが、お主は急ぎたいと思っておる。

 もしお主が急いだら」


ほほう、急いだら?


俺が身を乗り出したのを見て、ババアが目を細めて言い切った。


「全てを失って死ぬ」


全てを失って死ぬ・・・。


「もう少し詳しく教えてやろう。お主は、猿の様な冒険者と二人で街を抜け出す。3日で水都に着くじゃろう。じゃが、水都に着いたところで魔王の手下となっておる水都の聖教徒に囲まれて、力を封じられ、牢に繋がれる。全てのものを奪われ、偽勇者として処刑される」


作り話だ。作り話に違いない。


「そこまでわかっているなら、水都に入らず、別の手段を」

「無駄じゃ。大きな流れは変えられぬ。細かい可能性は無数にあるが、全て大きな流れに集約する。急いで向かうのは、全て行き止まりじゃ」

ならば、今のままで良いのか?

「ゆっくり行けば?」


「死ぬことはない。少なくとも、しばらくは。ただ」

「ただ?」


「避けられぬ別れ。そして、大切なものを奪われる。そこで絶望してはならん。諦めずにもがくのじゃ。試練はお主の成長のためじゃ。それを乗り越えた先に、新たなる出会いが待っておる。その出会いがお主を正しい道へといざなうじゃろう」


なんか、ロクでもない占いだ。


「そんなお主のために、1つアイテムを売ってやろう」


「アイテム? それがあればそのロクでもない占いを回避できるか?」

別れというのはモーゼルのことだろうか。


ババアは首を横に振る。


「何度も言うが運命は避けられんのじゃ。運命とは流れる川の様なもの。お主一人の行動で作られるものではない。

例えば、上から石が落ちてきて、当たって死ぬ。

その運命があらかじめ分かって石を避ける様に行動したとする。原因と結果がはっきりしておるから、避けることはできる。

じゃが、結果は同じ。別の石が落ちてきて必ず死ぬのじゃ。

大げさに言うと運命とはそう言うもの。

生きておるものは、自らの選択で生きていると思いがちじゃが、その選択の結果を含めて全て運命。

何度も言うが未来の運命を変えることはできる。

だが、それは有限。

数少ない時の結節点において、ごく稀に変えることができる。

さながら、レールの切り替えのようにな。

無限に結果を変えることは不可能じゃ。

大きな分岐点で、変える余地があるに過ぎぬ。

もしお主が、運命に抗おうとして、運命の予想もつかない奇行や、突然の方向転換を行おうとすれども、それすら運命は織り込み済み、すでに決められた運命なのじゃ」


老婆の説教じみた話は、クタクタの俺には、眠気を誘う子守唄の様だった。

「ちゃんと聞いておるのか。話を戻そう。ラッキーアイテムを買うのか、買わんのか」


いよいよ本性を現してきた。アイテムを売りつけるのが目的だろうに。


「アイテムか・・・。それが狙いか」


「ヒャッヒャッヒャ。お主は信じぬじゃろうが、わしを求めて大金を差し出す愚か者も多い。わしに出会いたくとも、運命がないとワシには出会えぬのじゃ。お主はラッキー、それも超絶ラッキーじゃ。それこそ女神に愛された勇者の様にな」


ヒッヒッヒと笑った。

このババア、マジで何者だ。

「ほら、これだよ」


そういって、木の枝の様なものを懐から取り出した。


なんじゃこれ。


よく見れば、木ではない。

独特のカビの様な匂い。

嗅ぎ覚えのある匂い。


あれ、これカツオブシじゃないか?


「異世界のマジックアイテムじゃ。魚のミイラじゃ。これで悪霊が近寄らん様になる」

カツオブシじゃねえか。


「・・・値段は?」

なんだか、ちょっと面白くなってきた。こうなれば騙されてやっても良い。

「ちょっとお高いが。1」


ババアが指をピンと立てて

「一千万」

とほざいた。


席を立ち上がる俺に泣き縋るババア。

「ま、待てい。これは本当なんじゃ。安い買い物なんじゃ。騙されたと思って、騙されたと思って、これを買うのじゃ」


「・・・・」


俺は疲れてどうかしていたのだろう・・・。


財布の中身と相談しようと考えた。つい考えてしまった。


この不思議なババア。

確かにカツオブシだ。

この世界にかつお節など無いかもしれない。

それにしても1千万。10000000。

でも考えてみれば・・・、カバンの中にはオリハルコンたんまり。


手形は56億円、もといゴルド。


1千万。あ、安いな。


買えますー。買えちゃうんですう!!!


と思ってしまった。他に欲しいものはない。


現金は、確か1千万ほど残っていたはず。

サジタリウス号の船員から10万ほどのカンパをもらい、オリハルコンの売却金の一部としてギルドで2千万円受け取り、武器屋で1千万円の槍と50万円の盾を買い、聖魔鉄の件で1割まけてもらったから、支払いは945万ゴルド。諸々使った分差し引いて、1千万と32万ゴルド・・・。


足りるやん。


使う予定のない56億と、それの10倍以上も残るオリハルコン。


これは買うしかない。

騙されても良いやと考えた。


かわいそうなババアに寄付すると思えば・・。

「分かった買おう」


俺の言葉に、ババアが満面の笑み。ひまわりの花が咲く真夏の太陽の様だ。

カバンから1千万を取り出し、ババアに渡す。

「おお、伝説の勇者よ。この魚のミイラを授けよう。汝の行く末に女神の加護があらんことを!」


俺の手をガシッと掴み、プルプル震えている。その手からカツオブシを奪い取る。


「最後に、一つ助言じゃ。黒い毛の赤い目に出会ったら必ず大切にせよ。この言葉を忘れるではない。必ずやお主を救うであろう!」


バサあぁと翻る、ババアのフード。次の瞬間、煙の様にババアが消えていた。

不思議なババアだった。


俺の手には、本枯れのカツオブシが残った。


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