第54話 護衛任務2日目 ガードナーでの出来事
目が覚めると一瞬、自分がどこにいるのか忘れていた。
顔の横に足の裏があった。汚い足。
体を起こすと、広いベッドの上、男たちが3人寝ている。ティアナの姿は無かった。この世界は、日本人の常識とは異なり、男女で部屋を分けることは、よほどの金持ちでない限り、行わないらしい。
おかげで、女性の冒険者がクエスト中に妊娠することは日常茶飯事。お腹が大きくなってもそのまま働き続けることも普通のこと。誰もが兄弟が多く、8人兄弟、9人兄弟は当たり前。戦前戦後の日本のような子沢山が続いていると言う。
思うに、絶滅の危機に瀕している人類の本能が、子作りを推進しているのだろう。
多くの人が死んでいく中、大人の労働力を補うために、子供たちにも仕事が割り振られる。10歳になると冒険者になれると言う。成人も15歳。
その裏返しにはなるが、子供たちも多く死んでいるはずだ。多産は、多死から逃れるため。人類の危機感が背景にある。
そんなことを考えながら、部屋を見渡すと、冒険者らしい部屋の様子。
コンパクトな荷物と、薄汚い装備。下着姿の男二人。
俺は、支度をして、一人、食堂に向かった。ワイワイと他の護衛たちも集まっている。カウンターへ話しかけると、用意された朝ごはんを渡される。
朝ご飯と言っても、パンと牛のスープのみ。日本にいるときのような贅沢は期待できない。パンはパサパサで麦の匂いが強い。スープは牛の骨を煮込んでいるが塩気が足らない。
朝ごはんを食べたら荷物を持って荷馬車へ集合。
メンバーが三々五々集まってくる。ローグが最初に現れ、レイアとタツヤ、ティアナ、エドガーもやってきた。
「よお、よく眠れたか」眠そうな顔のローグが聞いてきた。
「ああ、今日もよろしくな」
そんなやりとりで待っていると、フライドチンキが現れ、隊が出発となった。
昨日の順番通り、荷馬車が砦の外へ出て行く。俺たちの荷馬車の番になり、今日は馬車に乗り込んだまま砦を後にした。
馬車は昨日に比べると速度が速い。倍くらいのスピードだ。道路の舗装が良いのか、揺れも少ない。
結構、距離が稼げそうな勢いだ。
出発から数時間。特に何もなく、田舎道を進む。
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太陽が真上に登り、昼休憩の後、ゆっくりと傾いていく日差し、夕暮れ前になると、景色が変わってきた。
海沿いの道の遥か遠く。
入道雲をバックに、霞むような色合いで、遠くに巨大な壁が見えてきた。
「あれは?」
とレイアに聞くと「あれがガードナーの街よ」
城塞都市ガードナー。国の名前と同じ首都の名。
防災、防衛に特化した都市。数千人にのぼる土魔法使いを要する建設国家。
戦略的都市建設を行う人類のシェルター。難民を収容するだけの広さを持つ城塞都市。海岸方向へ向けて巨大な塔が3つ並んでいる。
「あの塔は?」
今度はその塔を指差してレイアに聞く。
「あれは、長距離魔法塔。レイアースと呼ばれる戦略兵器よ。270度角に、およそ上級魔法100人分に匹敵する巨大魔法を0.5秒間隔、最大3分間連射できる設備なの。第一の魔王軍が海から攻めてくることを警戒した防衛装置ね」
レイアース。かっこいい名前だ。
どんどん街が近づいてくる。
近づけば近づくほど、城壁の強固さが分かる。ナミートの街の防壁も巨大だと思ったが、こちらを見ると陳腐に見える。
俺が攻めるとなれば、どこから攻めるだろうか。
いや、こう見ると、攻めどころが無い。たとえ大軍で攻めようと、簡単には攻め込めないだろう。
だが、海への魔法塔の防御に比べれば、陸からの攻めは比較的たやすく感じる。
「270度と言うことは、残りの90度の方向は撃てないと言うことだな。そこの守りはどうするんだ?」
「あれよ」
とレイアが指差した。
見ると、平原の所々に、四角い建物が立っている。
「あれも固定魔法台なの。こちらは陸戦を想定した防衛施設なの。後、対空防御として、8種12層、96枚の結界が用意されているわ。これを打ち破れるのは、邪神でも不可能よ」
レイアがドヤ顏で言う。
96枚の結界というのが、いかなるものかは不明だが、難攻不落であることは、間違い無いのだろう。
この世界は、群衆よりも、超人の方が強い。
烏合の衆が武器を持つより、モーゼル級が暴れる方が、より破壊力が高い。
魔王に挑むには、軍隊よりも勇者パーティーの方が適している。
中途半端な戦力では取り込まれる恐れがある。
漫画でよくあるあのセリフが、そのまんま当てはまる世界なのだ。
かといって、それでは強者の蹂躙に任すしか無くなる。
そこで国家は、大勢の力を結集する技術を発展させてきた。
この防御壁や、結界技術がそうだ。
ごく少数の強者に対抗するための技術。防御し耐え、個人の力を枯渇させる。
戦いとは、破壊力だけではない。
兵站、戦力維持のための供給能力が重要だ。
難攻不落とは、この街のこと。
ガードナーは、防衛設備を1ヶ月休まず稼働するだけの兵備を備えていると、レイアが付け加えた。
「ガーネ、今日は俺に付き合え」
声に振り返ると、いつの間にかモーゼルが荷台に乗り込んでいた。
荷馬車が、カラカラと街道を行く。
冒険者や商人が、街から出てくる。すれ違う人々は人種も、身なりも様々だ。
さすが首都、往来が多い。
夕方というにはまだ早いが、日はかなり傾いている。3時くらいか。
俺はローグに確認する。
「今日は、この後、自由にして良いのか?」
ローグは苦笑いで、モーゼルの方を見た。
「まあ、モーゼルさんが言うなら、是も非もないな。見張りは、こっちでやっとくから大丈夫さ」
馬車の隊列が、城門へ差し掛かる。
巨大な壁に、小さく開いた穴。そんな感じの門だ。
近づくとわかるが、門が小さいのではない。壁が巨大なのだ。
門は、荷馬車が十分にすれ違える程の広さがある。高さも5メートルほどある。
衛兵が門の中の見張り台から、往来を見ている。
人が通るたび、門の上部の信号のような装置が青く光る。あれは、多分、俺が港で触った装置のようなものだろう。危険な人物が通ると赤くなるに違いない。
非接触でも判別可能なのか。
門をくぐった後も、荷馬車は進んでいく。
壁がそびえ立ち、日陰になっているところは昼間だと言うのに仄暗い。壁には照明が灯され、少しでも影をなくそうとしているかのように、灯っている。
ガードナーの街は、ヨーロッパの街並みのような印象だが、建物が画一的だ。
同じような建物がずっと続いている。計画的に建築された建物なのだろう。高さも横幅も画一的な、茶色い屋根の5階建のアパルトマンのような建物が、広い石畳の通りに面して、ずっと奥まで続いている。通りは幅50メートルほどあり、馬車が右側を通る。通りの奥、中央には、尖塔をもつ王城があった。
城といっても、ビルをいくつか繋げた凸型の建物で、中央の尖塔だけが城っぽい。
今日は、このまま王城に入り、城の馬場を借りて、商隊のメンツは、城にほど近い高級ホテルへ泊まる。
ガードナーの街へ入り、道を進むと、ほどなくして、城門へたどり着いた。
先頭の馬車のフライドチンキが手続きを済ませ、馬車がぞろぞろと城の中へ入る。外壁ほどではないものの、城にも3メートルほどの壁が備え付けられており、中の様子は一瞥できない。
城門を抜けると、ほどなくして広場へ着き、馬車が止まる。
フライドチンキの挨拶の後、各自散会となった。
今日はそれぞれでホテルに泊まるらしい。
「では、行くぞ、ガーネ」
モーゼルが声をかける。空は赤らんできた。間も無く日が暮れようとしていた。
モーゼルに促されて、どこに行くのかと思えば、モーゼルは憚ることなく王城へ入っていった。
衛兵も会釈する。さすが顔パスである。
階段を登り、廊下を突き進み、豪華な扇状の階段を登った後、巨大な扉を勢いよく開けて、広い部屋へ踏み入る。
広間には、数名の人がいた。
年寄りが多い。
後、黙礼をするメイド、鎧をまとった騎士。
年寄りは偉いさんなのだろうか。
バッハみたいな白いモワモワの髪型をしていた。カツラなのだろうか。
「待たせたか、王よ」
モーゼルが、まるで友達に話すかのように声をあげた。
数段高い玉座に、さっぱりした印象の紳士がいた。今、王と言ったか。
紺色のジュストコールっぽい服。派手ではないが、威厳がある。
髪は短髪。顎にちょっと髭。
目力が強い。意志を感じさせる聡明な目だ。
「いや、予想通りだ。大義であった、モーゼル。皆の者、話はこれまで、一旦下がれ」
玉座に座る壮年の男が言うと、老人たちは一礼し、黙って部屋を出た。
それに続き、メイドたち、最後に騎士連中が全て退出した。
コンサートホールほどの広さのある部屋に、3人だけが残った。
「お初にお目にかかります。女神の勇者様」
「え?」
王が、玉座から立ち上がり、俺の前まできて頭を下げた。
「私は、シール=ド=ガードナー。この国の王です。モーゼル、ゴンゲン、そしてマクガイザーから話は聞いております。まずは、正式な国賓としてお招きせねばならないところを、このような形でお呼びだてしたことをお詫び申し上げます」
王が詫びを言う。目を閉じて、右手を胸に当てる。これがこの国のお詫びの形だと、船の常識レッスンで習った。
俺は事態が飲み込めずにいた。
王に畏まられるいわれはない。
「いや、ちょっと王様、待ってください。そんな」
恐縮してしまう。
つい、使い慣れない敬語が出る。威厳がすごい。
「謝られることなどないです。ガーネと呼んでください。王様。それに敬語を使われると、ちょっと小恥ずかしいです」
王は慌てた俺を見て、今度は微笑んだ。
「ありがたきお言葉、ではガーネ殿、これからは過度な敬語は控えましょう。で、どうでしたかな、このガードナーは」
王は玉座に戻ることなく立ったまま、にこやかに聞いてくる。
「素晴らしい国ですね。すごい技術です」
俺は忌憚なくそう言った。お世辞ではなく、本当にすごい設備だと感じた。
「そうですか。お世辞でも嬉しいですな。で、ガーネ殿。聞けば、これまでかなりの苦労をなさってこられたとのこと。おっと、安心ください。貴殿のことは、ゴンゲン達より聞いておりますが、このことを知るのはホンの極少数。モーゼルと私を含めた4名のみです。船の連中にも余計な詮索はしないようクギを刺しております。とはいえ、人の口に戸は立てられぬもの、とは貴方の国の諺ですかな。いつかは、漏れましょう」
いくつか聞きたいことがあった。
「この度の、フライドチンキ商隊への編入、これは王様の考えですか?」
「ゴンゲンからの提案を私が承認しました。かなり悩みましたが、これが最善と結論しました」
なぜこの作戦なのか、王に聞きたかった。
「この隊列であれば、水都まで30日かかる予定です。俺とモーゼル、レイアを合わせた3人であれば、10日ほどで水都に着くはず。なぜ、遅くなる方を選んだのですか」
「それは、単純です。危険だからですよ。モーゼルが貴方と共に少人数で動けば、それは、もはや貴方の重要性を喧伝しているようなもの。いくらモーゼルが強いとはいえ、貴方を守りきれる保証はありません。特に魔族からの襲撃の場合、言い方は悪いですが、囮は多い方が良い」
しかし、時間を悠長にかけて大丈夫なのか。
「第一の魔王からの襲撃に間に合うのですか。女神の不在は1日も早く解決すべきでは」
「この期に及んで、1ヶ月やそこらで戦況は動きません。第一の魔王軍が海峡を渡る兆しがあれば、そこから進軍に10日程度はかかります。我々も十分準備をしています。迅速さよりも、確実性を優先しました。水都に行って全てが解決、と言うわけでもないでしょう」
それもそうだが。急ぐに越したことはないとも思える。
いまいち、俺の立ち位置が分からない。
「正直に教えてもらいたいんですが、俺は、一体、どう言う立場でしょう」
王は、少し言い淀んで、言いにくそうに口を開いた。
「折れた聖剣。と言うのが率直な感想ですな。まずは女神様の計画を完遂し、人類共通の救世主としての立場を回復してもらわねば、扱いに困る最終兵器。と言うところです」
扱いに困る、と。まあ、それも当然か。
「まだ納得はできませんが。わかりました。つまり、こう言うことで良いですね。俺は最後の希望ではあるが、今はまだ使えない。なので、あらゆる事情を考慮して、最も安全なプランとして選んだのが商隊への参加で、ゆっくりではあるが、リスクを冒してまで性急に水都を目指すほどの危機ではない」
俺が言うと、その通りです。と王が頷いた。
「危機は依然、人類にとって未曾有のものですが、ガーネ殿は人類の最後の希望。性急に進めて危険に晒すことはないと考えます。確かに、移動は時間はかかりますが、100名の部隊となれば、魔族も盗賊も簡単には襲えません。モーゼルも付かず離れず護衛をします。モーゼルの護衛対象も別の理由を用意できます。ご不満もおありでしょうが、ここは一つ、我々を信じて任せていただけることを望みます」
王は、自信ありげに言った。
おそらく、ゴンゲンやモーゼルと何度も議論を重ねた結果なのだろう。
国家の重鎮が下した決定に、対案を出せるほど俺は聡くない。
「せっかくの機会です。異世界のことや、こちらに来てからのことなど、お話を伺いたいのですが、どうですか。食事をとりながら、と言いたいところですが、そうなれば、給仕に話が聞かれるゆえ、わが部屋で少しばかり」
と促された。
俺が頷くのを見て、王は歩き出した。部屋を退出し、移動する。
モーゼルも黙ってついてきた。
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その後、これまでのことや、地球に対する質問にあれやこれや答え、部屋を出た。
ツマミや飲み物を出してくれたので、小腹はマシだったが、それでも疲れた。緊張と旅の疲れだろうか。
最後に王は「またいつか、必ずお越しください。世界をお救いください勇者様」と言った。
ここまで丁寧に対応されたのが初めてだったので、むず痒いような感じがしたが、またいつかこの国へ来ることがあれば、必ず寄ろうと思った。そのことを告げると、王は嬉しそうな顔をした。
城を出るとモーゼルが「次も付き合え」と言った。
これで終わりじゃないのか。
王様にあって緊張したのか、すごく精神的に疲れているから、もう寝たいと言うのが本音だった。
モーゼルは城門をでて、先さき進んでいく。
まるで駆けるような速さで歩く。
足首で地面を擦るように蹴って、その歩く速度は尋常ではなかった。
俺は追いつくのに必死だったが、こちとら身体強化があらあな。
ムキになって追いすがっていたら、町外れの建物にたどり着いた。
他とは少し形の違う一軒屋だった。
ぶっきらぼうにドアを開け「帰ったぞ」と叫ぶ。
ここはどうやらモーゼルの家らしい。
ドドドドという足音がして、2人が飛び出してきた。
2人ともモーゼルに飛びかかるように抱きついた。
「貴方おかえり」「パパおかえり」
それは、奥さんらしい女性と、5歳くらいの男の子だった。
ペンダントで見せてくれた二人だ。子供は写真より少し大きくなっている。
奥さんは黄色の髪が特徴の細身の美人。子供はモーゼルそっくりな生意気そうな、もとい活発そうな金髪の猿顔だった。
「上がれ」
モーゼルはぶっきらぼうに言った。
「あら! 珍しい。お客さんなのね」
「メシ!」
モーゼルがそれだけ言うと、二人を抱きかかえたまま、移動した。
俺はおずおずとついて行く。
入った部屋はダイニングだった。食卓がどーんと置いてある。
部屋は暖炉があり、なんと言うか、暖かい家庭、と言うような部屋だった。
「こいつはガーネ。俺と一緒に水都へ行く。明日にはまた出る。俺は今日はここで寝る」
「はーい。今日は帰るって聞いてたから、ご馳走よー。ガーネさん、いっぱい食べてね」
どーん。50センチほどある皿に、なんかの丸焼きが乗っている。
「リートちゃん、挨拶しなさいね」
小さいモーゼルが恥ずかしそうにぺこりと挨拶した。やんちゃそうな顔をしている。
「よし食うぞ! ほら」
モーゼルの合図で、ガキも手を伸ばす。骨を引きちぎって、肉にむしゃぶりつく。
俺が呆然と参加できずにいると、3分ほどで骨だけになってしまった。
「次ねー、はーい」
どーん! 今度は違う種類の丸焼きにくが、どーんとテーブルに置かれた。
「ガーネ、貴様も食え」
「は、はあ。それでは、遠慮なく・・」
手を伸ばして肉を取ろうとしたら、ガキに横から奪われた。
「おじさんさあ。強いの? パパとどっちが強いの?」
このガキ。ガキの手を抑え込み、肉をもぎ取る。
肉を頬張りながら、
「ははは、君のパパに決まってるじゃあないかあ。もぐもぐ」
と笑った。目は笑っていないと思う。
「・・・ガフガフ」
モーゼルは全く意に介することなく肉を食べ続けている。
「追加よー」
どーん! パンとスープの乗った皿をテーブルに置く。
パンの奪い合い。ガキの手を牽制すると、モーゼルが俺の狙っていたパンを奪って行く。俺はそんな暴挙は許さない。
体を割り込ませて、狙いのパンを奪う。
「あらあら。そんなに勢いよく食べてくれるなんて、嬉しい限りだわー」
まったりした声で、奥さんがまた巨大な皿をテーブルに置く。
今度はグラタンのようなものだった。
モーゼルが素手でグラタンに手を突っ込み、口に頬張る。
こいつ、なんて品の無い食い方をするんだ。
しかし、流儀は習わざるを得ない。郷にいれば郷に従え、とも言う。
俺も負けじと、グラタンに手を突っ込んで口に入れようとするが、熱い。
「ぎゃあああ」手が焼ける。
操鉄術でスプーンを作る。手のひらサイズのスプーンを。
グラタンを乗せて、口に運ぶ。これなら手は熱く無いが、口に入れた途端火傷する。
モーゼル、なんてやつだ。
こんな熱い料理を、ばくばく食べている。
息子も息子だ。ガキのくせに、熱さを感じない勢いで、グラタンを頬張る。パンもすごい勢いで食べる。
いつの間にか2皿目の肉が骨とソースだけになっていた。
「うふふ。我が家の食事についてこれる人は初めてですよ。すごいですね」
奥さんが、テーブルに頬をついて嬉しそうに言った。
「お酒でもどうですか」
どーんと、ジョッキを置く。
モーゼルもいつの間にかジョッキで、酒を飲んだいた。エールかビールか分からないが、泡立つやつだ。
ジョッキに手をかけ、グイッと飲み干す。よく冷えている。苦味が最高。
「プハー、美味しいですねえこれ」
「ヤ人族秘伝の猿酒です!」
「え、そうなんですか? てことは、奥さんもヤ人族なんですか?」
いいえ。と首を振る奥さん。
「私は、この街で生まれた普通の人族です。これは、モーゼルが作ったのよ」
へえ、モーゼルがねえ。意外と器用?
「どうやって作るんですか?」
と俺が聞くと、奥さんはニコニコしたまま返事が無い。
ニコニコ。
「こうだ」
モーゼルが立ち上がり、キッチンへ行って、ブドウのような果物を持ってきた。
それを一口で飲み込み、噛み砕いて、横にある樽に入れた。
「これを1年繰り返して、最後にこの実を砕いて混ぜたら、猿酒ができる」
そう言って、また食事に戻った。
「・・・・」
どこかのアニメの猿酒と同じ作り方なのね・・・。
奥さんはニコニコしている。
聞かなかったことにしよう。味は美味い。
俺は無言でジョッキを傾けた。
モーゼルもガキも、すごい食べっぷりだ。
「奥さんは食べないんですか」
「私はつまみ食いしているから大丈夫よ。ありがとう。うふふ」
「おい、ガーネ。ジェニファーに色目を使うなよ、殺すぞ」
モーゼルが睨んでくる。色目ってなんだよ。てめえ。
「大丈夫よねえ、色男さん」
うふふと奥さんが火に油を注ぐ。わざとやってるよね、これ。
「ガツガツ!」
モーゼルが俺を睨みながら、飯を口に掻き入れる。
ジョッキを飲み干し、プハーといった。
「よし食った! 行くぞ!」
え? なに? なに?
襟首をつままれ、引きずり出される。
庭に出ると、「歯を食いしばれ」と言われ、腰を抱きかかえられた。
すごい力で引き上げられた。
地面がみるみる離れて行く。巨大な壁を飛び越え、荒地に着陸する。
高さ百メートルは超えた跳躍。
絶叫マシンでも、ここまで乱暴じゃない!
ぐへえ。食べたものを吐きそうになる。
放り投げられ、地面に投げ出される。
「修行だ。ついてこい」
え? え? もうメチャクチャですやん、この人。




