第53話 護衛任務 初日の夜 フライドチンキの話
割と体はクタクタだったが、まあ、耐えられないほどではない。肩を回しながら食堂から移動する。
宿の裏に馬車が並んでいる。篝火がそこかしこに掲げられている。
持ち場はここだという。
隼のメンバー3人と、俺の4人に加えて、別のチームの護衛が3人いた。
荷馬車が見える位置で、周囲を警戒する。
砦の中の安全な場所だから、襲撃の危険性は薄い。
それでも貴重な荷物を守るため、何人かが交代で見張りに当たる。
「よお、隼の」
小太りの男が声を掛けてきた。別チームの男だ。顔見知りの様子。
「おう、ライゼッカ。何かあったか」
「いや、退屈しきりだ。ティアナ、今日も可愛いね」
と軽い口をきく。ライゼッカと呼ばれた男は、小太りでレザー装備。
鑑定で名前が見えたので、そこまで強くないと思われる。名前は強そうだが。
ただ、人は良さそうな顔をしていた。
「そいつは、新人か」
と問いかけてきた。
「ああ、ガーネだ。お前と同じガーダーだ」
へえ、とライゼッカが言う。
「ガーネ、こいつはライゼッカ。C級パーティ・アップライズのリーダーだ。アップライズは護衛専門のパーティで、前に一度任務を一緒にこなした。そっちがトルネルで、あっちの太いのがライオル。長い旅だから、仲良くな」
二人が会釈する。
ガーダーか。他のガーダーがどんな動き方をするのか、一度見せてもらいたいな。
ライゼッカに近寄り、「よろしくな」と挨拶する。
ライゼッカが人懐っこい顔で、挨拶を返してくる。
「よかったら、ガーダーについて教えてやってくれよ」
と、ローグが言う。タイミングが良い。
「ガーダー? 俺がか?」と突然のお願いに、目を丸くするライゼッカ。ローグが付け加える。
「こいつは、田舎の出で、筋はいいんだが、冒険者としてはまだ駆け出しで、他のガーダーの連携を見たことがないんだ。まあ、タダでとは言わん。酒2杯でどうだ。訓練兼ねて」
「まあ、訓練のついでで良いなら、お安い御用だ。で、いつやる、今か?」
案外気さくに答えてくれたがそのタイミングで、声が聞こえた。
「探したわよー、ガーネちゃん。ちょっといいかしら」
聞き覚えのあるオネエ声。
声の方を向くと、チキンライスもとい、フライドチンキがでっかい羽でできた扇で仰ぎながら、近づいてきた。
「ちょっとお話、良いかしら。できれば二人で話したいのよ」
と言う。ローグの顔を見ると、頷いたので、訓練はまた今度ということになり、フライドチンキの部屋に向かうことになった。
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「そんなに緊張しなくても良いわよ。取って食ったりしないから」
顔に出ていたのだろうか。フライドチンキが、まん丸い顔で言う。
「で、話って言うのは」
うふふ、とフライドチンキが笑う。
「私は一代で、この巨万の富を得たの。秘訣はね、情報を大事にする、ってことよ」
何が言いたいのか分かるわね、とウィンクしてきた。
「で、どのくらい聞いているんだ」
俺が探るように言う言葉に、
「まあ、そうね。まずは、交流を深めましょう。私のことはチンキで良いわよ。親からはチンと呼ばれていたから、そう呼んでもらっても結構。
さて、単調直入に言うとね、あなた、女神の勇者でしょ。だから、その取引というか、条件というか、今後の縁をね、きっちり繋いでおきたいのよ。
おほほ」
フライドチンキの目は獲物を狙う猛禽類のそれに変わる。
俺の体が目当て・・・と言うわけでもなさそうだが。
「で、突き出すつもりか」
俺が低い声で言うと
「やだわ、そんなことするわけないじゃない」と、冗談ぽくいう。
「考えても見なさいよ。女神の勇者よ。この世界の救世主。かもしれない男。価値は計り知れないわ。それを売り飛ばしたところで、投資価値は低い。それなら、きちんと英雄になってもらってから恩を返してもらった方が良くないかしら」
目ざとい、と言うべきなのか。
「女神の勇者か。その話は誰から聞いた? お前は、なぜ、俺の参加を認めた」
気になるところを確認する。ゴンゲンもモーゼルも、決して俺の正体を明かす理由はない。となると、王のラインからか、他にもルートがあるのか、そういう計算になる。
「正直、誰にも聞いてないわよ。けどね。商売人の勘を舐めちゃあだめ。それに私には特別なスキルがあるのよ」
あ、そういえば、こいつの事は下調べしてなかった。この場で調べる事は出来ないから、まずは上手に聞き出して、あとから確認しよう。
「スキル? どんなスキルだ」
「うふふ。そんなに直接的に聞くのね。大胆だわ。答えるわけないでしょ。
と、普通の人なら言うところだろうけど、私は別に隠さないわ。
私のスキルは、鑑定。
価値鑑定よ。
ね、私にぴったりでしょ」
価値鑑定。それが如何程のものなのか、判断できない。
「価値・・・。商売人にはぴったりだな」
「あなたの価値を鑑定したのよ」
「ほう。で、いくらと出た?」
正直、興味があるな。
「1兆」
え?
「い、ちょう?」
「そうよ、1兆。私の鑑定で出た最高額。多分、最高の値段じゃないかしら。正確には9999億9999万9999。多分、表示がそこまでなのね。
で、まあ、そんなわけで、考えたわけよ。
これだけの値段がつく重要人物。国王からの密令で、ギルド長、ゴンゲンが動く相手。
モーゼルを護衛につけてまで守りたい人。
この情報で思い浮かぶのは、女神様本人くらい。だけど、あなたはどう見ても男。となれば、死んだと噂の例の勇者。生きて大陸に辿り着いて、水都を目指す。まあ、そんなに難しくない推理よね」
「なるほどな。だが、否定する。お前のスキルのエラーだ」
俺は、断言する。断じて認めてはならない。
ああ、そうさ。認めたところで、良くなる事はない。
徹底的にシラを切る。
船長にはバレたが、もう二度とバラすつもりはない。
偽装の指輪は仕事をしているのだろうか。価値鑑定は対策外か。
「まあ、認めなくてもいいけどね。さっきも言った通り、取って食おうと言うわけじゃないのよ。
普通に護衛任務して、水都まで安全に送り届けてくれればそれでオッケーよ。だけど、忘れないでね。私はこのスキルで今まで稼ぎ続けてきたわ。これからもそうよ。だから、この旅への同行を許しているのは、私からの大きな貸し。いつか、返してもらうつもりよ」
うん。したたかな奴だ。
「女神の勇者云々はさておき。今回は同行させてくれて感謝している。
借りを作るのは嫌いだから、まあいつか、余裕があれば返す。
できる事とできない事があるから、そのつもりでな」
ちょっと呆れたが、まあ、借りは借り。無事護衛が終わり、いつか、何かの手伝いができるなら、それも一興。だが、今は、水都へ安全に向かうことが最善だ。
「そうね。着いてからの話よ。必ず覚えておいてね。それだけよ」
「話はそれだけか? 俺は護衛に戻る」
と言うと、フライドチンキが、
「またお話ししましょうね、クロガネさん。異世界の話もぜひ聞きたいわ。それと、死んだりしないでね。
出がけに、みんなの手前、特別扱いしないって言ったけど、あれは方便よ。
護衛はたくさんいるんだから、危険に首を突っ込まないで欲しいわ。いざとなったら、私の側にいなさいね。特別待遇よ」
と冗談とも本気とも取れない口調で言ってくる。
俺だって好き好んで死ぬつもりも怪我をするつもりもない。
「ああ、普通に仕事をするだけだ。じゃあな、雇い主さん、これからもよろしく頼む」
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その後、ローグたちの見張りの任務に合流した。
街の外の変わり映えのしない景色を眺めていたら終了の時間になった。
途中、眠気に耐えるのが一番の難敵だった。
3人で部屋に戻ったらちょうど真夜中12時(地球時間)。
もはや限界。訓練の疲れがピークに達したのだろう。
俺はベッドに倒れこむようにして眠った。
これが、護衛任務初日の出来事。
その夜は月が綺麗。よく眠れた。




