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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第二部  鉄の勇者、大陸をゆく
53/214

第51話 出立

集合場所のフライドチンキの屋敷へ急ぐ。


鎧は着ずに、槍と盾を持って歩く。

重い装備も、身体強化のおかげで軽々持ち運べる。


二メートル近い鉄の盾ですら体感的には発泡スチロールを持っているような感覚だった。

試しに身体強化のスキルを切れば、途端に重くなるのだけれども。


巨大な門。あれがフライドチンキ邸だろう。人がせわしなく出たり入ったりしている。

屋敷にたどり着くと、すでにモーゼルが居た。


モーゼルは腕を組み、馬車の荷台にもたれながら、商隊の様子を眺めていた。


庭が広い。その広い庭に馬車がずらっと並んでいる。

20台ほどの馬車は、荷台にほろがかけられている。


衛士の一部は馬に跨り、荷物を見張るように立っている。


俺が近寄ると、モーゼルは笑顔で「来たか」とだけ言った。


「モーゼルさん、来てたんですね。てっきり別動かと」

俺が問うと「途中までは同行する」とこれまた短く言った。


モーゼルと 話していると、そこへ太った男が寄ってきた。


テカテカする見たことのない素材の高そうな服。こいつがフライドチンキだろう。


真っ赤な鼻に偉そうな髭。

「君がガーネくんね。私が雇い主、フライドチンキよー。よろしく頼むわね」

そう言ってかぶっていたシルクハットを軽く浮かせた。


おねえ。


サーカスの団長みたいな格好。太ったヒゲ面のオネエ。

ここまで出会った中で、キャラが一番立っているのではないか。


「国王からの依頼だからね。一緒に乗り越えましょうね」

国王からの依頼? ギルド長ではなく?


聞いてたのと違う。大事になってる。


「でも仕事はしっかりして頂戴ね。護衛任務はできるって聞いてますからね。ほとんどの人は任務のことは知らないから、特別扱いはしないわよ。護衛はお願いするわよ」


はい、そのつもりです。


「ああ、護衛を最後まで務めるつもりだ。特別扱いは不要。

C級パーティはやぶさのさきがけのメンバーとして、職務を全うする」(キリッ)

俺は、格好良く、端的に言った。歯が白く輝いたはずだ。


「頼もしいわね。よろしくね」

フライドチンキが、ウィンクした。


「モーゼルさんもよろしくね。何かあったら助けてね。うふふ」

とモーゼルに向かってもウィンクした。


俺は雇い主フライドチンキに単刀直入に疑問を聞いた。

「引っ越しの隊列、噂になっていると聞いたが、大丈夫か」


フライドチンキは、少し曇った顔で言う。

「そうなのよねー。何か、色々話が大きくなってるみたいでねー。

こないだ神樹武器アッシュナードを買ったでしょ。

ちょっと目立ったみたいね。モーゼルさんが参加するとかの話も、なんか噂に火をつけたみたいで」


噂ねえ。まあ、なんとなく予想はできる。

「盗賊とか押し寄せるんじゃないのか」

俺が聞くと、

「そうね」と軽く答えるチキンライス。もといフライドチンキ。

「情報によると、動いてるみたいね」


さらっと言う。


「動いてるって、大丈夫なのか」

「そのためのあなた達でしょ」

オホホホ。


確かに。そのための護衛。

それも国家戦力級の護衛。

いざとなればモーゼルが飛び出してくる。


フライドチンキの言うとおりではある。


「挨拶はこのくらいで。また後で皆さんにお話するからね。質問はその時にお願いするわ。じゃあね」

オホホホと言いながら、フライドチンキは豪邸の中に消えていった。


モーゼルに向かい問う。

「大丈夫なのか」


モーゼルは頷き、

「ガードナーの中は問題ないだろうな。そのために、俺がレブロンまで同行すると公表している」

なるほど。

「問題はその後だ。まあなるようにしかならん」


と素直なご意見。


問題ねえ。一体何があると言うのか。

聞いても答えてくれそうに見えないので、敢えて何も聞かない。


先のことを考えれば考えるほど、人は弱くなる。

そんなもんだ。


思う通りにいかないのが人生。

おっさんを経験すると分かることもある。


目の前の問題を、真剣に真面目に、精一杯クリアしていく。

割とそれが人生を楽に生きる秘訣なのだ。


まあ、旅はまだ始まってもいない。


そんなことを考えていると、

「ああ、ここにいたんですね!」

と大きな声がしたので、振り返ると、タツヤが立っていた。


「探しましたよ、ガーネさん」

笑顔で近づいてきて、肩とか腰とかをベタベタ触ってくる。


「なんだよ、どうした?」


「ああ、僕が3人目の仲間のようですよ。なんとなくそんな気がしてませんでした?」

ああ、そんなことだろうとは思っていた。


タツヤが顔を寄せてきて、ヒソヒソ声で俺に言う。

「ギルド長が言うには、同じ出身としてサポートするように、ですって」


そして、

ああ、そうだと言って封筒を渡してきた。


「ギルド長。これを渡してくれって言ってましたよ。なんですか、これ」


「何?」


無造作に渡された封筒。封を切り、紙を手に取ってみると「手形」と書かれていた。


額面は56億。ご、ごじゅう、ろく億? こんなもん持たすなよ。


そういえば、あとでギルドに立ち寄るって言っていたのを忘れていた。

「お、おいこれ。読んだのか」


「ははは、僕、まだ文字読めないんですよ。なんです、これ?」

「・・・・読めないなら、良い。内緒の手紙だ」

まじかよ、こんなもん渡すとか。

ジジイ、イかれてるんじゃねえか。


「伝言ですけどね、お前以外は使えないから、安心しろ、ですって」

また魔法的な何かか。


まあ、良い。

手形を収納にこっそり仕舞う。


「タツヤくん。で、事情は聞いた?」

俺が問う。

「ええ、粗方は」

と、口を尖らすタツヤ。


「で、どう思う?」

タツヤは怪訝そうな顔で聞いてきた。


「どうって、何がですか?」

「この旅だよ。後、俺のことだよ」


「いやあ、どうって言われても。僕は地球に帰りたいんですけどね。

なんかヤバいらしいですね、この世界・・・。

僕はまだ死にたくないんで、できることなら何でもしますよ。そりゃあ」


まあ、そらそうだ。それにしても口調が軽い。

タツヤにしてみれば、世界を回ろうと思っていたらしいから、渡りに船、なのだろうか。


「そっか。まあ、よろしく頼む」

俺が言うと満面の笑みで

「同郷の人と一緒なんて、心強いです」と言った。


「あら、もう馴染んだの?」

声の方を向くと、レイアが居た。


レイアは屋敷の中にいたようだ。

「いや、昨日、ギルドの帰りに知り合って一緒に飲んだんだよ」


「もう。その調子じゃあ、素性を話したんでしょ」

柔和な言葉遣いのレイアが珍しく、怒っている。


「いやあ、同郷って言われたら、そりゃあ、ねえ」

「ええ」とタツヤが微笑む。

「僕は口が固いほうですよ」とタツヤが言う。あまり信憑性はない。


レイアに責められるとは思っていなかった。

確かに、隠密行動だとは言われたけれども。


レイアの目が怒っている。

「次やったら承知しませんからね。いよいよ出発だからね。忘れ物はないかしら?」

レイアが心配そうに聞いてくる。


ほら。

そう言って盾と槍を見せると「そう、大丈夫そうね」と言った。


何かを思い出したようで、レイアが腕を組んで、呆れたように付け加える。

「そうだ、思い出したわ。ギルドが大騒ぎだったわよ。オリハルコン。何もなければ良いけど」


ここがたとえ地球でも数トンの金塊を公共の場所で積み上げたら、騒ぎになるわな。

2トンといえば、ミニバンの重さくらい。


あのあと、どうやって運んだんだろうか。異世界だから、常識はずれの力持ちがいるんだろうが。

そんな話をしていると、通りから隼の魁メンバーがやってくるのが見えた。

こちらから挨拶する方が良いだろう。


「よお、今日からよろしくな」

精一杯の笑顔で言ったが、3人とも顔がどんよりしている。


「ああ、ガーネくん。よろしくね」

「すまんな、ちょっと飲みすぎたようだ」

「ねえ、悪いけど辻ヘパお願いできる?」


ティアナが、レイアに向かって聞いた。知り合いか?

辻ヘパ。また知らない単語。


「いいわよ。まとめて1000ゴルドね。えい」

レイアが呪文を唱えて3人に向けて手をかざした。

「ああ、いいね。スッキリする」


レイアに耳打ちする。

「辻ヘパってなんだ?」


「冒険者の隠語よ。辻は、道端でパーティメンバー以外に魔法をかけること。ヘパは、ヘパーゼって言う魔法。二日酔いを消す魔法よ」

また一つ賢くなった。


ローグがレイアにコインを渡して、お礼を言った。

「ああ、だるいの取れたわー。ははは。やあガーネくん。これからよろしくな。良い盾と槍だね。ガーダーっぽいよ。鎧は?」

「ありがとう。鎧は仕舞ってある。護衛になったら装備するよ」

と返すと、ローグとティアナが不思議な顔をした。


「マジックアイテムよ。折りたためる鎧」

レイアがとっさに口を挟んでくる。

なんの話かわからなかったが、あ、そうか。

収納の話か。


風呂敷に収まらない。とかそう言う話か。

「そ、そう。畳めるから収納に収まるんだ」

そう言って風呂敷を振った。


ちなみに風呂敷はただの風呂敷です。

「その槍といい、高そうな装備だね。頼もしいよ。旅の道すがら、連携の練習もやっていこうか。多分、ガードナー国内では流石に襲われることはないと思うし」

連携か・・・。ぼっちだった俺には、魅力的な言葉であった。


連携、陣形、合体技。


ああ、しびれる、憧れる。


そんな余韻に浸っていると、いよいよ出発のようで、改めてフライドチンキが屋敷から出てきた。


執事が大きなリュックを背負い、ドアに鍵をかける。

フライドチンキも両手に大きなカバンをぶら下げている。

先頭の馬車にフライドチンキが乗り込み、荷台の上に立ち、大声で叫ぶ。


「じゃあ、皆さん! いよいよ準備は整ったわ。いざ、水の都へ! 出発よ。

 配置は良いわね?」

それぞれのリーダーが詳細を聞いているそうで。俺は、ローグについていけば問題ないはず。


「お〜!!」と元気な返事。

100人の商隊と言う。見た所、男女比は同じくらい。

あるものは荷台の上に乗り、あるものは歩き、ある者は馬に乗っている。


先頭の馬車が遠ざかっていく。順に道に馬車が出て行きローグが「行くぞ」と言い、歩きはじめた。

「なあ、歩いていくのか」

とローグに聞くと、「ああ、街の中はな」と短い返事。


ぞろぞろと通りをゆっくり進んでいく。

やがて、町の外れの門まで来た。


すると、遠くから「クロガネさーーん」と叫ぶ声。聞き覚えのある声がした。

チーズ牛丼が好きそうな男が手を振って近寄ってくる。

スペッゾ!


てめえ、まだ名前を呼ぶのか!

他人のふりをしよう。

無視する。


「クロガネさーーん こっちですーーー」

満面の笑顔のスペッゾ。

だがそれもつかの間。


横から船長・オーシャンがその太い腕でスペッゾの口を塞いだ。

ああ、皆で見送りに来てくれたのか。

船の連中が集まってくれていた。


レイアを見ると、行ってらっしゃいと目配せした。

お言葉に甘えて。

船長に近寄る。


「ガーネ。だったか。頑張って行くんだぞ」

そして顔を寄せて小さく。クロガネよ。と言った。

スペッゾがふがふがと踠いている。


「みんなすまんな。嬉しいぜ」

俺が礼を言うと、皆、ニコニコと笑顔で、頑張れよ、達者でな、と声をかけてくれる。


船長がスペッゾに「お前、何回言えばわかるんだ。ガーネだよ、ガーネ。こいつの名前はガーネだ。忘れるな」

もうそのやり取りの声が大きいこと、この上ない。


隊列が進んでいく。急がねば。

「最後に会えてよかった。またいつか戻ってくるから、みんな、達者でな」

俺は、さらっと言い、じゃあなと言って駆け出す。

馬車まで戻る。時々振り返り手を振る。


皆、手を振ってくれる。

巨大な門が開かれている。ここから町の外、と言うことだろう。

門の左右、上から衛兵が見張っている。


高さ3メートルほどの壁が、左右に続いている。

「さあ、乗るぞ」ローグが言い、メンバーが皆乗り込んだ。

同じ馬車の荷台に、俺、隼のメンバー、レイア、タツヤの6人が乗った。

モーゼルは一番最後の馬車に乗るらしい。


馬車がスピードを上げる。石畳で舗装された街道を進んでいく。

周囲はなだらかな岩山。赤茶けた岩肌の丘陵が、遠くの山まで続いている。


ゆっくりと坂を登っていくように街道は続く。

カラカラと車輪が音を立て、やがて街が遠ざかっていく。

しばらくすると、街はもう見えなくなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


取り留めのない会話が続いている。ティアナとレイアがガールズトークを続けている。ローグや男性メンバーは黙っている。

俺も黙って風景を眺めている。


海沿いの街道は、平原が続き、遠くまで見渡せる花畑のように美しい。

低い草木が周囲に続く。魔物が近寄らないように、高い樹木は伐採されたという。盗賊や魔族などの知性のある敵は、隠れて襲ってくることもあるため、出来るだけ樹木に隠れられないように刈り込んでいるのだと言う。


街道にはちらほらと、冒険者や旅人の姿があった。


何か特徴的な物があると、レイアが風景の説明をしてくれた。

俺は黙って頷くだけ。


主要な街道には、駐在所が一定区間ごとに設けられていると言う。


大型のモンスターが近寄らないように、魔除けの石が置かれている。レイアが指をさして教えてくれた。


途中、石の壁で囲われたところがあったので、あれは何かとレイアに尋ねると、果樹園だと教えてくれた。


この世界では、田畑や菜園、果樹園、牧場も、囲いで守られているらしい。

都市ほどではないが、魔除けや盗賊除けの仕掛けを設置しないと、満足に育てられないと言う。


食糧生産も大変なんだろうと思われる。


盗賊・・・盗賊ねえ。

一体、どんな奴らなのだろうか。


魔族に対抗するためには、少しでも戦力が必要だ。

人間同士で争っている場合でもなかろうに。


それでも、無関心でいられるのだろうか。

生まれながらのクズなのだろうか。


それとも、こんな時代においても盗賊に身を窶さねば食えないほどの境遇なのだろうか。


この世界の人間ではない俺には想像もできない。


そんなことを考えながらも、馬車は街道を進んでいく。駆け足程度の速さで、ゆっくりと着実に。


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