第50話 武器屋での話
2千万の現金を手にした俺は、武器屋へと急いだ。
大金を手にすると緊張する。庶民だ。
武器屋は以前、レイアに連れて行った店。なんとかの致命傷。
店までついて名前を再確認。
「ゴルドーの致命傷」。
相変わらず凄い名前だ。
カランコロンとドアのベルが鳴り、俺は店の中へ。
店主がいらっしゃいと声をかけてくる。
昼間。冒険者は稼ぎ時。誰も客はいない。
「親父、ちょっといいか? ガーダー、ってのは、何を持つんだ?」
「?」
突然の俺の問いかけに、固まる店主。
サンタクロースの中身のような親父が目を丸くする。
あ、質問がおかしかったな。
「あ、すまん。俺は駆け出しのガーダーなんだが、合いそうな装備を探している」
と、言いなおすと親父が微笑んだ。
「うん、そういう意味か。へえ、ガーダーね。細いのに。あれかな。それ用のスキルがあるのかな」
「ああ、金剛ってスキルだ」
実際は持っていないが、俺の偽装スキルだ。なんでも防御力が上がるスキルだと聞いた。
「なるほどね。金剛持ちなら、大盾と槍をお勧めするね」
「大楯ってのは?」
「あの辺がそうさ」
親父が指をさしたあたりに、なんというか、畳を並べたような鉄板がずらりと並んでいる。
特に豪華な盾が壁に掛けられているが、場所を取るためか、形状ごとに横向きに重ねられている。どれも身長くらいの高さがあるが、大きく3つの形状がある。亀の甲羅みたいな丸まったタイプ。畳のようなまっすぐなタイプ。ひし形のカクカクしたタイプ。この3つに分けられていた。
俺は盾に近づき、手に取ってみる。
俺のスキルのおかげだろうか。鉄とそれ以外がなんとなく分かる。
触れてみると、俺の魔力と馴染む大楯が1枚あった。
それを取り出そうとしてみる。お、重い。周りの盾を避け、なんとかそれを引きずり出す。
菱形の大盾。青い塗装が施されたかっこいい盾だった。
「そいつは、マルガン鋼っていう特殊な鉄でできた盾だ。衝撃はもちろんだが、特に熱に強い。お勧めだよ」
盾は決まりだな。
モノを見て良いものがなければ、練成で作ろうと思っていた。だが、店売りの武器の方が怪しまれずに済む。
良い武器のようなので、盾はこれにしよう。
あとは槍か。
「槍はあっちだ」
親父が教えてくれた方向に、槍が並んでいる。丸い穴に刺さった槍が、穂先を上にして並んでいる。
これも、順番に触ってみる。
一つの槍に触れた瞬間、穂先が燃え上がった!
「ああ、気をつけてね、魔槍がほとんどだから。魔力は使わず、触ってみてね」
親父が慌てて声をかけてくる。
燃える槍、いいじゃん。中二心が溢れる。
親父に値段を聞くと、
「その槍はね、1千万だね。盾は50万」
い、一千万? 高くない?
でも買えますー。買えちゃうんですう。
そういえば、モーゼルの兄貴は、すごい武器持ってたな。金色のナックル。
確か。五花とか言ってたか。
参考までに、価格はおいくら万円?
お値段聞いてみよう。
「あるじ、ここに五花とかいう武器はあるか?」
店主は驚いたような顔をして聞き返してくる。
「五花って、あの伝承武器の? あるわけないでしょう。国宝だよお」
モーゼルの武器は国宝なのか。
「その話、詳しく教えてくれ」
「詳しくって、お兄さん冒険者だよね? 知らないの?」
と驚かれてしまった。ちっ、常識ってやつか。
「ああ、田舎から出てきてね。その辺の話は疎いんだ」
「そうなの? かつてこの大陸の中央にあった聖樹グロースゴットバウムの話は知ってるよね?」
もちろん知らん。
「その聖樹から生み出されたとされる至高武器のことだよ。神樹武器や聖樹武器とか、いくつか別の呼び名もあるね。
三十六の節、つまり枝と、十二の葉、そして五つの花、全53個の武器の総称さ。木の部分になぞらえてそんな呼び名だと言うよ。
それぞれの武器は異なった特徴があるんだけど、節、葉、花と数が少ない方が性能が高いとされる。節や葉は、ほとんどが消失したけど、五花は全て残っていてそれぞれ異なる国で大事に保管されているよ。
ガードナーの国宝は、今はモーゼルくんが持ってるね」
伝承武器。至高の五花。俺の中の中二心、いや厨二心がスパークしそうだ。
「伝説では、全ての武器を聖樹に返すとき、究極の武器を授けてくれるというよ。聖樹も武器も失われた今となっては不可能だろうけどね」
何そのどっかで聞いたような7つ集めたら願い叶う的な話。
店主は嬉しそうに話す。本当に武器のことが好きなんだろうな。
「伝承って、元の物語があるのか?」
と聞くと、これまた目を丸くして、
「女神録の有名な一節だよ。先の大戦を勝利に導いたお告げのくだり。誰でも知ってると思ったけど、今の若い子は知らないのかな」
なるほどね。そんなイワクがあったのか。
で、気になるお値段は?
「五花は無理として、その32の節ならいくらくらいするんだ?」
「前にオークションで出た時は、4億だったねえ。確か。三十二節の十六番 龍鞭アッシュナード。
買ったのは、今話題のフライドチンキさんだよ」
おっと、身近な名前が出た。護衛の依頼主か。ってことは、今回の移送物に伝承武器が含まれるわけね。余計な情報が入ってしまった。
「五花ってのは他には?」
俺が聞くと、店主は頷き、意を得たりと答える。
「灼刀永遠焔、静謐槍フリージア、深緑弓エバーツリー、黒闇斧ダークマスカー。これに黄金拳アンバーフィストを足して5花だよ」
予想外の、平和の祭典カラー。
なんか、情報量が多すぎて、よくわからなくなってきた。
なるほどね、そんなにいっぱい伝承武器があるのか。
話が長くなりそうなので、この話はこの辺にしといた方が良いだろう。
「ありがとう店主。勉強になった」
礼を言い、考える。あと他に必要なものは・・・。
店内を見回す。
ガードとしては、鎧も必要かな。
場所を問うと、親父が鎧売り場を案内してくれた。
割に広い店なので、一人で対応できるのかなと疑問に思う。
「これだけ高い防具を並べて、一人で店番できるのか」と聞くと、防犯の魔術をもちろんかけているとの返事。
防犯の魔術ね。万引き防止は異世界の方が進んでおりました。
鎧は形も色も様々だが、どれも値段が張る。500万、800万。フルプレートだと素材も高いのだろうか。日本なら高級車が買えるお値段。
鎧に次々に触っていくが、どれも柔い。
金属の魔力の通りでなんとなく分かる。これならば・・・。
うん、鎧は自前でいいや。
こちらも参考まで、試しに聞いてみよう。
親父に隠れて、鉄でガントレット精製、硬化で固める。
「親父、これ、俺の防具なんだが、どう思う」
漆黒の鉄のガントレットを見て親父が目を丸くする。
「こ、これは聖魔鉄!? しかもこの仕上がり、薄さ。お兄さん、どこでこれを?」
と、存外に驚いた。
「え? 聖魔鉄? 何それ」
言われて思い出した。女神が最初にコンテナで送ってくれたあの鉄。女神は神鉄と言っていた。ここでは聖魔鉄というのか? クロちゃんが食べたんじゃなかった?
どういうことだ?
なんと答えたものか。
「も、貰い物?」
あああ、疑問形になってしまった。
「聖魔鉄の精錬技術は失われたと聞いていたが、これほどまでに精巧な造作は、見たことがない。お兄さん、お願いだ、これを譲ってくれ」
いや、譲れと言われても。
嫌な予感しかしない。
俺が首を横に振るが、親父はしつこく頼んできた。
やり取りがしばらく続いたのち、親父が根負けして、
「ふう、そうだよね。無理だよね。じゃあ、一つだけお願いして良い?」
「なんだよ、聞けるかどうかはお願い次第だ」
「もし、マインに寄ることがあれば、僕の兄にこのガントレットを見せてくれないか? 聖魔鉄の研究をしてるんだ。これ、ここに紹介状を書くよ」
マイン? なんだそれ。紹介状?
「マインって?」
「え、鉱山都市マインだよ? 知ってるよね?」
なんか聞いたような気もする。
「兄の名前は、ゴードン。有名な鍛冶屋だからマインに行けばすぐに分かると思う。お願いしたからね」
そう言って、殴り書きした紙を手渡してくる。
「お願いきくから、ちょっと負けてくれよ」
ダメもとで聞いてみる。
店主は目を輝かせて「じゃあ、お願い聞いてくれるね! 1割引にしとくよ!」
と言った。
しめしめ。
なんか、鍛冶オタクのようなおっさんだな。
この時、ふと思い出した。
黒いナイフのことを。死の大陸の小屋で拾った、スキル上げに活用した黒いナイフ。
操鉄術のスキルが成長して全く忘れていた。
ナイフを取り出しておっさんに見せる。
武器厨のおっさんなら何か知っているかもしれない。
「これ、なんだか分かるか?」
漆黒のナイフ。光を全て吸い尽くすような墨色の黒。
「なんだいこれは? 見たこともないよ」
おっさんが、ナイフを掲げて、片目を閉じ、ナイフをいろんな角度から見ている。
「聖魔鉄に似ているけど、ずっしり重いね。鉄の比重じゃあないよこれは。ナイフというより、形状は、十字架のようだね」
確かに、刃はあるが、四角い鉄の棒を組み合わせたような形状。
握りにくい鉄の棒といった感じだ。
おっさんがトンカチを持ってきて、コンコンと叩く。
「不壊のスキルでコーティングされているのかな。ありえない硬さだね。研ぎもカミソリみたいだよ。ほら」
そういって、壁にあった丸い軽盾を床に置き、ナイフを落とした。
スコーンという音とともに床に突き刺さるナイフ。盾を真っ二つに割り床に刺さった。
「この盾、安いけど鋼鉄の盾だよ。ありえないね」
うーん、うーんと首をひねる。
「それも、兄さんに聞いてみたらいいよ。僕にはわからないよ」
店主は残念そうに呟いた。
気がつけば結構、長居していた。
店内の時計を見ると、11時半(自動翻訳・地球時間)。
間も無く出発時間だ。急がねば。
「ありがとう。じゃあ、盾と槍をもらうよ」
そう言うと、店主はニコニコで、毎度ありいと元気な声で言った。




