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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第二部  鉄の勇者、大陸をゆく
48/214

第46話 異世界パイセンと二人、ナミートの夜

レイアとモーゼルを呼びつけ、ゴンゲンはクロガネについて、話を整理していた。


「レイアよ、状態異常の特訓はどうじゃった」


レイアは長い睫毛を揺らせながら、首を振る。

「まだまだ時間が必要ね。抵抗が無さすぎて、心配になるわ」

実戦経験の少なさが出ているのか。


平均的な冒険者がランクを1つあげるのに3年かかる。


つまり、Fランクを3年やって、Eランクを3年やってDランクに到達する。


Fランク、Eランクの雑用依頼は、小さな毒虫や、攻撃力の少ないモンスターの対処が多い。そのため、簿弱な特殊効果を浴びることが多く、結果、自然と抵抗力が付く。ネムリキノコの採取や、催眠蝶の捕獲などのクエストを通じて、それらの耐性を身に付けるのだ。


「では、道中もその訓練を続けるように」

「多分、それでは間に合わないから、護符の準備をお願いします」


「わかった、集められる分は取り寄せよう。ただし、本人の耐性を優先するようにな」

ゴンゲンはモーゼルの意見を求める。


「モーゼルの方の特訓はどうじゃ」

「こっちは目処がついたぜ。ゾーンは体験させた。あとは、継続ときっかけじゃねえかな」

「よし、そちらは任せる。とはいえ、レイアと違い、お主はクロガネの側には居れぬ。課題を与えて自己修練させるしかないのお」


「出発を遅らせてはどうです?」

とレイア。

ゴンゲンは首を振る。


「それは、別の商隊に変更しろと言う意味か? それともフライドチンキ卿に出発を遅らせろと言う意味か? 何にせよ、機会は無駄にできん。

あくまでワシの勘じゃが、事態ことは一刻を争う。遅くなれば、一体、どのような事態になるか、予測ができん。1日も早く女神様の無事を確認せねば」


「であれば、別働隊を用意すべきではありませんか? ザイオンへ先触れを送り、敵対勢力を見極めるべきでは」

レイアが食い下がる。首を横に振るゴンゲン。


「神聖教の内情については、現在も調査を継続しておるが、あそこは魔窟よ。秘密、秘匿が多すぎて、手出しができん。

誰が裏切り者で、誰が味方か、神眼持ちを有する神聖教国内でもはっきりせんと言うのに、他国が干渉することもできん。

神託が健在である今、女神様の不在を証明するものはクロガネの手紙以外無い。

しかも、その手紙も、女神様はぼやかした表現で可能性を示唆するのみじゃ。神託スキルでもっともらしい説明でもされたら、覆す方法はない」


王とも散々議論を重ねてきた。


ガードナーの戦力と、第一の魔王軍の脅威、極秘裏の作戦遂行、女神様との立ち位置、他国との連携。様々な事情が立ちふさがる。


「ならば、もう少し戦力を増やすことはできないのですか?  国の飛空挺を特別に用意してもらうのは無理なのですか」

レイアとしては、漠然とした不安が拭えずにいた。


女神の勇者という存在の貴重性。それを預かる自身と、その戦力の薄さが。

守りきれる自信が無い。


「そのためのモーゼルじゃろうが。しっかりせいレイア。お主が頼りじゃ。

飛空挺が飛べんのは周知、お主も知っておろう。昨日もオリエンの所有機が1機落されたわ。魔王軍の飛龍部隊が暗躍しておる。狙い撃ちじゃ。その話は何度も説明したじゃろう」

その言葉がレイアに重くのしかかる。


「他国の動向はどうだ?」

モーゼルが口を挟む。


「他国は全く動く様子はない。仮に動いたとしても、クロガネを殺害することはないじゃろう。

拉致して自国の後ろ盾にするのがオチ。

問題は、帝国じゃが、東の端までは手を出さんじゃろうから、介入するとすれば、魔法学園都市のスカウトか、南部オリエン近辺の小国かのう。

それより、魔王軍は確実に動くじゃろうな」


「情報が漏れていると?」


「まあ、情報は漏れたものとして事に当たるのが良いじゃろうな。予断は禁物じゃが、最悪の事態を想定して備えればならん。

オーシャンからの情報によると、第二の魔王軍がかなり熱心にクロガネを追っていたらしい。

特に風将軍ボーゲンが雪辱を晴らそうと狙っておるのは必至。

奴らの情報力は計れぬモノがある。

どこからどう漏れるか、予測が立たん。

都市間の荒野なら、実際のところは、どこで襲われても不思議はない」


日に日に魔王軍の破壊工作が増加している。

どうも情報によると、奴らは何らかの転送装置を利用しているらしい。


それがどのような原理か、まだ明らかになっていないが、魔王軍はそれを利用して山間や森の合間の、孤立した村を襲っている。


しっかりとした対策を施している都市には侵入しづらいが、街道で人間に偽装したり、使い魔を使った偵察などで情報を集めている形跡がある。


モーゼルが動くことは、敵を集めることにもなりかねない。


「考えすぎても仕方ないが。用心に越したことはない」

とゴンゲンが言った。


「大丈夫だ、俺が守る」

とモーゼルは言い切った。


レイアはそれでも不安が拭えなかった。勇者を無事に水都へ送り届ける。

その任務の大きさに、潰される気がした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


レイアが、深刻な顔をしているのもつゆ知らず。

その頃、俺は、キャバクラで飲んでいた。


酒、うめえ。

俺が求めていたのは、これだったのか。もう一度言う。酒うめえ。


綺麗どころが一緒だと、

タノスイ。たのスィーーーーーーー。

やっぱりおっさん(野獣)と飲むのとは、ワケが違う。


横に座ったエルフの美人がopaiを俺の腕に押し付けてくる。

「いやあ、ガーネさん。良い飲みっぷりですねえ」

爽やかイケメン、タツヤが言う。


名前で想像できる通り、俺と同じ異世界人にほんじんである。

「タツヤくん。いやあ、良い店じゃないか」

俺は最高に上機嫌だった。


「そうでしょ、そうでしょ。やっぱ、猫耳とエルフは異世界こっちの醍醐味っすよね」

ナミート最後の夜を、俺は満喫していた。

思い起こせば、女っ気のない旅だった。


俺は、優香(死んだ元嫁)一筋だが、女が嫌いなわけではない。

これは浮気ではない。大人の付き合いなのだ。


うふふ、キャハハ。で、左のエルフちゃんが果物をアーンとしてくる。右の猫ミミちゃんが、お酒を口に添えてくる。

こらこら、俺は一人だよ。うふふ、キャハハ。


最高やないか!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ジジイの長い話を終えた俺は、ギルドから出たところで、呼び止められた。

振り返ると、黒髪黒目のイケメンが立っていた。


「同郷の人ですよね!? 俺、達也って言います。日本人です!」


すごい勢いで近づいてくるイケメン。


「え、おう、あえ? は? 同郷!?」


何と返事をすれば良いか、一瞬迷う。


俺たちを珍しそうに眺めていく冒険者たち。

「ちょ、ちょっと」


俺は、達也と名乗った男の口を塞ぎ、路地裏に連れて行った。

カラコン付けてるのに、なんでバレるかねえ。


「俺が異世界人にほんじんってのは、内緒なんだよ。タツヤくん」


と俺が言うと、男は「あ、そうなんすか。すんません!」と快活に言った。


「いやあ、ギルド長に呼び出しくらってて、今日まで遠出してたもんですから、帰ってきたら、同郷人らしい人がいたんで、嬉しくて嬉しくて、思わず声をかけたんですよ」


て、ことは、もしかしたらこいつが3人目?


まずは、挨拶くらいはしておくか。

「ガーネだ。故あって、今はガーネと名乗っている。ここだけにして欲しいんだが、日本人だ。これも訳あって内緒にしている」

「あ、そうなんすね。事情は聞かないですよ。俺」

軽い。口調が軽い。


「こんなところで何ですから、飲みながら話しましょうよ。こっちに来た経緯とか」

「ギルド長は良いのか? 呼び出しだろ?」


男は即答で「あ、いいんす、明日でも、多分大丈夫!」と言い放った。

「・・・そうか。じゃあ、せっかくだし、行くか」


俺はこの世界で初めての同郷人に興味があった。態度には出さないが、ものすごく嬉しかった。


男も俺の返事に嬉しそうに、美味しい焼き鳥の店があるんすよ、と言って歩き出した。


1軒目焼き鳥屋、2面目は海産物居酒屋、そして3軒目が、今いるキャバクラである。


聞けば、達也くん。

フルネームは山本達也くんは、18歳高校3年生。こちらに飛ばされて現在半年。


学校帰りに黒い穴に落ちて、気がついたらガードナー近くの海岸にいたらしい。俺と違い、いわゆる転移というやつである。俺は死んでるから転生。


こっちに来てからの苦労話を延々と聞かされた。

言葉が通じなかったとか、風呂がないとか、スキルで苦労したとか。そんな話だった。


最初、親切な女冒険者に拾われ、何とか意思疎通できるようになった。そしてその後、冒険者の見習いとなり、女冒険者の荷物持ちやら雑用手伝いをしながら独り立ちして、現在に至るらしい。


今でもコミュニケーションは苦労するらしく、翻訳持ちの俺が羨ましいとしきりに言われた。


逆に全く日本語にしか聞こえない俺にしてみれば、どんな風に聞こえるのかが疑問に思い聞いてみたら、ギリシア語のようらしい。ギリシア語がどんな発音かわからないので、へえと言うしかなかった。


ギルド長は達也が異世界人であることを知ってるのか、と聞いたら、知ってると言う。


異世界人は珍しいらしく、保護と検証を理由に定期的に会いに来るように言われており、今日もその用事だと思うと達也は言った。


酒を飲みながら、夜が更けていく。達也が顔を真っ赤にしながら日本の歌を歌う。アカペラで歌を口ずさむ。

俺も合いの手を入れる。


女の子たちは「どこの歌よー」とか笑いながら聞いてくれる。


こちらの世界では、15歳で大人の扱いらしいので、18歳の達也も、こうして酒の席に混ざれるし、真っ赤な顔で女の子に囲まれるイケメンは、何だか絵になっていた。


ある意味、異世界パイセンである。


俺の事情は、あまり話さず、日本時代の話を話すようにした。

息子娘がいること。

気がつけば若返っていたこと。

遠い大陸に飛ばされたこと。女神のことは話さず、あと戦闘関連も一切言わなかった。


その理由も、スキルのことを話すべきではないと思ったのと、同郷と言いつつ、この男が完全に信用できなかったこともある。

うふふキャハハしつつも、それくらいの警戒は俺でもできる。


宴たけなわ。もう、これ以上は飲みたくないなと思ったくらいで帰ることにした。


「これからも仲良くしてくらさい」

と呂律の回らない声で達也が言う。


俺は、微笑んで、

「明日には、この街を出ることになるんだ。悪いな」

と返した。


達也が寂しそうな顔をして「じゃあ、また会いたいですね。またいつか」と言って、手を差し出してきた。

握手をする。


「まあ、俺の勘なら、すぐに会えるさ。じゃあな」

いやあ、楽しかった。


俺はこうしてホテルに戻った。夜風が気持ち良い。


道すがら影が揺れているような気がした。少し飲みすぎたかもしれない。


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