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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第二部  鉄の勇者、大陸をゆく
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第45話 壁に耳あり障子にメアリー

「あいつらにそんな知能はない。見たことを持ち帰って映像を渡すだけだ。モーゼルが倒したのなら、他にはシャドーレイスはおらん」


そう胸を張るジジイの予想を裏切り、第一の魔王の居城では、魔女メアリー・オーガストがシャドーレイスの持ち帰った画像を解析していた。

人類の動向は、すっかりバレている。


「戦力が集結しているわね」


メアリーは、遠くに映るモーゼルの野蛮な横顔と、その横の画面に映る調査船サジタリウス号の画像を見比べていた。


メアリーがいるのは、ヨーラス大陸の中央近く。新たに建造した第一の魔王の城である。位置的には、女神の塔から東に100キロほどの場所にある。

第一の魔王の居城は、黒い石材でできた薄暗い城。

巨大な建造物である。

素材は石材。だが、その石材の元は死体。

数え切れない死体を押し固めて石化した黒肉曜石と言う悪趣味なもので建築されていた。


城。

この城で、生命のあるものは数える程で、メアリーもその一人。


メアリーは魔族である。珍しい女性魔族。

魔族は雌雄同体で、生まれた時は無性で、その後、成体になると、自身の意思で自由に性別を選べる。戦闘種族なため、力の劣るとされる女性型の魔族は忌避され、女性を選ぶものは数が少ない。


そのため、逆に女性型の魔族は、強いと見られる。それも力技ではなく、知略や技に長ける個体が多いと思われている。

実際メアリーは権謀術数に長けており、特に情報収集、情報戦略に長けていた。


メアリーのみならず、第一の魔王の部下は、第二の魔王の部下のように力自慢の戦闘馬鹿はおらず、知将ばかりである。実行部隊は物言わぬ死体と、影でできた魔法生物。


それらを取りまとめる四人の将軍が、

死軍大参謀ガイボーン、

死軍大闇魔導師オズワルド、

死軍異葬開発科学者オードリー、

そして、死軍戦術占師メアリー・オーガストの4名である。


大まかに彼らの役割をまとめると、ガイボーンが頭脳。オズワルドが殲滅役、軍事研究がオードリーで、目と耳がメアリーの役目であった。


第一魔王軍は、ヨーラスを陥落させてから、次なるターゲット、アルメニアの東海岸沿岸部分には、大量のシャドーレイスを送り込んでいた。


シャドーレイスは、戦闘力こそ皆無だが、ほぼ何処へでも忍び込め、情報を持ち帰る能力に優れている。

上陸箇所を策定するために砂浜や接岸可能な上陸地点を探させる一方、敵の拠点となる城塞都市には、常時、人の出入りを観察できるよう、こちらも見張らせていた。


港に大型の調査船が戻り、一人の旅人が降り立つ。その者はギルドへ向かい、最大戦力モーゼルが接触。一方城では、王とギルド長が会談。


いくら隠そうとも、何かがあったことは違いない。


実のところ、人類は第一の魔王を侮っていた。

第一の魔王は、力押しが大好きで、何も考えていない。

宣戦布告をするような誉はなく、ただ物量で押し寄せるだけの単純な卑怯者。

と言うのが多くの人々の第一の魔王への評価だった。


だが、実際は、複数の参謀が緻密な計算を行い、侵攻のタイミングや、軍の種別と数を割り当てており、敵から見えないところで知略的・戦略的に戦術を展開していた。


そしてその死体の大群を支える知的諜報活動の中枢は、このメアリーが全て一人で行なっていた。


ーーーーーーーーーーーーーー

メアリーはかつて、孤児だった。遺跡に捨てられ、死にかけているところをガイボーンに拾われ、暗黒魔術を教わった。

闇魔法の中でも、特に精神魔法と通信魔法が肌に合っていたようで、すぐさま魔導師級の腕を身につけた。

メアリーを拾った、ガイボーンはその頃、ダンジョンマスターとして生み出されたモンスターであった。アンデットのクラスとしてはワイト。正しくはバロウワイトというアンデットモンスターである。

生き屍人として、麻痺させる手を持ち、スケルトンより強力、アンデットとしては知性も高く、長くダンジョンを守っていた。


二人は、身寄りのないもの同士、ひっそりとダンジョンで暮らしていたが、ある日、第一の魔王がダンジョンへ入り込んできた。

第一の魔王はその頃、戦争に負け、力を奪われ、逃げ続ける日々を過ごしていた。

今から100年ほど前の話である。

普段のように侵入者を排除しようとするガイボーンだったが、力を弱めたとはいえ第一の魔王は強力で、最深部まで到達され、打ち負かされる。

ダンジョンの制御を奪った第一の魔王は、ガイボーンの支配者となる。

ガイボーンは、ワイトから、ホロウワイトキングへと進化した。

ガイボーンに育てられたメアリーも、第一の魔王に忠誠を誓い、その後長くに渡り、このダンジョンは第一の魔王の隠れ家となる。


第一の魔王の配下に加わってから、メアリーは充実した日々を過ごしていた。もともと、寡黙な女性で引っ込み思案というタイプだったが、第一魔王の庇護のもと、どんどん力をつけていく。

魔法を極め、女性として成長すると共に、人間に似た容姿ゆえに、外の世界に出る機会も増え、外界の知見を得るごとに、少しずつ尊大になっていく。

時には買い物のために街に出かけ、時に冒険者を退けるために戦い、時に知識を得るために問いかけた。

外の世界で人類と交流する度に、自身が如何に強くなったかを実感し、また自身の美貌も高まっていることを知った。翻って、人類の脆弱さ、醜さを知るにつれ、その唾棄すべき存在そのものに辟易した。

第一魔王の側近として人類を駆除することは、メアリーにとってはいつの間にか、当たり前のこととなり、やがて人類が絶滅すべき存在ということは自明のこととなった。


ーーーーーーーーーーーーーー


ガードナーの異変を知った次の朝。

昨夜からメアリーは眠ることなく監視を続けている。メアリーは基本、眠らない。

メアリーはゴシックドレスを好む。

黒い薔薇をあしらったレースの生地、膝より上までのエナメルのブーツ。ドクロの装飾が施された黒い石材でできた椅子に腰掛け、画面を見る。


画面は、薄く伸ばした水晶に、黒魔術の投影魔術で映像化したもの。シャドーレイスが見てきた内容を彼らの魔核から取り出すという魔術を用いている。

壁いっぱいに映る様々な映像。それぞれのモニターが違う場所を監視している。

シャドーレイスには奇妙な特徴があり、同種族間で映像を共有することができる能力を有していた。


ガードナー最南端、ナミートの街の一角。豪邸の庭で朝の早くから荷造りが行われている。フライドチンキの商隊の映像である。

そこに小さく映るモーゼルの姿があった。

モーゼルは勘が鋭く、何体ものシャドーレイスが殺されている。それらの情報から、モーゼルにどのくらい近づけば気づくのか、もうすでに把握済みだ。


モーゼルの姿を見ていると、人々が徐々に増え、そこへ、黒髪赤目のあの男が来た。

やがて、商隊が動き出し、モーゼルも黒髪の男も街の外へ消えていく。


メアリーの直感は言う。


何か重大な作戦が進行している。あれは、滅ぼすべき相手だ。


あの連中の妨害をするためには、どうすれば良いか。


色々考えた結果、メアリは、1匹のシャドーレイスを呼び出し、それへと伝えた。


「聞こえるかしら、こちらビスケス様の監視所のメアリーよ。貴重な情報があるんだけど」


シャドーレイスから声が返ってくる。

シャドーレイスの種族的特徴により、このような遠距離通話が可能だった。


「こちらブーゲの城。第一の所のメスか。珍しいな。何用だ」

ぶっきらぼうな答え。

魔王同士は、反目とまでは行かないが、お互いに功を争う存在。

邪神に認められるよう競い合っているため、よほどのことが無ければ、情報の提供などはしない。


ゆえに、第一の魔王軍の関係者は、第二の魔王軍が女神の勇者クロガネを追っていることを知らないし、女神を拉致したことも知らない。


余談ではあるが、シャドーレイスでの盗撮盗聴も第二の魔王の支配下では、不可能である。

魔王の強力な魔力により、シャドーレイスが制御できないのがその理由。


だが、最低限の協力のため、通信用のシャドーレイスは常に所定の場所におり、緊急時には連絡が可能になっている。

今回、連絡したのはそのシャドーレイスに宛ててであった。


「ご挨拶ね。どなたかしら? 瞬殺さん?」


「・・・俺はボーゲン。もう一度聞く。何用だ」

「あら、ゼクウさん。ご無沙汰ね。20年ぶりくらいかしら。あなたがお城にいるなんて珍しいわね。用事ってわけじゃないんだけど。ガードナーの街に動きがあったのよ。第二の皆さんで対処してくださらないかしら、と思って」


「・・・どう言う風の吹きまわしだ」


「やだわ、こっちは海を渡る準備で忙しいのよ。知ってるでしょ? それに単騎戦力なら第二の皆さんの方が強いから、少数での工作ならお得意でしょう。悔しいけど、こっちで手を出せないのよ。でも黙って放置する訳にもいかないから、情報提供してるのよ。他意は無いのよ」


他意がないのは嘘である。

「情報提供、痛み入る。詳しく聞こう」


メアリーは、モーゼルのこと、黒髪のこと、商隊のことを話した。

シャドーレイスの向こう側、ボーゲンは黙って聞いている。

「・・・その男の特徴。こちらで追っている男だ。情報、感謝する」

それを最後に通信は切られた。


メアリーは最近の第二魔王軍の動きを気にしていた。


ヨーラス大陸の女神の塔の結界が消えたこと、第二魔王軍が中央大洋を右往左往していること、いくつかの女神の神具が人知れず取引されたこと。


これらの情報から、大局が動いていることは間違いない。


が、直接問いただしても、本当のことを教えてもらえるかどうかは疑わしい。

集めた情報から、女神を拉致したのは第二の魔王だろうと、メアリーは予測していた。また、この黒髪の男は、女神の勇者ではないかとも予測していた。


敵ではないが仲間でもない間柄。魔王たちの間柄はそんなもの。


相手に出し抜かれたからと言って、何がどう変るわけもない。最終的に邪神様を復活させて、自分の魔王が認められればそれで良い。


第一の魔王が大陸を制圧したことと、第二の魔王が女神を拉致したこと。おそらく同じくらいの手柄。


女神を封じたことが、自分たちにもどのくらい利益のあることなのか。


女神の勇者と第二魔王軍が潰し合えば幸い。


どちらが勝とうが自分たちに被害はない。


それがメアリーの打算であった。


こうしてクロガネは、再度、第二魔王軍からの標的とされた。


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