第44話 勇者移送計画 仮初のパーティ
いてててて。
もう、体が限界ですよ。スパルタ教育も行き過ぎですぜ、あれは。
モーゼルの電車道と、レイアの状態異常訓練。二本立て。
豪華すぎるぜ。
夕方、ホテルの部屋に戻り、体の痛みに耐えていた。最後の方は回復魔法も効かなくなってきた。なんか神経自身が痛みを記憶しているような感覚になってきた。
それほどの猛練習だった。
コンコンと部屋がノックされる。
きしむ体を起こし、ドアを開ける。
レイアが立っていた。優しい笑顔で。その笑顔が怖く見える。
「ギルド長が呼んでるわ。一緒に来て」
緑色の髪がふわふわしている。ニコニコのレイアさん。
可愛いんだけれども、俺が痛がると喜ぶんだよね。
無邪気なのか、ドSなのか。俺は後者だと思ってるよ。
さっきも目がキラキラしてたもんね。
「ああ、分かった。いてて」
ホテルを出て、またギルド本部へ。
道すがら、何人もの人とすれ違う。
夕方、ギルドからホテルへ戻る人が多いのか。武装した冒険者らしい奴らが歩いていた。金属の重鎧や、皮の軽鎧だけでなく、和装の鎧武者もいる。
どんな世界観だよと思っていると、
「あれは剣豪の国の人ね。今は、戦時で、ここは割と最前線だから、結構、いろんな国の人が集まってるわ」とレイアが説明してくれた。
街並みの印象は、石造りの欧風。
ここまで見て聞いたことを総合するに、この世界の文明レベルは明治時代くらい? だと思われる。
通信技術があり、電気があり、鉄道が走り、飛空船が飛ぶ。
灯りがともる街並みは、美しい。
電気ではなく、光魔法を利用した街頭らしい。
地球と比べて特段文明レベルが低いと言う感じは無い。
街中には数は少ないが車もバイクも走っている。魔法で動く車だという。
だが、知識体系は相当、ねじれている。
理由は、簡単に推測できる。
魔法の存在と、異世界人の影響だ。
魔法について、それがどのような原理なのかについて、俺は詳しくないが、ものを浮かせたり、テレパシーで会話できるらしい。
どのような力が働いているのかは、知らない。
原子力の知識はない一方、遺伝子や疫学、化学の概念は多少あるようだ。
おそらく、異世界人の知識の偏りが、そのままこちらの文化にも影響を与えたのだろう。
例えば、薬品の知識は、薬剤師一人で、知識を持ち運ぶことはできる。しかし、兵器の開発知識、それも高度な物理学や、ロケットのように複雑な計算を必要とする知識などプロジェクトチームで開発するような知識は持ち込みにくい。
このような理由で、スマホの開発、高度兵器の開発、高度化学資材の製造開発などは、発展していないのではないか。単純な概念や、個人が抱えることができる知識が伝えられたと推測できる。
おそらく、その辺りの推測は間違えていないだろう。技術とは知識体系の積み重ねで、高度になればなるほど、基礎となる論理体系が必要となる。
それは俺が携わってきた冶金分野でもそうだ。
青銅から鉄、鉄からアルミ、アルミからステンレス、ステンレスからタングステン。
重金属類の発見や、元素の発見が、歴史を重ねて発展していく。
こちらの世界は、異世界人が干渉しながら、こちらの流儀でそれを発展させている途中なのだろう。
どちらが優れているとは、一概には言いにくい。俺の右手の収納カバンなど、地球では考えられない便利アイテムだ。
こちらの世界で感じるのは、情報通信技術は立ち遅れている印象。
スマホやテレビなどは普及していない様子。パソコンもない。
まあ、地球もそうしたITツールはこの30年程度のもの。俺が子供の頃には、リモコンですら珍しかった。
情報通信技術は、地球とは別体系で進化しているようにも思える。知識の書とかスレートとか。魔法的な技術で、知識共有が可能なのだろう。
道を歩きながらそんなことを考えていた。
冒険者たちとすれ違う。
人々は粗野ではないが、皆、キリッとした顔をしていた。戦争の時の顔というか、危機が近いとそれなりに緊張感が顔に出るのだろうか。
夕焼け、遠くに見える防衛壁は、土魔法で建造されていると言う。昼夜を問わず建造されている。
鉄の芯は練成師が作り、土魔法で表面をコーティング。
この世界の土木技術は凄まじく、平均的な魔術師一人で1日4面ほどの壁を作ると言う。1面がテニスコートくらいの大きさだから、その速度は異常だ。
今、大陸の西海岸、特にこのガードナーに多くの土魔法使いが雇われており、人類の防衛を支えていると、レイアが教えてくれた。
そんな話をしていると、やがてギルド本部へ着いた。
ロビーは人でごった返している。夕方、仕事を終えた冒険者が報告と換金に集まっていると言う。
冒険者の仕事は幅広く、ゴミ掃除から護衛、害獣駆除など様々。
ランクが高くなると、雑事は相手にせず、貴族相手の仕事や、巨大獣の退治がメインとなる。
この世界は、外敵が多く、また強大なため、地球のように人類があちこちに散らばっているようなことはない。
紀元前の都市国家のように、街を中心に外壁を作り、密集して暮らすのが通常だと言う。
そのため、街道の安全確保が流通の死活問題となり、多くの冒険者を移動させることで、街道の治安を守る意味合いもあるのだと言う。
都市間の物品の移動は商隊を組み行われる。こうした事情から商隊を狙う盗賊も発生する。
世界の危機よりも目先の利益を優先するものは、どこにも居るものだ。
また大陸は広く、人類の占有領域は狭いため、魔族のテロ活動もしやすい。
都市国家は、結界魔導師や憲兵、騎士団により守られているが、一歩外へ出れば、人類の支配の及ばない荒野である。
そこには法の秩序はなく、未だ弱肉強食。
もちろん国家としての法は適用されるものの、自衛自助が原則である。
そのため、都市国家間を行き来するDランク以上の冒険者は、同行者、いわゆるパーティーメンバーに全幅の信頼を寄せ、逆にそこに疑義が生じる相手はパーティメンバーとしては選ばない。
Dランクの都市間の護衛任務は、大商隊にソロで参加することが通常である。
何度もそうした大人数での護衛を繰り返しているうちに、商隊内で知り合う者同士、仲良くなり、Cランク、Bランクといった難しい依頼へと誘い合い挑戦していくようになるのが、パーティー結成のセオリーだという。
レイアは、そうした冒険者の一般的な行動も教えてくれた。
ギルド長の部屋に入るなり、
「心は折れておらんか。つまらんのお、ガハハ」
とギルド長、ゴンゲンのジジイが嬉しそうにいう。
鋼の心。鋼の心。
心おだやかに、嫌みたらしいジジイは相手にしない。
俺はその手の挑発に乗るような若造ではない。
自分にそう言い聞かせて、スルー力を発揮した。
俺が相手にしないことに不満げな顔をしてゴンゲンのジジイが言う。
「ふん、つまらん顔じゃの。さて、今日は、明日からの行動について説明する。
入れ」
ジジイがそういうと、奥の扉から、若者3人が現れた。
「紹介しよう。Cランクパーティ。ハヤブサの魁じゃ」
はやぶさのさきがけ?
なんだか速そうなパーティ名だな。
鑑定すると名前が出る。
ローグ・リターナコール
ティアナ・ブランドン
エドガー・アランガロン
男2人、女が1人のパーティ。
「よろしくな。ガーネ。俺はローグだ。ジョブは、スカウトだ。」
ローグという名前の身軽そうな男が挨拶してきた。
「よろしくね。私はティアナ。魔導師よ」
「俺はエドガー。魔銃使いだ、よろしくな」
ふむ。
「ガーネだ。よろしくな」
挨拶も済んだところで、事情を説明しろジジイ。
レイアやモーゼルはパーティじゃないの?
「ガーネは、ハヤブサに合流して、豪商フライドチンキの水都避難の護衛部隊への参加。護衛は総勢20名。モーゼルは別の任務で同行すると言う体じゃ」
「いったいそれになんの意味が?」
「仮にもモーゼルは国家戦力。モーゼルが護衛すると言うだけで、魔族の妨害が予想される。実力も知名度も差があるお主とモーゼルがパーティを組むなど現実的にはまずありえん。すぐに裏を感づかれる。じゃから、モーゼルには、王からの依頼で南アルンザからの届いた親書輸送という別任務を公表させる。お主らの商隊と付かず離れず移動する、というわけじゃ。レイアは、商隊へソロとして参加する」
で、このCランクパーティね。
「お主は異例の早さでDランク認定された期待の新人・ガーダーとして、ハヤブサに参加してもらう。
お主のスキルは、偽装する。これを嵌めよ」
ジジイがそう言って指輪を渡してきた。
「それは、偽りの指輪というマジックアイテムじゃ。
昨日渡したプレートだけでは、お主自身の鑑定をごまかすことはできんからな。
この指輪をはめておけば、神眼以外の鑑定スキルは詐れる。
そこには、ガーネという偽名と、金剛という一般的なスキルを刻んでおる。
金剛というのは、体を鉄のように硬くするスキルじゃ。
お主は防御担当の重盾士としてパーティに誘われた。というのが表向きのストーリーじゃ」
「で、この人らには、どのくらい事情を伝えてあるんだ?」
俺が問うとジジイが答えた。
「お主が南アルンザ人で、水都を目指すということを伝えてある。また極秘任務である旨伝え、必要以外のことは言っておらんし、お前からも言うな。特にスキルに関してはな」
ハヤブサのメンバーの顔を見る。
本人たちの前で、堂々と隠し事があるとジジイは言った。聞いている方はどう思うのだろうか。
三人は、皆、直立で正面を見てじっとしている。
よく訓練された軍人のようだ。冒険者はもっと荒くれのイメージがあるが、どうも違うようだ。
パイクロスパイセンくらいが基準かと思っていたが、奴はやっぱりはみ出し者なのだろう。
「では、一旦、ハヤブサのメンバーは外で待っておれ。ガーネに話がある」
ジジイがそう言うと、3人は部屋を後にした。
3人が立ち去るのを確認してから、
「不満そうな顔じゃのお」
とジジイが言う。
「いや、混乱しているだけだ」
少人数でさっさと移動するものと思い込んでいた。
レイアとモーゼルは全てを知る仲間、ハヤブサは隠し事のある偽りのパーティ。
そうした腹芸は得意じゃあないんだよなあ。実際、船長にもバレたし。
「うっかりバレたらどうすりゃいい?」
と率直に聞くと、ジジイは快活に笑い「それも織り込み済みよ。まさかお前が自分でベラベラ自慢はせんじゃろう?」
と値踏みするように言ってきた。
まあ、それは無いが。
「そうよなあ、バレたら押し通せ。あとは、お前の持ち物はあんまり見せぬことよな。ピノコとオートマタ、スライムは仕方ないにせよ。オリハルコンなり、収納カバンなり。金に目が眩む奴が出てもおかしく無い」
すでに牛パイセンには絡まれたけどね。
「ジジイは大丈夫か。盗むつもりだろう」
と茶化すと、殺してやろうか、と凄まれた。
「さておき、あと一人でメンバーは揃う。商隊の出発までには揃うじゃろう。他の準備は整っておる」
後一人? まだいるのか?
「いくつか聞きたいことがある。そのなんとかチキンっていう豪商の引越し、この短期間で、わざわざ俺のために仕立てたのか? あと一人ってのは誰だ? 隊商で俺はどうすれば良い? 他にも」
と言いかけたところで、ジジイが俺を遮り答える。
「聞きたいことは山ほどあろうが、道中は適当に指示に従っておれば良い。計画通りなら、退屈以外は特に何も無い旅だろう。
フライドチンキには、レブロンには寄り道し、逗留するようお願いしたが、それ以外は元々の予定を利用させてもらう。隊商はタイミングで選んだ。お前を紛れ込ませるのに最もふさわしい旅団としてな。事情については伏せてあるし、モーゼルが護衛に付くと言って嫌がるものはこの国にはおらん。なにせ安全は約束されたようなもんじゃからな」
おいジジイ。
なんか、変なフラグをバシバシ立ててるんじゃなかろうか。
「戦争真っ只中」で、「退屈」、「安全は約束された」ねえ。
見通しが甘いんじゃ無いのか、ジジイ。
「先に言っておくが、団体行動は得意な方じゃ無い」
俺は、工場経営の親方体質。
人に仕えるのは慣れていない。
学生時代も先生の言うことを聞かないで有名だった。
自慢にはならんが。
咳払いをし、ジジイが目を見開いて言い聞かせてくる。
「重ねて言うが、貴様は女神の勇者。くれぐれも自分の存在意義を忘れるな。女神様の謎を解き、魔王を倒す戦力を身につけてもらわねばならぬ。
そこにいるレイアも命をかけて貴様を水都まで連れて行く。モーゼルにもいざとなれば死ねと命じておる」
死ねとか簡単に言う。戦時下の戦士としては常識か?
ジジイが続ける。
「たとえ、商隊が全滅しようとも、貴様だけは守ることがこの任務で最も大切なことじゃ。ハヤブサには、他の目的を伝えておるからのう」
「ハヤブサには何て?」
「隊商は陽動で、モーゼルに人類の希望を託した。そう伝えておる」
そんな話。上手く行くのかねえ。
人の好奇心というのは、割と厄介なんだぜ。俺のことを詮索されると、いろいろ問題が出そうだが。
ふと思い出す。
そういえば、モーゼルと飲んだ時、シャドーレイスは町の至る所に入り込んでいると言っていた。
「敵に情報が漏れることは? あの影に」
「シャドーレイスのことを聞いておるのか? 流石にワシらを舐めすぎだぞ、小僧。シャドーレイスが入れるような場所で、ペラペラ計画を話すと思うか」
賑わっている居酒屋で身の上話をペラペラしてたのは、誰だい?
あたいだよ。
昨夜のことを思い返す。
喋ってるじゃん。
バレてんじゃねえの?
酒場での話をするとジジイはふんと鼻を鳴らして
「あいつらにそんな知能はない。見たことを持ち帰って映像を渡すだけだ。モーゼルが倒したのなら、他にはシャドーレイスはおらん」
とジジイは胸を張った。




