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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第二部  鉄の勇者、大陸をゆく
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第42話 モーゼルと言う男

深夜。

薄暗い酒場で、ワインの瓶がいくつもテーブルの上に転がる。


モーゼルはうっすらと顔を赤く染め、大声で泣いている。


「そうか、娘と息子が残っているのか。心配だろうなああ」

モーゼルはすこぶる良い奴だった。


聞けば、この国で一番強いらしい。

自称だが。


ただ、身のこなし、雰囲気、オーラ、全てがそれを物語っている。まんざら嘘でもなさそうだ。


「そうなんすよ。心配なんすよ」

俺は、身の上相談をしていた。飲みに行くぞ、という強引な誘いも断る余地はなかった。有無を言わせぬ迫力があった。


「俺は、一族が皆、死んだ。だから残されたものの事はわかる。

 大切な人を守ろうという気持ちも、少しはわかるつもりだ。

 これを見ろ」

モーゼルがペンダントを渡してた。ペントップを開くと、写真が入っていた。


あの、謎技術で、中の人物が手を振る。女の人と子供だった。

「嫁と息子だ」


美人な奥さんで。子供はまだ小さい。2、3歳くらいだろうか。

「俺は、ヤ人族という、戦闘民族の末裔。最後の生き残りだ。

 ヤ人族は知っているか」


俺は首を横に振る。首を横に振る、が否定のジェスチャーは、共通のようだ。

「異世界人なら知らずとも当然か。

 まあ、初対面で話すような内容ではないが、簡単にいうと、ヤ人族は、魔族側についた部族だった。

そんな経緯で、ヤ人族は今でも畏怖され、差別される対象ってわけだ。まあ、その誇り高き種族も残るは俺だけだがな。そんな俺を愛してくれているこいつらの為にも、俺は強くあり続けねばならん」


うーん、深い内容。

「おっと、しんみりさせたな。今夜は、楽しく行くぞ。出会いに乾杯だ!」


モーゼルは屈託のない笑顔で、またグラスを開けた。


そして、琥珀色の蒸留酒を瓶ごと飲み出した。

とんでもなく酒が強い。

「俺は、いろんな人間を見てきたから、一目見たらそいつがどんな奴か、だいたい分かる。

お前は、スッキリした良い奴だ。

戦ってきた奴の目だ。その割に増長もしていない。俺で良ければ鍛えてやろう」

ええ人や。ほんまええ人や。


最初は滅茶苦茶、怖いと思ったが、酒が進むごとに楽しくなっていく。


異世界での俺の愚痴を、いろいろ頷きながら聞いてくれる。


寂しかった事、不安だった事、それこそモーゼルが言うように初対面の人に話す事ではないかもしれないが、何故か、モーゼルなら分かってくれそうな気がした。


傷つき、傷つける事こそ人生で、そのどうしようもない事をさらに乗り越え、笑いと次の活力に変えることができる。

そんなおっさんの美学のようなものが、お互いに干渉したのだろうか。

話が合った。ウマが合った。

モーゼルは聞き上手で、話し下手。


俺が何故、女神の勇者を引き受けたのか、死の大陸のジャングルで不安を抱えながらなんとか乗り切ったこと、右腕を失い死を覚悟したこと、500人の魔族に取り込まれたこと、巨大なイカの雷に打たれ嵐の海で死にかけたこと。


そうした話をしっかりと聞いてくれた。人柄だろうか。モーゼルには隠し事はあまりしなくて良いような気がした。

モーゼルの話も面白かった。


第一の魔王の軍勢から撤退した話。

北の山にドラゴンが居着いて、追い払った話。

大鎧鮫を素手で解体した話。

武闘会で優勝した話。

ゴンゲンとの模擬戦で、ギルドを壊した話。

奥さんと出会った話。

などなど。話が尽きない。聞いても聞いても飽きなかった。


こちらの疑問にも率直に答えてくれる。

「第一の魔王とか、モーゼルさんなら、勝てるんじゃないっすかね?」

「俺では無理だ。あれは際限がない。倒しても倒してもキリがない。それに手応えがなさすぎて、面白くもない。俺との相性は最悪だな」

と、悪びれも恥ずかしげもなく言った。裏表の無い人だと思う。


「じゃあ、勝てない、ってことですか」

モーゼルが首を振る。

「神聖スキルで、相手の再生力より勝る力。これが第一の魔王の軍勢を押し返す唯一の方法だ。神聖教国もバカでは無い。おそらく何らかの準備は行なっているだろう」


もしかして、その準備ってのが、俺のことだったりして。


俺、神聖スキルなんか全く使えないけどね。

「まあ、それも神聖教国に行けば分かるさ」

がははははと豪快に笑う。


それもそうかと、別の話題。

「モーゼルさんの強さの秘密って何ですかね?」

「明日、模擬戦やるか。なあ」

おっと、地雷を踏んでしまいました。


「俺と爺さんの系統は同じ。武闘家タイプだ。

 この世界の強い奴のタイプはおおよそ6タイプ。


 武闘家系は、スピードと破壊力。

 剣士系は、切断力と突破力

 魔道士系は、範囲殲滅力と応用力

 幻導師系は、混乱と戦力低下

 暗殺系は、持久力と破壊工作

 物量系は、でかさと重さ


 大体、このどれか、もしくはこの中の組み合わせで決まる」

タメになるなあ。じゃあ、俺は?


「話を判断するに、どちらかと言えばお前は、物量系だな、今は。

手数と物量で削るタイプだ。

だがこれまでの成長速度を考えると、お前の能力は汎用性が高い。全ての系統を極めることも不可能では無い。あとは精進次第、ではあるが」

と言ってくれた。


「俺の強さの秘密か・・・。何よりも種族特性。ヤ人族は、べらぼうに強い。見てみろ」


モーゼルは、テーブルの上にあったフォークを掴み、


自分の手の甲に突き刺した。


「え?」

と思わず声が出るが、フォークがぐにゃりと曲がり、手は無傷。


「硬いのだ。体が。力入れなくても、な。このくらい」

と言った。


触ってみろと言うから、二の腕に触ると、感触がタイヤだった。


「曲げ伸ばしは支障ないが、かすり傷をつけようと思っても一苦労。見ておけ」

と言って、今度はナイフを自分の目に突き刺した。

ぎゃあ、思わず俺が悲鳴をあげてしまった。


今度もナイフがぐにゃりと曲がる。

「ほらな」とモーゼルが笑う。


「急所が無い。本当だ。これを見ろ」

と言って立ち上がり、ズボンを脱いで股間を見せてきた。


「ワー! わ〜! もういいですよ。モーゼルさん」

その騒ぎに周りが注目してきた。


「ここも固いから、不便な時もあるぜ、ガハハ」

その後、ズボンを履き直して、何事もなかったかのように言う。


相当、お酒で上機嫌な様子。酔うと脱ぐタイプらしい。


その後、目が座り、真剣な表情に戻り、言う。

「お前には鑑定があるらしいから、バレるだろうし、教えておいてやる。俺のスキルは、内燃。身体強化の上位スキルだ。見ろよ」

モーゼルが2本、指先を立てて見せた。うっすらと輝き、そのままテーブルへゆっくり降ろす。

すると、テーブルが抉れて切れた。指の形に抉れた。


目を丸くする俺。

なんつう、フィンガーパワー。

「ま、軽くやってもこれくらいは朝飯前よ。単純な技だけに応用が効く。あとパワーも何倍にもなる。俺の場合は、アルコールが動力源だな、ガハハ」

と、本当とも冗談とも言えない調子で言った。


瓶をさらに1本空ける。ものすごい早さで飲む。


「ちなみにゴンゲンの爺さんとは、どちらが強いんですか?」

と、興味本位で聞くと、


「そうさなあ。ジジイとは同門。腐れ縁だ。800戦451勝。330敗、61引き分け」

計算が合わないけどね。

「細かいことはいいんだよ。まあ、俺の勝ち越しだが、本気でやったのは、2、3回だなあ。下手すりゃ、街が吹き飛ぶからな。お互い本気出せば」


「付き合い長いんですね」


「ああ、もう20年くらいになる。あ、それとそろそろ敬語やめろよ、気持ち悪いから」


「あ、はい」と答えた。


モーゼルはなんだか、兄貴感が強く、敬語で良いような気がした。

「モーゼルさんより強い人はいるんですかね?」


「まあなあ。この世界で強い奴はゴマンといるぜ。ただ、強さにもタイプがあるから、相性が悪いと、まず勝てない。俺の場合は、剣士系には、負ける可能性もあるな」


あら意外。暗殺系とかの方が負けそうだけども。


「そうさなあ。強力な毒でも仕込まれたら負けるかもしらんが、俺は勘が鋭いらしくてな。人の気配もわかるし、匂いにも、音も敏感。こんな感じで、な」

と言って、ナイフを壁に向かって投げた。自分の目に突き刺して曲げたナイフが、木の壁に突き刺さる。


何も無いと思っていたはずの壁に、薄い影がベロンと垂れた。

なんじゃありゃ。

「シャドウレイス。第一の魔王の斥候だ。毎日、嫌んなるぜ。とまあ、こんな具合だ。話戻すぜ」


「あれ、放っておいても良いんですか」

と俺が聞くと、「ああ、もう死んだ。うじゃうじゃいるからな、キリがねえ」

とさらっと言う。


「剣士系には、絶対切断っていう恐ろしいスキルがあるんだよ。硬さ関係なく、切り裂くスキルだ。まあ、レアだから滅多にお目にかからないが、ほれ」


そういって、肩口の傷跡を見せてくる。

「これも、これも、切られた跡だ。まあ、魔道士は遅いが破壊力がある。極大呪文を直撃されれば俺でもやばいだろう。あとは、物量系は、規模によっちゃあ厄介だな。デカすぎると何もできない」

ふーんそうなんですねえ。

「物量系と戦ったことがあるんですね」


「砂漠の神獣に追いかけられたことがある。知ってるか神獣。そうか、リバイアサンは会ったんだったな。砂漠のはベヒモスだ。ずっとうろついてやがる。でかいし硬いし、何やっても効きやしない。あれはどうもならんな」


神獣と会って生きてる人が、ここにも居た!

なんか親近感。


「5大国には、それぞれ英雄が1人はいる。どいつも俺と同じか、俺よりちょっとだけ弱いくらいだな。魔王にもそれぞれ将軍がいる。特に第二魔王の一番手・瞬殺は、強いらしい・・・。第3魔王のピエロも噂に聞くが俺は苦手なタイプだ、空間切られたら死ぬ、当たればだが。

あと剣の国の侍大将と師範数名、魔法学園都市の学長ほか何名かくらいは、どいつも強いと言う。あとは、シーワルドの竜騎士。砂漠の龍人。妖精の森の召喚士。召喚士、これは、もういないがな・・・」


そのほかにも知られていない猛者はうじゃうじゃいる。とモーゼルは付け加えた。


快活なモーゼルにしては珍しく、第二の魔王の一番手と、召喚士に関しては、何か言い淀んだ感がある。


そんな感じで夜は更けて、モーゼルに合わせて飲んでいたら、いつの間にか意識が無くなっていた。


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