第38話 Dランク冒険者ガーネ
ギルドの建物の地下には、体育館くらいの広さの闘技場がある。普段は、訓練やテストに使われるており、稀に、生け捕りにした魔物を連れてきての実習なども行われる。
ジジイに連れられ地下に移動した俺は、早速、試験を受けることになった。
テスト自体はおまけみたいなもの。出来レース。
俺は突然Dランク冒険者になった。
ジジイの独断で。
すでにランクは決まっているが、バトルマニア・ゴンゲンは、楽しそうに屈伸運動をしている。
ジジイの説明によると・・・。
冒険者試験は筆記と実技で、筆記は100問の常識テスト。
実技は先輩冒険者との模擬戦闘となる。
すでにランクが決められた出来レースとは言え、無試験というわけにはいかないので、まずは筆記試験を受ける。
広い施設の真ん中に、こじんまりした机と椅子。中学校を思い出す。
俺はそこに座り、テスト用紙に向き合う。
トニーに習ったことが役に立つ。
通貨の話や、魔物の生態の話は、習ったそのままが出題された。
最後まで問題を解いて、あの勉強はこの対策も兼ねていたのだと知った。
サンキュー船長、サンキュートニー。
筆記試験を終えて、ゴンゲンのジジイが嬉しそうに声をかけてきた。
「よし、いよいよ実技じゃな。貴様の今の実力を見る必要がある。
手加減はなしじゃ、スキルも使って良い。
人払いはしてあるから安心して全力を出すがいい」
コキコキと首を回すジジイ。
身長は俺よりかなり低い。
しかし強者の威圧がすごい。
「ちょっと待ってくれ、一応、こいつに立会いを頼む」
ナイトメアをカバンから出す。
釘を刺しておかないと暴走されては危険だからな。ついでにピノコも飛び出してきた。
「お兄たん、ガンガルでつー!」
状況を素早く察知したピノコが応援してくる。
「おいナイトメア、これは模擬戦だ。もし俺が負傷しても、あの爺さんに攻撃することを禁止する。もしかしたら、あの爺さんはお前より強いかもしれんからな。わかるか」
「はいマスター。マスターの緊急事態には、戦闘を止め、相手に危害を加えず、戦線を離脱します」
満点の回答。
「じゃあ、やりますか」と俺が振り返ると、ジジイはまたアワアワしながら、
「しゃべるキノコと、こ、古代兵器オートマタ、」とアワアワしていた。
おいジジイ。
ジジイは目をしばしばさせて、気をとりなおし、我に帰った。
「すまん、また取り乱してしもうた・・・お主は、一体、どれほどのお宝を・・・」
ジジイが再び気合を入れて、戦闘態勢に戻る。
「おほん、気を取り直して。では行くぞ。先に言っておくが、模擬戦とはいえ全力じゃ。わしもスキルを使う。
わしのスキルランクは、コモン。
特に珍しいスキルではないが、コモンでも鍛えればここまで極められる。さあ、己の身をもって体感するが良い」
奇跡の書は使わない。あえて予習はしない。
正々堂々の果し合いは、清々しい。
これまで血で血を洗うサバイバルばかりだった。死ぬか殺すかの殺伐とした戦い。1対多、小対大、素手対刃物と、劣勢を強いられてばかり来た。
自分より小柄な、それもジジイに負けるわけにはいかない。
たとえ俺より強者であっても乗り越えなければならない。
それが世界を救うということだ。
武者震い。うおお、滾ってきた。
「行くぞジジイ!」
さっきはいきなり殴りやがって。ステーキを返せ!
手持ちの全ての鉄を展開。俺の今の容量は最大20トンだが、手持ちはそこまではない。今所有している、5トンを超える鉄を10本の爪の形に変形させ、殺す気でジジイに突き刺す。
だがジジイは、素手でその鉄を弾き、次々と叩き落としていく。
俺は弾かれる鉄を変形させ、次々と突き刺すが、それも全て捌かれる。
ジジイの手が何本にも見える。えぐい技量だ。
ジジイの体が消え、横だと気づいた時には、脇腹を殴られていた。
鉄の鎧でガード。
高速錬成で、鎧を即時生成する。
脇腹の鎧に爺さんのパンチ。
効くかそんなパンチ、と思ったら、内臓をえぐられるような衝撃と共に、激しく吹き飛んだ。
鎧が効果を成していない。攻撃が防げない。
「ふん、鉄を操るスキルか。オリジナルじゃな。さすが女神様の与えた力。確かに有用なスキルをもっておる。
じゃが貴様は、対人戦、いや、対スキル戦の経験がなさすぎる。それが貴様の弱さの一つよ。
この世界で長く戦うということは、より多くのスキルを知り、それを乗り越えるということ。
多くの人間は鑑定を持たぬ。それゆえ、鑑定に頼らず、相手の力量を見定め、対処する術も心得ておる。
まずはそれを身を以て体感すると良い。
今宵は良く眠れるだろうな、ガハハ」
船長と同じように笑った。
ジジイが説教を垂れる。
ジジイの背後から忍ばせた鉄塊を叩きつける。同時に高速礫を発射!
エレキクラーケンを屠った、本気の弾幕。
猛烈な弾丸が、ギルド闘技場の壁に穴を空けていく。
ジジイは、背後の鉄塊をノールックで避けた。
余裕で高速礫を次々に弾きながら、こちらへゆっくりと近づいてくる。
マシンガン並みの、連続礫弾を、素手で捌く。
俺は次第に焦ってきた。この速度を軽々といなす。なんという化け物。
徐々に、礫を弾き返す方向が、俺の方に向かってきた。
頬を礫がかすめる。
俺も跳ね返ってきた礫を避けながら、狙いを定める。
そして、ジジイは、緩急のある動きで姿を消し、一瞬で肉薄してくる。
とっさに距離を取るが、頬を殴られた。
脳みそが点滅する。
防御が成り立たない。魔術的な攻撃か?
「遅い!」
ジジイが吠える。
ジジイのラッシュ。
俺は両手でガード。朦朧とする意識の中で、なんとか急所への打撃を防ぐが、腕の骨まで染みるパンチの連続に、焦りを覚える。
パンチがめちゃくちゃ重い。
一発一発が、ダンプカーに当てられるような衝撃。
一発が俺の顎にヒットした。
あ、そういえば、俺ダンプカーに轢かれたなあ、とか、なぜか考えた。
衝撃度合いを比較している場合では無いが、床に倒れこんで、意識が飛んでいたことを知る。
殴られた衝撃で、走馬灯を見たらしい。
このままではやばい。
散らばっている鉄を集め、鉄のバリアを身にまとい、何時ぞやの魔族戦の時のように鉄の繭を作る。咄嗟の判断だったが、無意味だった。
鉄のバリアの外側から剛拳を叩きつけられる。
ゴーン。
鐘をつくような鈍い音の後、押しつぶされるような、重い衝撃。
ぐふううという声と共に血が口から噴き出した。
ふざけるなよ。
鉄を通り抜けて衝撃が来る。
これは漫画でよく読む、気ってやつか?
浸透勁とか、そんな類の技か?
まじで手加減してないな、ジジイ。
鉄の繭の表面を、棘にして、ウニのように伸ばす。
しね、ジジイ。
串刺しにしてやる。
多分、これくらいしてもあのジジイは死なない。
「終了じゃああ」という大声。
鉄の中にいても聞こえる。
繭を解除して外に出ると、離れた場所で、けろっと立っているジジイ。やっぱり。
「ふん。今日はここまで。まだまだじゃな。だがお主の強さはわかった。戦闘力だけならSクラスじゃ、このまま戦争に行っても千人首くらいは取れるわ。まあ、わしじゃなければ大体勝てるじゃろう」
そしてジジイは続けた。
「じゃが世界は広い、ワシよりも強い奴も、少なからずおる。ましてや魔王軍はなおさらじゃ。
護衛メンバーを集めるまでの3日ここで鍛えてやる。
護衛を集めるまでの間に、己の弱点も知っておけ」
ジジイが意地の悪い笑顔を見せた。
「今日は、ここまで!
詳しい話は明日聞く。今日はホテルで寝るが良いじゃろう。
それにしても盛大に壊してくれたのお」
周りを見渡すと、闘技場がボロボロになっていた。
申し訳ないと思う余裕もなく、俺は膝をついた。
さすが異世界。こうでなくっちゃ。
こうして俺は、晴れてD級冒険者となった。




