第36話 ナミートの街
第二部 スタートでございます。
号泣するスペッゾ。
「クロガネさんのおかげっす! ありがとうございましたっす。おいら絶対忘れねえっす!!!」
遠くに白く陰る陸地、山が見えてきた。いよいよ大陸へ到着した。
船上は着岸の準備に慌ただしくなってきた。
船員は港に着いた後も、たくさん仕事がある。
俺は一足先に船を降ろしてもらうことになった。
「元気でな、スペッゾ、また会えるさ」
甲板で着岸を待ちながら、スペッゾの号泣を慰めていた。他の船員は忙しそうに各々の仕事で動き回っている。
スペッゾも名残惜しそうにしながら、作業に戻った。
海は凪いでいる。時折行き交う船。
ナミートの街の大型船舶用のマリーナへ、ゆっくりと船が近づいていく。
今、仲間たちはカバンの中で待機。街ではナイトメア、ピノコ、クロちゃんはカバンの中にいてもらう。特にオートマタは目立つから、連れて歩くなと言われた。
なので俺は一人、船の上。
どんどん近づいてくる街を見つめている。もう海は見飽きた。
結局1ヶ月近く海の上にいた。
ちなみにピノコとクロちゃんのことは船員たちは知らない。
一度もカバンの外に出ていないからな。
夜自室で時々カバンの中の様子を見たら二人でのんびりくつろいでいた。
廃材でソファーとパラソルを作って、なんか寝そべっていた。
余談だが。
船はゆっくりと港へ近づいていく。
いよいよ大陸へという頃には、仕事が片付いた船員がちらほら挨拶に来てくれていた。
船長と副船長も寄ってきた。あの船長が笑顔で、達者でなと声をかけてくれた。
別れはあっさり済ます。
じゃないとまた泣くから。湿っぽいのは好かん。
海から見えるナミートの街は、結構近代的な都市のように感じた。
工場が立ち並び、煙が出ている。
ひときわ目につくのは、海岸に築かれた巨大壁。まだ完成途中だが、30メートルほどの高さの壁が、海岸をずーっと向こうまで続いている。これが言っていた防衛壁だろうか。
船が岸壁に着くと、タラップが渡される。岸壁の素材は、コンクリートのように見える。この船といい、思っていたより文明が発達しているのだろう。
数人の船員がまず降りて、船を固定する。
俺が続いて船を降りる。
船の上から船員たちがそれぞれに、達者でな、元気でな、と声をかけてくれる。
さあ、街に向かうかと立ち去ろうとした時、トニーが近づいてきて、メガネをクイッと持ち上げた。
「これを持っていけ」と、小さな布袋を渡された。
怪訝な顔をすると、「船長と俺たちで出したカンパだ。少ないが使ってくれ。現金がないと困るだろう」
クロガネさあああんと船の上でスペッゾが大声で叫んでいる。
偽名で過ごそうとしているのに、名前を大声で呼ぶな。
ばか。
船長がスペッゾの口を押さえた。
「ありがとうトニー、船長にもよろしく言ってくれ」
じゃあなと言い、時折振り返り手を振る。
木やら鉄やらで出来たコンテナが辺りに積まれている。
線路が敷かれた埠頭を歩く。
やがて、船が見えなくなって、教えられた港湾施設に入る。
なんでも、入国は書類一枚で完了するらしい。
戦時下なのに手薄だなと感想を言ったら、そうでも無いと返された。
港湾施設の窓口に、船長から預かった上陸許可書を渡す。
職員が書類に目を通して、何かを唱えると、紙が光り、文字が変化したのが見えた。
そして、水晶玉が付いた装置に手を置くように指示された。
水晶玉に手を置くと、水色に光る。
これで完了らしい。
船長の事前の説明によると、この水晶球は魔法装置で、悪意や、敵意があれば赤く光る。テロリストや敵魔族の侵入をほぼ完全に防ぐらしい。
余談ではあるが、この技術も完全では無いとのことで、セキュリティ側と破る側で技術のイタチゴッコだと言うが、上陸許可書と併用することで信頼性を高めていると言うのは、地球のセキュリティと同じである。
魔法を使って意思まで読み取れると言うことを加味すれば、異世界の方がよりセキュリティとしては進んでいると言えるかもしれない。
その後少し待たされた後、出口へと案内される。
そうして、俺は港湾施設の門をくぐり、埠頭を後にして通りに出た。
いよいよ大陸かと思うと感慨深い。空は青空。カモメのような鳥が飛んでいる。
周囲を見渡してみる。ハゲ岩の山並みが近い。坂に沿って立ち並ぶ家々。
通りは石で舗装されていた。周囲に建物は疎ら。
人影は少ない。
冒険者ギルドは確か、この道をまっすぐ右手に進めばあるらしい。赤い屋根の剣と盾のマークの看板が目印と聞いた。
港を抜けると道路へ出る。道路は石畳だった。
そこを馬車やら、竜車やら、自動車のような乗り物が行き交っていた。速度はそんなに出ていない。いいところ30キロくらいのスピードで色々な乗り物が通り過ぎていた。
建物は石造りで、重そうな建物が多い。蛍光色のラインが建物の色々なところに走っていて、不思議な印象の造りになっている。
見慣れない道を歩く。車道と歩道が分かれている。冒険者ギルドを目指して歩く。
冒険者ギルドに行く前に、少し腹ごしらえしようと思い、道すがら食事できそうな店を探す。確か、骨つき肉のマークが食堂だと言っていた。
少しいくと、遠くに看板が見えた。
やや大きめのステーキハウスのような外観の建物。大きな肉の看板がある。
船での食事は美味しかったが、魚が多かった。俺がいっぱい釣ったというのもあるが、いくらデカイといえ船には積める物資も制限がある。
そういう意味では、異世界の本当の食文化体験はここから始まると言っても過言ではない。
食事にこだわらない方だと思っていたが、まあ、美味しいものが食えるに越したことはない。
幸い、日はまだ高く、時間の余裕もあるし、小腹も空いている。
その店は、ダイナーシーサイドという名前のようだ。自動翻訳のおかげで本当はどんな名前か分からない。
便利ではあるが風情はない。
店の扉をくぐると、カウンターとテーブルがある。
「いらっしゃい、お客さん、珍しい格好ね!」
カウボーイハットのような帽子をかぶった女の子が、声をかけてくる。
珍しい格好、と言われて自分の格好を見る。鎧はまとっておらず、生成りの服、神の衣のみ。
下は、船でもらった黒いズボン。船の上でもずっとゴッドキトンで過ごしていたから違和感がなかった。
船長曰く、こんな格好のやつは歴史の教科書でしか見たことないとのこと。現代人がローマ人の格好を見るようなものだろう。
鏡で見たら、確かにジェダ●の騎士のような感じのファッションだった。
貫頭衣ってやつだからな、しょうがない。でも防御性能、通気性、癒し効果のおかげで、脱げずにいる。癖になっていると言っても過言ではない。
ファッション性は二の次、実用性だ。
「1人だが、食事できるか」
「お好きな席にどうぞ! オススメは、海老のカクテルよ」
と、ウィンクしてきた。
ちなみに、船長にもらったコンタクトをしているから、異世界人だとバレることは無いはず。
窓辺の席に座り、メニューを見る。
エビはもういらん。フナムシ食い過ぎて、飽きた。
あ、そういえば、もうフナムシ5匹ほどしかない。
メニューには、肉と魚と前菜などが写真付きで載っていた。しかも写真は動画。
煙とか出ている。
どういう原理だ。
こういったところは、異世界の方が進んでいるかもしれない。
うまそうなステーキ。それと、スパゲッティーのような麺。
この二つにしよう。
さっきのお姉さんを呼び、注文を伝える。
「オッケー!」
と言ってまたウィンク。
しばらく待って、皿が並ぶ。
「ゆっくりして行ってね」
またウィンク。
あ、そうだ、一つ聞きたいことがあった。
「お嬢さん、冒険者ギルドってここから遠いのか?」
「歩いて10分くらいよ」
あともう一つ。フナムシだ。貴重な食料かつ、MP回復源。有る無しで戦略が変わると言える重要アイテム。
「ありがとう。ところで、こいつはこの辺りでも取れるのか?」
気になったことを聞こうと思い、フナムシを出したら、女の子が
「きゃあああああああ」
と絶叫した。
あ、やべ。
「ごめん、ごめん」必死で謝る。
包丁を持ったコックが厨房から飛び出してきた。
必死に頭を下げる俺。
店内が騒然としたが、事情を話したら、みんな落ち着いた。
確かに、気持ち悪いわな。
うっかりした。
カウボーイハットの女の子には嫌われたが、コックが教えてくれた。
俺のフナムシは、見たこともない種類で、そんなデカいフナムシはこの辺りにはいないとのこと。普通は指先くらいの大きさらしい。
比べて俺のフナムシは靴くらいの大きさ。
しかも、フナムシを食う習慣などないらしい。エビは大丈夫らしい。
そう考えると、食べる食べないの境目というのは微妙なラインだなとも思う。
カニは食えてクモは食えない。芋虫やハチ。タコも、ナマコやウニもゲテモノだろう。
日本人ってのはゲテモノ好きだから、人のことは言えないが。
騒ぎですっかり食事は冷めてしまった。
お肉は柔らかく、スパゲッティは久々の味の濃い炭水化物。
堪能した。
店を出るときにお詫びにと、女の子にチップを渡した。
女の子も機嫌をなおして、最後には、またウィンクしてくれた。
店を出てまた歩き出したら、確かに10分ほどで冒険者ギルドについた。
アホみたいに赤い屋根。
アホみたいにデカイ看板。
アホみたいにデカイ入り口。
「ようこそ、冒険者よ」
そう、入り口にでかく書かれていた。




