第35話 原子力(アトミック)勇者
美女を城に連れてこい、という勇者サカキバラのワガママのため、連日、国中の騎士が駆り出されていた。
外務宰相クレペリンは頭の痛い日々を過ごしていた。
勇者の性格は最悪で、品性は最低、知性も欠けていた。
傍若無人な振る舞いと、選民意識と、強欲で傲慢な態度。
あの初日以来、クレペリンをはじめとする関係者は、思っていた。「ハズレを引いた」と。
初日、近隣で最も優れた鑑定士が呼ばれた。勇者の能力を把握するためである。
勇者が持つスキルは6つもあった。異常な強さである。
まず、オリジナルスキル「原子崩壊」。全く前例のないスキルであり、どのような能力か分からない。
だが、その能力を聞いた勇者カイトは大爆笑して「フレアキタ」と意味不明のことを叫んだ。
他のスキルは「熱ダメージ無効」「放射能無効」「爆発耐性」「思考加速」「威圧」というこれまた強力なものだった。
特に思考加速と威圧が厄介で、思考加速のおかげて機転が効くようになり、気に入らないことがあると威圧で脅すという使い方を覚えた。
スキルを一目見たいという国王の言葉に対してカイトはそれを鼻で笑い「こんなところで使っていいのか」と自信満々に言いのけた。
「城ごと全員吹き飛ぶぜ、ははは」
と高笑いした。
その後、馬車で4時間ほどかけて国の中でも不毛な地帯、荒涼とした広い土地、いわゆる荒地へ移動して、スキルのお披露目となった。カイトが町の近くはやめといた方がいいぜと自信たっぷりに言うのを考慮して、大げさとは思いながらも人のいないところまでやってきたのだった。
クレペリンたち20人ほどが同行した。
馬車を降りたカイトが一人で荒地を進み、観察する集団から200メートルくらい離れたところで、手をその先の荒地へと向ける。
次の瞬間、激しい閃光とともに強大な爆発が起こり、続けて爆風が一行を襲った。
爆心地にはきのこのような形の見たことのない黒雲。
呆然と見上げる人々。
晴れていた空がゆっくりと曇りだし、雷を伴う雨となった。
雨の中を悠然と戻ってくるカイト。ニヤニヤと嬉しそうに歩いてくる。
カイトはクレペリンの肩をポンと叩くと「俺が来て良かったな」とドヤ顏をした。
これ以上の調査は不要と引き返す一行だったが、多くのものはその帰り道、先ほど見た光景に震えが止まらなかった。
しかし、それが実は恐怖のためではなく、間近で放射能の光を浴びたからであったと知るのは、少し先。
クレペリンは、家に戻り、便器に向かって盛大に吐いた。
顔を見ると真っ青で、髪の毛がごっそり抜けていることにようやく気付いた。
その日以来、少しずつ体調が悪化して、20日目の今日、立っているのがやっとになっていた。
スキルを観察に同行したものたちが、一人また一人と死んでいく。
勇者の力は恐ろしいと言う噂がどんどん広まっていき、カイトはますます増長していく。
まるで王にでもなったかのような振る舞いに、次第に貴族から不満が聞かれるようになったが、そのうちの一人、ユング公爵の領地が謎の大爆発で火事を引き起こしてから表立って勇者を悪し様に言えるものがいなくなった。
勇者が異世界に降り立って10日目。
事態を憂慮した貴族の一人が、王宮のメイドを買収して勇者の食事に毒を盛った。
しかし召喚勇者の身体的防毒耐性は高く、腹を下して生き延びた。
勇者は激怒したが、以後、食事は全て毒味させるようになり、今後同じようなことがあったら国を滅ぼして出奔すると声高に宣言した。
国を挙げて犯人探しを行なったが、結局、メイドが自害して犯人は特定されず、いよいよ勇者は機嫌を悪くした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
勇者カイトは、ベットの上で、美女二人を侍らせ、ワインを飲んでいた。
女たちは裸のままぐったりとして眠っていた。
ワインを飲みながらカイトは思っていた。どれだけ強い奴がいても、俺は無敵だ、
なにせ、核爆弾の能力を持っている。しかも自分は安全、とキタ。
スキル実験で見せたのは、最小限に制限した爆発だ。全力でやれば、どのくらいの被害になるのだろうか。自分でも想像もつかない。だが、楽しみでもある。
魔王軍の城に一撃食らわせば、それで戦争は終わる。
それは誇張ではなく、事実である。
究極の抑止力、それを勇者カイトは個人で有したとも言える。
と。しかし、同時に無敵すぎてつまらないとも思っていた。もっと自由にハクスラ的に無双したい。それがカイトの思う異世界生活であった。
城の窓が音もなく開き、フードを被った何者かが部屋に侵入してきた。
カイトはそれに気づき、また暗殺か、と内心ビビっていた。
カイトは小心者であり、殺されたくないと思っていた。
「私は敵ではありません、勇者様」
窓の男が、警戒されたのを察知して声を挙げた。
「私は、ある方の使い。まずは無礼をお詫びいたします。実は内々のお話がありまして」
と、怪しいことを言う。男は、勇者の横の女を見て煩わしそうに言った。
「騒ぎにはしたくありませんので、魔法で眠らせてもよろしいでしょうか」
「ダメだ。その手には乗らん」
カイトは慎重だった。思考加速のスキルがあらゆる状況を想定して、危険を避けるよう行動を弾き出す。
「・・・・」
男は状況をどうコントロールしようか考えていた。
「魔族か。お前」
「どうしてお分かりに」
カイトはニヤリとして、
「そろそろ来ると思っていた。俺ならそうするし、RPGならテッパンだ」
RPGがどう言う意味か、フードの男にはわからなかったが、そうですか、と答えた。
勇者の横で、女たちは寝ていた。または眠ったふりをしていた。どちらにせよ静かだった。
「で、魔族が勇者に何のようだ?」
「邪神様の使いです」
ほう、敵の大将か。カイトは面白そうに言う。
「邪神様は先を見通すお力をお持ちで、あなたに1つ、提案があると申されております。世界の半分をやるから俺につけ、これを言えば分かるとのお言葉でございます」
なるほど、テンプレか。
世界の半分というなら、女をもらおう。
半分も不要。美女だけしか居ない小さい国で良い。
「面白いな。で、どうしろと?」
「もし興味がおありなら、明日の朝、城下町裏門の外に馬車を待たせます」
決断は早いに越したことはない。
この国のことはだいぶと分かった。女の質も高くない、というかタイプじゃない。洋ゲーのヒロインみたいな女ばかりで大味だ。もっとこうJRPGっぽいエルフとかが良い。
カイトはさっと立ち上がる。
「明日まで待つ必要もない。出るぞ」
魔族が聞いてくる。
「女は生かしてはおけません、この場で始末を」
「問題ないね。滅びる国だし」
カイトは、最低限の荷物をまとめると女には危害を加えることなく、そのまま城を出た。
途中、見張りの衛兵を見ると、手をかざして、灰に変えた。カイトの新しい能力だった。
城壁の外に馬車があり、カイトはそれに乗り込むと、ゆっくりと馬車が走り出した。
30分ほど馬車が進み、高台の上から、遠く王城を見て、カイトはスキルを唱えた。
王城まで、距離は10キロ以上離れている。
最大限の力を込めて。
自分がどれくらいの力があるのか、カイトはそれが知りたかった。
まるで真昼のような明るさの中、強烈な爆発で、王城は消え去った。
遅れてくる爆音。ほぼ同時に爆風。
そして低い地鳴り。
王城を中心にして四方数キロにわたり、すべて吹き飛び、燃え尽きた。
押し寄せる爆風を前にして、カイトは、引きつった笑いを見せた。ははは、と。
想像以上だった。
城だった場所には、直径500メートルほどのクレーターと、焦げた石材が散乱していた。
こうして、スキゾニアの国は、一夜にして崩壊した。王都が消失し、政治機能が麻痺したスキゾニアは多くの難民を生み、周辺国はその原因の解明とともに大きな負担を強いられることとなった。
その後勇者は姿を消し、人々はまた一つ、絶望を背負った。
ここで第一部が完了となります。
夏休みということで、第二部は、明日より毎日、10時に公開させていただきます。
引き続き、クロガネの異世界戦記をお楽しみに。




