第33話 船長の提案
「お前は命の恩人。俺もお前を助けた。貸し借りは無しで行こうぜ。まあ、お前には使命があり、事情もあるだろう。
短い付き合いだが、俺には分かる。お前は漢だ。そんな男が人類を裏切ってるとは思えねえ。
まあ、政府の方で何かきな臭い事が起こってる匂いがするぜ。これを見ろ」
船長が、何やらタブレットのような板を出してきた。緑に光っている。
「こいつぁ、魔法石版。トニーに教えてもらったろ?」
実物を見るのは初めてだが、確かに聞いた。通信用の魔道具で、新聞やら、掲示板やらが見える情報交換用の道具だとか。
「こないだ話した勇者の云々カンヌンは、本当のことだ。そして昨日、教皇が死んだ。そして、今日、スキゾニアが滅びた」
「? スキゾニア?」
「ああ、勇者召喚を先日行った。お前じゃなく、次の勇者だ」
ほう。初耳だ。次の勇者という言葉に、なんと言うか存在否定されたように感じて、ちょっぴり心が痛む。
決して勇者として認められたい訳では無いが。複雑な心境だ。
「で、勇者が国を滅ぼして、どっか行った」
おい。滅茶苦茶だな。
とはいえ、話だけ聞かされても実感がない。
「で、その話が俺にどう関係が?」
船長は目を閉じて言った。
「思うにだ。人類は、いよいよヤバいってことだ。
内部から腐ってる気がする」
クロガネと俺の名を言い、船長が真剣な顔をした。
「俺はお前がもし、勇者じゃなくても構わん。だが、お前が勇者で、お前が死んだ時、本当に世界が終わるような気もする。まあ、命を救ってもらったお礼、ってのは言い訳だが、もしお前が勇者、女神の勇者なら、お願いだ。ついでに、この世界を救ってくれ」
船長が頭を下げた。ついでって、軽く言うね。
まあ、漢にここまで言われたら、いつまでも黙っているわけにもいかないが、正体を話して船長が責任を負わされても可哀想だから、まあ日本人らしく話すとしよう。
「まあ、仮に俺が勇者だとして、まあ、仮の話だが、それでどうやって救えって言うんだ」
「そうだな、だが聞きたいのはこっちだ。お前さん、陸に上がってどうする? 女神の策ってのがあるんだろ? 女神様と会話できるんじゃ無いのか?」
ええ、はっきり言って皆無です。女神プラン。しかも会話不能。
「女神か、俺は知らん。一応、目指しているのは神聖教国。そこを目指せと言われた。ような気がする。それ以外は不明だ」
「・・・なるほど。何か妨害でもあったんだろうな。記憶喪失の設定は続ける、か。まあ、いいだろう。で、この先どうする?」
正直、そこまで状況が変わっているとは思わなかった。
そもそも神聖王国水の都へ行って俺に何をさせようとしたんだ? 女神は。
このまま、ダラダラしていても魔王軍に人類が滅ぼされるだけ。
かと言って、明確に何をすれば正解か。これが分からない。
目的1、女神の関係者に会う。
目的2、3番目の魔王に会う。
目的3、スキルを鍛えて魔王軍をぶっ飛ばす。
もう、3番目だけで良いんじゃね?
考え込んでいると船長が言った。
「ガリウス大司教。お前が会うべき人の名前だ」
「え?」
まずこれを読め、と言われてスレートを覗く。
トニーとお勉強した文字と同じもの。アルメニア大陸の共通文字だ。
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聖歴2151年10月10日
昨日未明、教皇オルベリウス17世が死亡。何者かが侵入し、夕食のスープに毒を混入させた疑い。
次の教皇はエルクリウス大司教になるとすでに発表がなされた。即位式は1ヶ月後を予定。
「次の教皇と目されるエルクリウスはおそらく今の教皇オルベリウス17世を暗殺した可能性がある。
エルクリウス司教は融和派の代表。ガリウス大司教こそ、教皇なき今、女神派のトップだ。
フルネームは、ガリウス=ユーレリアス。
この男はは、長く前教皇の補佐を務めてきた。なんらかの事情は知っているだろう」
なるほど、神聖教国も1枚岩では無いのね。
なんか、大丈夫か、人類。魔王がこんなに勢力を強めてるのに、内部からボロボロとか。
魔王軍が破壊工作を行っている可能性も大いにあるのか。
そうであったとしても、ダメじゃん人類。
即位が1ヶ月後。なんとかそれまでにたどり着くことを目標に進めたほうがよさそうな気もする。
「エルクリウス大司教こそ、女神の勇者を指名手配した人物だ。教皇派の意見を押さえ込んでだ。ここには何か、陰謀がある。それを知ってるのはおそらくガリウスだ。ガリウスに会う、そのために必要なのはだ。
お前が冒険者になることだ」
「冒険者?」
「ああ、身分を隠して移動するにはうってつけだ。クロガネという名前はまだ世に知られてないが、教皇が交代した今となっては、名指して手配されるのは時間の問題。
お前が間抜けにも、何の身分も持たず、国境を越えられるほど、甘くねえ。
だが冒険者なら別だが。冒険者は、近隣の問題を力で解決する便利屋の側面の他に、魔王に対する義勇軍、遊兵としての意味合いもある。そのため、今でも治安維持を主目的に国家間を自由に行き来できる資格がある」
なるほど。冒険者ねえ。
「これから本艦は、ナミートへ帰港する。防塞国家ガードナー、最南端の商業都市だ。現在、アルメニアの東の海岸は、第一の魔王の侵攻に供えて、巨大な城壁を建築している。まあ、壁がどれだけ頼りになるかは分からんが。
そのナミートの街の冒険者ギルド長、ゴンゲンは俺の古い友人だ」
そう言って、手紙を渡してきた。
「さっき 海神を追い返した時、お前を待っている間に書いた。海神相手にもう戻ってこないかもしれないと考えもしたが、お前は無事戻ってきた。
この手紙にお前の身を保証する内容を書いておいた。無駄にならずに済んでよかったぜ。
封をしてあるから決して開けるなよ」
封蝋をした分厚い便箋。
所々で見かけるこの船の旗のマークが蝋燭に形取られていた。顔に似合わず船長おしゃれ。
俺は、手紙を手にして考えた。
なんていい奴なんだ船長。
ぼっち生活を癒してくれたのは、クロちゃんだったが、人心地がついたのは、この船に乗ってからだ。
俺みたいに怪しい奴に対して、優しくしてくれた船員たち。
みんなの笑顔が、嬉しかった。むさ苦しい男ばっかりだったけど・・・
自然と泣けてきた。
おっさんになると、真顔で泣ける。
若い時は、やたら嗚咽が出たが、おっさんになって気づいたことだ。
異世界に来て、体は若返ったが、嗚咽せずに泣けた。
俺が手を出して握手しようとすると、上から拳を叩きつけてくる。
だが、今回はしっかり力を込めて耐えた。
船長がガハハと笑った。
「気を抜くな。港までまだ2週間。この世界のことをもっと学んで、必ず、世界を救ってくれよ」
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船長の部屋を出ると夜中だと言うのに、宴会の準備が進んでいた。
俺は、甲板の端で俯いてうなだれている人かげに気づいた。
スペッゾだ。
「おい、元気出せよ。誰も死んでないぜ」
近寄って明るく声をかける。
スペッゾは振り返ることなく、グブブと泣き声をあげた。
「ぼう、ダベッず。おいら、だにぼでぎないっず」
涙声で何を言っているか分からない。
泣き止むまでしばらく横で寄り添っていた。
「っぐ。うっかりしてたっす。ぐす、クロガネさんに言われたことで頭がいっぱいで、スキルのことばっかり考えてたっす」
さらっと俺のせいにしてない?
「そんなつもりじゃあねえっす。おいらが悪いっす。見張りをしっかりやらないといけないのに、他のことに気をとられたっす」
おっと、心の声が漏れたか。何も言ってないのにスペッゾが弁解する。
「そっか。夢中になるのはいいけどな、TPOって奴だ。時と場所と場合って奴な。おっさんくさいか」
「何言ってんすか。クロガネさん、オイラとそんなに年変わらねえでしょう」
あ、そっか。若返ってんだった。
「海流波って唱えるのに集中してたら、近くに海神が居たっす。気づいた時には、反対側から警鐘が鳴ったっす。そのあと、すぐ船にぶつかったっす。情けないっす」
キラン。
ん? いま、海面が光った?
「スペッゾ。もう一回、スキルを唱えてみろ」
「海流波っすか? もうイイっすよ。どうせオイラなんか、スキルは身につかないっす」
また光った。
「見てみろ、海面が!」
「?」
スペッゾには見えないのだろうか?
「もっとだ、スペッゾ、スキルが発動してる!」
「え? 海流波? 海流波!? 海流波!!!」
スパン!
と言う音、そして光。
海面の小さな波が尖り、甲板近くまで飛び出してきた。
うそ!?
発動したスキルは、その名の通り、波が刃物になると言うなかなかのスキルだが、初の発動で・・・
サジタリウス号の側面壁を切った。
うそん?
「ああああああ、スキルが発動したっす! やったっす!」
スペッゾらしい・・・
が、このままでは船が沈んでしまう。
船にぱっくり5メートルほどの裂け目が出来ている。
俺は慌てて、操鉄術で船の傷を防ぎ、沈没を防いだ。
小躍りするスペッゾ。殴りたい、その笑顔。
この後、事情を聞きつけた船長が怒鳴り込み、宴会が始まり、海神撃退の話題とスペッゾのスキル発動の話題と、夜通し皆で飲み明かした。
この後、海神の再来は杞憂に終わり、ナミートまでの航海は順調そのもの。
2週間の船の旅はあっという間に過ぎた。




