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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第一部  鉄の勇者のサバイバル
31/214

第30話 異世界常識

「フヒー」

これほど勉強したのはいつぶりだろうか。前世でもなかったのでは無かろうか。

高校を出てすぐ働いたので大学は行っていないし、高校は下から数えた方が早い底辺校。テスト勉強もいつも適当。高校受験も勉強した記憶がない。


目の前に積み上げられた本の山。

あれから6日。俺はトニーに徹底的に常識を叩き込まれていた。


地理やら、社会やら、法律やら、言語やら、風習やら、通貨の数え方やら、種族やら、植物、動物、食べ物、遊び、戯曲、音楽、etc。


ああ、頭いてえ。


とはいえ、法律と通貨の知識は、今後役にたちそうだった。


例えば、ナルコフという国では、通りで右手を大きく上げると、警察に通報されるとか、ありえん法律があった。アルメニア大陸の多くの国では、他人の頭に触れると侮辱とみなされるらしい。


通貨は、卵6個入りが100ゴルドと言うのがアルメニアの標準的な物価らしい。各国それぞれの通貨があるが、古代文明から続く「ゴルド」と言う通貨が、共通貨幣に採用されている国が多い。

理由は単純、偽造がほぼ不可能だから。


地方により、統一通貨とは異なる様々な通貨が流通しているらしく、中にはいまだに貝がらでやり取りしている地方もあるらしい。

金はこちらでも貴重品だと言うが、かつて金を作り出すスキルを持った者がいたらしく、そうしたものが金を多量に流通させることで信用が損なわれたこともあり、地方通貨は変動が激しいのだと言う。

そのため、ゴルドが共通貨幣となり得るわけだ。


「さて、今日のところはこの辺にしましょうか。クロガネさん」

トニーが、手のひらでメガネをクイッとして、言う。


そのメガネクイっ。独特だわ。


トニーは親切に色々な質問に答えてくれた。


この世界で最も地球と大きく異なる点、それはもちろん魔法という存在があることだ。


魔法があるため、多少の怪我は治る。だが、部位欠損を治せるのが普通かと言うとそうでもない。

神聖魔法の本山、神聖教国の一部の高司祭ハイプリーストが、ほんの数名使えるくらいのもので、そのため、部位欠損の治療は法外な費用を取られると言う。


さらに言うと、死を免れる秘術は、かつて存在したと言われているが、現在は存在しない。より正確に言うと、元どおり知性を持ったまま死から蘇るのは不可能。ゾンビやスケルトンといったアンデッドとして復活することはできても、それはもはや人ではなく、知性を持たぬただの腐った肉体の残骸。


死に戻りはもちろん、蘇生魔法も存在しない。


ただ、魂が失われる前、即死レベルの傷を負っても、魔法が間に合えば、死なない、とも言える。


また特殊な一部のスキルは、死を回避することができると言う。かつて、魂を複数に分けて不死を実現した魔導師がいたと言う。魂。記憶と感情の塊。つまりは、自分を何人にも分身させ、そして限りなく死なないようにした。

クローンのような技術だろう。


なんにせよ。死んだら終わりということが確認できた。命は大事にせねばならんな。


魔法があるということは、生死以外にも多くの違いを生んでいる。


この世界の歴史についても、あらかた分かった。


地球においては、魔術から錬金術、科学へと発展した文明。

異世界エ・ルガイアは、神の作為の影響を大きく受け、地球の知識と魔法技術が入り混じり、地球とは体系の異なる独自の文明が築かれている。


しかも現在の地球以上に、文明レベルの地域的な差が大きい。

それは、邪神と魔王、魔族という人類共通の天敵が存在し、自由な移動や探索を許していないことが理由として挙げられる。


特定の地域は、未だ未開の地であり、また別の地域は魔族の支配地域であり、危険なダンジョンもあり人類未踏の地が多く存在する。

またもう一つの特徴としては、神の干渉が挙げられる。


地球では、太古に存在したシャーマン、シャーマニズムが、より現実的な力を持って健在している。


実際にスキルや魔法という力がより身近なこの世界では、神との距離もより近い。


善神と悪神(邪神)どちらも、自身の勢力争いにエ・ルガイアの生物を積極的に利用しているとも言える。


悪神との戦いの最前線であるこの世界では、常に善神が人類の成長の手助けをしてきた。


異世界からの技術の輸入、魔道具などの提供、勇者の召喚、知識の伝授、スキルの創生、などあらゆる面から人類の有利になるようにサポートしてきた。


さて、大まかな歴史。


現在のこの星の常識としては、星の誕生は20億年前。

約2億年前に神々の時代があった。


善神が移住してきたという。およそ600万年前に神々の争いが起き、ほとんどの生物が死滅。

苔や細菌類や原生生物以外ほとんどの生物が死に絶えた。


その時の戦いでなんとか、悪神を封じ込め、善神はこの世界を復興させる。


その時、生き物や樹木などの資源を地球から運んだ。そのため、植生などが似ているという。

数万年前、神と共存する古代文明が存在したが、原因不明の滅亡。このあたりは神も語ることがなく、史実も不明。

この文明崩壊以降、特に文明は栄えず、およそ1万年前、各地で小規模国家が乱立し始める。


2千年前。正確には今から2151年前(暦の上で多少の前後はあるらしい)が、後に神となる聖王ルガイアがアルメニア大陸の現在の聖都に生誕。これを祝して後の暦は聖歴として改められ、アルメニア大陸の国々で使用されるようになり現在まで続く。


およそ500年前、封印が弱ってきたため、悪神が活性化。

この頃から、突然発生する強力な魔族に対抗するため、異世界召喚術が生み出される。正確には、数万年前に滅んだ太古文明の技術の一部を、神の指導のもと再び使えるようにした、と言うことらしい。


この頃から、世界は安定化を失い、それと比例して魔導軍事技術が成長。その技術を用いた様々な発明が生み出される。

およそ500年に渡り、魔族との小競り合いの時代が続く。


現在残存する魔王は、およそ150年前、第一の魔王が出現したとされる。正確な時期は不明。聖歴1999年に、突如現れ、アンゴルモアと名乗り、大ルパンザ諸島と言われる地域にあった大ルパンザ大陸を粉々に破壊し、現在の地図の形に変えたと言われる。


その後、魔王軍が蜂起し、第一次人魔大戦が勃発。


15年の戦争の日々の末、神々の助けを受けて、なんとか魔王を退けるも、魔王は隠遁。時折ゲリラ活動を繰り返しながら、近年までダンジョンに潜伏していた。


第一次人魔大戦を受けて人類は、130年前、各国の個別対応により協調できなかったミスを再び繰り返さないために、世界機関を誕生させる。

アルメニアの5大国会議とヨーラス会議、国際魔法大学の設立、統一対魔戦線などが設立される。


平和がしばらく続いたのち、およそ40年前、第二の魔王が誕生。もともと人跡未踏の魔境であったクーデサンスを占領。独立。


魔王が各地の魔族を呼び寄せ、国家を樹立した。


第二の魔王は、地道に勢力を増強した。一方、今からおよそ5年前、ヨーラス大陸の東の端、デスバレー火山地帯の洞窟に潜んでいた第一の魔王が再び勢力を拡大し始めた。


最初に滅んだのは、ヨーラスの火山地帯の南に暮らしていたドワーフの王国だった。国は1日で壊滅。近隣の諸国が救援に向かうも、まるで焼け延べた火事のようで、救援が敵勢に取り込まれるという事態が頻発した。


第一の魔王の影魔法には、聖魔法が有効だが、あいにく、ヨーラス大陸の東の端は、聖王国の真裏。五月雨さみだれに神官部隊を送るが、焼け石に水といった感は拭えず、進行を遅らせることはできても、巻き返すには至らなかった。


第一の魔王は、その後、地道に勢力を拡大していく。幸い、進行はそこまでの速度ではなく、進行に合わせて逃げ惑う人々で難民が大量に発生し、やがて、ジリジリと人類の生活線が、緩やかに西に押し込まれるような形になった。


大火山地帯一帯を手中に収めるのに、およそ3年。ヨーラス大陸の大半を制圧するのに4年。


加速度的に勢力を増やす第一の魔王に対して、人類は抵抗できずにいた。


そのため、女神は最終兵器として勇者召喚を決断。


神の決断というには少しばかり遅きに失したが、これは勇者資格を有するものがそれほど稀有であるという事実と、女神の召喚は生者を呼ばないという暗黙のルールがあった。


生者を呼ぶということは、生物の運命を弄ぶことになり、これを神という立場で承認すると世界を支える天秤が狂う。というのが理由らしい。


この辺りの詳しい話は、女神対話録という50巻にも及ぶ神聖書物に記載されているといい、その要約は聖書の一つとして世界で流通しているという。

歴代の教皇は、女神と会話できるスキルを持つことが条件であり、それを人々へ下知することが教会の役目。

これは常識であるとのことだ。


あと、ためになった話としてはスキルの詳しい話。

スキルというのは、通常、後天的には発生しない。多くの人がもつスキルは1つ。多くても2つ。唯一、異世界人のみがこの例外で、それこそが異世界人の異常性ということらしい。


確かに、俺の場合、後から気配察知や隠密のスキルが発生した。


エルガイア人の場合、仮に技術を極めても、スキルの表示には現れない。


しかし、ここも神の秘密があるようで、誰かが極めたスキルは、天に記憶され、他の誰かにスキルとして引き継がれるのだという。


スキルの引き継ぎという概念は、証明されたものではないらしい。

神聖教の説教として、人々がより良く生きるために生み出された”方便”かもしれない。


確かに、自らが極めた技術が廃れることなく、誰かが役に立ててくれるなら、嬉しいだろうなと思う。真実は神のみぞ知るということだ。


後、そういう理由から、鑑定で判別したスキルだけを注意すれば良いということではないという。

例えば、自力で剣術を極めたものがいた場合、剣術スキルがなくても普通に強い。また身体強化のスキルがなくとも、魔法で同等のことができるアーツがあるのだという。例えば、火魔法の脂肪燃焼というアーツは、体内の脂肪を膨大なエネルギーに変える。


地球時代に聞いた、なんでも脂肪の持つ分子構造的なエネルギーは、水爆の何倍もあるとかそんな雑学を思い出した。


ともあれ、そうしたスキル表示されない技術は数多く、鑑定などで知ることができる”戦闘力”という値はそうした技術の集大成を総合評価するという。


ただし、戦闘力自体は、絶対的なものではなく、これもまた指標にしか過ぎず、万全な状態で戦った時の目安であるから、眠りの魔法や、麻痺、病気、相性などで大きく変わると注意された。


確かにそうでなければ、ランクSSSのエレキクラーケンを、戦闘力に劣る俺が勝てるとは思えない。

たとえナイトメアと二人がかりとはいえ、スキルの相性や、機転や、環境など、多くの要因でいつだって揺蕩たゆたうものだと言える。


スキルは後天的には表示されないのが通常だが、何事にも例外があり、派生スキルとアーツは別物だという。

アーツについては後天的に発生し、鑑定結果として表示される。


派生スキルは、例えば剣術が剣王術になったり、剣聖術になったりと進化することがあるらしい。これは異世界人ではなくても普通に見られる事例らしい。


こうしたアーツやスキルの名前を表示するというのは、鑑定スキルのみに行える技術だ。鑑定スキルの中には、スキルを表示するものがあり、アーツも合わせて表示できる鑑定スキルもあるのだという。


鑑定というスキルは、幅が広く、以前知識の書で知った他にも様々な幅があるらしい。

例えば、名前鑑定でも、真名鑑定というものがあり、これは悪魔を隷属させるために必須な真名を知ることができるという名前鑑定の上位版。

値段鑑定や、長さ鑑定、重さ鑑定など派生も多くあり、それらを全て持つのが、神眼というスキルらしい。


神眼ならば、現在のスキルだけでなく、未修得のスキルや、スキル派生の可能性も知れる。

なんでも知ることができるという意味では、俺の持つ知識の書も凄いレベルだと思う。さすがは神宝、一部の恣意的な制限があるものの、ほぼ知りたいことを表示してくれる。

スペッゾの時のようにスキルの未修得などは通常のスキル鑑定では分からないのだという。

故にスペッゾはあれほどスキルを欲していたのだ。


トニーの話は、いずれも非常に有意義な講義だった。

時間は、夕方に迫ろうとしていたが、その時、ドンという衝撃音とともに船が大きく揺れた。反射的に魔王軍襲来かと頭をよぎったが、叫び声が聞こえた。


「海神だ! 海神が出た!!」

海神? おお、さっき習ったよ。


3原神獣の1、海の神リヴァイアサン。海の暴君だよね。

もうお馴染みの「出会ったら死ぬ」系の巨大モンスターです。


次回、クロガネ対海神。お楽しみに! ってやってる場合じゃねえ! 

船が揺れる、柱が軋む。


船壊れるううう。


豆知識


バハムートとベヒーモスは、同一人物説あり。

リバイアサンとベヒーモスは夫婦説あり。

リバイアサンと、悪魔レビアタンは同一人物説あり。

バハムートは魚説があり、バハムートの背中には巨大牛クジャタが乗っている。クジャタの上にルビーの山、山の上に天使、天使の上に大地があって、我々の世界がある。と言う伝説がある。


信じるか信じないかはあなた次第。

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