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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第一部  鉄の勇者のサバイバル
30/214

第29話 情報収集と友情

夕日を見ながらスペッゾと未来について語らう。

「俺、立派な船長になるっす」


目をキラキラさせながら夢を語るスペッゾ。


彼は良い教師として色々お話を聞かせてくれる。


「で、この船の船長になるのか?」

「この船は、特別っす。おいらにゃあ、もっと小さい船でいいっす。それにこの船は、今回の航海が最後になるかもしれないっす。

魔王軍の軍勢が、海峡を渡ってくるかもしれないって噂っす。なにぶん海の上っすから、最新情報は遅れてくるっすけど、あちらの大陸が陥落したのはここにも届いてるっす。ナミートもいつどうなるか分からないっす」


「今回の調査は、そもそも何の為に? この船は、調査船だろ?」


「この船は、戦闘調査運搬船っす。危険な海域を航行できる装備を備えているっす。大抵の巨大魚はパルスで逃げていくっす。船艇はトゲだらけっす。あと、魔物が嫌がる匂いのする魔石をつけてるっす。

だから、遠くまで行けるっす。今回は南アルンザのバクラン王国に親書を届けたっす。協力要請っす。アルメニアは今、やばいっす。闇影の魔王の手はもうすぐそこまで来てるっす」

「それで、成果は?」


「それは、おいらは知らねっす。キャプテンに聞けばいいっす」

「そっか。で、その影闇の魔王って、そんなにやばいのか?」


スペッゾは大げさに目を剥いて、口を尖らせた。

「魔王はやべえっす。死の軍団を操ってるっす。占拠した町の住人を、死兵に変えるっす。死兵ってのは、文字通り死んだ兵士っす。だから、軍隊が膨らむ一方で戦力を投入しても、取り込まれる一方だっていうす。アルメニアの国も人ごとってわけじゃないっすけど、為す術もなしって感じで、それでこの船が救援を求めに出たってわけっす」


「なすすべなし。人類にも強いやつはいるんだろ?」

「そっすね、わがガードナーにはモーゼルさんがいるし、聖光騎士ローランドとか、龍人ガーフナーとか、他にもたくさん強い人はいるっす。いるっすけど、みんな自国をほってでも義勇軍に参加できるほど余裕はないっすし、いくら個人が強くても、相手は大軍す。すぐに疲れて殺されるっす。

あと飽くまで噂っすけど、女神さまが勇者を呼ぶって言ったらしいっす。俺っちはその後は船だからその後は知らんすけども。でも大陸ヨーラス陥落ちたってことは、嘘だったんすかね。女神様の勇者の話は」


なじるように言うスペッゾの言葉に、ちょっと胸が痛んだ。


「女神ってのは、有名なのか。そのー有名というか、みんな信じてるのか」


スペッゾは信じられないものを見るように俺を見て、

「本気で言ってるっすか。女神様は人類の希望っす。だから神聖教国は一目置かれてるっす。記憶喪失ってのは、そんなことも忘れるんすね。恐ろしいもんす」

と呆れるように言った。


話題を変えよう。

「俺は、アルメニアから神聖教国ってところを目指そうと思う。行き方を知ってるか」


「神聖教国っすか。遠いっすね。でも、まだ無事なら大陸横断鉄道があるっす。高いっすけど、あれに乗れば10日もすれば着くっすよ、動いてれば、っすけど」

「教えて欲しいんだが、この世界には、空を飛ぶ乗り物はないのか?」

「飛空挺のことっすか。あるっすよ。ただ、今は魔王軍に狙い撃ちされるてんで民間機は飛んでないっすね」


「魔王軍が狙い撃ちする? アルメニア大陸でもか?」

「魔王軍は、破壊工作が得意っす。人に化けたり、後、人里離れたところに拠点を作ったりして、嫌がらせをしてるっす。人をさらったり、物資を盗んだりもするっす。もちろん、魔族を見つけたら応戦するっすけど、一般人じゃ魔族には太刀打ちできないっすから、これまた厄介なんす」


「人類が多いんだろ? アルメニアは治安が良さそうな印象だが・・・」

「昔はそうだったすけど、魔王が活気付いてからは、盗賊やら通り魔やらが増えたっす。魔族が扇動してる場合もあるっすからタチが悪いっす」


そうか。アルメニアについても、安心はできない、とそういうことだな。

魔王軍か。一応聞いてみるか。

「で、魔王軍はこの辺りにも来るのか?」

「そうっすね、魔王軍とはどこで出くわしてもおかしくないっすね。特にこのあたりは。今は第二魔王の軍が活発っす。魔王海軍が警戒しているのを遠くで見つけたので、慌てて避けたこともあったっす。つい10日ほど前っすけど」


ちょうど俺が海に出た頃か。

「で、この船が魔王軍と出くわしたら、どうなる?」

「そっすね、簡単に沈められるっすね、多分」

おいおい、弱気だな。


「でも、逃げることはできるっす。いくつかの装備もあるっすし、戦闘になると分は悪いっすけど」


こんな広い海で、早々は出くわさないっすよー。あはは。


ってスペッゾは笑うが、俺は指名手配中なんだよね。


「この船、戦闘船じゃねえのか?」


「そっすね、でも魔物特化っすよ。軍隊相手に戦えるわけねっす」

それはそうか。相手が複数なら、取り囲まれて終わり、ってことは容易に想像がつく。

「魔族ってのは、普通の人類より強い、んだよな?」


「そっすね。基本的なスペックが負けてるっすね。専門家の話を聞いたことがあるっすけど、魔族の平均戦闘力はAらしいっす。人間はCっす。で、一般的には冒険者が1ランク上の相手を倒すのには、4人必要。2ランクだと16人必要って言われるっす。魔族と人間は2ランクも違うっすから、そんなもんっす」


ランク、ねえ。


そういう意味では、俺は格上食い。自分よりランクの高い相手ばかり倒してきたが。運が良かったのか、それともランクなどその程度なのか。


エレキクラーケンに至っては、SSSランク。俺の戦闘力は、知識の書の最新情報によると、現在A。

まあ、普通なら勝てる相手じゃないわな。

そのあたりの計算式は、非常に不可解だ。女神の隠しボーナスとかがあるのだろうか。


「マークにいとの戦い、見てたっすけど、クロガネさんは記憶喪失なのに、強いっすねえ。一体、どこで鍛えたっすか。俺も強くなりたいっす」

「さあ、どこだろうな。ある人曰く、素材が良いらしいぜ」

俺が笑うと、スペッゾもすげえっすと言いながら笑った。


「あの、ナイトメアさんって一体なんなんすか。あんな精巧なオートマタ、王都でも見たことないっす。伝説の太古のオートマタみたいっす」


「伝説?」

「そっす、有名な話っす。チチスリ姫っす、知ってるでしょ」


「乳、擦り・・・」


「その目は、なんか勘違いしてるっすね、血啜ちすすりっす。血を啜るっす」


血すすり。聞き間違いか。なんか物騒な名前が出た。


「知らん。教えてくれるか」


「そうっすね、子供でも知ってる話っす。

 ある国の王様に娘がいたっす。でも病気で死ぬっす。それを嘆いた王様が、人形遣いに娘そっくりな人形を作らせるっす。でも、何体作っても満足できない王様は、世界中の人形遣いを集めて娘さんそっくりな人形を作らせるっす。

そして遠く離れたところから来た人形師が、一体の人形を渡すっす。それは真っ白なのっぺりした人形で、その人形に死んだ娘さんの髪の毛と血を与えると、なんと娘さんそっくりの人形になったっす。

喜んだ王様はその人形師に褒美をとらせたっす。人形師は王様に忠告をするっす。この人形は太古の機械オート人形マタ。過ぎた愛情は国を滅ぼす。と。

何のことか全くわからない王様だったすけど、娘さんは毎日微笑んで、幸せな毎日を過ごすっす。でも、それもつかの間、娘さんが何も食べなくなったっす。

そして、娘さんはどんどん凶暴になったっす。

どうして良いかわからな王様は占い師に聞くっす。そしたら、毎晩、若い女の血を娘に与えるように言われるっす。その通りに毎晩娘に生き血を与え、やがて、国から若い女性が消えるっす。もちろん、逃げた人や隠れた人もいたっすけど、王様は若い女を求めて他国への侵略を繰り返し、やがて国は弱り、滅びたっす。

娘の形をした人形は逃げ延び、今日もどこかで若い娘の生き血を啜っている。っていう物語っす」


物語って、怪談じゃねえか。


「たとえ愛していても何事も限度がある、って教訓っす」

クロガネさんも過ぎた愛情は身を滅ぼすっすよ。と笑いながら言った。

血すすり姫、ねえ。あながち、ホラ話でもなさそうなところがあるな。


人形遣いは敵国のスパイなり兵士。人形は破壊工作のために送られたオートマタ。娘の姿になりすまし、国を中から破壊した。

うん、多分そんな史実を脚色した話なんだろう。


オートマタ、恐ろしい子!

聞かなかったことにしよう。うん、そうしよう。


しばし沈黙。水平線を見つめているとスペッゾが言った。

「そんなことより、さっきの話っす。俺っち強くなりたいっす、どうすれば良いっすか」

うーん。

「ちょっと待て。調べる」


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

スペッゾ=ジス=オーシャン

通称 スペッゾ 危険度G 戦闘力E

船長の甥っ子。体が弱いのを心配した両親が、船長に預け、嫌々ながら船に乗る。今は少し体も強くなり、もっと武力を高めたいと考えている。噂好きで面倒見が良い。かわいいやつ。

スキル 海流波(未取得)

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


スペッゾのスペックを確認したら、(未取得)という謎の表示を見つけた。


ついでに調べてみるとこう書いてある。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

未取得

未取得。取得していない状態。通常スキルは取得と共に表示されるが、先天的スキルのみ未取得と表示される。取得の方法は様々で、基本的にはスキル名を唱えながら鍛錬するのが一番早いとされる。

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


なるほど、ね。色々教えてもらったお礼に、スキルを取らせてやろう。

海流波というスキルを調べる。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

海流波

海のそばでのみ使用できる強力なスキル。

波を刃物にして斬撃を飛ばす技。鍛えれば大きさを自在に変えることができる。船を断ち切ることも可能。

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


あらま、強いスキルじゃねえの。

「さっきから本を見つめて何をぶつぶつ言ってるっすか」

怪訝な顔で俺をみるスペッゾ。


「お前の得意技を調べてみた。お前は海流波ってスキルがあるみたいだな」


「嘘っす、嘘っす。そんなの信じないっす。鑑定結果はいつも白紙っす。スキルレスってみんなに馬鹿にされたっす。だから雑用してるっす。おじさんにも怒られてばっかだし」

と涙声で言う。


「まあ、ものは試しだ、ここに立って、腕を振って海流波って叫び続けろ」

しぶしぶ立ち上がり、小声で海流波と呟くスペッゾ。


恥ずかしいっす。


まあ、傍目には中二くさいな。しかしここはひとつ、心を鬼にして。


「スペッゾ! そんな気合いでスキルが身につくか!」

と怒鳴る。


ひいい。と唸って、か、い、りゅう、はあああああと、必死で声を出すスペッゾ。

その後、1時間、これを繰り返したが、スキルが出る兆しはない。


落ち込むスペッゾ。うーむ、やはり簡単には行かんか。

俺は強い言葉でスペッゾを励ました。


「諦めるな、スペッゾ。毎日、海に向かって大声で海流波と唱え続けろ、いいか、必ず続けるんだ、いいな」


スペッゾの肩を掴み、目を覗き込む。


弱々しい顔で目をそらすスペッゾ。


「大丈夫だスペッゾ。海に叫ぶくらいがなんだ。怖がるんじゃない。叫んだところで、何も失わない。恥ずかしいなら、こっそり夜中にでも続けるんだ。お前にはスキルがある。俺には分かるんだ。自分を信じろ、スペッゾ」

俺はできるかぎりの笑顔で言った。


スペッゾは弱々しく頷いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


連日の釣果がかんばしく、船長から釣りはしばらくしなくて良いと言われた。


いきなり暇になったから訓練でもしようと思ったら、船長がちょっと話そうと声をかけてきた。


案内されたのは操舵室。巨大な調査船のコクピットだけあって、かなり広い。10人くらいが動き回っている。メインの舵輪が中央にあり、前列には計器が並んでいる。


「ここは初めてだったか、クロガネ」

船長の言葉に、ああ、と短く返す。


「どうだ、この船は、すげえだろう」

そうだな、と返す。


実際、地球にいた頃のタンカーくらいの大きさがあるのではないか。無駄にでかい。何か運んでいるのだろうか。そういえば、この船の目的など、大雑把にしか知らない。


「こんなにでかい船、何か運んでるのか?」

俺が尋ねると船長は鋭い視線を向けてきたので、「単純な好奇心だ」と答えると、ガハハと笑った。


「好奇心、結構。実際、物資をかなり積んでる。この船は、大型調査船であり、大型運搬船でもある。竜は鳥より役に立つってことわざにもあんだろ」

大は小を兼ねる、って言うことか? 異世界ことわざは知らん。


「で、話ってのは何だ」


俺が問うと、船長は笑い、

「まあな、頑張ってくれているからな、お礼の一つも兼ねて、お互いの情報交換と行こうじゃねえか。別に答える必要はないが・・・」


船長は、何気ない様子で、

「お前、異世界人だろう」と聞いてきた。


反射的に、ギクゥ、と心臓が縮んだが、顔には出さない。というかよく考えればバレて困ることもないが。

「・・・」

俺が黙っていると、船長が続ける。


「まあ、答えたくない、って気持ちも分からんではない。いきなり知らぬ世界で一人ぼっち。警戒するのも当たり前だ。

 とはいえ、この中央大洋は、別名海の地獄。こんなところを一人で彷徨えるなんざあ、噂の勇者でもなけりゃ、まあ無理だろうな」


「噂の勇者・・・」

噂なのか?


「なんでも、女神様が勇者を召喚したが、魔王軍に邪魔されて殺されたらしい。ここまでは驚くことはないんだが、昨日入ってきた情報だと、その勇者は偽物で、もし見つけたら、すぐさま殺せと連絡が入ってきた。もうわけがわからんぜ」

とお手上げという表情をした。


「偽物? 殺せ?」


俺が小さく呟くと、船長は上目遣いで子供が悪戯するような顔で俺を覗き込んできた。


「まあ、お前が勇者、ってんなら、な。そんなわけはないだろうよ、ガハハ、なあ」


「お、おう」

汗。


こいつ分かってて言ってるに違いない。

「船長、俺が異世界人というが、なぜそう思う」


「その辺の認識からして異世界人だと思うんだがな、記憶喪失ってのはそうした常識も無くなるのかねえ。

有名な異世界人ってのは、ケンゾウタムラ、陳蘇山ちんそざん、マーガレットスカーレット、光輝の剣王勇者ガイル、発明勇者ナカマツ、蛇王丸セイヤとか聞いたことあるだろ? 忘れたか? まあいいや。たまーに金髪のやつもいるらしいが、なぜかニホンジンというのが多いらしい。

 異世界研究にその生涯を捧げたことで有名なあのヤマダ博士によるとだ、なんでもサブカルツアーってのが原因で、意識にパスがつながりやすくなっているとか。そんな研究を読んだことがあるぜ。

 異世界人が黒髮黒目ってのは、一番簡単な見分け方だ。この世界の人間に黒髪黒目はいねえ」


サブカルツアー。サブカルチャーだろう、それを言うなら。

船長は赤髪、白ひげ。目はグレー。周りを見渡してみたら、確かに黒髪はいるが、目の色が違う。みんな薄い色をしている。


なるほど、常識なのか。

これ、バレテーラ。でも、しらばっくれる。


「俺は、異世界人かも知らんが。記憶がない」


「記憶がないなら、仕方ねえが。もし俺が、お前を勇者として拘束する、って言ったらどうする?」


ブワッと殺気が巻き起こった。


反射的に腰を低くして身構える。

とっさに脱出路を確保するため、周囲を見渡す。


船員が一斉にこちらを振り返った。

全員で取り囲まれる?


「待て待て、身構えるな、冗談だ!! ガハハ。悪い悪い。捕まえやしねえよ」

船長が笑うと殺気が消えた。


くそ、試されたか。


「まあ、そう固くなるな。ほら、これをくれてやる」

船長が、手を伸ばして何か小さな箱を渡してきた。


受け取り、箱を開けてみる。

これは。

「おう、カラーコンタクト、ってやつさ。今、王都で流行ってるんだよ。度なしのやつだ。くれてやる」


鑑定してみる。カラーコンタクト(赤)と出た。

特に嘘はついていないようだが、念のため、後で試そう。

知識の本で確認してから。


「それをつけときゃあ、異世界人ってのがバレる心配は減るだろう。常識がないのはちょっといただけない。まあ、船の雑用を手伝ってもらっているお返しに、というわけじゃねえが、一つ、お前に常識力ってのをつけてやろうと思ってな」


異世界にカラーコンタクトがあるのは、良しとしよう。

なぜ、それが今船にあるんだよ。ご都合かよ。


「船の道具師に作らせた。おシャレだろ」

ガハハ、と笑う。

「道具師?」


船長が鼻で笑う。

「てめえ、錬成を使えるくせに、道具師も知らないのかよ。魔法で道具を作る職人だよ。長旅には必須なメンバーだ」

ほほう。道具師ね。そんな職業があるのか。


「トニー!」

と船長が大声を上げると、メガネをかけた長身のオールバックの男が「はい」と威勢のいい返事をした。


「クロガネよ、そんな調子じゃあ覚束おぼつかねえ。こいつはトニー、お前の教育係に任命する。陸に戻るまで、後20日ほどだが、みっちりと常識を教えてもらっとけよ」


船長はガハハと笑った。


ちなみに後ほど、知識の書で調べても、カラーコンタクトは何の変哲も無いカラーコンタクトでした。


次回、23日に5話公開いたします。第一部も残りわずかとなってまいりました。引き続き、よろしくお願いいたします。

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