第25話 『テスラ・ゲージ』
これまでのあらすじ
魔王軍を振り切り、死の大陸を脱出した勇者クロガネ。
海で魔将軍ツナナミを退けたクロガネ一行に次なる試練が襲いかかる。
転移チートのピエロにおちょくられ、落ち込んでいるところに、巨大電気イカに襲われる。
頼りの相棒オートマタ・ナイトメアは、雷に打たれ海に沈む。海中でオートマタを助け出し、海面へ出たクロガネ。
嵐の中でクロガネは、凶悪な再生能力を持つ絶望的な化け物に勝てるのだろうか。(真顔)
ニコラ・テスラという人物をご存知だろうか。
今から100年以上も前、アメリカにいた実在の人物。偉人である。
ニコラ・テスラが何をした人か、という事を一言で表せば「交流電流を世に広めた人」と言える。
その生き方、不遇な生涯、天才的な感性、行動力などの魅力から今でもテスラリアンというファンが多く存在する。
彼は、憧れのトーマス・エジソンの事務所(現在のGEの前身)に勤め、エジソンに交流電流の可能性を説く。
当時、交流電流は制御できない危険な技術とされており、直流電流信奉者であったエジソンに理解されず、事務所を追い出された。その時、エジソンは約束していた報酬を支払わなかった。
これに怒り狂ったテスラは、その後、テスラコイルという高電圧の変圧器を発明。
エジソンと対立しながら、自身の地位を確立。
そして交流電流の安全性を訴えるために、過激なパフォーマンスを行った。
高電圧による雷が降り注ぐ部屋の中、簡素な鉄柵の中に自ら入り、無事をアピールした。
テスラの鉄籠実験である。
これは交流電流の性質と、物体の表面を電流が流れる表皮効果という理論を実証したものだが、人々はその大胆なパフォーマンスに圧倒され、その後、交流電流を採用した発電施設が多く誕生する。
俺は、巨大なイカを見上げながら、そのテスラの実験を思い起こしていた。
雷に直撃されれば、もはや命はない。
どうやって雷を防ぐか、その答えが、これだ。
命を賭けた実験だ。
電流は、多少隙間があっても球体の外側を流れ、内側には入ってこない。
鉄を金網状にして周囲にまとえば、こちらの礫を当てつつ、敵の雷は防げる。
こちらはこれで礫を打ち放題。相手の電流は無効化できる。
今は幸い、水中に飛び込んだことで、奴は俺たちを見失った。
こちらに気づいている様子はない。この隙に。
早速、即席で俺たちを包むように鉄で球体を作る。
上半分は網状にする。
これで、雷の直撃を受けても中へは電流が来ないはず。
あらためて操鉄術の利便性を実感。
しかし、奴をどうやって倒すか。
攻撃力が圧倒的に足りない。
殺傷力のない礫を何発当てたところで、軟体のイカは無傷。
相手は、切ったそばから再生する巨大な怪物なのだから。
巨大イカは、怒り狂いながら、その巨大な足を海面に叩きつけている。
俺を見失ったことに腹を立てているのだろうか。
それとも、ピノコの乗った船を狙っているのだろうか。
手の中のナイトメアは目を覚ます様子はない。小刻みに震えながら、失神している。
奴の巨体には、斬撃も効かない。万策尽きたか。
いや、まだ何も試していない。
時間をかけてでも、攻略せねば、全員、海のモズク、もとい藻屑だ。
そこで、一つ閃いた。
今、奴は全くこちらに気づいていない。
マッドドラゴンの時のように、スキル上げをしてはどうか。
テスラ・ゲージで防御はなんとかなるだろう。ただ攻撃力が足りない。5トンの鉄で切りつけても切断できず、傷はすぐ塞がる。
破壊力のある遠距離攻撃が無いため、致命傷を与えることができない。
雷の光の中、雨が降り注ぐ。本を開いた。
今の操鉄術のステータスは・・・
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操鉄術
スキル 分類 オリジナル 総合 聖魔武補特
説明:鉄を自在に操るスキル。
レベルに応じてできる事と操れる鉄の量が増える。
オリジナルスキルのため、取得済み以上の情報は不明。
心象スキル。
状態 レベル6 62500/500000
『精錬』『錬成』『礫』『鉄収集』『硬化』『組み立て』new『直接操作』
精錬 鉄の純度を高める
錬成 鉄の形を変える
礫 鉄を生み出し飛ばす
鉄収集 周囲から鉄を集める
硬化 鉄をさらに硬くする
組み立て 複数の部品を組み立てる
直接操作 直接触れている鉄を動かせる
レベルアップ条件 使用回数と経験値
扱える質量 5tまでの鉄
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レベルアップまであと43万7500。43万・・
途方もない数字に思えた。が、やるしか無い。心象スキルの可能性に賭けるしかない。
ポコ。飛び出した礫が、巨大なゲソに当たる。スキル鑑定
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状態 レベル6 63500/500000
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!!!!
一発で1千上がっている。どんだけ強いの? こいつ?
「エレキクラーケン」と小声で唱えて本を開く。知識の書は濡れても大丈夫。
なはず・・・。
多分・・・。
宵闇、雷光が書を照らす。
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エレキクラーケン 危険度 SSS
軟体動物 通称 雷帝イカ 食用可(珍味)
海の覇者、巨大イカ。天候を操る伝説上の生き物で、この怪物を見て生還した船は数える程しかいない。海上でのこいつとの遭遇は死を意味する。
その巨体はしなやかで柔らかく、再生力を持つ上、通常の武器ではかすり傷一つつけられないほどの粘膜で覆われている。その名の通り雷を操り、常に雷雲と嵐を纏いながら移動する。弱点は頭部だが、海上数十メートルにある頭部に攻撃を当てることは至難の技。
スキル 帯電 雷操作 暴風 雷雲生成
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SSS・・・
ヘカトンケイル級じゃねえかよ。ドクロライダー来てくれないかなあ。
来てくれないよね。そうだよね。
よし、気をとりなおしてレベル上げするぞ!
ポコポコと連続で礫を当てていく。流石に気づかれる様子はない。どんどん上がっていくスキルポイント。
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状態 レベル6 153500/500000
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その時、ゲソが飛んできた!!!
バチバチと激しい音がして、横で寝ていたナイトメアが飛び起きた。
見ると、緑色の雷を纏って、腕に青白い光のラインが浮き上がっている!
「新規衝撃からのダメージ回復。検証のための再起動完了。対電防御形成、エレクトリックバースト機能付与、帯電加速が可能になりました、敵の注意を惹きつけます」
ゲージを突き破り、飛び出すナイトメア。ゲソが軌道を変えてナイトメアを追う。
「ま、ま(て)」
待てと言おうとして、堪えた。仮にも奴は最終兵器。対電機能を獲得したのならば、先ほどのようにやられることは、もう無いはず。
荒れ狂うゲソが上空でナイトメアを追う。2本3本とゲソが増える。
幸いこちらは無視されている。今のうちだ!!
礫を連続でぶつけていく。すると、連続で礫が出せるようになってきた。使用回数が規定に達したのだろうか、連射機能を獲得した。獲得するポイントが目に見えて増えた。
状態 レベル6 286500/500000
状態 レベル6 334500/500000
・・・
ナイトメアが空中で、エレキクラーケンのヘイトを一身に集める。
顔の前を飛び回りながら、雷を受けつつ、イカをイラつかせていた。太い足が、空中を乱れ飛ぶ。
状態 レベル6 496500/500000
「来た!!!!」
キタキタキタキタ!!!!
魔力が漲る、加速する!
バチバチバチという音を立てて、礫が飛び出した。
スキルがレベルアップして、新アーツを獲得したのだ。
これまで放物線を描くような礫の速度が、弾丸のように炸裂音と共に連続して飛び出していくほどに加速した。
ドババババとマシンガンのように飛び出す礫!! ゲソを引きちぎり、穴だらけにしていく!
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操鉄術
(中略)
new『高速化』
(中略)
高速化 全てのアーツを高速で使えるようになる
(中略)
扱える質量 20tまでの鉄
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巨大イカの体がまるで豆腐のように感じるほどの威力で、礫弾が空を引き裂いていく。
礫が当たった箇所が弾け飛び、炸裂しながら身を千切る。
ヤツメのような醜い巨大な顔がこちらを向いて、大きく吠えた。野郎、やる気か。
「うおおおおおおお!!」
負けじと俺も吠えた。ゲージに包まれるようにしながら、空へ飛び出す。
ワイヤーをゲソに投げつけ、空中戦。さっきとは違う。
ゲージごと空中に浮かぶ。イカと目が合った。
俺が打ち出す高速の礫が、イカの身をえぐり、飛んでくるゲソを撃ち落とす。
牙だらけの巨大な口を開けるエレキクラーケン。
雷を呼び、俺に狙いを定め、次々と浴びせてくる。
雷がゲージにぶつかる。
が、予想通り、雷はゲージの外側を滑り、ワイヤーを伝ってイカの方に流れていく。俺は無傷。
電撃をテスラゲージが防ぐ。
痛くも痒くも無い!!
バリバリバリ。ドドドドどどどど。
奴の雷と俺の礫が互いに唸り、互いを滅さんと迸る。
俺の礫は高速になり、ガドリング砲並みの威力になっている。
当たるところからイカの肉体を引きちぎっていく。
雷が効かないことに業を煮やしたイカは、ゲソを振り回しながら、いよいよゲージごと俺を食うことにしたようだ。
巨大な口が眼前に迫る。
イカが吠える。息が生臭い。
チャンスだ。吠えるイカの口を狙い、高速礫を大量に食わせてやる!
ドドドドという怒号と共に、頭を貫いて弾け飛ぶ礫。
仰け反り、血の涙を流しながらも、俺を食らわんとする怪物。雷が降り注ぎ、雨が打ち据える。
効いているのか、効いていないのか。肉片が舞っている。しかし、その下で再生してもいる。
途端に目眩がした。
魔力が足らない。 やばい!
うおおおおおお!!! 気力でなんとかカバーしようとする。
均衡した戦いの中、一瞬たりとも気を抜けず、カバンの中からフナムシを取り出す隙もない。気を抜けば押し返される。魔力補給が出来ない! やばい、押し負ける。
魔力が尽き、ワイヤーを維持できず、落下していく。
これまでか。俺を叩き落とそうと迫り来るゲソ。
空から何か降ってきた。
クロちゃんとワイヤーで繋がったそれは、小さいキノコ。
ピノコだった。
「おすそ分けデツーーーー。エナジー鱗粉―――」
それはピノコの新能力。ロックスを食ったことで新たに覚えた新能力・エナジードレインで吸ったMPを分け与えるための鱗粉だった。
助かるぜ、ピノコ!!!
うおおおおお!!! 漲る魔力
ドドドド怒どど!!!
トドメとばかり礫を打ち込む。
グオオオオ!!! と断末魔を上げながら仰け反るクラーケン。
その瞬間に、クラーケンの口の中に光る物体が飛び込んだ。
ナイトメアだ。
ゲソを振り回して悶える巨大イカ。
おおおおお、とナマコのような顔を振り回し、口を大きく開けて異物を吐き出そうとしている。
見ていると、目玉が飛び出し、血の色と、血の色とは別の色の液体が顔のそこら中から噴き出した。
一体、ナイトメアは、イカの頭の中でどんな動きをしているのだろうか。
海面にあったゲソが一斉に海に沈む。
ワイヤーでぶら下がっていた、俺も落ちる。
イカの巨体が沈んでいく。戦利品を収納する余力もない。体が動かない。
こうして漸く、嵐は去った。
空の雲が散り、星が見える。
波間に沈む直前、俺たちのボートが見えた。小さなボートの上で、俺が沈むのを見ているナイトメアが珍しく慌てた顔をする。
ゴボゴボと沈んでいく。完全に魔力が切れた。そこでぶっつり意識が途切れた。




