第23話 道化 危険度SSSS
「やあ、やっと見つけたよ、勇者君」
お辞儀するピエロから殺気はない。が、俺は冷水を浴びせられたような寒気を感じた。
こいつ、ヘカトンケイルより強い。
右手をピエロに向けて攻撃態勢を整えようとしたら、ピエロは消えて、次の瞬間背後にいた。
「驚かせちゃったかな。僕は君に危害を加えるつもりはないよ、今はね」
慌てて振り向くと、首筋に鎌が添えられていた。
「あ、僕、瞬間移動が使えるんだ、君が鉄塊チートだとすると、僕は空間転移チートってやつぅ、きゃはは」
冷や汗が止まらない。瞬間移動だと。マジチートじゃねえか。
「僕の名前は、クレイジークラウン。狂気の道化師さ。よかったらその本で調べてみなよ。危害を加えたりしないから、さ。その方が話早いでしょ」
自分から名乗るとか。知識の本のことも知っている?
鑑定をするが名前が出ない。「人類」とだけ書いてある。人類? 魔族じゃないのか?
まるで心を読んだかのようにピエロが言う。
「なーに、僕は第三の魔王の使いでね。魔王を手伝うのが魔族だけって、そんなことは無いよ。僕は人間だけど、魔王と一緒にこの世界を壊すつもりだよ」
人間にも魔王側のやつがいても、確かにおかしくは無いが。瞬間移動とか反則じゃ無い?
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
クレイジークラウン 危険度 SSSS
人類 通称 気狂いピエロ 食用不可(魂的に)
正体不明のピエロ。能力詳細不明。
第三の魔王の腹心で、世界中を飛び回り様々な工作を行っている。
世界最強の一角。
スキル 瞬間移動LV?
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
決して警戒を崩さず、知識の書に目を通したが・・・。
なんかコメントもやたら薄い。
が、危険度SSSS!?
危険度が突き抜けている。
「第三の魔王からの伝言だよー。レブロンの街で会いたい、だって。探すの苦労したよー。こんな大海のど真ん中。見渡す限り海でしょ。女神の情報を頼りに大陸の方も探したけど、せっかく行ってもいないんだもん」
ケラケラ笑う。
顔を近づけてくるピエロに、
「近いんだよ!」
イラっとして殴ろうとしたが、空を切る。
「おっと、当たらないよ。親父にも殴られたことないんだよね、なんて」
水面に逃げたピエロはニタニタ笑うと、
「せっかく会えたし。
そうだ、いい事思い付いた。
ちょっと腕試しするね、死なないでね!」
といって、まるでバットの素振りをするように鎌を振った。
「ちょ、なんだ!?」
慌てる俺を尻目に、楽しそうなピエロ。
するとボートの真上の空中に丸く黒い穴が空いた。
次の瞬間、空から海が落ちてきた。ものすごい勢いの水流。一気に水中に押し込まれる。
自分が移動するだけじゃないのか? 空間を切り取って自由に繋げられる?
水中で鉄のボートを変形させて、鉄のロープ数十本作り、それを触手のように伸ばす。ピノコたちを回収、鉄を丸めて小さい潜水艦を作る。
濁流から離脱して、そのまま水面へ飛び出す。
水面に出たら、またボートへ変形して、ピエロを視界に捕捉。
ピエロに向けて槍を作り、鉄の鉉に引っ掛けて弓矢のように飛ばす。猛スピードで飛び出す槍を見て、ニヤリと笑うピエロ。姿がかき消え、背後から声がした。
「いいね、いいよ。ナイスだね」
振り向きざまに拳を振るうと、頬にクリーンヒット。だが、その頬は、ツナミ君の頬だった。
くそ、瞬間的に誰かと体を入れ替えられるのか? 右足に激痛。
ボートをすり抜けて鎌が足を切っていた。2センチくらい切り込まれた。痛い。
船は無傷。
「ぐ!」たまらずうめき声をあげるが、倒れている暇はない。
「ははは!」
と笑い声がして、上空を見ると、鎌を大きく振りかぶるピエロがいた。
あ、やばい。と思ったら、次の瞬間、俺の横を風がそよいだ。
ズパンという音がして、海が切れた。
水平線まで続く線になって、海底まで届いている剣の軌道。飛ぶ剣戟とかそんな生易しいものじゃない。
見渡す限り空間がえぐり取られていた。
こんなん、どないやって避けるんや。
切り裂かれた海が、津波のような勢いで元に戻る。船が揺れる。
「あー、ストレス発散できたっと」
カラッとした声に、空を見上げると、ピエロは浮かんだまま笑っていた。
その鎌の先に、人がぶら下がっていた。
ツナミ君だった。
「この子はもらっていくね。汚辱の部下のやつ、嫌いなんだ、僕」
「ちょ、待て、お前は、一体、なんだ!? 何をしに来たんだ。俺を殺しに来たんじゃないのか?」
「だーかーらー、伝言したじゃん、殺すつもりないって言ったでしょ、さっきのは、ほんのお遊び。第三の魔王、レブロンだよ、忘れないで。
まだまだお兄さんは僕には敵わないけど、伸びしろはありそうだし。あ、僕、別にバトルジャンキーじゃないよ。イタズラとか、おちょくるのは好きだけど。負けるの嫌いだし」
と楽しそうにいうと、「じゃあね」と言って、消えた。
水平線まで見渡せる青い空。穏やかな海。
改めて思い知った。
この世界ヤバイな、と。




