第21話 小粋なカジキとツナミ魚人
現在の位置については、知識の書で把握できた。現在地、というと、地図に×印が表示される。これと現在時刻の組み合わせは、まさにスマホ並み。
電波も電源も不要と考えれば、こちらの方が優れていると言える。
魔王軍の追っ手については、この魚の中にいる限りは安全だろう。まさか、この魚を追いかけて魔王軍がやってくるなんてことは、無いはず。
なんて考えていたら、グラグラと胃の中が揺れた。
本を睨んでいると、魚が急浮上を始めたようだ。
深海からどんどん海面へと向かっている!
これは脱出のチャンス!
と思っていると、魚が大暴れし始めて、俺たちが乗っているボートも上へ下への揺れを味わった。
しばらくすると揺れが収まったが、今度はゆっくりと沈み始めた。
海面10メーターあたりまで近づいていたが、次第に沈み始めている。
胃の様子もおかしい。これまで激しかった顫動がなくなり、だらりと弛緩しているような感じがする。もしかして何かに襲われて、死んだんじゃねえ?
逃げるなら、今しかないと思い、鉄の風船を解除。船から周囲を見渡す。
余分な鉄は収納カバンへ。
船を胃壁に近づけ、鉄をドリルにして胃に穴を開ける。そしてペンチを開くようにして傷に通り道を作った。
吹き出す血にまみれながら、肉をかき分ける。最後の硬い皮を突き破ると、海水が流れ込んできた。
勢いに負けないよう、鉄の棘を魚の肉に食い込ませ、何とか這うようにして海中へ出た。幻想的なブルー。日差しが海面から青色の世界を照らしてくる。外は晴れているようだ。
血まみれの大鎧鮫が、海中に沈んでいく。魚のまわりは真っ赤で、影しか見えない。
鉄の鎖でナイトメアとピノコをつなぎ、海面へ向かう。
外は真昼の大海原、太陽が照りつけている。
海面にボートを作り、何とか乗り込んだ。
ふう。と一息ついたら、今度は、ボートのすぐ横に水柱が立った。
5メートルほど吹き上がる水柱。続けて、2つ3つと水柱が立つ。
水しぶきが飛んでくる。何だこれは、攻撃か?
空中に気配を感じて目を向ける。
何とカジキマグロが空を飛んでいた。巨大なトビウオ? にツノが生えたような生き物。そしてその上に、人影。
やばい、と思った次の瞬間、鉄の船が二分された。
ジェット水流でのウォーターカッターだった。これも魔法か。
カジキマグロは水面へ着水して白波をあげる。すかさず鑑定。同時に船を接着。水を排出。
「よく気づいたな」
マグロの上の人影、マグロライダーが言った。
魔族だった。半魚人タイプの魔族。追っ手だろう。大鎧鮫の胃袋に居れば安全と思っていたが、海軍か水軍もあるようだ。舐めてたぜ。
追っ手は1人のようだ。
「魔王軍か」
俺の問いかけに半魚人は嬉しそうに答えた。
「やっと見つけたぜ、勇者。手柄は俺がいただく。さっさと海のモズクになりな!」
それをいうなら藻屑な。モクズ。
今のうちにささっと知識の書を読む。
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アンアク・ツナナミ 危険度 S(水上) SS(水中) B(陸上)
魔族 通称 深海のツナミ 食用ギリギリアウト(魂的に)
水魔法を操る半魚人。12将の7番目。海よ俺の海よ、が口癖。よく言葉を間違えて覚えている。ペットのカジキングを乗りこなすマリンスポーツ派。
海洋軍統括。海での戦いに絶対の自信あり。好物は生ウニ。
スキル 水魔法Lv7
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カジキング
魚類 通称 トビカジキ 食用可
トビウオのように発達した前ビレで空を飛べるカジキマグロ。成長したら8メートルほどの巨体になる。集団で行動し、空からその巨体の体重と速度で獲物めがけて串刺しにする。また魚なのに魔法が使えるため、襲われた時などは水中でウォーターボールを発したり、水柱で煙幕を貼ったりする。
スキル 水魔法Lv2
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なるほど。水上戦闘特化型。いや、水中も強そうだ。こいつが大鎧鮫を殺したんだろうな。後でどうやって俺を見つけたか、聞かないと。
ツナミ野郎は、カジキに乗って俺たちのボートの周りを旋回。時折ジェット水流で攻撃してくる。
こちらは、近づけないので、何とか鉄の盾を斜めに当てて、水流の勢いを殺してかわす。
「はっはあ! 海の上じゃあ、手も足も出ねえか! なぶり殺しにしてやる!」
いつの間にやら、俺のことは生け捕りにしなくて良いようだ。もう完全に敵認定されてますわ。
うーむ。どうしたものか。と思ったら、閃きました。
さっきまで考えていた食料問題解決のためには、俺は成長しなくてはならない。
つまりこういうことだ!
グアアあああ。
ほら、釣れた。
針に絡まったカジキングと、勢いのまま海へ投げ出されるツナミマン。
そう、俺は、大量の針と鉄糸を、海中にばら撒いていた。硬化で細く強くできることで、目に見えないレベルで糸を細くできるのだ。
さらに鉄操作で、針の先を四方八方、タコの手足のように遠くへ伸ばせば、ご覧の通り。勝手に絡まって自爆してくれた。
暴れるカジキングの喉へ、糸の先を変形させた刃物を刺して息の根を止める。
ツナミ君は海中へ逃げたようだ。
糸にも捕まらない。
くそ、厄介なやつだ。
海の中から声がした。器用な芸を持っている。
「ギザばあーー。俺のカジキを殺したなああああ。許さんぞおお」
カジキなのに、コイキ。小粋? コイキ●グか?
次の瞬間、ボートの周りに渦ができ始めていた。渦に巻かれてボートも旋回しだす。制御ができない。
「このまま海へ沈めてやる! 死ねえええ」
波がどんどん深くなり、ボートがくるくる回る。目が回る。気持ち悪い。
が、時すでに遅し。誰がって? 俺じゃないよ。ツナだよ、ツナミだよ。
手応えあり。俺は、手に持っていた鉄のロープを引き上げる。
投網に引っかかった人魚ではなく、津波マン。
「ブワーーーー。何じゃこれーーーー」
勢いよくボートの上へ網ごと持ち上げる。ピチピチと暴れる半魚人。
そんな渦を作るってことは、君、居場所教えてるようなもんだよ。
竜巻系の技は、中心が弱点だって、じっちゃんが言ってた。
「助けてくれー。助けてくれー」
哀れ命乞いか。大したことないな。
こうして、魔王軍の将軍を捕虜にしましたとさ。
ちょっと魚臭い。




