第20話 遥かなる海を行く(腹の中)
鼻歌まじりにボートに横になり、くつろいでいた。
飲み込まれてから4時間。マッチョボディの上のピノコが放つほんのり優しい光の中、俺は知識の書片手に、ゆっくりのんびり海底の旅を楽しんでいた。
頭の中は、これまでのことを思い出していた。
息子たちは地球で元気にやっているだろうか。女神は大丈夫かなあ。迎えに来た人たちって、どうなったんだろうなあ。
そういえば、聖都で俺を探している人物、もしくは団体って、なんて名前?
女神、ちょっと間抜けじゃない?
うーん、俺、死んだ扱いになってるとか?
なんてことをのんびり考えていた。ボートに寝そべって、手を頭の後ろに組んで、片手で知識の書を開いている。枕はクロちゃん。プニプニひんやりして最高。
とはいえ、ボートを包む鉄球の外は、胃酸の嵐。
どんどん鉄も溶かされているから、このままだと、1日くらいで鉄が無くなるかもしれない。
なんてのは冗談で、収集で溶けた鉄も集められるから、魔力がもつ限り無限機関なんですけどね。
体力と空気と食料の方が問題ですね。
というわけで、今は、本を読んでくつろいでます。
いやーそれにしても魔王軍、やばかったすわ。あのままだと殺されてたかもしれない。
魚のおかげで、助かったのやら、助かってないのやら。
さて、現状ですが。
この魚。いつぞやの鎧鮫でした。
なんでわかるかって? そりゃ鑑定したから。
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ダンクルオステウス・ポセイドヌス
危険度 AA 魚類 通称大鎧鮫 食用可
近海から深海まで活動範囲を持つ巨大魚。成体の一般的な体長は30メートルほどで、最大級のものは100メートルに達すると言われる。海神と大陸鯨(哺乳類)を除き、海で最も巨大な魚類。顎が発達しており、鋭い牙を持つ。クジラですら一撃で食いちぎり食べることもある。獰猛で大食漢。
大陸棚周辺によく姿を現し、200メートル程度の海から推進をつけて空中のロック鳥などを捕食することも知られている。
また、船を破壊することで有名で、シップクラッシャーの異名を持つ。近年では大抵の船は、大鎧鮫の嫌がる魔法音を出しながら航行するため事故は激減した。
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と、結構丁寧な説明を教えてくれた。
仮に、鉄を駆使して、腹を食い破り、なんとか外に脱出しても深海だと、下手すれば即死する。
そうならないためにも、知識の書で、深さを調べてみたら、こちらも丁寧に教えてくれました。
現在の深さ
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海面から120メートル
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便利な機能である。
120メートルの深さって、どうなの? 世界記録の素潜りがそんなもんだっけ? もっと潜れるんだっけ?
で、さっきからずっと本を閉じては開いて、2分ごとくらいに深度を確認しているというわけ。
身体強化があれば、死なないかも知れないが、ライフは1つ。危険はなるべく冒さないに越したことはない。
待てど暮らせど、大鎧鮫、なかなか浮上しない。鯨なら息継ぎが必要だろうが、こいつは魚だから海面に近づくのは餌を見つけた時だけなのだろう。
全く浮かばない。
なので、色々と時間つぶしをしている。
時間つぶし。まずは、職務質問。
容疑者 ピノコ
「いつまでその格好なんだ?」
ピノコ(以下P) 「養分吸収ちゅるまでは、この格好でち」
容疑者Pは、筋肉ダルマのまま、あぐらをかいて座っていた。
「・・・・」
魔核からロックスが復活するんじゃないのかと聞くと。
P「大丈夫でつ。今、魔核から養分いただいてるでつ」
との答弁。見た目がえぐいのと、捕食行為がえぐいのと、頭のピノコはカワイイが、俺は複雑な感情を隠しきれなかった。
「何で、そいつなんだ?」
P「美味しそう過ぎて我慢できなかったでつ」
蓼食う虫も好き好きというが、筋肉ダルマ魔族が好きなキノコはいかがなものか。
よく見ると、ロックスの体が、徐々に色あせ、所々、皺かひびか分からない亀裂ができている。明らかに干からびてきていた。
ピノコ、恐ろしいコ!
容疑者 ナイトメア
「で、お前は何なんだ」
ナイトメア(以下N)「はいマスター、私は素体番号RX003。コードネームはナイトメアです」
「・・・・」
無表情。
ただ一つ言えることは、味方で良かった。いや、マジで。魔王軍より、こいつの方がやばくない? 早すぎて攻撃当たらんよ。これ。
「・・・ていうか、味方、でいいんだよなぁ?」
N「はい、マスター。私は起動時にDNA認証した知的生命体をマスターとして登録するように設計されています」
再起動して、他のやつにマスター登録されたら、詰むんじゃね?
「・・・スリープモードとか、あんの?」
N「はい。損傷が激しい時や、マスター権限による強制スリープなど、複数のスリープコマンドがあります」
「・・・ちなみに再起動時は、マスターの再登録とか、あったりする?」
N「はい、出荷状態への強制再起動コマンドが実行された場合、次の起動時にDNA登録が行われマスター権限が上書きされます」
「・・・・」やっぱあるじゃん。
「で、ナイトメア、お前、何で封印されてたの?」
「はい、マスター。残念ながら、起動前のメモリーは一切存在しません」
「じゃあ、封印前の記憶も無いのか?」
「はい、マスター」
この間、ずっと無表情。
「・・・・」
「クロちゃんどう思う?」
クロちゃんは、プルプル震えるだけで、何も答えてはくれなかった。そらそうだ。
でも、何というか、クロちゃん勘は良いから、危険だったら反応してくれるはず。
ということは、デスイーターピノコも、キリングマシーンナイトメアも、危険はない、ということか。つうか、クロちゃんもダークメタルスライムだもんなあ。
なんか、奇妙なパーティーになった・・・
そんなこんなで、1日くらい過ぎた。
その間、考えていたこと。
・聖都オルベリオンまでの行き方。
・現在の位置の把握方法
・正確な進路の探り方
・切実な食糧問題
・魔王軍の追っ手
さて、まず現状だが、無限収納鞄の中はこんな感じ。
食料 およそ30日分 内訳 トカゲ10頭、クマ2頭、狼24頭
果物50個ほど フナムシ 200匹ほど
水 10日分ほど 約100リットル
素材 石、木、鉄、ヘカトンケイルボディ 50トン ほか、死の大陸の変わった魔物素材大量(食用不可)。
武器・防具 女神のコンテナ(バリア機能は使用不能)、黒魔鉄のナイフ、神の初級魔法書 (その他は装備中)
まだしばらく余裕はあるとはいえ、食料は切実である。アルメニア大陸までの航海は100日と見越している。つまり、途中で食料を入手しなければ詰む。
水もやばい。このまま水中でずっと腹の中に居れば、海水も利用できない。
早いとこ、この魚の外に出て、釣りやら漁やらしないとダメだな。周りが胃酸のこの状態じゃあ、釣りもできましぇん!
久しぶりに自分鑑定。
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黒金鉄男
異世界人 通称テツオ 食用可
流浪の異世界人。漂流30日目 危険度F 戦闘力A
女神に召喚された勇者(候補)。数多の戦闘で着実に成長を重ねる。
怒るとキレるタイプ。鉄に詳しい職人肌。魔族から指名手配中。
保有スキル 身体強化lv3 鑑定lv1 気配察知 隠密(NEW) 操鉄術lv6(42509/500000)
操鉄術 『精錬』『錬成』『礫』『鉄収集』『硬化』『組み立て』new『直接操作』
PT
クロちゃん(ダークゴッドアイアンスライム)
ピノコ(神聖なマイコニド)
ナイトメア(アンシエントオートマタ)
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身体強化がレベル3に増えてたのと、隠密ってスキルがいつの間にか増えてましたとさ。
魔王軍との戦いでスキルの経験値が3万ポイント以上増えている。が、次のレベルまでは45万ポイントも必要。次のレベルアップはいつになるのだろうか。こんなの稼げるのだろうか。不安になる。
まあ、ある資源でやりくりするしかない。はい、気にせず次の話題。
進路と行き方だが、知識の書を紐解き、情報を集めた。
死の大陸クーデサンスの西端から、アルメニアの南端までは1万キロほど。当初想定していた1万8千キロよりはかなり近いが、それでも遠い。繰り返すが、東京大阪間ですら500キロ!
聖都方向はほぼ北西。だが、ひとまずアルメニアの東の端、南に伸びる半島を目指すのが、海路を最短でこなすルートだ。海路より陸路の方が、情報収集、食料調達、スキル上げと都合が良いと思うので、最寄りの陸に上がったら、そこから聖都を目指す。
クーデサンスは南半球にあり、アルメニアの東端へは、ほぼまっすぐ北上するようなルートになる。
知識の書で現在時刻がわかるので、毎日お昼の12時に基本真北を指す。
夜は、北極星ならぬ南極星があり、これを目印に進む。
こうすれば、まあ、たどり着けるだろうと考えた。
途中、海溝があり、とても危険な巨獣の巣になっているらしいが、回り道していられるほど余裕がない。
操鉄術があれば、何とか乗り切れるはずだ。そう信じ込むしかない。




