第19話 海まで続く道を駆け下りて
覚悟を決めて地下の穴からジャンプ。地面を突き破り、飛び出す。
身体強化、垂直跳び3メートルは、伊達じゃない。
混乱鱗粉は、もう飛び散っているとは思うが、念のため。吸い込まないように息を止める。
あちらこちらに走り回っている魔王軍。
仲間に向けて魔法を打ち合っている。部隊は壮大に混乱中。
俺が飛び出しても、すぐさまこちらに対応できない程だった。
それでも、次の瞬間には、さすがに、「いたぞ!」と声をかける兵が現れた。俺に向かって攻撃を撃ってくる。
周りの正気を保っている兵士が一斉にこちらへ振り向く。が、その横から仲間に攻撃する混乱中の兵士。状況は、混迷を極めている。
寄ってくる兵士をちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
チェーンソーで切りつけ、鉄のロープで道を塞ぎ、刀で切りつけ、状況を確認する。
オートマタ・ナイトメアは、俺をかばうように、凄まじい動きで周囲を旋回していた。
雷の閃光。ロックスを見つけた。右手、奥の方で、仲間に向かって魔法をぶっ放している。
やつを倒せば、一旦は、部隊は瓦解する。はず。
押し寄せる兵をなぎ倒し、敵将めがけて刀を振り上げる。
一瞬でロックスの首を撥ねる!
よっしゃあああ!と思ったが。
そうだ、こいつら首を刎ねても死なないんだった!!
魔核にとどめを刺そうと思ったら、背中からピノコが飛び出して、ロックスの首に張り付いた。すごい早業だった。
ピノコがロックスの死体、首の断面に張り付いて根を張った。
俺は驚いて、一瞬目が飛び出した。
「今でつ、逃げるでつ!」
ピノコの声と同時に、死体が立ち上がった。
ロックスの死体が起き上がったあああああ。
首の上にピノコが寄生している。木の根が貼るように、ピノコの下半身が首にめり込んでいる! 首の切断面に、血管が浮き出るようにピノコの根っこが血まみれで張り付いている!
そして、その歪なマッチョが、モモ上げ体操のような走り方で、走り出した。
「こっちでつー」
その勢いに呆然とする魔王軍と俺。
魔王軍の手薄なところを走り去っていく、元敵将ボディを乗っ取る寄生体ピノコ。
我に返った敵兵が、雄叫びをあげて、俺に殺到してきた。
計算違い! 士気、上がってるじゃねえかああああ。
ピノコの逃げた方へ、俺も逃げる!!!
「ナイトメア、こっちだ!!」
逃げる俺たちに、猛然と殺到する魔王軍の残兵。混乱から徐々に回復したもの、まだ混乱しているものがその後に続いてきた。
うおおおおおおお。雪崩のような魔王軍の声。
草原を抜けて、森へ飛び込み、木々を抜けてその先へ。そう、この道は、海へ続く道。
前を走る巨体の上に小さなキノコを乗せた恐怖のボディ。肘を直角に曲げ、指先を伸ばし、膝も美しい直角。俺は何を見せられているのか。
後ろから地鳴りをあげて襲いくる魔王軍。それを阻害するかのように、切り裂きながら殿をつとめるオートマタ・ネイトメア。
俺はちまちま、マキビシを撒きながら、海へと向かう。
緩やかな坂を下っていくと、背後から朝日が辺りの空を照らし出した。
海が徐々にきらめく。
砂浜が見えてきた。
鉄の塊を前面に広げ、板状に薄くして強化、そして折りたたむ。
先を尖らせて、そう、ボートの形に鉄をまとめる。
そして、船の後ろにプロペラスクリューを造形。
走ったままボートに乗り込む。プロペラをフル回転。スクリューが泡をあげてボートの前が、水面に反り返るようにして、波をかき分けた。
ボートは思った以上のスピードを出し、海を滑るように進む。これで振り切った!
と思ったら、あいつら、空を飛んで追っかけてきやがった!
忘れてた、あいつら飛べるんだった。多分、あいつらも混乱して忘れてたんだろう。1体が飛び出すと、他も「そうか!」という顔をして空を飛んできた。
逃げるボート、追う魔王軍。
流石に、魔王軍もかなり数が減っている。見たところ、残り100体もいない。
上空から魔王軍の魔法が、ビシバシ飛んでくる。礫をぶつけたり、ボートを蛇行させて避けたり、鉄の盾を出したりして躱すも、俺の体は至る所火傷だらけ、このままでは、船ごと沈められるという悪い考えが浮かんだころ、ボートの真下に巨大な黒い影が見えた。
それは一瞬の出来事だった。
自分でも中々の反射神経だと思うが、俺は、今度は鉄の風船をイメージして、球体でボートを包んだ。
次の瞬間、巨大な魚の牙だらけの口が海面から飛び出した。
俺たちだけじゃなく、空の魔王軍を食べようと空を舞った。
海面をえぐるように、海ごと空へ飛び出すようにして、俺のボートが持ち上げられる。球体の隙間から見えるのは、巨大な魚の口の内側。
口が閉じられ、風船の中の俺たちは食われてしまった。
流されていくのがわかる。
ボートが凄まじく揺れる!
巨大な魚の腹の中に飲み込まれたまま、俺たちは海深く沈んでいった。




