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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第一部  鉄の勇者のサバイバル
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第2話 『クロガネ テツオという男』

「正解です! 鉄男さん! あなたは選ばれました!」

サムズアップで満面の笑みの女神は、破壊力があった。

俺はずっこけた。


「待て待て待て待て待て! 」


ふざけるな!

俺は女神に近寄り、顔を覗き込むように怒鳴った。


「俺はただのしがないオヤジで、力もないし、いたって普通の男だ! 何かの間違いだ、地球に、子供たちのところへ帰してくれ!」


俺が必死で怒鳴ると、青い方が全力の笑顔で言い返してきた。


「地球には帰れませんし帰しません! あなた、もう死んでるんですよ。なので、先ほども申した通り、提案を差し上げているのです」


さっきから繰り返している提案ってなんだよ?


女神は両手を広げて話を続ける。ちょっと胡散臭い。

 「1つ、あなたが協力してくれたら、子供達には最高級の女神の祝福を授けましょう。不幸を退け、出会いに恵まれ、一生、飢えや貧困に苛まれることもなく、幸せな家庭と充実した人生が送れるように、私たちが責任を持って見届けます。宝くじもアタリ放題です」


赤い方がボソッと「貴方が面倒みるより幸せになるわよ」と付け加えた。

なんかムカつく。


「2つ、成功した暁にはあなたには自由になる権利を差し上げます。地球に戻すことはできませんが、新たな世界で新たな人生を歩んでください」

俺は地球に帰りたいんだが。

「地球に戻してはくれないのか」


「残念ながらそれはルール違反です。死んだ人間を戻すことは原則不可能です。ですが、あなたが悪神の討伐に成功して、神に近い力を身につければ、自力でその願いも叶えられるかもしれません」

女神は言いづらそうに続けた。


「そもそも、あなたが協力しないと、7つの世界がすべて無くなる可能性があります。その中にはあなたの家族が暮らす地球が含まれています。あなたが協力しない場合は、我々は時間を無駄にすることはできません。速やかに他の協力者を探す必要があります。

 そして3つ目、最後の提案、我々の成長サポートをご用意しています。あなたは7つの世界から選ばれた、最高の戦士です。今は弱くとも、必ず、最強の戦士へと至るでしょう。我々が全力でサポートし、可能な限り速やかに最強へ至るように手配いたします」


うーむ。

俺が承服しかねていると、赤い方が口を開いた。


「さっきのプロフィールの続きね、16歳の時に、1対100人の喧嘩で伝説を残す。きっかけは当時付き合っていた彼女、後の奧さんに対する暴走族による暴行事件。あなたは、1人で乗り込んで100人の暴走族を叩きのめした。

あなたは、超人的な反射神経と、常人離れした戦いのセンスを持ってるわ。戦いの最適化の天才、そう称してもいいわね。

素晴らしい才能に恵まれながらも、温厚な性格で、喧嘩はそれほど好きではない。

高校卒業後、友人に頼まれて出場したボクシングの試合で、後の世界チャンピオン、相川龍真を叩きのめしているわね。世間的には、倒したのは友達の名前になっているけど、女神の目はごまかせないわよ。相川は24戦無敗で引退するけど、唯一、土をつけたのは貴方。それもボクシング未経験にも関わらずね。

他にもあるわよ、23歳の時、自衛隊の人に絡まれて2秒で相手を気絶させたり、チーマーの暴動を一人で鎮圧したこともあるわね」

俺は喧嘩は好きではない。弱いとも思わないが、強いと思ったこともない。


思い起こしてみれば、良く絡まれる人生だったなあ。目つきの悪い人達が、引き寄せられるというか、なぜかこっちに寄ってくるのは、もしかして、こいつら神とやらが炊きつけてたのか? まあ、何にしろ、相手が弱かったから、というより、こいつに言わせれば、俺が天才すぎた? 

いや待て、確かに、喧嘩とか負けたことはないが、俺が強いとかいう発想は、特にはなかった。


100人相手とかいうけども、頭がプチンときて気がついたら、終わっていた記憶しかないし、1週間くらいあちこちが痛かった覚えがあるから、無傷というわけではないし。ボクシングのやつも、後々世界チャンピオンになったが、そのころはまだ相手も素人同然だった。

買い被りすぎだろう。

女神が続ける。

「18歳で親の鉄工所に入社して父親が倒れた後、鉄工所の経営を継ぐ。21歳で結婚して、特に目立った危ない投資や、冒険はせず、地道に働く。

 22歳で長男、27歳の時に長女。長女の出産の際に感染症にかかり奧さんと死別」


優香・・・。今でも瞼を閉じれば、あの笑顔が浮かんでくる。子供達を真っ当に育て上げるために必死になって、お前の分まで頑張ってきたけど、ごめんな。

俺も死んだみたいだ。


赤い方の女神が続ける。

「必死で子育てと会社経営を続け、再婚することなく、長男が次の春に高校卒業して、会社を継ぐために手伝う予定の矢先、39歳にしてトラックに跳ねられて死亡」

赤い方が涙を拭うそぶりをした。

「割と悲惨よね。可哀想すぎる」と小さい声で言った。


急かした割には、しっかりと説明をするあたり、案外、いいやつかもしれない。


「鉄男さん、貴方は素晴らしい才能を有しながら、優しい時代に生まれたことが幸いしたのか災いしたのか、その戦いの才能にほとんど気づくことなく、一生懸命生きてこられましたね。

私たちは、貴方の優しさと強さを見込み、貴方を尊重し、そしてぜひ、世界を救って欲しいと思い、こうしてお願いにあがっています、私たちを助けてください」


俺は頭を掻きながら、心は半ば決まっていた。


状況は飲み込めてはいないが、息子娘が住む世界が終わる、ということであれば、是も非もない。

やらねばやられる、そういう事なのだろう? 事実は自分の目で確かめるしかない。


俺に何ができるとも思わないし、話の信憑性もないが、この女神たちの願いを聞く以外ないと思っていた。


何しろ、この白い空間からどうやって出るかもわからない。断れば、そこで、この話は終わり。俺は成仏して、天国に行くか地獄に行くか。それとも消えるのか。何にせよ、それでジ・エンド。


もしかして、まだ夢を見ているなら、夢の間だけのことだ。

本当に死んでいたとしたら、やり直しのチャンスと考えて、それこそ覚悟を決めて納得するしかない。


俺は死んだ。幸い、痛さもなかった。


俺は目を細めた。もうどうにでもなれと思った。

「で、俺は何をすればいい?」


二人は笑顔でうなずいて、

「では、作戦を説明しますね」


女神が言うには、エ=ルガイアには、3人の魔王がいると言う。

発生した順番に 影闇の魔王、汚辱の魔王、子供の魔王 と言うらしい。


子供の魔王? 子供なのか? 

ちょっと3人目だけ異色だと感じた。


そして、今、4番目の魔王が生まれる兆しがあると言う。


俺は、まず、エ=ルガイアに赴き(と言うか女神に飛ばされて)、ザイオン教国の首都オルベリオンにある大聖堂までたどり着いて、勇者認定を受けるとのこと。


勇者(笑)。


ちょっとダサいので、他の名前はなんとかならないか聞いたが、どうにもならないらしい。

魔王を倒すのは勇者で決まりですね、とのこと。


俺が拒もうとも、人々が勝手にそう言うだろうし、名称を変えるのは現実的に無理なようだ。


そして、その後、魔法学園都市へ行き、魔法を完全に身につけ、魔王に対抗する力を身につけろ、とのこと。細かいことは、神託を巫女に預けてあると言った。


20日前後で第一の魔王による大陸侵攻に決着がついてしまうとのこと。ヨーラスという大陸の6割がすでに魔王の支配地域となっている。魔王軍を個別に撃破して、押し返すには、今すぐ出発し、腕を磨く必要がある。


エ=ルガイアは、地球とはちょっと違う文明進化を遂げている。


最たるものは、スキルと魔法が存在する世界、と言うことだ。


女神の説明によると、物理法則は地球とほぼ同じだが、星自体が魔法を蓄える物質で出来ているため魔法という謎エネルギーが使えるのだという。


頭の悪い俺には、良くわからんかった。


「戦況は刻々と変化しています。魔王たちが自身の力をつけるために、人間の魂を求めています。


そして、貴方が赴く世界は、経験値というものがあります。

これは魂に紐づけられていて、循環する魂の一部を取り込むことで力が強くなっていくのです。キャラクターレベル、と言う概念はありませんが、スキルにはレベルがあり、経験値の蓄積が行われます。

けれども慢心しないようにお願いします。これは人間だけに与えられたものではありません。

魔王や魔王のしもべ達、モンスターや怪物、魔物と様々に呼ばれるエ=ルガイアの様々な生物に当てはまります。

そのため、地球に比べてエ=ルガイアの生物の方が全体的に大きく、強いです。

そうですね、エ=ルガイアの雰囲気は恐竜があふれていたジュラ紀の地球に似ていますね」


と、さらっと恐ろしいことを言った。ジュラ紀って恐竜がはびこっていた時代だろうよ。


「安心してください。貴方を徒手空拳で放り出すようなことはありません、適切なスキルと武器を用意しています、これは後ほど、旅立つ際にお渡しします」


おお、ちょっと嬉しい。なんか貰えるのは、ちょっと嬉しい。


強力なスキルで無双するとか、どこの少年漫画だよとか思いながら、流石にそんなことくらいでワクワクする年でもないけど、ちょっとワクワクする! 

男の子だもん。カメハ●破とか打てるようになるんかね。アガルー。


ていうか、忘れてたけど、俺 フルチンじゃん。素っ裸だよ。


女神も早く服よこせよ。


「あ、あと、年齢を若返らせておきますね。肉体的に最盛期だったそうですね、18歳の時に戻します」


そうですか、おっさんですか。ありがとうやんす。

女神って、心読めるんじゃねえの?

服の要望は華麗にスルー。


青い女神は俺を無視して、微笑みながら言った。俺の答えに満足しているようだ。

「貴方をこれより、水の都へ転移します。武器も一緒に転移します。

すぐさま、戦力をまとめ上げ、ヨーラス大陸へ向かってください。押し寄せてくる魔王軍を撃退し、ヨーラス大陸が魔王軍の手に落ちないよう、守ってください。

スキルに関しては、自動で付与されるでしょう。最初に付与されたもの以外にも様々な行動でスキルは身につくでしょう。早速ですが、送りますね。

地上に着いたら、サイオン教の司祭が出迎えてくれます。話はすでに神託の形で通してあります。現地では案内に従ってくださいね」


目を閉じて、別れた子供達の顔を思い浮かべる。

父ちゃん死んだけど、お前達なら大丈夫。女神達も悪いやつじゃなさそうだから。なんとかなるだろう。


いよいよ転移。青い女神の周りに光の輪が集まり、輝きを増す。

ギュインギュインと音がなり始める。


青い女神が俺に光る両手を向けながら、別れを伝えた。


「貴方の活躍に7つの世界の命運がかかっています。


焦らず、急いで、魔王を殲滅してくだ」


女神の言葉が途切れた。


ぐにゃりと、空間が歪んで、黒い塊が俺を包む。おおこれが、転移、とかいうやつかな。


じゃあ行ってくるよ、と言おうと女神の顔を見たら、真っ青な顔をして口を押さえていた。


「だめ! 魔王の干渉がここまで! まって、まだ準備が テツオさん! だめ 制御 で」


ヴン


視界が歪む。ものすごい勢いで、掃除機に吸い込まれて、細くなって、流されるような感覚を覚えて・・・


次の瞬間。


鬱蒼と茂る薄暗い森の中に、一人へたり込んでいた。


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