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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第一部  鉄の勇者のサバイバル
16/214

第15話 その頃、世界では

ヨーラス大陸の西の端、ホームズ海峡にほど近い人類の橋頭堡、ドイルの城は殲滅の危機に瀕していた。


第一の魔王の軍勢は、遥か東のデスバレー火山地帯から侵攻し、いよいよ大陸全土を支配するところまで来ていた。


第一魔王の影の軍団は、膨大な勢力を維持しつつ侵攻を続ける。

スケルトン、グール、シャドー、レイス。

アンデットとゴーストの大群が、街を、森を、人々を飲み込んでいく。ただただ真っ黒に塗りつぶされ、後には残骸しか残されなかった。


人々は、アンデッドに襲われ、影に飲み込まれ、アンデッドとして生まれ変わり、軍団に加わる。

地平には大軍。声を上げることなく静かに、足音だけがこだまする。

もはや正確な軍勢の数もわからない。


本来ならば、鉄男がこれを防ぐはずだった。女神が支給した聖なる鉄はアンデッドには効果的なはずだった。女神の緻密な計算では。

だが、第二の魔王の妨害により、それは叶わなかった。


ドイルの城下町は、かつてはホームズ海峡を望む美しい街だ。幾度もの戦役に耐え、元々は西のアルメニアからの侵攻に備えたヨーラス大陸の鎮守であった。


今はその視線を東に向け、影の軍団を見据えている。地平から迫り来る大量のアンデッド。時折、炎が上がるが、一瞬で鎮火する。

膨大な量の魔法が、軍団へ打ち込まれる。一瞬、ぽっかりと空き地になった場所は、すぐさま死体の軍勢で埋められる。


数の暴力というものは、容易に想像しがたい。実際に黒く広がるこの光景を見て初めて、人々は恐怖した。


まるで黒い津波のように、押し寄せた軍勢は、その日、聖歴2151年9月11日、ドイルの街を飲み込んだ。

生き残った人々は港へ殺到し、満員の船が沖へ連なる。船に乗れない人々は次々と海へ飛び込み、必死で泳いでいた。


こうしてヨーラス大陸は完全に、魔王の手に堕ちた。


そして、その知らせは、アルメニア大陸の国々にも伝えられた。



五国会議 水都オルベリオン


アルメニア大陸には数十を超える国や部族集落が存在するが、その中で特に大きな国が5つあり、五大国と称される。五大国の代表は、魔王軍への抵抗を主議題とする会議を行うため定期的に集まっており、この度は、ヨーラス大陸が魔王側により支配されることへの対策を話し合うための緊急会議が開かれていた。


今回の会場は、神聖教国ザイオンの首都、水都オルベリオン。

豪邸がそのまますっぽり入るような広さの会議室に、巨大で豪奢な大理石のテーブルが置かれている。5名の首相と、その護衛たち。広い部屋には20名ほどの人がいたが、その大きな広間に響き渡るような激論が繰り返されていた。


その最中に飛び込んできたのが、ドイル陥落の知らせ。

義勇軍として送り込んでいた各国の軍隊は、散り散りになりながら、海峡を越えなんとか生き延びた者もいたが、7割以上の損壊率という歴史的大敗を喫した。


今の所、魔王軍は海峡を超えるような動きは見せていないというが、伝え聞く魔王軍の軍事力は相当なもので、実際、海峡を越えてきた際には、どのように対応すべきか、策が見えないのが現状だった。


5カ国の首長は、それぞれ頭を捻っていた。

「女神様が送られた勇者はまだ見つからんのか」

問うたのは、最も東の海洋国家シーワルドの国王オルカ3世。

眼前に迫る魔王の軍勢に、気が気ではない様子。


今代の教皇は、名をオルベリウス17世と言い、齢80を超える白髪の老人である。スキルは「神託」。神の声を聞くことができるという、その名の通りのスキルである。

「女神様は、いよいよ沈黙なされた」

一同はざわめいた。

最近では、女神の声は非常にか弱くなっていた。それだけ魔王の支配が強くなっている証だったのだが、この度の侵攻で、いよいよ勢力は均衡を覆された。

「まだ希望はある」

聖オルベリウスは、小さく呟いた。

「今、連合艦隊が中央海を南下している。女神様より死の大陸の西の端の洞窟に勇者が隠れていることまでは、伝え聞いておる。これをなんとか救い出し、魔王の勢力を少しでも覆す必要がある。大陸近海で潜入艇にて接岸、勇者を救助する作戦は動いている」

その時、ドアが勢いよく開かれ神兵が走ってきた。教皇に耳打ちして、会釈してすぐさま退出した。

沈黙し、目を閉じる教皇に対して、不安そうな声で砂漠の王、アメンラが問いただした。

「なんだ、何があった。教皇」

教皇は悲痛な顔で、絞り出すように言った。

「救助艦隊が全滅した。勇者の救助は絶望的だ」

全員が深くうなだれた。いよいよ事態は深刻さを増してきた。

教皇は目を見開いて、決断したように言った。

「別の策を用意してある。例の強制召喚を試みる」

会議がまたざわつきだした。

「帝国が、魔族側と協調する可能性がある。女神様の声が聞こえない今、我々は決断せねばならない」

教皇がテーブルを強く叩き、他の首長は項垂れた。

強制召喚、新たな勇者を呼ぶための儀式。

勇者は魔王への最終兵器であると同時に、人類へも最終兵器たり得る。女神が選んだ勇者は、女神という後ろ盾があり、ある程度の安全性は保障されているが、強制召喚された勇者は、力のみの代物、もし人格に問題のある勇者が召喚されたらば、新たな地獄を生むことにもなりかねない。

また、その勇者がどの国に属するかにより、魔王を滅ぼした後の勢力図が大きく変わる。

そうした懸念から、最終手段と考えてきた強制召喚であるが、此の期におよび、いよいよ選択肢として現実味を帯びてきた。むしろ、それ以外の選択肢に説得力がなかった。

国王たちの沈黙は、承認として受け止められ、こうして新たな勇者を呼び出すことが決まった。


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